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山口恵里の“現場に行く!”2026年8月号
「第81回:クロボー製菓株式会社」
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
今月の「山口恵里の“現場に行く!”」は、福岡県久留米市にあるクロボー製菓株式会社さんに伺いました!
大正9年創業、今年で106年を迎えるクロボー製菓株式会社。全国で販売されている看板商品『黒棒名門』で、その名をご存じの方も多いのではないでしょうか。久留米の郷土菓子として親しまれてきた黒棒を中心に、黒糖菓子を作り続けてきた老舗企業です。
その隣に2014年にオープンしたのが、黒糖創作菓子を楽しめる『黒棒茶寮 Doch(ドッホ)』。黒糖になじみの薄い若い世代にもその美味しさを届けたいという思いから生まれたお店です。
今回お話を伺ったのは、クロボー製菓の次代を担う岡田宗士さん。黒糖米粉ロールケーキや黒糖カスタードプリンなど、一つひとつの商品に込めた工夫や、黒糖、そして商品づくりへの熱いこだわりについて伺いました。
創業時から受け継がれてきた姿勢を守りながら、新たな可能性を広げるクロボー製菓の挑戦をお届けします!
【会社概要】
会 社 名 クロボー製菓株式会社
創 業 大正9年
所 在 地 福岡県久留米市荒木町白口字栗の内1290
製造品目 黒棒・白棒・黒糖丸ぼうろ・他 黒砂糖を使用した和洋菓子
久留米黒棒本舗、黒棒茶寮Doch(ドッホ)オフィシャルサイト
お取り寄せ
大正9年創業、「作るのが大変な黒棒」を選んだ理由
恵里 『黒棒名門』といえば、今や全国で食べられる定番の黒糖菓子です。クロボー製菓さんは、今年でなんと創業106年ということで。
岡田 創業は1920年、大正9年です。現在の社長である父が4代目になります。創業当時は、黒棒や飴玉などを作って売る個人商店のような形だったと聞いています。
恵里 黒棒は、もともとこの地域で親しまれてきたお菓子なのですか?
岡田 そうですね。この辺りでは昔、小麦が採れて、サトウキビも少し作られていたそうです。農家の方が仕事の合間に食べるおやつとして、各家庭で小麦粉を練り、黒糖蜜につけて食べていたのが始まりだと聞いています。ですから、うちが最初に作ったというよりは、もともと地域の家庭で作られていたお菓子なんです。
恵里 そこから商品として製造し、販売するようになったのですね。
岡田 最初は自転車で売り歩いていたそうです。その後、1966年にクロボー製菓という会社になり、流通を通して黒棒を全国へ展開するようになりました。創業当時は飴玉やせんべいなども作っていたようですが、祖父の代に黒棒を中心にしていったと聞いています。
恵里 いくつか商品がある中で、なぜ黒棒を選んだのでしょうか。
岡田 「黒棒が、一番作るのが大変だったから」と聞いています。作るのが大変だからこそ、ほかの人が簡単にはやらない。簡単なものだと、みんなが作るので競争相手も増えますから。それで黒棒に絞っていったそうです。
黒棒の主な原料は、小麦粉、卵、黒糖蜜と非常にシンプルです。こねた生地を帯状に絞って焼き上げ、斜めに切った後、周りに黒糖蜜をつけます。しかし、材料や工程がシンプルだからこそ、その一つひとつが味や食感を大きく左右します。
当社では、現在も黒棒の蜜付けは、機械でまとめて蜜に浸すのではなく、人の手で一本ずつ行ってるんですよ。蜜に浸す時間が長いと中まで染み込みすぎるし、短ければ十分に蜜がつかない。表面だけにちょうどよく蜜をまとわせることで、外側はザクッと、中は柔らかい独特の食感が生まれます。手間はかかりますが、手作業だからこそ、ちょうどよく蜜をつけることができるんです。この蜜付けが当社の黒棒の原点であり、一番の特徴だと思います。ベテランの担当者は、1分間に80本くらい仕上げるんですよ。
恵里 全国へ展開されてるお菓子なのに、手作業で仕上げされてるんですか!作るのが大変だからこそ、あえてそれを選ぶ。それがクロボー製菓さんの商品づくりの源流なんですね。
家業へ戻った次代の担い手に、父が勧めた『洋菓子』
恵里 岡田さんはこれから5代目を受け継いでいくわけですが、以前から家業は継ぐつもりで考えていたんですか?
岡田 いえ、私は大学から北海道に行き、そのまま現地で就職しました。お菓子とはまったく関係のない業界です。当時は家業を継ぐことは全然考えていませんでしたね。
恵里 そうなんですか。そこから久留米へ戻ろうと思われたのは、何かきっかけがあったんですか?
岡田 これというきっかけがあったわけではないんです。向こうで7年ほど働き、仕事にもある程度慣れてきた頃に、このままずっと今の会社で働いていくのかと考えるようになりました。それと同時に、父が会社のことをすごく大事にしているのを見ていました。親が大事にしてきたものは、自分も大事にしたいという思いがあって、戻ろうと決めました。それで家業へ入る決意を父に伝えたところ、言われたのは「まずお菓子の勉強をしてきなさい」ということでした。当時、製菓についての知識は全くありませんでしたから。そこで東京の日本菓子専門学校へ通い、1年目に和菓子、洋菓子、パンの基礎を学び、2年目には洋菓子科で学びました。
恵里 黒糖がメインなので、てっきり和菓子を専攻されたのかと思いました。
岡田 黒糖やあんこを使った商品があるので、私もてっきりそうだろうと思っていました。ところが父からは、「洋菓子の方へ行きなさい」と言われたんです。後から考えると、その頃から黒糖を使った新しいお菓子を作りたいという構想があったんだと思います。それで洋菓子科で1年間学んで、久留米へ戻ってクロボー製菓に入社しました。それから約1年後の2014年にオープンさせたのが、黒糖創作菓子のお店『黒棒茶寮Doch(ドッホ)』です。
若い世代に黒糖を届ける、黒糖創作菓子店『黒棒茶寮Doch(ドッホ)』
恵里 本店である『久留米黒棒本舗』は黒糖菓子専門店、『黒棒茶寮Doch(ドッホ)』はカフェスタイルで黒糖創作菓子を楽しめるお店としてお隣にオープンされたんですね。
岡田 はい。洋菓子を中心に、黒糖や含蜜糖を使ったお菓子を作っています。かつて黒糖は、白砂糖よりも身近な存在でした。特に九州では、家庭で日常的に使われていました。しかし、時代とともに白砂糖の方が一般的になり、若い世代にとって黒糖は、次第になじみの薄いものになっていきました。そういった世代が増えてくるというのは、黒糖菓子を専門に扱ってきた当社にとっては大きな問題です。そこで、若い世代にも親しまれやすい洋菓子を入口にして、黒糖の美味しさを知ってもらい、そこから当社の原点である黒棒や他の黒糖菓子にもつながっていけば、と。
恵里 「Doch(ドッホ)」というのは「やっぱり」という意味のドイツ語ですね。山口教授がよく講演で話しているのを聴いたことがある方も多いのではないでしょうか。物事を「わかる」というのは、それを一度否定して、それをさらにもう一度否定すること。「やっぱり○○だ」という言葉が出てやっと本当にそれをわかったと言える。「『わかる』とは“Doch(ドッホ)”だ!」と。
岡田 実はこの店名は、父が先生の講演でその話に共感して、「うちのコンセプトにピッタリだ」と言って決めたんですよ。黒糖に馴染みのないお客様にも、「来てみて“やっぱり”良かった」と思ってもらえるように。うちのお菓子を食べて、「“やっぱり”黒糖は美味しい」と思ってほしい。また、いつも来てくださっているお客様にも、「黒棒屋さんが変わったことを始めたけど、“やっぱり”黒糖にこだわってるんだね。美味しいね」と。そんな「最上級の“やっぱり”」を感じて頂けるようにという想いを込めています。
また、店舗自体も随所にこだわって設計しています。家具には1960年代のデザインを受け継ぐ「カリモク60」を採用し、窓の配置にもこだわりました。店の奥に大きな窓があって、その向こうに広がるのは、この店のために整備された「ドッホの森」です。もともとは芝生の小山だった場所に木々を植え、苔を育て、長い時間をかけて現在の景観をつくり上げました。春には桜、夏にはセミやカブトムシ、秋にはどんぐりを目当てに子どもたちも訪れるんですよ。
恵里 お店でゆっくりと過ごす体験も含めて、黒糖のお菓子を味わってもらう。従来とは異なる空間と商品を通して、新しいお客さんとの接点を生み出したんですね。
「黒糖を使う」のが目的ではなく、より美味しくするために黒糖を使う
恵里 でも、洋菓子で黒糖ってあまり使われないですよね。商品開発が大変だったんじゃないでしょうか。
岡田 そうですね。単純に洋菓子の砂糖をそのまま黒糖に変えればいいかと言うとそうではありません。黒糖って栄養価が高いんですよ。カルシウムやミネラル、カリウムなどが豊富に含まれていて、それが独特のコクや旨味になっています。でも、洋菓子作りにおいては、それらの成分が不純物になってしまい、例えばスポンジが膨らみにくくなったり、食感が重くなったり、洋菓子の仕上がりに影響することがあります。かといって黒糖の量を減らせば、今度は風味も色も弱くなり、「黒糖のお菓子」としての特徴が出ません。とにかく試行錯誤の繰り返し、ようやく完成したのが『Doch(ドッホ)』の看板商品の一つである黒糖米粉ロールケーキです。
恵里 取材にかこつけて食べさせていただいたのですが、めちゃくちゃ美味しいです!生地に米粉ならではのもちっとした弾力がありつつ、重たくなくて、ふわふわ軽い食感。甘さ控えめのクリームの中にある黒糖ゼリーと一緒に食べると、グッと黒糖の風味が際立って、生地とクリームと黒糖ゼリーの絶妙なバランスが完成されます!まさに黒糖創作菓子の看板商品という感じですね。
岡田 ありがとうございます。生地には白砂糖を使わず、黒糖を使用しています。最初はクリームにも黒糖を使ってみたのですが、正直なところクリームは白砂糖の方が味のバランスが良くて美味しいんです。それでクリームにはあえて黒糖を使わないことにしました。ただ、生地だけだと黒糖の風味が少し弱い。そこで、クリームの甘さを控えめにして、ロールケーキの中心に黒糖ゼリーを入れています。このゼリーにたどり着くまでにも、わらび餅や黒糖カスタードなど色々試行錯誤しました。ゼリーの硬さも、柔らかすぎれば存在感がなく、硬すぎれば一体感が失われてしまいますので、何度も調整をして、生地とクリームと一緒に食べることで最高のバランスになるようにしています。
恵里 ただ黒糖を使うのではなく、より美味しくするためにどう黒糖を使うのか、とても考えられているのが味から伝わってきます。
岡田 同じく看板商品の黒糖カスタードプリンは、下がカスタードプリン、上が黒糖プリンという二層仕立てになっています。これも最初から二層にしようと考えていたわけではなく、最初は普通のプリンの砂糖を黒糖に変えるところから始めました。でも、それだけではいまひとつで、色々と試していくうちに今の形になりました。単純に黒糖だけのプリンにするのではなく、二つを重ねることで、味の違いと黒糖らしさをより分かりやすくしています。しかも、凝固剤で固めて重ねるのではありません。まずカスタードプリンを緩い状態まで蒸し焼きし、その上に黒糖プリンを重ねて、もう一度蒸し焼きしています。
恵里 上の黒糖プリンはやさしい甘さと黒糖の香り。下のカスタードプリンはとろりと柔らかな口当たり。二つの層が味だけでなく食感も異なっていて、別々に味わっても、一緒にすくっても楽しめますね。上に添えられた黒糖ゼリーと、底の自家製カラメルが加わるとさらに味の輪郭がはっきりして、黒糖のコクとカスタードのまろやかさがちょうどよく重なってすごく美味しいです!
岡田 ありがとうございます。生菓子ではもう一つ、黒糖生シュークリームがあります。こちらも中のクリームにはあえて黒糖を使わず、フレッシュな生クリームをブレンドした濃厚なカスタードクリームに仕上げました。その代わり、焼き上げたシュー生地に黒糖蜜をかけ、さらにもう一度焼く製法を選びました。黒糖が最初に舌へ触れるため、使用量が多くなくても風味がしっかり伝わります。
恵里 二度焼きされたシュー生地のやや硬めな食感と表面の香ばしさが、黒糖蜜の風味としっかり合わさって、濃厚なカスタードクリームとの相性が抜群ですね!どれも何度でも食べたくなる美味しさです。ただ、こだわって作られている商品だけあって、賞味期限が当日中ということでお取り寄せはできないのですが、福岡県に来られた際には、ぜひお店で味わっていただきたいです。
岡田 福岡市内にある黒棒本舗の高宮店でも販売していますのでぜひ。また、焼き菓子の人気商品の黒糖リーフパイは全国からお取り寄せいただけます。詳しい製法は非公開なのですが、フレッシュバターの風味を最大限に活かし、香ばしく焼き上げたざっくりと厚みのあるバター生地が特徴です。焼き上げたパイに塗る黒糖蜜は、毎回パイが焼き上がる時間に合わせて、その都度蜜を炊いて、一枚ずつ手で塗っています。
恵里 こちらも手作業なんですね!ちょっと硬めのザクっとしたパイと黒糖のコクと甘味がこれ以上ないくらいマッチしていて、しかもサイズが大きめなのも嬉しいところです。どこに、どのように使えば黒糖の魅力が最も伝わるのか。その答えを探し続けた結果が、『Doch(ドッホ)』の商品一つひとつに表れていますね。
変え続けるから、百年続く
〜ぶらさないのは「黒糖」と「大変だからこそ、それを選ぶ」という軸〜
恵里 『Doch(ドッホ)』では新しい商品を次々と開発されていますが、昔から作り続けている黒棒も、製法は変わらないのでしょうか。
岡田 黒棒や黒糖丸ぼうろなど、どの商品も日々ブラッシュアップしています。新しい機械や粉、製法、オーブンなどが出てくるので、その都度、一番いいものを作るために見直しています。厳密に言えば、味も少しずつ変化していると思います。
また、小麦粉も農作物なので、毎回同じではありません。去年の同じ時期に、どのくらいの数値の粉を、どの配合で使って、どんな生地ができたのかというデータもあります。それを見ながら、実際の生地に合わせて少しずつ変えています。黒糖も同じ。沖縄では複数の島で黒糖が作られていますが、島によって色や味が異なり、年によっても出来が変わります。そのため毎年状態を確かめ、必要な量を確保できる産地の中から、商品に合うものを選んでいます。
恵里 一番美味しい状態にするために、変えていくことも必要なんですね。
岡田 もちろん絶対に変えない部分もあります。例えば、当社では黒糖は大きなブロックの状態で仕入れ、必要な分だけその都度自社で砕きます。あらかじめ粉砕されたものを仕入れる方が当然効率はいいのですが、砕いてから時間が経てば経つほど風味が落ちていってしまいます。焼き上げた黒棒に使う黒糖蜜も、一度に大量に作って保管するのではありません。これも時間が経つと風味や状態が変わるため、作業中に何度も炊いて、出来たての蜜を製造現場へ運びます。原料がシンプルなので、一つひとつが仕上がりに大きく影響するんです。
恵里 効率だけを考えれば、省ける工程は少なくない。それでも、仕入れや製造の効率だけを優先せず、原料の状態を見極め、必要な工程には人の手をかける。創業以来の黒棒から、『Doch(ドッホ)』で生まれた新しい商品まで、「手間をかけて、ここにしかないものを作る」という一貫した姿勢を感じます。今後、新しい店舗や事業を広げていく構想はありますか?
岡田 今のところ、新しいお店を出すことはそこまで考えていません。どちらかというと、これまでお世話になってきた地元の方に来ていただきたいという思いがあります。当社が100年以上続いてきたのは、黒糖が好きな方がいて、求められるものに応えてきたからだと思います。時代の変化には対応しながらも、黒糖や健康志向という大きな軸はぶらさず、これからも作っていきたいと思っています。
実は2年ほど前に、『Doch(ドッホ)』の店内に『黒棒茶寮 Gesund(ゲズント)』というパン工房をオープンしました。ゲズントは、ドイツ語で「健康的」という意味です。白砂糖を基本的に使わず、黒糖や含蜜糖を取り入れたパンを展開していて、うちの黒糖蜜を使った出汁に漬け込んだ明太子で作る明太フランスが一番人気です。
恵里 変わり続けることと、変えないこと。その両方を積み重ねてきたからこそ、クロボー製菓の味は100年以上にわたって愛され続けているんですね。本日はありがとうございました!


