スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

第42回 株式会社シアン


皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第42回は、株式会社シアン 代表取締役の岩井隆浩氏と岡村大作氏のお二人にお話をお聞きしました!

障がい者や高齢者など外に出ることが困難な方々に、ドローンとVRゴーグルを使って素晴らしい景色や観光を楽しんでもらい、日々の心理的負荷を軽減してQOLを向上させるリアルタイムバーチャル観光サービス「空力車」というサービスを提供するシアン。
ドローンやVRという先端技術をメインとしながら、あくまでもその目的は人に根差した社会的意義と貢献にあります。

本業では不動産建設業をされている岡村さんがドローンの活用に着目したきっかけ、なぜヘルスケアイノベーションという医療分野を目指したのか、そしてこの先端技術をどのように社会に発展させていくのかその挑戦に迫ります!
どうぞご期待ください!


社名:株式会社シアン
代表者:岩井隆浩
所在地:
【本社】東京都千代田区九段南1-5-6 りそな九段ビル5F
【湘南研究所】神奈川県藤沢市村岡東2丁目26−1
設立:2018年1月
事業内容:
UAV(無人航空機)を主とする航空機使用事業
UAV(無人航空機)に関するコンテンツ配信、イベントの企画、制作、運営事業
UAV(無人航空機)および宇宙機器ならびにその部分品の企画、製造、販売、整備事業
UAV(無人航空機)従事者の養成訓練及び一般向け文化、教養に関する事業
UAV(無人航空機)サービスおよびソフトウェアの開発、設計、および販売
航空運送業、陸上運送業、海上運送業および荷役業
映像、音楽作品等の企画、製作、販売、賃貸、輸出入、興行および配給
ウェブサイト、ウェブコンテンツ及びデジタルコンテンツの企画、制作、運営及び管理
インターネットを利用した情報提供、商取引およびその代行
倉庫、飛行場、宿泊、教育等の各施設の経営、管理、飲食店の経営および旅行業
WEBサイト:https://cian-aviation.co.jp/

リアルタイムバーチャル観光サービス「空力車」
~ドローンとVRを活用したヘルスケアイノベーション~


山口 本日は神奈川県藤沢市にある湘南研究所にお邪魔させていただいたのですが、……とんでもない施設で驚いています(笑)

岩井 武田薬品工業株式会社が運営している湘南ヘルスイノベーションパーク「湘南アイパーク」という施設で、日本屈指のバイオテックベンチャーの集積地、最先端医療の研究開発拠点として機能している施設です。広大な建屋の半分を武田薬品工業が研究所として利用し、残りの半分にはテナントとして大小様々なバイオベンチャーや製薬会社、研究センターなどが入っていて、当社は今年3月に誘致されて入居しました。声を掛けていただいて最初に訪れた時は、私も「とんでもないところに来てしまった……」と思いました(笑)。

山口 シアンではドローンを活用したヘルスケアイノベーションということで、この湘南アイパークで研究をされているんですよね。具体的にどういった事業内容なのかお教えください。

岩井 「空力車」というリアルタイムバーチャル観光サービスで、障がい者や高齢者など外に出ることが困難な方々に、ドローンとVRゴーグルを使って全国の素晴らしい景色や名所の観光を楽しんでもらうことで、日々感じている心理的負荷を軽減してQOLを向上させるというものです。(※QOL=クオリティ・オブ・ライフ:一般に人生の内容の質や社会的にみた生活の質のことを指す。人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているか、ということを尺度としてとらえる概念)
これまで脳梗塞で寝たきりや障がいをお持ちになってしまった患者様、障害のある子供たち、高齢者施設に通所されている方々、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者様、神経難病の患者様など、多くの方々に体験していただき、「行きたいところにいけた」「これまで行くのを諦めていたとこに行けた」といった喜ぶ声をいただきました。空力車が病気や障害を持ってしまった患者様の生きがいや楽しみ創出になると確信しています。

山口 最新の映像伝送技術でただ映像を楽しむのではなく、その体験を通して心のヘルスケアを提供されているんですね。



ドローン着目のきっかけは隣接異業種
~「事業は常に変化していなきゃ駄目」~


山口 もともとドローンに着目されたのはどういったきっかけなんですか?

岡村 私は本業の方で住まいづくりや不動産仲介の会社をやっていまして、当初はそちらの分野で活用できるんじゃないかとドローンに注目したんです。というのも、山口義行先生の講演を聴いて、「隣接異業種を見つけなければいけない」という思いが強かったんですよ。それで何かないかと探していた中で、ドローンも隣接異業種に値するものじゃないかなと考えたんです。以前に他社よりも数年早くベトナムへ進出したのが功を奏したこともあり、ドローンという全く未知の分野で所謂ファースト・ペンギンとして先に出るメリットはかなりあるだろうと感じていました。

山口 なるほど、隣接異業種をヒントに本業を起点として着目されたんですね。

岡村 「不動産建設業だけでは必ず行き詰るな」という思いがあったので、何か新しい事業で次の時代を作っていかないといけないなと。事業は常に変化していなきゃ駄目ですよね。また、若い人を応援したいという気持ちもあり、それで「ドローンをやりたいんだよ」という話を岩井にしました。

岩井 シアンを立ち上げる前、私は全く別の仕事をしていまして、岡村とはその頃に同友会で知り合いました。事業の悩みなどを聞いてもらっていたのですが、その中で岡村が「岩井君、僕はドローンの資格を取りに行こうと思うんだ」と言ったのを今でも覚えています。「ドローンはこれからの分野で、不動産は勿論色々な分野で親和性がある。経営者として社員にやらせる前に自分が知らないと何も言えないんじゃないか」と。それで、「それなら僕も資格を取るので、一緒に行きますか?」と。それが最初のきっかけになってドローンの業界というのを色々調べ始めて、一緒に会社を作ることになりました。実は、ドローンは私にとっても隣接異業種なんですよ。元海上自衛隊で、航空整備士をしていたんです。

山口 え、そうなんですか!

岡村 まさしく隣接業種ですよね。また、最初に出会った時、彼は色々な建築技術の伝達にロボットを活用しようと開発をしていたこともあって、この人に頼めたらドローンもやれるんじゃないかなと思ったんです。

山口 まさに隣接異業種であり、つなぐ力ですね!

先端技術だからこそ「できること」ではなく「理念」から

山口 元は不動産建設業を起点にした発想だったわけですが、そこからどのように現在の医療分野につながっていったんですか?

岡村 ドローンを何に使うかは模索の繰り返しでした。測量やビルの外壁に使われているタイルの剥離を調べるのに使えないかとか、色々と用途を考えたんですがどれもなかなか難しい。それで、まずは理念を考えることにしました。隣接異業種的に入ってきたけれど、ドローンで建築の仕事をすることが目的なわけではない。建設にこだわってばかりではなく、ドローンの本質を見極めなければ駄目だ、と。そうして考えた理念が、ドローンをこの地球上で健全に育てて、そして我々も健全に事業ができること。そして、そういう素晴らしいドローンの事業性を求めて仕事をしていこうというのを共通の理念にしました。

山口 未知の分野だからこそ、「何ができるか」ではなく「理念」をまず考えたんですね。

岡村 その理念に基づいて何がやれるのかですね。ドローンの世界はまだまだ暗中模索の中手探りで道を探している段階で、その道が良いのか悪いのか誰も分からないないわけです。我々は事業モデルを手探りで作っていく開拓者だからこそ、その理念の中にあるものを探そうということで彼が色々と動いてくれました。

障がい者の人たちが“見つけてくれた”医療という方向性

山口 そういった模索の中でドローンを活用してバーチャル観光をするという道を見つけたんですね。

岩井 はい。ですが、スタートの時点では、まだ医療分野とは結び付いていませんでした。鎌倉にインバウンドの観光客に特化したゲストハウスがあって、そこをきっかけに最初は観光サービスツールの一つとして考えていました。人間は陸上や水中は自力で行けるけど空だけは機械を使わないと行けない。なので、ドローンを使って観光客が自分たちのいる観光エリアを飛んで見て回れるようなサービスがあったら面白いんじゃないかと思ったんです。特に鎌倉は坂や階段が多くて全部を見て回れないという人も多いので。

山口 当初のターゲットは単純に観光客だったんですね。


岩井 はい。ですが、そのサービスに真っ先に目をつけてくれたのが障がい者の方たちだったんです。ものすごく需要があったというわけではないですが、ちょこちょこと反響をいただいて、「この人たちは確実にこのサービスを求めてるんだ」という手ごたえはありました。そこで障がい者の方たちに向けたバーチャルツアーという形に整えて、バーチャル観光ツアー「空力車」のサービスがスタートしました。
最初のお客さんは脳梗塞で倒れてからベッドを降りることのできないご高齢の患者さんとそのご家族でした。ご本人は「もう俺は駄目だ……」と塞ぎ込んでいて、娘さんはずっと「おじいちゃんにあれをしてあげれば良かった、これをしてあげれば良かった」と悔やんでいる。そんな二人を見ているお孫さんも「心が苦しくてしょうがない」という状況でした。そんな中で当社の空力車を体験してもらったら、全員が笑顔になったんです。もうずっと動くことも喋ることもなかったお爺さんが、この日だけ喋ってくれて、最後に涙を流しながら自力でピースをしたんです。実はこのお孫さんは今スタッフとして当社で働いてくれています。

山口 それは本当に嬉しいですね!

岩井 副業として当社を手伝ってくれている医療系のスタッフがいるのですが、この出来事をきっかけに「これは薬よりも効果があるかもしれない」と。そうして、現在のヘルスケア分野という方向性が定まりました。

ドローンスクール「湘南ドローンステーション」
~ドローンの研究開発と“健全な発展”の起点に~

岩井 この湘南アイパークの誘致をいただいたのも、そうして医療分野としての発信を始めた頃のインターネット記事がきっかけです。ここなら万全な環境で研究ができるし、湘南アイパークのリソースを使って病院や自治体などと話をすることもできるので、研究開発が早く進む。ただし行ったらもう後戻りできないですね、と。

岡村 でも、この事業にはそれだけかける価値がありますから。

山口 なるほど、そうして現在ここで本格的な研究開発をされているんですね。


岩井 ただ、岡村にもいつも言われていることですが、研究開発って何年も何年もかかることで、中小企業が簡単にやれるレベルの話ではありません。当然お金がいつまでも続くわけではないので、実験を続けていくためのもう一つの収益事業としてドローンスクールを始めました。ここを「湘南ドローンステーション」として、空力車利用者のQOL向上の効果測定、ドローンやVRを活用した新サービスの研究開発、そして専門スキルを有するオペレーター等の人材育成などの社会実装事業を実施する場として機能させています。

岡村 当社のやれることとして確実な一つが医療分野で、もう一つスクールも確立していこうと。先々は色々と考えてやるべきことと捨てることを区別していかないといけませんが、今は「我々ができることは何だろう」と幅を広げようとしているところです。

山口 理念が「ドローン自体の健全な社会への発展」ですから、そうすると医療分野だけじゃなく今後様々な分野にも広がっていけますね。

岡村 例えば、今日本の林業は衰退してしまっていますが、その復活にもドローンを活用することができると思います。そういった風に色々なところでお話させていただける機会に恵まれ始めたという点でも、この湘南アイパークでドローンスクールをやってるというのは大きな信用に繋がっていますね。

山口 ドローンにはまだ国家資格のようなものはないんですよね。

岩井 今ある資格は全て民間資格です。ただ、自動車教習所に認定校とそうでない学校があるように、ドローンスクールに関しても国交省による航空局HP掲載団体というのはあります。今はまだ航空局HP掲載団体で修了しても申請書類の記入が少し楽になるくらいのレベルですが、いずれ自動車と同じように免許制になると思っているので、将来を考えて当社のドローンスクールも今から申請しています。(2019年9月当時)

社会的意義と共感にこそ人が集う
~「鳥肌が立つような喜びを皆にもさせてあげたい」~


山口 これは私の個人的なイメージだったのですが、ドローンって一時期マイナスなニュースも多くて、新しい技術だからこそこれからどうやって世の中で活用されていくのか不安に感じることも多かったと思うんです。そういったドローン業界の現状を考えても、医療分野での活用として社会的貢献度の高い事業をされていること、湘南アイパークという大きな施設で研究開発やスクールをされていることは大きな後押しになりますよね。最初に立てた理念を中心に、一つひとつが互いに相乗効果を生んでいると感じます。

岡村 私は、企業というのはやはり社会的意義がないと駄目だと思うんです。特に新しい分野が社会に認知されるというのは、「そういう良い仕事をしてるんだったら貴方に頼もう」と思ってもらえるような、そういうものがきちっと打ち出されていることが凄く大事なんだと思います。特にドローンなんて使おうと思えば悪いことにも使えてしまいますから。それこそ最初に決めた「社会に役立つ健全なドローン」にしなくては、ドローンは絶対に発展しないと考えています。

山口 最初に「何ができるか」ではなく「理念」を定めて、そこに焦点を合わせたことがとても活きていますね。今スタッフさんは何名ぐらいなんですか?

岩井 正規のメンバーは私を含めて2名、副業として契約社員が3名で、メインはこの5名ですね。他に業務委託のスタッフが何名かいます。若い子たちばかりで、皆当社の理念に共感して「社会的な意味があるから参加したい」と来てくれた子たちです。

岡村 まだ動き出したばかりのベンチャーなので、正直そんなにお金も払えていないんですよ。でも、彼らはお金じゃなくて社会的意義に燃えて当社に来てくれているんです。お金で誘っていたら一人も来てくれないと思いますよ。

山口 先ほど仰っていた第一号のお客様のお孫さんがスタッフで来てくれているというのもそうですよね。

岩井 色々なバックボーンのある人たちが集まってくれて本当に有り難いです。医療系の人はメディカル研究を担当してくれていますし、品質管理を担当してる中野というスタッフは車椅子なんですよ。彼は実際に空力車を体験して、「鳥肌が立つような喜びがあった」と言うんです。自分の体が動くような、今までに感じたことのない喜びがあったと。それで、「自分も皆にそういう思いをさせてあげたい」と言って頑張ってくれています。正直、そのリアルな感覚って健常者には絶対分からないんですよね。例えば、車椅子だと観光地によくある石畳が辛いだとか、トイレの鏡の位置が高いと見えにくいとかも、健常者が頭で想像しているだけだと分からなかったりする。だからこそ、彼がいてくれるおかげで空力車というサービスに彼の視点が加わっていくのでとても助かっていますね。

山口 素晴らしいですね!ただ新しい先端分野にチャレンジするのではなく、その先端技術をちゃんと人や社会に根差すものとして活用することで共感を呼び、その共感がさらに協力へと繋がっていくんですね。

岡村 私たちもこういった皆の思いを繋げていきたいですし、何としてもこれを継続していって、協力してくれている人たちに恩返しができるようにしていこうと、メインスタッフ皆でいつも話しています。

よりメディカルな発展と社会貢献
~「こんな良いことにも使えるんだね」という一例に~

山口 最後に今後の展望がありましたらお聞かせください。

岩井 医療分野に関して言えば、どの映像がどの疾患にどのように影響するかという研究を進めて、よりメディカルな効果を高めていきたいと思っています。例えば、お墓参りでは皆それぞれ違うお墓に行きますが、「お墓参りしてご先祖さまに手を合わせる」という体験は同じですよね。それと同じで、AさんとBさんで全く違う映像を見ているんだけど、そこから得られる感情は同じになるというものを今作っています。「この人には効果あるけど、この人には全然なかった」では、医療として鬱病などの改善に使える機器にはならないので、誰が体験してどんな映像を見ても一定の効果が得られるというところを目指して、神奈川県のサポートもらって実証試験を始めています。
また、私たちの事業を障がい者の方の仕事にも繋げていきたいと思っています。ドローンスクールで障がい者さんたちにもドローンの使い方を覚えてもらって、将来的には当社の空力車オペレーターをやってもらう。当社の中野が「僕と同じような人にももっと体験してほしい」と言っているように、障がい者さんが障がい者さんを助けることができればそれが社会貢献にもなります。そうすると相乗効果が生まれていくので、そういう世界を作っていけたらちょっと良い世の中に変わるのかなと。ドローンは今テロなど悪いことにも使われたりしていますが、「こんな良いことにも使えるんだね」という一例になりたいと思っています。


岡村 そういったドローンの健全な発展の裾野をドローンスクールで広げていきます。今ドローンをやる人たちはいるけど、皆さん仕事にはなかなか繋がらないんですよ。そこで、ただドローンをやりたいというだけではなく、社会貢献ができるような人たちを育ててレベルを上げることによって、ドローン技術者の地位も上がっていく。一期生が卒業して、これからようやく二期生が始まるところですが、今後もそういうちょっとレベルの高いドローンスクールとしてやっていきたいと思っています。

山口 一つの収益ビジネスとして以上に大きなキーポイントですね!最先端技術というのはそれだけで社会的に受け入れてもらうのは難しいと思うんですが、こういった社会的意義を起点にすることで広がっていくし、そうして受け入れられることで技術もより発展していく。今日はそのスタート地点を見たような気がします。本日はありがとうございました!


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