スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

「第83回:全国の仲間と学び、つながる一日
〜『自主独立』の経営者達の学びの場〜(全国合同ゼミin広島レポート)」

2026年9月11日、広島に全国各地のスモールサン・ゼミメンバーが集まり、「全国合同ゼミin広島」が開催されました。北海道から沖縄まで、地域を越えて集まった経営者たちは、広島ならではの見学企画や交流を楽しみながら、二つの講演を通じてこれからの経営について学びを深めました。

前半は、広島修道大学商学部の木村弘教授による「経験・勘を経営の力に変える―アート・クラフト・サイエンスから考える戦略的思考―」。後半は、スモールサン主宰・立教大学名誉教授の山口義行先生による「激動の政治・経済情勢と中小企業~なぜ、中小企業を支援するのか~」です。
経営者自身の経験や勘をどう活かすのか。変化する政治・経済情勢をどう読み、自社の経営に引き寄せて考えるのか。そして、なぜ経営者同士が学び、つながる場が必要なのか。全国合同ゼミならではの一日を振り返ります。



地域を越えて学び、つながる全国合同ゼミ
〜北海道から沖縄まで全国の経営者が広島に集結〜


2026年9月11日、スモールサン全国合同ゼミが広島で開催されました。全国合同ゼミは、普段は各地域で活動するスモールサン・ゼミのメンバーが一堂に会し、地域を越えてともに学び、交流する機会です。
第1回の石垣島、第2回の札幌に続き、3年目となる今年の開催地は広島!主管を務めてくださったゼミHIROSHIMAでは、2月頃から準備を進め、この日を迎えました。当日は北海道から九州、沖縄まで、全国各地のゼミから70名にのぼる経営者が広島に集結。また、現地会場だけでなくZoomでの同時配信もあり、オンラインでも60名近い参加がありました。

合同ゼミが始まる前には、広島ならではの特別企画も用意されました。参加者は江田島を訪れる見学組とゴルフ組に分かれて交流し、ゼミHIROSHIMAのメンバーは朝から各企画の運営や会場設営に奔走。地元のゼミがホストとなり、全国から訪れる仲間を迎えるのも、全国合同ゼミならではの光景です。

そして、夕方からはいよいよ合同ゼミ。今回は、スモールサンニュースでも「中小企業コラム」を執筆いただいている広島修道大学商学部の木村弘教授と、スモールサン主宰・立教大学名誉教授の山口義行先生が登壇しました。木村教授からは、経営者の経験や勘をどのように経営の力へ変えていくのか。山口教授からは、激動する政治・経済情勢をどう捉え、中小企業経営にどう引き寄せて考えるのか。それぞれ異なる角度から、経営者が自ら考え、判断するための視点を学ぶことができました。
まずは木村教授による、「経験・勘を経営の力に変える―アート・クラフト・サイエンスから考える戦略的思考―」から、当日の学びを振り返ります。

経験・勘を、経営の力に変える
〜アート・クラフト・サイエンス〜


木村教授の講演は、これまでスモールサンニュースのコラムでも取り上げてきた「経験・勘・度胸」、いわゆるKKDをどう捉えるかという話から始まりました。
中小企業経営では、「うちはKKDだから」と自虐的に語られることがあります。もちろん、どんぶり勘定や放漫経営、思いつきだけに頼る意思決定は避けなければなりません。一方で木村教授は、長年の実践の中で培われた経験や、そこから生まれる勘には、経営者にとっての財産や強みとしての側面もあると言います。4月の「中小企業コラム」でも、経験や勘を単なるデータ不足として捉えるのではなく、その中にある固有の価値に目を向けています。

そこで手がかりとして紹介されたのが、経営学者ヘンリー・ミンツバーグの「アート・クラフト・サイエンス」という考え方です。
「アート」は、洞察力やビジョン、直感などをもとに未来を構想する力。
「クラフト」は、経験や実践を通じて身につけた現場感覚や技。
「サイエンス」は、事実やデータを分析し、判断を支える力です。
木村教授は、この三つのどれか一つが正しいのではなく、経営のさまざまな場面でそれぞれを組み合わせていくことが重要だと説明しました。
例えば、意思決定一つをとっても、「まず見て直感的に判断する」人もいれば、「まず行動して確かめる」人、「データを集めてじっくり考える」人もいます。木村教授は、経営者それぞれに判断の特徴があり、実際の経営では、アート・クラフト・サイエンスを状況に応じて組み合わせながら判断していくことが大切だと説明しました。

また、講演では「マネジメントは多次元の綱渡り」というミンツバーグの考え方にも触れられました。経営では、どちらか一方だけを選べば済むわけではない場面が数多くあります。その時々の状況に合わせてバランスを取り続けることも、経営者に求められる重要な力です。
この点は、9月の「中小企業コラム」でさらに掘り下げています。そこでは、経営に付きまとうさまざまな「板ばさみ」と向き合いながら、絶えず変化する中でバランスを取り続けることこそがマネジメントだと整理されています。
経験や勘を否定するのでも、データだけを信じるのでもない。それぞれの強みを理解し、経営の場面に応じて活かしていく。木村教授は、そんな経営のあり方を示しました。
そして講演後半では、この考え方をさらに「戦略的思考」へと広げていきます。

「正解」をつくる方法は一つじゃない
〜自社なりの戦略をどう描くか〜

講演後半では、木村教授が「戦略的思考」について話を進めました。ここで紹介されたのが、「6」という答えをどうつくるか、というシンプルな例です。
「6」をつくる方法は、「1+5」でも「2+4」でも「3+3」でもいい。「正解」が一つでも、そこに至る組み合わせはいくつもあります。木村教授は、これを事業経営に置き換えると、「6」は会社が目指す将来像やビジョンにあたり、それを実現する方法は会社によって違うと説明しました。
同じような目標を掲げていても、それぞれの会社が持っている人材や技術、経験、資金、顧客との関係は異なります。だからこそ、他社のやり方をそのまま当てはめるのではなく、まず自社がどうなりたいのかという姿を描き、そこから自社の強みや資源をどう組み合わせれば実現できるのかを考える。その道筋をつくることが、戦略的に考えるということです。

そして、戦略は最初から完成された計画として存在するとは限りません。経営の現場では計画通りにいかないことも多く、実際には行動し、結果を確かめ、修正しながら進む中で、戦略が形になっていくことも多いと木村教授は語ります。
4月のコラムでも、戦略は未来に向けて「意図するもの」である一方、後から振り返ると「実現されたもの」として捉えられることがあり、行動の積み重ねの中から戦略が見出されていくと整理されています。
だからこそ大切になるのが、最初に描いた方向を持ちながらも、現場で起きていることに応じて柔軟に考え続けることです。経営者自身の経験や直感、現場での実践、そして事実やデータ。それぞれを使いながら、自社にとってのより良い方法を探していく必要があります。

また、どれだけ経営者の中に明確な構想があっても、それが社内で共有されなければ組織は動きません。木村教授は、結論を示し、その理由を説明し、さらに事実やデータで補強することで、考えをより伝わる形にしていくことにも触れました。そして、自ら会社の立て直しに取り組む経営者と社員のやり取りを目の当たりにした自身の経験からも、「思いを組織のメンバーと共有しながら進めること」の大切さを語りました。
「正解」を探して外から持ってくるのではなく、自社が目指す姿を起点に、自社の強みや経験を生かしながら試し、修正し、自分たちなりの道筋をつくっていく。そして、その考えを社員と共有する。木村教授の講演は、経営者が自社なりの戦略をどう描いていくかを、改めて考える機会となりました。

激動する情勢を、自社の経営に引き寄せて考える
〜数字の先にある変化をどう読むか〜


続いて登壇したのは、スモールサン主宰・立教大学名誉教授の山口義行先生です。
講演前半では、その時点での物価や金利、為替、中東情勢などを取り上げながら、それぞれの数字がなぜ今の動きをしているのか、その背景を読み解いていきました。

まず取り上げたのが、物価と金利。講演日時点で、表面上の物価上昇率には低下傾向が見られる一方、日本銀行はすでに金利を引き上げ、今後も利上げを続ける姿勢を示していました。「物価が落ち着いてきているのに、なぜ金利を上げるのか」。山口教授は、その理由を政府の物価対策との関係から説明しました。
ガソリンなどへの補助金が拡充されれば、その分だけ統計上の物価上昇率は押し下げられます。そこで政策による押し下げ効果を除いて物価の動きを見ると、実際の物価上昇の勢いは表面の数字ほど弱まっておらず、日銀が目標とする2%を上回る状態が続いている――というのが、山口教授の見方でした。
さらに山口教授は、物価が上がっているのに金利を低く据え置くこと自体が、かえって物価上昇を促す要因にもなり得ると説明しました。物価上昇率に対して金利が低ければ、資金を借りてモノを買う動きが強まりやすくなる。だからこそ日銀としても、物価の勢いに合わせて金利を引き上げざるを得ないというわけです。

もう一つ大きなテーマとなったのが為替です。講演時点で、円相場はそれまでの円安から円高方向への動きを見せていましたが、山口教授はこれを単純に「円安が終わった」とは見ませんでした。背景には日銀の利上げだけでなく、米国からの円安是正への圧力や、日本の財政政策をめぐる動きもあると分析。一方で、円安を生んできた積極的な財政運営そのものが変わらなければ、利上げ後に再び円安方向へ戻る可能性もあると見通しを示しました。
円高になれば、輸入原材料を扱う企業にとっては仕入れコストの低下が期待できます。しかし、その恩恵だけを見ていればいいわけではありません。金利が上がれば、中小企業にとっては借入負担が重くなります。為替や金利の変化は、自社だけでなく、取引先の資金繰りや仕入れ、販売価格にも波及していきます。

さらに、中東情勢や原油価格、原材料の供給についても触れました。必要なモノが以前より入ってくるようになったからといって、供給の不安定さそのものが解消したわけではありません。国際情勢が変われば、原油価格や物流、原材料価格が再び大きく動く可能性があります。だからこそ、目の前の「価格」や「入手しやすさ」だけで判断せず、その背景にある情勢まで見ておく必要があると指摘しました。

山口教授が示したのは、物価や金利、為替の数字を覚えることではなく、「なぜ今こうなっているのか」を考えることの大切さでした。そして、その変化が自社の借入や仕入れ、販売先、取引先にどのようにつながるのかまで考える。政治・経済情勢を自社の経営に引き寄せて読むことが、経営判断の土台になるのです。
そして講演はここから、そんな山口教授自身がなぜ中小企業経営者とともに学ぶ場をつくってきたのか、その原点へと話が進んでいきました。

自分の頭で考える「自主独立」の経営者であるために
〜学びを持ち帰り、またつながる〜

講演後半で山口教授は、なぜ自分が中小企業経営者とともに学ぶ場をつくり、長年支援に関わってきたのか、その原点を振り返りました。
きっかけの一つになったのは、バブル崩壊後の時代。経営者たちから寄せられたのは、経営ノウハウそのものを教えてほしいという声ではなく、「自分たちが今、時代の流れの中でどこに立っているのかを知りたい」という思いだったと語りました。日々会社を経営していても、その背後にある大きな変化が見えなければ、これからどこへ向かえばいいのか判断できない。そこで山口教授は、自らの専門を生かして経済や社会の動きを読み解きながら、経営者とともに考える勉強会に関わるようになりました。

その学びは、一度話を聞いて終わるものではありません。講演では、ある勉強会で「社員と一対一で話してみよう」という課題が生まれ、参加した経営者たちがそれぞれ会社に持ち帰って実践したエピソードも紹介されました。翌月には、その結果を持ち寄って報告。そこである経営者が社員に「なぜこの会社で働いているのか」と尋ねたところ、「ここだけが、自分を一人の人間として名前で呼んでくれる場所だから」という答えが返ってきたといいます。
学んだことを会社へ持ち帰り、自分なりに試してみる。社員と向き合い、そこで得た気づきをまた仲間と共有する。山口教授が紹介したこのエピソードは、経営者同士で学ぶ場が、実際の経営や組織づくりへつながっていく一つの姿を示していました。

そして講演終盤で山口教授が強調したのが、「自主独立」の大切さです。誰かの答えをそのまま受け入れるのではなく、さまざまな情報を学びながら、最後は自分の頭で考え、自分で判断する。講演では、大手企業との取引に依存した経営から離れ、自ら新しい道を切り開いていった中小企業の事例にも触れながら、そうした姿勢こそ中小企業経営者の力ではないかと語りました。
経済を学ぶことも、経営の理論を学ぶことも、それ自体が目的ではありません。得た知識を自社に引き寄せ、自分で考え、実践し、その経験をまた仲間と共有する。そうした自主独立の経営者を支える場でありたい――。山口教授の話は、スモールサン・ゼミが大切にしてきた学びのあり方にもつながるものでした。

二つの講演を終えた後は、場所を移して懇親会へ。全国各地から集まったメンバーが地域を越えて顔を合わせる、全国合同ゼミならではの時間が続きました。
普段はそれぞれの地域で学ぶスモールサン・ゼミ。その学びを自社へ持ち帰り、また次のゼミで考える。そして全国合同ゼミでは、地域を越えて新たなつながりをつくる。広島での一日は、経営を学ぶことと、経営者同士がつながること。その二つを改めて感じる全国合同ゼミとなりました。



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