スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

「第73回:ゼミCHIBAレポート
〜『ゼミCHIBA-1グランプリ』後編〜」

皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
11月号に引き続き、「ゼミCHIBA-1グランプリ」後編のレポートをお届けします!


10月のゼミCHIBAは、いつもと少し趣を変えた特別な回でした。
なんと各ゼミメンバーがエントリーし、それぞれが自社の事業や強み、そしてゼミCHIBAでの学びを自社でどう活かしているかを発表し、さらにはそれを参加者全員で採点投票するという本格的なグランプリ企画。

題して「ゼミCHIBA-1グランプリ」!

スモールサン・ゼミでは毎月中小企業の抱える様々な課題に対応した専門家を招き、講師の講演やワークショップを通して実践的に学んでいます。
その一方で業種や業態、事業規模によらないゼミメンバーとのフラットなつながりやネットワークもまたゼミの魅力なのですが、インプット型の講義だけではお互いの会社のことまでは詳しく分からないものです。そこでゼミによっては、毎回冒頭でゼミメンバーの自社紹介をしたり、ゼミとは別に企業訪問企画を立てたりといった取り組みも行っています。

今回の「ゼミCHIBA-1グランプリ」も、「せっかく長く顔を合わせているのに、お互いの会社のことをあまり知らないのはもったいない」とゼミ長の竹嶋さんが感じたことから始まった企画でした。

前回の第5位、4位、プロデューサー賞に続き、今回はいよいよ第3〜1位のレポートです!

【第3位】株式会社諏訪商店―“千葉の味”を世界へつなぐ


第3位に輝いたのは、株式会社諏訪商店の諏訪寿一さん。
ゼミCHIBA第1期から参加し続けている諏訪さんのプレゼンは、これまでの歩みと未来への展望が凝縮された堂々たる内容でした。

先代が千葉の観光土産の卸売業として設立し、今年で55期目。現在は8社の事業会社を抱え、千葉県の特産品を中心に農業、醸造、製造、卸、そして「房の駅」という旗艦店での小売までグループで一貫して行う体制を構築しています。
その大胆な経営戦略を実現させたのがM&Aで、スモールサンで学んだ「隣接異業種」という言葉をヒントにこれまでに6件のM&Aを行い、それぞれの企業の強みを生かす形で新しい事業を展開してきました。

「自社の強みは商品開発力です。年間300アイテム、大体1日に1商品を生み出しています」と話す諏訪さん。売上の自社製造比率は20%を超え、新商品の売り上げが終売商品の売り上げを上回ることを一つの指標に日々新商品を開発しているそうです。これを実現させているのが原料から製造、販売まで自社グループで管理できる6次化産業で、安心して製造できるし、自信を持って販売することができると言います。
DXやSDGsにも積極的に取り組んでいて、ゼミCHIBAの仲間と毎年アメリカやスウェーデンなどへ視察に行き、世界の変化や動きを意識した経営の転換をできていると語りました。

また、M&Aだけでなく自分たちでの創業もされていて、若手社員の麻薙さんが運営している「もりもりカンパニー」では「ラスグル」という新規事業にも挑戦しているそうです。今回のゼミCHIBA-1グランプリの賞品は、このラスグルからたくさんのお土産をご提供いただいたとのことで、ゼミの最後にラスグルについても紹介をしていただきました。
ラスグルは賞味期限の迫った食品を社内向けアウトレットとして再流通させる仕組みで、現金の他に誕生日にもらえるバースデーポイント等でも購入できることで、社員の福利厚生とフードロス削減を両立できるというもの。先日は福祉に携わる竹嶋さんとも連携し、子ども支援活動にも活用されたそうです。家庭に事情がある子ども達は、お小遣いを持って自分の予算内で買い物をするといった体験自体が不足しがちです。そこでラスグルの仕組みが活用されました。
「自社にとっての課題は、他社にとっても課題なんじゃないか」と話す麻薙さん。今後は同じく食品ロスを課題にする企業から商品の提供を受けることや、ラスグルの仕組み自体を展開していくことで、食品ロスに取り組んでいけたらと語りました。

【準グランプリ】株式会社ベストサポート
― 学びを武器に社会課題に挑む“福祉の活動家”であり“福祉の経営者”


準グランプリに輝いたのは、ゼミCHIBAのゼミ長でもある株式会社ベストサポートの竹嶋信洋さんです。
「スモールサンに入ったとき『自分は経営者に向いてない』と思っていました。でも十数年お世話になって、今は経営者になれたかなと思っています」
冒頭でそう語った竹嶋さん。ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』が大好きだそうで、竹嶋さん自身もまた「目の前で困っている人の命を救う」ことを使命に掲げ、福祉の現場で地域のそして社会の課題解決に挑み続けています。

今年で創業15年目。児童発達支援や放課後等デイサービス、生活介護や相談支援など、重度障害者を子どもから大人まで複数の福祉事業で支援しています。
中でも近年力を入れているのが、社会的養護下の若者のアフターケア。全国で親と暮らせない子どもは約4万2,000人。そのうち9割が虐待によるものと言われ、児童虐待通報件数は年間21万件、最新値だと22万件にもなります。親から虐待を受けて児童養護施設などで生活している子ども達やそこから独り立ちした若者達のシェルターや居場所づくり、そして将来の選択肢を広げるための就労支援など、様々な機関や企業とネットワークを作りながらサポートされています。

スモールサンで学んだ「問う力」「つなぐ力」が原動力になったという竹嶋さん。「重度障害者の生活はこれでいいのか」と問い続け、彼らが地域の中で役割を持ち、ちゃんとお金を稼ぐことのできる仕組みづくりをしてきました。お年寄りのごみ出し代行など地域の困りごとを解決する御用聞きや駄菓子屋さんなど地域の人たちと関わりながら福祉の仕事として形にしています。人をつなぐために地域再生や街づくりもされていて、今年やったお祭りでは4,000人が訪れたとか。
さらにSNSやYouTubeなどの発信にも積極的です。スモールサンでの学びを活かして立ち上げたという「YouTu部」では、チャンネル登録者1,000人を突破。就職希望者が動画を見て応募してくるなど、学びを即実践する姿勢が結果に結びついています。
こうした活動の中で様々な取り組みが注目を集め、NHKニュース『おはよう日本』など様々なメディアに取り上げられた他、市長や厚生労働省も見学に来たそうです。

プレゼン終盤、竹嶋さんは「私たちは『福祉労働者』ではなく『福祉の活動家』だ」と語りました。そして「今は『経営者』にしてもらった」と言い、「事業活動を通じてこうした人達の役に立っていきたい」「自覚者は責任者」と最後に掲げて締めくくりました。

自らの行動に責任を持ち、社会課題に向き合う。その姿勢は、「学びを実践に変える力」の大切さを教えてくれたように思います。

【グランプリ】株式会社五常
― 「自分の学び」を「みんなの学び」に!学びを“自社の力”に変える共有力


栄えあるグランプリに輝いたのは、株式会社五常!
ゼミプロデューサーである河野さんの会社ということもあり、プレゼンを担当したのはゼミメンバーとして参加もしている営業部の宇井亘さんと石井佑紀さんの若手社員ペアでした。明るく息の合った掛け合いで始まった発表は、学びを「自分たちのもの」に変えていく実践そのもの。会場の空気が一瞬で前のめりになりました。

お客様の現場での悩みの声から生まれたオリジナル製品の「天使のカゴ台車」や「乗れる電動台車」、大型シーリングファンの「スマイルファン」など様々な製品を取り扱う五常。
しかし、二人の口から最初に出た言葉は、「私たちはこれを販売していません」でした。「悩み解消」を企業理念に掲げる五常にとって、製品はあくまでも手段。「物を売るのではなく、顧客の悩みを解消し、新たに事業を作り続ける会社。それが私たち株式会社五常です」。冒頭のこの一言に、五常の本質が凝縮されていました。

そんな同社の強みの一つが、“ノーショッピングカートモデル”という独自の販売スタイル。Webで集客しながら、通常のECサイトの様に買い物カゴを置かず、必ず問い合わせや見積りを経て顧客と会話を交わす仕組みです。一見不便そうなこの仕組みがあるからこそ、そこで初めて顧客の課題を聞き、最適な解決策を提案することができる。「売る」よりも「寄り添う」ことを重視するこの姿勢が、五常の信頼を支えています。「五常が何屋さんなのかは、お客さんによって変わってくる」という言葉がとても印象的でした。

発表の後半では、スモールサンでの学びをどのように社内で共有しているかが紹介されました。宇井さんは「自分の学びを、みんなの学びに変えることを意識しています」と語ります。スモールサンよりも更に小さな「マイクロサン」と名づけ、月に一度の全体会議の中で10〜15分ゼミでの学びを共有する時間をつくっているのだそうです。
その結果、普段の仕事の中では社員が考える機会のないことを考えるきっかけになっていると言います。また、この学びの共有をすることで、宇井さん自身もまた人の話を聞いて「自分ごと化」する能力、そしてそれを「言語化」する能力がとても高まったと語ります。
この他にも、整理整頓をテーマにした講義を受けた後は、昼休み後の5分間を「全員で片づけタイム」にする仕組みを導入したり、AIやコーチングなどの講座も社員全員で受講するなど、学びを実践に変える力強さを感じました。

担当プロデューサーであり五常の代表取締役である河野さんも、最初にゼミCHIBAに参加した時は営業部長でした。スモールサン・ゼミは経営者勉強会ですが、経営者だけが学べる場ではありません。社員もまたが学び、発信し、会社を動かしていく——五常が実践する「学びの共有」は、スモールサン・ゼミの理想形の一つでもあると感じました。

“学びを活かす”とは

全17社がそれぞれの学びと挑戦を語り終えたあと、会場には晴れやかな空気が広がっていました。発表者一人ひとりが、自社の価値を言葉にし、他社の発表に真剣に耳を傾けたこの時間そのものにゼミCHIBAの学びの歴史を感じることができました。

河野プロデューサーは最後にこう語りました。
「こういうゼミの中で一番成長する人って誰かというと、実は講師が一番成長するんですよ。皆さんに何を伝えようか、何を気づいてもらおうかということを考え抜いているからです。私たちはそれを受け取り、自分ごと化していくわけです。今日のように、自社の取り組みを考え抜き、言語化し、他者に伝える。経営者もまたその過程で成長していくし、経営者が伸びることで社員も一緒に伸びていくんじゃないかと思います。
また、今回色んな学びの活用の仕方がありましたね。何を学ぶかも重要ですが、ゼミCHIBAではそれ以上に誰と学ぶかも重要だと思っています。ここでの学びは本当に未来をつくっていくものだと思っていますので、これからも皆さんと一緒に力を合わせてゼミで学んでいきたいと思います。」

スモールゼミはただ知識を得るだけの場ではなく、学びを共有し、活かするための場でもあります。そうして一つ一つの企業が成長することで、中小企業全体ひいては地域や社会がより良くなっていく力が育っていく。今回ゼミCHIBA-1グランプリを通して、改めてスモールサンの意義や原点を感じることができました。私自身もこの学びをまた共有し、活かしていきたいと思います。


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