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山口恵里の“現場に行く!”2026年9月号
「第82回:『今の商売』を『次の商売』につなげる!発想を広げるビジネスモデルのつくり方(SSゼミFUKUOKAレポート)」
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
今回の「現場に行く!」は、6月に開催されたゼミFUKUOKAの模様をレポートします!
講師は、ゼミFUKUOKAではおなじみのリピーター創出コンサルタント・一圓克彦氏。今回のテーマは、「お客様が増え続ける、減らない」ビジネスモデルのつくり方です。
居酒屋から福祉、警備、製造業、そしてコンサルタントへ——。一圓氏自身のユニークな経営経験をたどりながら見えてきたのは、まったく新しい事業をゼロから始めるのではなく、今ある設備、人材、顧客との接点を生かして、一つの仕事からいくつもの売上を生み出すという発想でした。
「一回動いて、一回の売上」で終わっていませんか?
自社の仕事をいつもとは少し違う角度から見直すヒントが詰まった、今回のゼミFUKUOKA。その一部をご紹介します!
同じ設備、同じ人で、別の売上をつくれないか?
講演は、一圓氏が20歳の頃に経営していた居酒屋の話から始まりました。
「美味しいものを作ればお客さんは来るだろう」とメニュー開発に励み、お客さんを呼ぶために最後には生ビールを100円に。行列こそできたものの、当然ながら店は大赤字。一圓氏がオーナーになってわずか2カ月ほどで、倒産の危機に陥ったといいます。
そんな中、近くの市役所職員から「高齢者向けのお弁当を作れないか」と声をかけられたことが、一つの転機になりました。行政から受託した弁当事業では、年間でどれだけの売上が上がるのかがあらかじめ見えている。それまで、天候や予約のキャンセルによって毎日の売上が大きく変わる居酒屋を経営してきた一圓氏にとって、「売上が先に決まっているビジネス」の存在は大きな発見だったそうです。さらに、昼間には店舗を使った高齢者向けの会食サービスにも参入しました。
ここで重要なのは、新たに店舗をつくったわけでも、新しい厨房を用意したわけでもないことです。お弁当を作るのは居酒屋の厨房。会食サービスを行うのも、夜は居酒屋として使っている同じ店舗です。スタッフも、昼は高齢者の送迎やサービスを担当し、夜になればそのまま居酒屋の仕事に入ります。
「設備が増えてないのに、売り上げが増える。『これがビジネスか!』と思った」
それまで一圓氏が考えていたのは、繁盛店をつくり、2号店、3号店と店舗を増やしていく方法でした。しかし店舗が増えれば、人件費も管理の手間も増えていきます。それよりも、今すでに持っている設備や人材を使って、別の売上を生み出せないか。考え方をそうシフトさせた一圓氏は、夜間まで働いているスタッフを活かして福祉事業の見守りと、その仕組みを活かして警備業にも参入。やがて、一つの拠点から「飲食」「福祉」「警備」という三つの売上が生まれるようになりました。
新しい事業を始めるというと、つい新しい設備や人材を用意することから考えてしまいます。しかし、今回のゼミで学んだのは、自社の「今あるもの」を見直し、「別の売上に使えないか?」と考える発想でした。
一度集めたお客様を、次の売上へつなげる
「今ある設備や人材から、別の売上をつくる」。そこから一圓氏の話は、さらに「一度つくった顧客接点をどう広げるか」という話へ進んでいきました。
居酒屋を経営していた当時、一圓氏が注目したのが、「領収書をお願いします」と言うお客様でした。個人で飲みに来るお客様よりも、接待や懇親会で利用する法人客の方が客単価が高い。そこで、それまで行っていた広告やポスティングをやめ、近隣の会社や建築現場へ直接営業に出るようにしました。送迎にも対応し、「接待で使ってください」と営業した結果、法人利用が増え、客単価も大きく上がったと言います。
ただ、一圓氏はそこで終わりません。店を出たお客様たちが「次、どこ行きます?」と話しているのを見て、「だったら、その「次」も自分たちで用意できないか」と考えたのです。
そこから二次会の店、さらにその先の飲食店へと店舗を増やしていき、最終的に合計13店舗。各店舗がそれぞれで集客するのではなく、入口となる一つの店にお客様を集めれば、その後は自然と次の店の売上へとつながっていく。お客様が自然と循環する仕組みをつくったのです。「ここにさえ集客してれば、あとは全部流れていく」一圓氏は、そう振り返ります。
新しい売上をつくるというと、新しいお客様を探すことばかり考えてしまいがちです。しかし、一度来てくれたお客様との関係をそこで終わらせず、「このお客様は、この次に何を必要とするだろう?」と考えてみる。そこにも、次のビジネスの入口があります。新規顧客を毎回ゼロから集め続けるのではなく、一度できた接点を次へつなげていく。その視点は、まさに「隣接異業種」の入り口だと感じました。
一回動いて、いくつ売上をつくれるか?
続いて一圓氏が紹介したのが、製造業を継いだ後に手がけたリサイクルトナーカートリッジの販売です。
当時、一圓氏は企業へトナーを納品する中で、ある会社の壁一面に積まれた段ボールに目を留めました。中身は、処分を待つ機密書類。「これ、うちが回収したら売上になるんじゃないか」そう考え、機密書類の処理事業にも参入します。すると、一度お客様の会社へ行くだけで、トナーの納品、機密書類の回収・処分料、さらにその紙を再生紙メーカーへ持ち込めば原材料として買い取ってもらえる。一回の訪問で、三つの売上が生まれる仕組みができました。
さらに、トナーを届けるついでに文房具のカタログを置かせてもらう。使い終わったインクリボンを回収する等。今やっている仕事の流れを変えずに、その中へ新しい売上を一つずつ付け加えていく。
「一つのアクションの中で、いくつキャッシュポイントを作れるか」。一回動いて、一回の売上で終わるのではなく、今の仕事の「ついで」にできることはないか。そんな視点で日々の仕事を見直すことが、新しい売上を生み出すヒントになります。
「営業にはお金がかかる」という常識を疑ってみる
こうして「一つのアクションから、いくつの売上を生み出せるか」を考えてきた一圓氏。その発想は、コンサルタントとして独立した後の仕事にも、そのまま生かされていきました。
一圓氏が常に念頭に置いたのは、「仕入れはお金をもらいながらやるもの。そして営業も、お金をもらいながらやるもの」という考え方。一般的には、仕入れにはお金を払い、営業にも広告費や人件費などのコストをかけるものと考えます。しかし、機密書類の処理では、お客様から処分料をもらって紙を引き取り、その紙を再生紙メーカーに買い取ってもらっていました。つまり、仕入れそのものから売上が立っていたわけです。
ならば営業も同じようにできないか。コンサルタントとして仕事を始めた一圓氏が目をつけたのが、商工会議所などから依頼を受ける講演の仕事でした。自分でお金をかけてセミナーを開催し、見込み客を集めるのではない。講師として呼んでもらい、講師料や交通費を受け取りながら、多くの経営者に自分のことや考え方を知ってもらう。つまり、講演という一つの仕事そのものが売上であり、同時に次の仕事につながる営業活動にもなっているのです。
今やっている仕事を「その仕事だけ」で見ない。その仕事を通じて誰と出会えるのか。そこから次に、どんな仕事へつながる可能性があるのか。そう考えてみれば、今の本業そのものが、次のビジネスの営業活動になり得る。「営業にはお金がかかる」「仕入れにはお金がかかる」。そんな当たり前を一度疑ってみることが、発想の転換のきっかけになるのかもしれません
「今やっていること」の中に、次の商売の種がある
講演の最後、一圓氏はこれまでの話を自社に置き換えて、新しいビジネスモデルを考えるための「発想テンプレート」を紹介しました。
「何か新しいことできないかな」と、まっさらな状態から考えようとしても、なかなかアイデアは出てきません。そこで必要になるのが、今の事業をいくつかの切り口に分けて考える方法です。
たとえば、「誰に売るのか」という顧客属性だけでも、一般消費者向けのBtoC、法人向けのBtoB、公的機関向けのBtoGなど、いくつもの選択肢があります。さらに、「一対一」なのか「一対多」なのか。提供するものは「物」なのか「サービス」なのか「コンテンツ」なのか…と分けて考えていく。こうした要素を掛け合わせていくことで、今のビジネスに何を足せるか、今の事業の“ついで”に何ができるかを具体的に考えやすくなるといいます。その組み合わせパターンは、なんと640通り!
もちろん、そのすべてが実際のビジネスになるわけではありません。大切なのは、「これできへんかな、これできへんかな……あ、これいけんちゃうか」と、今あるものを組み合わせながら考えてみることだと一圓氏は言います。
今回の講演を通して繰り返し登場したのは、「今やっていることを別転用して、別の売り上げが作れないか」という新しいビジネスモデルを生み出すベースとなる考え方です。
居酒屋の厨房やスタッフを別の事業にも使う。一度来てくれたお客様を、次のサービスへつなげる。いつもの納品の中に、別の売上を生む仕事を加える。今の仕事そのものを、次の仕事への営業活動にする。「一つの仕事を、一つの売上だけで終わらせない」という視点を持つだけでも、普段見慣れている自社の仕事が少し違って見えてきます。
講演後には参加者からも、「今のビジネスをどう展開していくのか、どういう発想で考えていくのかを考えることができた」との声が上がりました。さらにオンライン参加者からも、さまざまな事業を複合的に組み合わせていく考え方が印象に残ったとの感想をいただきました。講師の実体験を聞くだけでなく、「では、自分の会社だったら?」と参加者それぞれが考えてみる。スモールサン・ゼミは、そのための時間であるとも言えます。
皆さんの会社でも、今ある商品、設備、人材、そしてお客様との関係を改めて眺めてみると、その中にまだ気づいていない「次の商売の種」が隠れているかもしれません。


