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山口恵里の“現場に行く!”2025年6月号
「第67回:株式会社ロビンガーデン」
皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第67回は、京都府長岡京市にある株式会社ロビンガーデンの代表取締役、中井 康紀さんにお話をお聞きしました!
昨年から恒例となっているゼミKYOTOメンバーの会社見学企画に今回もご一緒させていただきました。
ロビンガーデンさんは、園芸専門店として25年、花苗や観葉植物、多肉植物からガーデニング雑貨まで幅広い商品を取りそろえ、地域に“緑のある暮らし”を提案し続けているお店です。
品質と品揃えにこだわり、「京都でここだけ」という仕入れを実現されている中井さん。
理念を軸にした人づくり、そして「地域のオアシス」を目指した店舗づくりなど、今も進化を続けるロビンガーデンさんの現場に迫ります!
【会社情報】
社名:株式会社 ロビンガーデン
住所:〒617-0811 京都府長岡京市粟生北野10
創業:2001年10月26日
設立:2019年7月1日
事業内容:
販売部門/花苗、野菜苗、鉢花、観葉植物、庭木、その他園芸用品、米他食品、メダカの販売
サービス部門/庭の設計、施工、植物のレンタル、各種教室他イベント開催
オフィシャルサイト:https://robin.gr.jp/
オンラインショップ:https://marxplants.base.shop/
植物と人がめぐりあう、地域のオアシス「ロビンガーデン」
中井:当社は2001年10月26日創業で、今年で25年目です。実はこの場所、もともとは打ちっぱなしのゴルフ練習場だったんです。閉鎖されてずっと空き地になっていたところを見つけました。実家が近いこともあって候補に挙がったんですが、最初は「こんなところでやって大丈夫かな」と毎日車で前を通って悩みました。でも、最終的には「ここしかない」と決断して、結果的に大正解でした。
というのも、長岡京市は、大阪にも京都にも通勤圏内で人気の住宅地です。空気や水もきれいで、サントリーやニデック、村田製作所などがあって大企業に勤めている人が多い。また、この辺は飲食店が少ないんですが、それはみんな家を持っていて自宅で食べるから。つまり、家にお金を使われる人が多いんですね。そういう意味で客層にも恵まれていて、全体の4割くらいは市内のお客さんになります。
事業内容としては、花と緑の販売をする園芸店です。グリーンサポートやレンタル、寄せ植えなど色々していますが、この販売が売上の大体95%ですね。園芸店とフラワーショップの違いですが、育てるのか、アートなのかという点で大きく分かれています。フラワーショップはギフトの切り花が主体で、花束のアレンジ技術や室内を飾るアート性の部分が勝負になってきます。一方園芸店は、蘭や観葉植物など一部ギフト商品でかぶる部分はありますが、基本的に造園や農業に分類されるように花や緑を育てることが中心で、品質や品ぞろえが勝負になっています。
また、当社はコロナ禍で在宅消費が拡大したことにより大幅に売上げが上がり、そのときに思い切って大改装をしました。それまで無かったエアコンも入れて、トラックも替えて、外観から内観までもう全く別の店になりました。社運を賭けた大投資だったんですが、結果的に大正解だったと思います。店が綺麗になったことで同じ商品もより良く見えるし、それまで募集しても全然来なかった社員も採用できるようになりました。その効果もあって、コロナが落ち着いてからもお客さまは減らずに維持できています。
品質と品ぞろえで勝負〜独自の仕入れと商品戦略〜
中井:品質と品ぞろえが生命線ということで、当社では大阪の中央市場(大阪植物取引所)、日本で一番大きいといわれている愛知県の豊明市場(愛知豊明花き地方卸売市場)の他、東京の市場にも仕入れルートを広げています。やはり東京は経済規模が違うので、集まってくる花も日本で一番いいものが集まってきています。でも、東京まで行く手間と運賃がかかってくるので、大抵の店はなかなかそこまでは行けない。なので、当社は色々と知恵を絞って東京まで行って仕入れていて、おそらく西日本で東京の花をここまで入れているのは当社だけですね。そこが一つ大きな差別化になっていると思います。
——花にとっての新商品開発とは?
かなり前のエピソードですが、2008年に出入りの業者さんから「愛知に、生産者さんから直接仕入れて、とてもたくさんの花を売っている店がある」という話を聞きました。それまでだったら「へえ」で終わっていたと思うのですが、その頃ちょうど同友会で経営指針書を作って「戦略って何だ」「新商品って何だ」と毎日考えていた時だったので、すぐに紹介してもらって店長に会いに行きました。そこで分かったのが、八ヶ岳高原に素晴らしい花をつくる生産者さんがいるということでした。ところが、具体的なことは教えてくれません。そこで、実際に八ヶ岳まで行き、生産者さんを一軒一軒回っては紹介してもらうのを繰り返して、ようやくたどり着いたのが桜井さんという生産者さんでした。京都ではいい花が揃わなくて困っていると話したところ、花を送ってくれることを快諾してくれました。そうして届いた花を、早速「八ヶ岳コーナー」として売場の一番目立つ場所に置いて、思い切って市場品より倍高い250円で出したんです。そうしたら、お客さんがこぞって八ヶ岳の花をレジに持って来られる。
ゼミメンバー:市場の花と何がそんなに違ったんですか?
中井:八ヶ岳の生産者さんのハウスは、高さ1,000メートルの高原にあります。日照時間が長く、昼夜の寒暖差が大きい。それで株がしっかり締まり、根張りも良くなる。更に、高原は紫外線がかなり強いので、花の色がびっくりするほど鮮やかになるんです。特に青の発色の良さは飛び抜けていて、ヤグルマソウなんて目を見張るほどです。最初は10ケースから始まって、2か月後の最盛期には200ケース近くまで増えました。取引する生産者さんも5軒に拡大して、結果として売上も前年対比で10%アップ。その翌年は更に14%アップしました。しかも品質が良くて強いので、店頭で管理していても傷んで捨てることがほとんどなく、おかげで粗利率も上がりました。
——「質とニーズ」を追求し続けることが経営者の役割
経営戦略を立てるときに大事なのはまず「需要を読むこと」。そして、「質の追求」。その時代に合った品質の良いものを求める傾向が強くなっています。お客の変化していくニーズを探り、それに合わせた商品やサービスをつくり提供していくことが大事です。
1990年代はガーデニングブームで「並べておけば売れる」時代だったそうです。でも私がこの業界に入った2000年代に入るとそうはいかない。八ヶ岳の花を導入した2008年はリーマンショックが起きた頃です。そんな大不況と言われるときでも、任天堂のWiiやユニクロのヒートテックといった人気商品は生まれていました。経営者はそういった「質とニーズ」をとらえた商品を常に開発して、お客さまに提案し続けなくてはいけないということを学びました。あれから17年経ち、良い商品を求めて生産者の開拓や市場の拡張に力を入れてきました。取引する市場も関西から中部、そして関東へと増やし、直接取引する生産者さんもかなり増えています。
キャッシュレス化とPOS導入で客単価の上昇
〜課題は“数千種”の在庫管理とノウハウの継承〜
中井:こだわっているのは、客単価を上げていくことです。そのために会員制度を導入して、今大体5、6000人くらい。またクレジットカードやPayPayを導入してキャッシュレス化を進めたところ、それまで平均1,640円だった客単価が2,000円を超えるようになりました。
ゼミメンバー:その分、利益が減ったりしませんか?
中井:確かに手数料はかかりますが、その分は売上で十分カバーできています。また、以前は売れる価格帯を想定して2〜3万円のものを多く置いていたんですが、「客単価を上げるには、単価の高いものを置かないといけない」というアドバイスをもらい、数十万のオリーブなども置くようにしました。その結果、7万や8万の商品がポンポン動くようになりました。いわゆる松竹梅の法則というやつですね。園芸店の商圏は10kmと言われていますが、最近はInstagramで「こういうの入りました」と発信すると、それを見て和歌山や滋賀、福井など遠方から来てくれるお客さまが増えました。
——課題はノウハウの継承
中井:また、思い切ってPOSも導入しました。レジの効率が良くなて、お客さまの回転率が上がったのは大きかったです。それまでは混雑時にレジ前に長蛇の列ができていたのですが、自動釣銭機も入れて処理スピードが大幅に改善されました。というのも、お客さまはレジだけでなく、やっぱり質問もされたいんですよね。この花はどうするのがいい?とか、これ失敗しちゃったんだけど何で?とかね。ですので、いかに回転率を上げるという点でPOSはとても有効でした。
ただ、POS導入の本当の目的は在庫を1品1品管理することです。今何が売れているかを全ての従業員が把握して、それをもとにした戦略を立て、誰でも仕入れできるような形にしていきたい。ところが、これがなかなか難しいんです。扱っている商品がとにかく多くて、花苗だけでも数千種類。単価が高いものや資材系は1品ずつ管理していますが、安いものは価格帯ベースの管理にとどまっていて、品目レベルの在庫管理は今も追いついていません。例えば300円の苗が何個売れたかまでは分かっても、それがペチュニアかマリーゴールドかまでは分からない。実際、園芸店でPOS入れているところほとんどないと思います。
ゼミメンバー:その辺りの仕入れはどうしてるんですか?
中井:今もメインの市場まわりは私自身がやっているので、「これが減ってるな」「これは動いてるな」というのは見た目と感覚でほぼ分かります。ただ、これは完全に勘と経験によるものなので、それを今後どうやって継承していくかは大きな課題ですね。
理念が会社を変えた〜経営指針書がもたらした変化〜
中井:先ほど経営指針書の話が出ましたが、これをつくったのが大きな転機だったと思います。経営指針書をつくるには、まず「経営理念」を決めるところから始めるんですが、それに3か月かかりました。経営理念とは私が経営の中で何を一番大事にするのか。言い換えれば、会社の憲法をつくるということ。経営で判断に悩むとき、「それはうちの理念に合っているか?」という軸ができたことで、迷うことがほとんどなくなりました。
私たちは品質と品揃えにこだわり、お客様とのコミュニケーションを大切にしながら、潤いと安らぎに満ちた生活空間を提案します。
私たちはお互いの人格を尊重して、共に学び、人間的に成長することで、生きがいを感じられる店作りを目指します。
私たちは花と緑の販売を通して、地域社会の発展に貢献し、明るい地球の未来への架け橋となれるよう日々努力します。
一つ目は商品とサービスへのこだわり。二つ目が、従業員の人間尊重です。私はお客さまと従業員どちらがより大事かと言ったら、従業員の方が大事だと思っています。従業員が伸びてくれるから、接客もしてくれるし、商品の管理やメンテナンスもしてくれるわけです。でも、今はとても上手くいっていますが、以前はやはり不和があって、ほとんどの従業員が一気に辞めてしまうということも何度かありました。その後コロナ禍で設備投資をしたことで、社員が4人来てくれて、今は彼らが中心に動いてくれています。
——従業員を育て、若い世代に任せることで伸びていく
中井:その頃から導入したのが「日報の共有」です。社員もパートも全員、毎日日報を書いてもらって、それを私が毎朝全部チェックして、朝礼で共有しています。売上、客数、客単価の他、どんなお客さまが来たのか、何が売れたのか、ムカデが出たとかの店内の異変や、私に対する批判も隠さず話します。お店のことを皆で共有するようになって、すごく風通しが良くなりました。
実際パートさんの中には我が強い方なんかもいますが、それも社員を中心にしながら、そういう人たちが新たに挑戦できるような仕事や部署をつくることで、全体が平和にまわるようになりました。人を大事にする中で、人間関係も含めて皆が働きやすい組織図をつくるようにしています。
徐々に権限委譲も進んでいて、観葉植物や陶器鉢、雑貨など若い人たちが好むコーナーは完全に任せていっています。伸びているのもそういったところで、客層も若くなっていますね。例えば、ガジュマルには「キムジナーという妖精が宿っていて、幸福を呼びます」なんてストーリーを書いたカードが添えられていて、それがまたお客さんに喜ばれるんですよ。私がやってもこうはならない。商品は置いてるだけじゃだめで、どんな意味があるのか、どんな楽しみ方があるのか、そういう情報をいかに渡してあげるかが大きなポイントです。園芸はずっと団塊の世代が引っ張ってきましたが、今その世代はどんどんやめていっていますので、若い人にどんどんスポットを当てていかないといけません。
園芸を軸に、その枠を超えて「地域のオアシス」へ
中井:理念の三つ目は、社会との関わりです。以前はいかに京都市内からお客さまを呼ぶかということばかり考えていましたが、やはり地域との繋がりを大事にすることで、逆に私たちが守ってもらえるところも非常に多いです。なので、今は色々な形で地域社会に貢献できるようにと考えています。これらの経営理念を踏まえて改めて考えたのが、この経営ビジョンです。
ロビンガーデンは単なる植物の販売店ではなく、地域のオアシスのような存在になりたいと思います。
砂漠のオアシスというのはどんなものなのでしょう。
単に泉が湧いていてその周りに樹木が茂り、木陰を作っているというのではありません。
周りからいろいろなものや人が集まってきて、そこで交流し独自の文化が生まれるところです。
食べるものや着るものや生活道具、そこには花やペット、見世物やありとあらゆるものが集まり、人をわくわくさせ、生きるエネルギーが満ちているような空間です。
もちろん園芸店ですから基本は植物であり、潤いと安らぎに満ちた生活空間の提案がベースとなりますが、それにとらわれず、雑貨やペット、新鮮な野菜、飲食設備、イベントなど、何かわくわくするようなものを見つけられる空間にしたいと思います。
またここを起点として貸し農園をしたり、近隣の農家や施設に花や野菜、土、肥料を作ってもらったり、そういうコミュニティに発展していければと思います。
そして、ロビンガーデンに関わる全てのスタッフが生活の不安なく、働くことに生きがいを感じ、お互いの人間性を磨きながら自分たち独自の文化を創り上げていきたいと思います。
イメージとしては、「道の駅」のような感じですね。今は珍しい観葉植物を扱う生産者さんに呼びかけた即売会の「ビザールガーデン」や、移動動物園やミニ縁日などのイベントの他、野菜を育てて子ども食堂に配ったりもしています。米の生産者さんとコラボした「ロビン米」の販売もしているのですが、これはコメの高騰を受けて大爆発しまして去年はすぐなくなりました。
新しいサービスもつくっていて、色々な教室や花のレンタルの他、意外と多いのがグリーンサポートですね。お庭の植栽を提案したり、月に一度伺って庭のメンテナンスをします。去年からは「MARX PLANTS」というECサイトも立ち上げて、オンライン販売も始めました。
この経営ビジョンをつくったのは十数年前で、発表したときには絶対無理だと言う人もいました。でも、理念とビジョンを持って続けてきたことで、いろいろな形で実現してきていると思いますし、そう思ってこれからも取り組んでいくことが大事だと思っています。
その後、広い店内を見学し質疑応答へ
──店内の見学を終え、ゼミメンバーからは様々な質問が飛び交いました。
ゼミメンバー:花を生産者から直接仕入れ始めて、問屋さんとの関係に問題はなかったんですか?
中井:問屋とは違うんですよ。教えてくれた業者は土のメーカーさんで、彼らは販促のために店が良くなるようなアドバイスを色々してくれるんです。後から分かったんですが、その愛知県のお店の情報もあちこちで話していたみたいです。ただ、そのとき食いついたのが私だけだったんですね。私が仕入れ始めた数年後には八ヶ岳の花が全国的に大ブームになりました。
ゼミメンバー:この仕事を続けてきて、一番の喜びは?
中井:単純に嬉しいのは、やっぱり植物の中で「おっ」と思えるものに出会えた時ですね。そういうものを見て、お客さんも嬉しそうにワイワイ手に取っているのを見れるとこちらもすごく嬉しい。自分が望む売り場ができたり、従業員が生き生き働いてくれたり、お客さんが喜んでくれたりというのが一番ハッピーです。だから365日働けるし、仕事じゃなく趣味なんですよ。
ゼミメンバー:趣味だと一生やめられないですね(笑)。
中井:一生やめたくない(笑)。例えば、私が一線を退いても事業は残していきたいと思っていて、花の仕入れなど誰でもできるようなシステムを資産を投げうってでもつくるとか、高額な給料でもいいので私の代わりに頑張ってくれる人が出てきたらいいなと思います。それで私は例えばどっか別の場所を借りて、植物の生産をするとかね。私は自分で接客とかは苦手なんですよ。で、ものを集めるのが好きなんです。なので、海外へ出かけていって希少な物を集めてくるとかね。
前に山口教授の講演で「日本人の特徴は、改良の文化と、武士の文化と、そして混合の文化だ」というのを聞いて、これって同友会の人間尊重のベースになる考え方なんです。金儲けじゃなく、自分がどんどん成長していくこと、そこに資源を集中することが人を幸せにする。だから日々学びながら、進歩している実感を持てることがハッピーですね。
──などなど、その後もお店の大改装や起業される前のお仕事についての質問の他、閑散期となる夏場をどう乗り越えるかといった課題の話、植物好きなゼミメンバーも多く植物の育て方など様々なお話が飛び交い、見学会は盛会のうちに終了しました!
みなさん、ありがとうございました!