スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

「第51回 井関産業株式会社」


皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第51回は、千葉県浦安市にある井関産業株式会社、代表取締役の安並潤氏にお話をお聞きしました!

井関産業株式会社は、昭和50年に金属容器を主とした容器包装資材の商社として創業。その後、産業資材部から発展するようにノベルティなどのセールスプロモーション事業へも展開。さらにはLa Corbeille(ラ・コルベイユ)事業という女性社員によるスキンケア、ヘアケア用品、洗濯雑貨、食品分野の自社ブランドも展開されています!

また、近年のサステナビリティやSDGsへの取り組みも早い段階から率先して取り組まれており、それが強みの一つにもなっていると語ります。
前向きに変化していく安並さんの取り組みと挑戦について詳しいお話を伺いました。
皆さん、ご期待ください!

【会社概要】
会社名:井関産業株式会社
代表取締役社長:安並 潤
所在地:
本社 産業資材部・事業推進部
 〒279-0001千葉県浦安市当代島1-18-2
東京支店 セールスプロモーション事業部・ラ コルベイユ事業部
 〒135-0047東京都江東区富岡1-18-17 富岡和倉ビル3階
オフィシャルサイトURL
https://www.isekigroup.co.jp/
La Corbeille(ラ・コルベイユ)ブランドサイトURL
https://www.la-corbeille.jp/
La Corbeille(ラ・コルベイユ)オンラインショップURL
https://www.la-corbeille.net/

二つの柱〜産業資材事業とセールスプロモーション事業〜


山口 井関産業さんはどういった事業をされているのですか?

安並 当社は昭和50年創業で、金属容器のメーカーに勤めていた先代が、容器製造のノウハウと営業のノウハウを活かして容器包装資材の商社として独立したのがスタートです。当初は一斗缶や18L缶などの金属容器をメインに扱っていましたが、プラスチックなど他の素材の容器も扱うようになり、さらにお客様が印刷インクや塗料のメーカーであることから、印刷インクや塗料の原材料にも手を広げてきました。

山口 それが一つ目の柱、産業資材部ですね。他にはどういった展開をされていますか?

安並 今では見なくなりましたが、昔は銀行で預金すると貯金缶をもらえた時代がありました。当社には金属容器と金属加工の知識がありましたので、金融機関などに金属容器を使ったノベルティの提案・販売にも進出しました。当時は金属の筆箱、いわゆる缶ペンケースなども手がけたりして、産業用の金属容器中心から徐々にアイテムを広げていきました。


山口 それらは自社ブランド製品としてではなく、OEMですか?

安並 はい。私たちはどのメーカーが何を製造できるといった情報を持っているので、企画を弊社で行い、メーカーにお願いして作っていただくと。以前はドロップ缶など、食品に使う缶もかなりやっていました。その後、金属製品だけでなく、プラスチックや紙など様々な素材を使ったノベルティの提案が広がっていき、そこでセールスプロモーション用品というもう1つの事業に広がっていきました。

山口 産業資材事業に続き、セールスプロモーション事業が二つ目の柱になったのですね。

能動的に価値を生むことのできるビジネスを!
〜変革の転機はリーマンショック〜

山口 安並さんが事業を引き継がれたのはいつ頃なんですか?

安並 私が代表になったのは2003年です。その頃日本の景気はモタモタしてはいましたが、それでも比較的順調に推移していて、数年は経営改革など何か大きく事業を変えようといったことは考えていませんでした。一つの転機になったのは、リーマンショックです。2009年の年明けから、2カ月くらい注文がピタッと止まった時期があったんです。

山口 日本中の多くの企業に影響がありましたね・・・。

安並 これがいつまで続くかわからない。いずれまた元に戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。色々な情報が飛び交う中やっぱり不安で、その時にこれはマズイと思ったんです。それまでお客様から注文をいただいてメーカーに発注し、メーカーからお客様へ直送するという受注産業を続けてきましたが、お客様からの注文が止まるとこうなるということを身に染みて感じましたね。それで、自分たちで企画しモノを作り販売する、能動的に価値を生むことのできるビジネスをつくらなければならないと考えるようになりました。

山口 その後、事業の方はどうだったんですか?

安並 ありがたいことに2009年の夏すぎくらいからは仕事が戻り始め、2010年にはリーマンショック以前の水準に戻ってきていました。ところが、2011年に東日本大震災が起こり、インフラが止まり、生産も止まり、色々なことがありました。そこでいよいよ、受注を待っているビジネスだけではなく、それとは別に自分たちで企画してモノをつくり市場に提案・販売していく、そういう部門をつくることを決意しました。

3つ目の柱、La Corbeille(ラ・コルベイユ)事業
〜女性だけで立ち上げたソーシャルブランド〜


安並 そこで2011年から12年にかけて始めたのが、女性社員による自社ブランドのL a Corbeille(ラ・コルベイユ)事業です。スキンケアやヘアケア用品などナチュラル&オーガニックのパーソナルケアブランドで、「ケアしながら誰かが幸せになれる」というコンセプトで、商品のデザインやパッケージにカンボジア女性によるオリエンタルなデザインを採用し、デザインで社会貢献をするソーシャルブランドです。

山口 構想のようなものは以前からあったんですか?

安並 いえ、具体的なイメージなどは全くありませんでした。当社ではずっと新卒採用をしていて若い女性社員が比較的多くいたので、「そうだ、女性たちに何か考えてもらうといいんじゃないか」と思ったんです。マーケットや家庭の財布を押さえているのは女性ですから、女性の部隊をつくって、女性の感性で何かできないかと。とはいえ、何も構想がないまま任せるのは流石に酷なので、以前から色々とアドバイスをいただいていた女性マーケッターに相談したところ、「井関産業さんの強みってなんですか」と聞かれました。当社は商社なので、強みといってもモノを右から左に流す業態だから・・・と申し上げたところ、「それが強みなんじゃないですか」と言われたんです。

山口 と、言いますと?

安並 当社には産業資材事業とセールスプロモーション事業という2つの業態があり、それぞれ業界が違って様々なお客様を持っています。まず、それが1つの資産。そして、当社に生産設備などモノをつくる機能はありませんが、モノをつくってくれるサプライヤーがたくさんいる。これをうまく活用すれば、商社だけどモノをつくる能力はあるじゃないかというところに行き着きました。
ただ、もう1つ困ったことがあって、デザインも含めてコンテンツは全てお客様からいただいたものをメーカーに依頼しているので、当社にはデザインもコンテンツも何もないんです。ところがその女性マーケッター曰く、逆にデザインは持っているけどモノをつくれない方がいるんですと。それで紹介いただいたのが、カンボジアの女性の経済的社会的自立支援をされているドリーム・ガールズ・プロジェクトの代表、温井和佳奈さんでした。カンボジアはクメール文化なので、カンボジアの女性にデザインという切り口でビジネスを興したり、仕事をするための教育をされている女性です。それで当社の女性社員が温井さんに会いにいったところ、「デザインが可愛いのでやってみたい」ということで、そのデザインを使って何か商品化しようとラ・コルベイユ事業がスタートしました。

山口 もともと女性社員で立ち上げようとしていたコンセプトとも合致しますね!ヘアケアやスキンケアという商品の方向性はすぐに決まったんですか?

安並 いえ、最初はテーブルウェアなどの雑貨類をやろうとしたのですが上手くいかず、失敗を繰り返していました。そんな時にソーシャルという切り口で、社会問題を解決するイベントの展示会に出展したところ、たまたまブースに来られた方に「これはテーブルウェアではなく、コスメの方がいいんじゃないか」とアドバイスをいただいたんです。何しろ失敗続きでしたから、藁にもすがる思いでコスメ関係のアドバイザーをしている人を紹介していただき、そこからヘアケアやスキンケアといった商品開発がスタートしました。その方とは今でも付き合いがあって、商品開発にずっとアドバイスをいただいています。
現在はそこから柔軟剤などの洗濯雑貨関係を強化しているというところです。また、他に食品関係も始めていて、あえて分野を特定せず、デザインを活用してプロダクトをつくり、マーケットをつくっていくという取り組みがラ・コルベイユ事業部です。



企業の「社会性」が問われる時代に刺さる切り口を


山口 これまでとはガラリと異なる方向性ですが、社員さんの反応などはどうだったんですか?

安並 複雑でしたね。元々ある産業用資材とセールスプロモーションの事業部から人を異動させなければならないわけで、それまでの事業部への思い入れもあるでしょうし、最初は不安感の方が強かったのではないかと思います。ただ、何かコトを起こすとそれまで会ったことがない人と出会えるので、それが「この人と仕事をすれば何かできるかもしれない」という想いになっていったように思います。

山口 確かに、デザインのコンセプトにしても、ケア用品という商品開発にしても、人との出会いや繋がりが新たな流れを生むきっかけになっていますね。

安並 それと苦労したのは、やっぱり商流ですね。こういう化粧品や洗濯雑貨などは、問屋さんがコンビニやドラッグストア、百貨店など色々な販売店の棚を持っていて、その問屋さん経由でないと流通への展開はほぼ不可能という状態なんです。当社はそれまで問屋さんへの営業や、バイヤーとのやり取りはやったことがありませんでしたので、本当に苦労しながら少しずつ販路を広げていきました。

山口 それも女性だけでやっているんですよね。

安並 そうです。それも当社の1つの特徴としてプラスに働きました。というのも、扱っているのはスキンケアやヘアケアといった女性向け商品ですが、営業は男性が行っていることがほとんどなので、女性の営業は珍しいんです。そのおかげで、小さな新興ブランドですが、目立った存在になることができたと思います。現在は問屋さん経由でのドラッグストアなどへの流通の他に、アマゾンや楽天、ヤフーショップといったECサイトに加え、自社サイトでの販売も展開しています。最初はカンボジアの女性によるデザインについても、見た目の可愛さは目を引くものの、その背景にあるソーシャルな部分にまでは興味を持ってもらえなかったのですが、最近になってSDGsやサステナビリティが社会テーマになってくると同時に、そういったものが段々と着目されるようになってきました。

山口 最初に何を作るかではなく、ブランドのコンセプトが固まっていたことが良かったんですね。中小企業の小さな自社ブランドを知ってもらうための切り口として、SDGsやソーシャルといったものは重要なキーワードになっていると思います。

安並 そうですね。これに限った話ではなく、今は企業の社会性がすごく問われる時代に入ったことを感じています。

サステナビリティという“ベース”の上にビジネスがある

山口 井関産業さんは早くからSDGsの取り組みをされていますが、それもラ・コルベイユ事業を通じて始められたのですか?

安並 いえ、実は違うんです。ラ・コルベイユではカンボジアの女性の自立支援に携わらせていただいていて、実際にカンボジアへ行って、年に1回か2回開催されるデザインコンテストで当社がスポンサーとなって井関産業賞、ラ・コルベイユ賞を提供し、活用させてもらっていますが、SDGsとして社会性ある商品をというところまでは意識していませんでした。
私がSDGsに出会ったのは、ラ・コルベイユを初めてからずっと後の2016年で、ある経営者向けの研修で社会起業家についてのレポートを出すという宿題が出たんです。それで、SDGsについての講演や研修、視察ツアー、日本初フェアトレード認証の紙であるバナナペーパー事業などをされているワンプラネットカフェのエクベリ聡子さんという方にインタビューをしたのがきっかけです。最初は社会起業家としてのマインドや人生観といったものを聞きたくて会いに行ったのですが、インタビューしてみるとやたら「サステナビリティ」とか「SDGs」という言葉が出てくるわけです。その時は正直何を言っているのかわからなかったのですが、どこか引っかかるものがあって・・・。それで、エクベリ聡子さんのお勧めもあり、翌年に実際にスウェーデンに行ってSDGsについてレクチャーをしてもらったんです。

山口 そこで実際に行ったのがすごいですね!

安並 初めての北欧だから最初は旅行気分で行ったんですけどね、実際に行ってみると、目に入るもの全てがサステナビリティという切り口でのビジネスモデルや商品ばっかりなんです。こんな国があるのかとびっくりしましたね。バナナ1本取ってもフェアトレードやオーガニックのものしか売っていないんです。100%環境配慮された商品だけを扱うスーパーも存在するし、非常に厳しい基準が設けられている環境ラベルというものが商品についています。電車やバスの燃料をはじめ、5万人の町が再生可能エネルギーで動いているし、生活からビジネスにいたるまでサステナビリティがちゃんと浸透している。これは本当に驚きました。

山口 そこの感覚が日本と全然違いますね。日本ではずっとビジネスと社会貢献は別物というか、ビジネスはビジネスでやりつつ、その利益の一部を社会貢献活動で還元していますという考え方が多かったように思います。しかし、スウェーデンはサステナビリティというベースの上にビジネスがあるんですね。

安並 そうなんです。その違いを現地で強烈に感じました。

山口 最近は日本でも若い人達がモノを買うときや就職先を選ぶときにはそういった基準での見方や考え方が浸透してきているように思います。そう考えると、企業がいつまでもビジネス活動と社会貢献活動を分けて考えるという古い考え方をしているわけにはいきませんね。

早い段階からのSDGsの取り組みが差別化へつながる


安並 当社では、本社をSDGsの17の目標を意識したものリフォームしました。電気は再生可能エネルギーを使っていますし、例えば二重サッシにして内部の温度が一定になるようにしたり、木材もFSC認証という森林管理協議会による森林管理の規格を満たしたものを使用してリフォームしていますし、断熱材も化学繊維などではなく羊毛の断熱材を入れたりしています。

山口 すごいですね!


安並 商品開発で言うと、産業資材やセールスプロモーションにしても、ラ・コルベイユにしても、元々サステナビリティを意識して出来上がった業態なのかというとそうではありません。プラスチックの製品もありますし、お客様も石油化学に関する業界です。ラ・コルベイユも扱っているコスメや柔軟剤という商品自体が環境にいいのかというと、いろいろな問題が出てくるわけです。
ですので、今年に入って業界で初めて柔軟剤のボトルを再生ペットボトルに切り替えたり、パッケージに使う紙をフェアトレード紙に切り替えたりといった動きをしています。社内でも2017年から毎月私が講師となってSDGsの勉強会を続けていて、最初は「社長が何か変なことをやろうとしてる」といった程度で積極的に受け取る人はいませんでしたが、徐々に意識の中に積み上がっていって、今ではどの事業部においてもSDGsやサステナビリティが1つのテーマになっています。

山口 ビジネスとは別の活動ではなく、ビジネスのベースにあるべきものだからこそ、社長だけでなく全員が意識しないと変革は難しいですよね。時間をかけて社内共通の意識に育てられているのは凄いことだと思います。井関産業さんのサイト内にSDGsスクエアというページがありますが、これも情報発信としてやられているのですか?

安並 そうですね。最初はビジネスに繋げようという気はなくて、単純に当社のサイトに来てもらってSDGsを知ってもらうきっかけになればという意味合いが強かったです。大手企業の取り組みではなく、小さな取り組みをたくさん世の中に伝えたいという気持ちで、女性社員が1人ひとりインタビューして記事にしています。他にも千葉県の教育CSRの一環として、各企業がSDGsについて学校でレクチャーをする出前授業という取り組みがあるのですが、この6月から当社の社員たちが参加して学校で授業を行っています。
まだまだ胸張って言えるレベルではないのですが、こうした取り組みが今、徐々に当社の強みや差別化になっている事例も出てきました。特に大手流通は上場企業なのでESG投資の対象ですから、どこもSDGsについて何らかの取り組みを始めています。そうすると、新しい商品を考えるときに、私たちにもその切り口を求められるようになってきています。

今あるものだけにこだわらない!
〜変化への前向きな取り組みが企業の力になる〜


山口 最後に今後のビジョンや展開についてお教えください。

安並 ここ数年の取り組みで、産業資材部では単に資材や原材料などの販売・提供を越えて、お客様の経営並びに製造現場の問題解決、課題解決を提供するソリューション・ビジネスへシフトしていっています。まだ自信を持って形になっているとは言えませんが、そういうコンセプトの元で、機械や設備の方にも参入していますし、それこそお客様の製造現場での電力不足の解決や暑熱対策にも関わらせていただいています。現在3つの事業が柱になっていますが、私はその業態や業種にこだわる必要はないと思っています。そこから新しい枝葉が生まれ、その枝が大きく成長したら、また新たな柱にすればいい。ですので、今はもう1つ、あえて本業から離れた「飛び地戦略」も模索しています。あまり関係のないビジネスをやってみることで、今ある3つの柱へも今までとは異なる波及効果を狙えるのではないかと考えると楽しいですよね。

山口 確かに、時代の変化が加速している中、企業もまた自ら変わっていく意識はとても重要だと思います。

安並 今までの人材採用って、多くは「こういう仕事をしたいから、この業種の会社に入りたい」という構図ですよね。でも私は最近それが変わってきている気がしていて、もちろん企業が今何をしているかも大切ですが、それよりも「何か新しいことに取り組みたい」という人が増えてくれたらいいなと思っています。だからこそ私は今ある3つの事業にこだわる気はないんです。実際今の10代20代の人たちと私たちの世代との意識や価値観のズレは大きく感じていて、そういう若い人たちが伸び伸びと活躍できる場を企業は作っていかなければいけません。将来を担っていくのは間違いなく今の若い人たちなので、私たち50代60代の意識で頑なに何かを守る必要はなくて、むしろ柔軟性を持つことが繁栄や発展のキーになると感じています。

山口 安並さんのお話を聞いていると、変わっていくことへの前向きなイメージとエネルギーを感じます!本日はありがとうございました!

(2022.7.8記事を一部修正)


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