スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

「第74回:ストレスチェック制度 中小企業も義務化でどう変わる?」


これまで従業員50人以上の事業場が対象とされていた従業員のストレスチェック制度が、2025年5月の労働安全衛生法改正により、「従業員50人未満」の中小企業でも義務化されることに決まったのは、これまでスモールサン・ニュース『社長のためのメンタルヘルスニュース』やSSインターネットラジオ『咲江のメンタルタフネスへの道』でも度々お伝えしてきました。

とはいえ、施行は「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」ということで、詳細な施行時期はまだ未定(2028年4月1日までには施行される見込み)ということもあり、まだまだ意識していない経営者さんも多いのではないでしょうか。

しかし、この施行までの3年間はあくまでも準備期間。
何しろ2023年の労働安全衛生調査(実態調査)によれば、50人未満の事業場でのストレスチェック実施率は34.6%。実に7割近くの中小企業が新たにストレスチェック制度を導入し実施しなくてはならないわけです。

そこで今回は、産業カウンセラーでスモールサンのメンタルヘルスプロデューサーの咲江さんに、中小企業のストレスチェック制度について詳しくお聞きしました!
そもそもストレスチェックって何をすればいいの?
実施することで企業にとってどんなメリットがあるの?
などなど、制度の基本的な仕組みから、中小企業ならではの課題、そして組織づくりへの活かし方までお届けします。
皆さん、ぜひ読んでしっかり備えてくださいね!


咲江さんプロフィール
公認心理士(国家資格)、産業カウンセラー、キャリアコンサルティング2級技能士(国家資格)
厚生労働省委託事業 東京産業保健総合支援センター促進員、(社)日本産業カウンセラー協会 認定講師、タッピングタッチインストラクター
総合不動産会社、外資系ラグジュアリーブランドで人事総務庶務として、健康診断・給与・人事考課・社会保険・休復職・就業規則・メンタルヘルスなどに16年携わり、その後 独立。
現在はカウンセラー、キャリアコンサルタントとして様々な企業でメンタルヘルス・ストレス対策・リラクセーション・コミュニケーションなどの研修や、メンタルヘルスの相談業務、メンタルヘルス制度構築などを行っている。また、小・中学校で不登校児童の支援、震災後に心のケアとして注目を集めているタッピングタッチのインストラクターとしても活動中。 sakie_zaki@yahoo.co.jp

ストレスチェック制度とは何か
〜「うつ病を見つける制度」ではない〜

山口:まず前提として、ストレスチェック制度って、そもそも何のための制度なのか、改めて教えていただけますか。

咲江:まずお伝えしたいのは、そもそもストレスチェックは「うつ病を見つけるための制度」ではないんですね。ここが一番誤解されやすいところなんですけれども。会社で働いている方が「今の自分のストレス状態がどんな感じなのか」を知って、自分で整えるために使ってもらう、いわば「予防のための制度」です。

山口:なるほど。チェックされて引っかかったらアウトといったものではないと。

咲江:言ってみれば健康診断とすごく近い考え方です。健康診断って、年に一回受けて、血圧が高いなとか、体重ちょっと増えたなとか、自分でチェックして「そろそろ食事に気をつけようかな」とか考えますよね。ストレスチェックもそれと同じ。ただ、今までメンタルの状態って目に視える形で把握する手段がなかったんです。それで57の質問に答えていくことで、自分の働き方やメンタルの状態を数字やグラフで客観的に把握できるようにしようという仕組みです。



山口:「今のコンディションはこうですよ」というのを可視化することで、自分で少し整えたり、生活を見直したりするためのものなんですね。

咲江:そうなんです。勿論、結果として数値がかなり高く出る、いわゆる「高ストレス者」と判断される方がいることもあります。ただ、その場合でもすぐに何かを強制されるわけではありません。高ストレスの状態にある方に対しては医師面談の機会が用意されますが、これもあくまで任意です。メンタル不調の場合、なかなか自分から医療機関に行くのってハードルが高いですよね。でも、こうやって数値として「今、ちょっとしんどい状態ですよ」と出ることで、「一度話を聞いてもらおうかな」と思えるきっかけになる。そこに意味があります。

山口:なるほど。制度としてはかなり配慮されているんですね。

咲江:とてもセンシティブな制度なので、本人の同意なしに個人の結果がそのまま会社に伝わることは基本的にありません。高ストレスで医師面談を受ける場合は結果提供の同意の下で会社側に開示されますが、面談内容については就業上必要な配慮を行うための「意見書」として伝えられますので、詳細な相談内容がそのまま伝わることはありません。

山口:まずは「自分の状態を知る」「悪くなる前に気づく」ための予防の仕組みが、ストレスチェック制度なんですね。


ストレスチェック実施の流れを整理
〜「実施者」「実施事務従事者」〜

山口:ストレスチェック制度について、「目的は予防」というのは分かったのですが、実際に実施する場合誰が担当するのか、会社はどこまで関わるのかといった仕組みについても教えていただけますか。

咲江:大まかな流れとしては、以下の通りです。



重要なのは、ストレスチェック制度自体は会社の義務であり責任ですが、実際にストレスチェックを行う「実施者」は医師や保健師、あるいは私のような公認心理士といった厚生労働省令で定められた有資格者でなければいけないということです。

山口:
健康診断と同じように、ちゃんと専門家に見てもらわないといけないんですね。

咲江:とはいえ、じゃあ保健師さんに全て丸投げできるかというと、そういう訳にもいきませんよね。質問票の配布と回収、未回答者へのフォロー、結果の記録や通知といった運営上必要な実務があります。これらについては、会社の中で「実施事務従事者」という役割の人を立てていいことになっています。

山口:実施者の補助をする人という感じですね。

咲江:そうですね。実施事務従事者は、あくまで事務を行う人であって、結果を判断したり、高ストレス者かどうかを決めたりする立場ではありません。そのため特別な資格は必要ありませんが、かといって誰でもいいという訳でもありません。非常にプライベートな情報を取り扱うことになりますので、守秘義務に則って適切にデータを扱えることは勿論、ストレスチェックを受ける人の人事に関して直接権限を持つ人(人事権者)は、実施事務従事者になってはいけないことになっています。

山口:なるほど。人事権があると、ストレスチェックの結果で「ちょっとメンタルに問題ありそうだな。これ以上役職を上げるのはやめとこう」とかできちゃいますもんね。やるやらないは別としても、可能性がゼロでなければ回答する側も警戒して素直に答えられなくなりそうです。

咲江:ストレスチェックは、工場や現場作業が中心でパソコンを使いづらい職場では紙で実施しているところもありますが、多くは効率を考えてWeb上での回答が主流になっています。厚生労働省が無料で使えるツールを提供していますので、それを使えば費用をかけずに実施することも可能ですが、その場合でも実施者や実施事務従事者をどうするか、プライバシーをどう守るか、という点はきちんと整えなければなりません。「無料だから簡単」というわけではないことは念頭に置いておいてほしいですね。

山口:なるほど。ちゃんと理解していないと「やっているつもりで、実はできていない」ということにもなりかねないですね。

咲江:そうなんです。だからこそ、まずは制度の仕組みを正しく理解することが、義務化に向けた第一歩だと思います。


中小企業にとって何が一番大変なのか
〜想定される課題と必要な情報〜

山口:ここまで制度について整理してきましたが、いざ実施しようと思うと結構大変な気がしますね。

咲江:正直に言うと、私も「50人未満の小規模事業場で本当にこれを回せるのかな」という不安は、かなりあります。例えば、50人以上の事業所では必ず産業医を選任しなくてはいけないので、おそらく殆どの企業でその産業医さんが実施者になっていると思います。でも、これが10人や20人といった規模の会社だったりすると、前提条件がまったく違いますよね。産業医がいない、専門職とのつながりもない、そもそも制度を運用するための人手が足りない、という会社さんが多いんじゃないかと思います。

山口: 50人以上の事業場ではある程度それまでの延長線上で対応できていたけれど、これからはゼロから導入しなくてはいけない企業がたくさん出てくるということですね。

咲江:実際「ここからが本番だな」と感じています。厚生労働省でも、50人未満の事業場向けの運用については、まだ審議中なんです。私自身、厚生労働省の外郭団体で中小企業を支援している産業保健総合支援センターに所属しているので、今日も確認したんですが、「決定事項はまだ何もありません」というのが正直な回答でした。(2025年10月取材時点)できるだけ中小企業の負担が少なくなるように、という前提では話が進んでいるようですが、実施者に専門職が関わるといった大枠はおそらく変わらないと思います。

山口:そこは簡単には緩められないですよね。プライバシーの問題もありますし。

咲江:これは私の推測ですが、産業医の選任義務のない50人未満の小規模事業場を対象に労働安全衛生法に基づいた産業保健サービスを無料で提供する地域産業保健センター(地さんぽ)という機関があるので、おそらくストレスチェックの実施者がいない場合はこの地さんぽの医師につなぐ形か、外部の専門業者に委託することになるんじゃないかなぁと想像しています。とはいえ、地さんぽが十分な受け皿になるかどうかは微妙なので、私のような公認心理士や保健師がいかに中小企業の皆さんと繋がりを持てるかもこれからの課題だと思っています。
それでも不安はあって、私たちはストレスチェックの実施はできても、高ストレス者が医師面談を希望した場合の面談はできません。現状希望があった場合には1ヶ月程度を目安に速やかに医師面談を行うとなっているのですが、これがもし半年待ちとかってことになってしまうと、その間に状況が悪化してしまう可能性もあります。

山口:義務化となって慌てて対応すると更に大変そうです。事前にしっかり情報を入れておくことが大切ですね。実施していない場合の罰則というのはあるんですか?

咲江:今のところ未実施に対する直接的な罰則はありませんが、ストレスチェックの結果についての報告義務を怠ったことには罰則が設けられています(※1)。また、未実施の会社で適応障害やうつ病などメンタル不調になった従業員が出た場合、安全配慮義務を怠ったとして責任を問われる可能性がありますし、それこそ訴訟問題になればまず会社が負けることになります。最近は労災認定も急激に増えていますから、そういう意味でも実施しないことで会社としてのリスクはより大きくなります。

山口:経営者の方がちゃんと知っておかないと、「こんなはずじゃなかった」ということになりかねませんね。

咲江:だからこそ、施行までに一定の準備期間が設けられているんだと思います。いざスタートしてから慌てないように、今のうちから心構えをしておいてほしいな、というのが正直なところです。


※1 労働基準監督署への報告は労働安全衛生法第 100 条に基づくものであり、違反の場
合には罰則があります。50 人未満の事業場については、現段階では報告義務はありません。

「義務だからやる」ではもったいない!
〜やるなら「経営に活かす」使い方を〜

山口:ここまでお話を聞いていると、「正直、大変そうだな…」というのが率直な感想なんですが、ストレスチェックをすることのメリットはあるんでしょうか?

咲江:勿論あります。義務化と聞くと、どうしても「やらされる」「負担が増える」というマイナスの印象になりがちですが、きちんと使えば会社にとって大きなヒントになる制度なんです。それが「集団分析結果」というもので、ストレスチェックでは個人個人の結果を見ることはできませんが、10名以上の母数があれば全体や一定のグループ単位での傾向を分析して見ることができるんです。

山口:ストレスチェック制度の実施手順で「努力義務」となっていた部分ですね。

咲江:これは何が分かるかというと、メンタル不調に限らず、上司や職場の支援がどれくらいあると感じてるのか、仕事の量や質による負担感はどれくらいなのか、従業員が実際にどう感じているのかをデータとして見れるようになる訳です。これって経営者さんからすると普段は見えづらい部分で、「最近ちょっと元気がないな」「雰囲気が重いな」と感じていても、それが業務量の問題なのか、人間関係なのか、感覚だけでは分からないことが多いですよね。私も色んな会社さんの集団分析結果を見ていて、「あ、ここなんだな」というポイントが見えてくることが多々あります。

山口:どんなケースがあるんですか?

咲江:例えば、「業務量は平均値に比べてかなり多いんだけど、全体のストレスチェック結果は悪くない」という会社さんがあって、「何故だろう?」と思って見ていくと、上司の支援や同僚のサポートの数値がとても高かったりするんです。要は人間関係がすごく良いから、業務量が多くてもストレスにつながっていないんですね。これとは逆のパターンで、仕事量はそれほどでもないのに調子の悪い人がちらほらいて、よく見ていくと人間関係に問題があることが分かったりする。そうすると、「何から手を付ければいいか」が分かるんです。業務量の調整なのか、配置の見直しなのか、それとも管理職の関わり方なのか。それを感覚ではなく、根拠を持って話ができるというのも大きいと思います。社長の感覚で「ここを変えよう」と言うのと、「こういう結果が出ているから、ここを見直そう」と言うのでは、説得力が全然違いますね。

山口:集団分析結果は、職場改善のスタート地点。「悪い結果が出た=ダメな会社」ではなくて、「課題が見えた」と考えるのが大切ですね。

咲江:厚生労働省も「集団分析結果を出せますよ。生かしてくださいね」と言ってはいるんですが、それだけだとやっぱり難しい部分があるので、私は色々な会社さんでストレスチェックを見せていただく時に「まず結果の読み解き方を管理職研修でやりませんか」と提案しています。管理職の人たちが結果を見て、「うちの会社は今こういう傾向なんだね」と理解した上で、「じゃあ、どう変えていこうか」と話し合う。それだけでも、職場の空気は少しずつ変わっていくと思います。
実際にストレスチェックを実施する場合、実施事務従事者の負担がかなり大きくなるので、おそらく外部委託を選ばれるケースが多いと思います。委託業者さんも様々なので、こういった分析までしっかりやってくれるところもあれば、ストレスチェックの結果だけ出して終わりというところもあります。何をどこまでやってくれるのか、委託する際はしっかり確認することが大切です。安いと思ってお願いしたら、「うちはツールを提供するだけです。実施者はそちらでご用意ください」なんてケースもあるので注意が必要です。

山口:一言で「義務化」と言っても、義務対応としてだけやるのか、経営の材料として使うかで、意味合いがまったく変わりますね。

咲江:本当にそうです。確かに準備は大変ですし、負担もあります。でも、「やらなきゃいけないから仕方なく」ではなく、「会社をよくするために使おう」という視点を持っていただければ、結果として人が辞めにくい職場づくりにつながっていくと思います。

山口:この義務化をきっかけに、制度を上手に使って、会社の財産にしてほしいですね。今日はありがとうございました!


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