スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

「第48回 大宝運輸株式会社」

皆さん、こんにちは!スモールサン事務局の山口恵里です。
「山口恵里の“現場に行く!”」第48回は、大宝運輸株式会社の取締役営業推進本部長、そして「森と子ども未来会議」発起人の鈴木 建一氏にお話をお聞きしました!

この数年で耳にすることが日常になった「持続可能性」という言葉。コロナ禍が落ち着きつつある今、ここから更にSDGsを軸とした変化が進んでいくと思われます。
特に脱炭素(カーボンニュートラル)の動きは、機関投資家が投資先の基準にCO2排出量削減を求めるようになったことで、大企業にとってパフォーマンスで済ませることのできない死活問題になっています。大企業がCO2排出量を削減しようとするならば、それは原材料や製品、サービスの利用に至るサプライチェーン全体へも求められることになるのです。


今回お話をお聞きした大宝運輸さんでも、まさに大手取引先からCO2排出量削減の説明会がありました。「いよいよ来たと思った」と語る鈴木さんですが、実は既に再生可能エネルギー化の取り組みを進めていたのだそうです!
そして鈴木さんが挑戦しているもう一つの取り組み。過酷な環境にある学童保育所を地域の森の木材を使った板倉構法で建て替えるという「森と子ども未来会議」の活動では「脱炭素チャレンジカップ2021」を受賞!

鈴木さんがどのように再エネ化を進めてきたのか?そして、地域材や自然エネルギーを意識するようになったきっかけや、その活動を後押しする熱い想いなど詳しくお聞きしました!

皆さん、ご期待ください!


【会社概要】
会社名:大宝運輸株式会社
取締役:取締役    代表取締役会長 小笠原 和俊
代表取締役社長 小笠原 忍
取締役営業推進本部長 鈴木 建一
取締役管理推進本部長 大久保 知明
本社所在地:愛知県名古屋市中区金山5丁目3番17号
設立:1951年9月19日
業種:(1)一般貨物自動車運送事業
(2)貨物運送取扱事業
(3)倉庫業
(4)自動車整備業
(5)新、中古車両の売買並びに新、中古車両部品の売買
(6)損害保険代理業及び自動車損害賠償保障法に基づく保険代理業
(7)各種車両のリース業
(8)各種事務機器及び部品の販売
(9)産業廃棄物の運搬及び処理
(10)不動産の貸付及び管理並びにビル清掃業
(11)一般労働者派遣事業
(12)輸送用圧縮天然ガスの貯蔵及び販売
(13)自然エネルギーに関する発電事業及びその管理、運営、ならびに電気の供給、販売に関する事業
(14)前記各号に関連附帯する一切の事業
サイトURL  https://www.taiho-gh.com/

「森と子ども未来会議」Facebook
https://www.facebook.com/森と子ども未来会議-2405849289471352/

“いよいよ来た”取引先のカーボンニュートラル対策

山口 さて、愛知県で物流サービスを展開されている大宝運輸さんですが、取引先の大手企業からSDGsの取り組みについて説明会があったそうですね。

鈴木 はい。当社では扱っている商品の約3分の2が食品関係なのですが、その取引先であるサントリーさんが9月に全国の物流業者に向けて地球環境課題説明会を実施しました。そこで掲げられたのが、2030までにGHG(温室効果ガス)排出量を50%削減するというものでした。今年稼働した長野県の北アルプス信濃の森工場はRE100(再生可能エネルギー100%)だということで、サプライヤーである物流業者もGHG排出量を30%削減しようよ、という。

山口 そういったお話は以前から出ていたんですか?

鈴木 そういう議題としては初めてでした。ただ、サントリーさんが先進的な取り組みをやっていることは聞いていましたし、いつかは来るだろうと思っていたので、「いよいよ来たな」という感じでしたね。

山口 今年4月号の論考でもカーボン・ニュートラルについて取り上げましたが、まさに現実化してきていますね。

大企業がカーボン・ニュートラルを実現しようとすれば、部品などの仕入先である中小企業にもCO2排出量の測定や削減策を求めることになるし、その大企業の製品を用いる中小企業にも同様のことが求められるようになる。

先駆けて取り組んでいた再生可能エネルギー化

山口 中小企業にとっても他人事では済まない問題になっているカーボン・ニュートラルですが、まだまだ企業によって取り組み状況に大きな差があるように思います。

鈴木 そうですね。特定の工場でやるという話は理屈として可能だと思いますが、実際に物流で30%、50%削減しようというのはやはり至難の技です。

山口 その説明会に参加された他の企業の方も頭を悩ませているかもしれないですね。大宝運輸さんではどうだったんですか?

鈴木 実は、当社では以前から太陽光発電はやるべきだと考えていて、2012年にFIT制度が始まった時にはもう動き出していたんです。FITというのは再生可能エネルギーの固定価格買取制度で、一定期間の間あらかじめ定められた買取価格で電力を買ってもらえる仕組みです。当社では2013年から常温倉庫での太陽光発電をスタートしました。FIT全量売電で、20年間42円/kWh。8年で設備の償却が終わったので、残り12年間は全てプラスになります。

山口 制度が始まると同時に検討し行動に移されていたんですね。


鈴木 2019年には更にもう1棟の倉庫で太陽光発電を導入しました。こちらはFITではなく、冷凍冷蔵倉庫での自家消費型です。1棟目の時に比べて設備費用が半分以下になっていて、太陽光発電のコストパフォーマンスがどんどん上がっていることが分かります。計算すると1kWhを7円ほどで発電できちゃうんです。世界では今3円ほどなので日本はまだ遅れてはいますが、うまく使えば十分にメリットがあります。特に冷凍冷蔵倉庫は朝に日が昇ってから日中気温が上昇すると共に冷やすエネルギーもガンガン上昇するその時に発電してくれるわけです。

山口 なるほど、電力需要の負荷が重いタイミングと発電力の高いタイミングが合致しているんですね。

鈴木 夏場の重負荷時間などにも自家消費で賄うことができるので高値で電気を買わずに済みます。また、太陽光発電の導入と同じ頃に倉庫の中の照明をLEDに変えまして、これだけでも10年前の消費電力と比べて半分以下になりましたね。

山口 そんなに変わるんですね!

鈴木 激減しましたね。最新型のLEDですと昔の蛍光灯の3分の1になりますから。ただLEDに関しては物理的な限界にほぼ近くなってきているので、ここから更に半減といったことにはならないとは思います。これらの倉庫部門での対策で当社の全消費電力の20%強が再生可能エネルギー化できている計算になるので、サントリーさんの目標はほぼ達成できているなと。

山口 先を見て進めた再エネ化でちゃんと効果も上がっているのは勿論、これからは仕事を取っていくためにも必要になる活動ですね。

知り、学ぶことで中小企業の武器になる
〜太陽光は発電だけじゃない!〜

山口 最近ようやくカーボンニュートラルを意識し始めている中小企業も増えてきましたが、一方で「中小企業には関係ない」「再生可能エネルギーはコストが嵩むだけ」と思っている経営者さんもまだ多いと思います。

鈴木 私は、取引のあった運送会社さんが小さな冷蔵庫でやって成功したというのを聞いて、実際に見に行ったんです。ファクトに基づいて、長いスパンでものを考えると、この方向性で間違いないという確信があったので、規模を大きくして実践しました。やって正解だったと思っています。

山口 それまでの固定概念にとらわれず、今後何が必要なのかを考えて学ばなくてはいけませんね。

鈴木 太陽のエネルギーを利用できるのも電気だけじゃありません。太陽の熱を利用してお湯を沸かす太陽熱温水器というものも有効に活用できると思います。実は家庭で消費されるエネルギーの約50%は給湯とも言われるほど、お湯を沸かすエネルギーって大きいんです。でもお湯ってせいぜい100℃ですし、例えばお風呂なんかで使う場合は40℃くらいですよね。太陽熱温水器は、夏場なら60℃くらいまで上がるので、沸かすどころか水を足して使う。冬でもちゃんと南側に設置すれば30℃くらいまで上がるので、そこから10℃分のエネルギーだけで済むわけです。実は太陽熱温水器が世界で最初に普及したのは日本なんですよ。ところが、今では太陽光発電ばかりが注目され、熱利用はほとんど忘れられてしまいました。

山口 確かに電気給湯器に比べて、太陽熱温水器って今はあまり耳にしないですね。

鈴木 愛知県知立市にチリウヒーターさんという太陽熱温水器のパイオニアのメーカーがいて、当社でもパネルを運んで設置する仕事をしていたんですが、10年ほど前に「過去最大の受注を取った」と聞いたら相手は米軍基地だったということがありました。太陽熱温水器は機能として非常にシンプルなので、本当にエコだし故障もしにくいということで、今世界で爆発的に伸びているんです。世界と日本でこれだけギャップがあるのかと驚きました。日本では補助金などで太陽光発電ばかりが注目されていますが、そういったものにただ飛びつくのではなく、ちゃんと自分でも学んで上手く組み合わせながら適材適所で活用することが重要です。そうでないと視野が狭くなってしまう。声の大きさに惑わされず正しく活用することで、中小企業にとっては大きな武器になるものだと思います。

山口 まだこれからの分野だからこそ、今からでも学ぶことで強みにするチャンスでもあるんですね。

実家の建て替えをきっかに学んだ自然エネルギーや地元材の活用

山口 早くから再エネ化に取り組んでこられた鈴木さんですが、こういった環境の分野に興味を持たれたきっかけは何だったんですか?


鈴木 真面目に勉強しだしたのは10年前で、地盤沈下で実家を建て替えることになったのがきっかけです。製材・建築業を営んでいた祖父が建ててくれた家なので、それをただ壊すのは申し訳ないなと思い、私も同じように地元材を使って自然エネルギーを活かした家を建てようと勉強を始めました。その頃にチリウヒーターさんとも知り合って、基礎から勉強させてもらいました。
同時に木造建築についても学び始めた中で、愛知県岡崎市で地域の森林を活かし守る「額田木の駅プロジェクト」を立ち上げた唐澤晋平氏という若者と出会い、私もこの活動に個人として参画しました。これは私にとって運命的な出会いで、2015年からの3年間、土日には彼と一緒に林業をやっていました。

山口 えっ、本業の傍で実際に林業をされたんですか!?


鈴木 林業の知り合いができて、実際に自分でも体験して、林業が抱えている問題を体感して分かりました。「林業って今こんな世界なんだな」と。このプロジェクトでは、間伐や択伐によるスギヒノキの建築用材として使えないⅮ材を製紙用チップとして販売して地域通貨を発行して年間700〜800万円を流通させ発展しています。
そして、もう一つ運命的だったのが、「板倉構法」を推進する日本板倉建築協会の理事を務める建築家の東海林修氏との出会いです。板倉構法は、正倉院や伊勢神宮の宝物庫に見られる柱と柱の間に厚板を落とし込んで造る日本古来の木造建築技術で、日本原産のスギを使用することで堅牢で燃えにくく、冬は暖かく夏は涼しいという理想的な家の構法です。しかも、建てた家は解体して別の場所に移築することも可能です。そのため、東日本大震災での仮設住宅でも200戸が板倉構法で建設されていて、2016年から高台移転が始まったところ、住み心地が良いということで150戸は福島県内の各地にそのまま移築して使用されているんですよ。残りの50戸は2017年西日本豪雨災害で岡山県総社市に移築され、今年、そのまま住みたいという被災者の為に再び移築されました。

山口 それは凄いですね!

鈴木 きっかけは我が家の建て替えでしたが、そのための学びが会社のSDGsの取り組みにも繋がりましたし、現在私が取り組んでいる「森と子ども未来会議」という学童保育所の木造化の活動にも繋がりました。

プレハブで過酷な環境の学童保育所を板倉建築に!

山口 学童保育所の木造化、ですか?

鈴木 はい。これも本当に運命的な出会いでした。2017年に参加した物流業界の労使協議会の懇親会で「日頃は何やってるの?」という話になったので、「休日は木こりやってます」と経緯を話して、常に持ち歩いていた板倉構法のリーフレットをお見せしたんです。すると、新委員長の女性が目を輝かせて「これだ!」と。実は以前に物流業界の労働組合が学童保育系と合併して、新委員長は学童保育指導員をされていたんです。それで、「学童保育所を板倉で建てたい!」と。

山口 物流と学童…、思わぬところで繋がりましたね!とはいえ、なぜ学童で板倉建築を?

鈴木 名古屋の学童って多くはプレハブなんです。というのも、学童保育に3年以上の契約で土地を貸すと固定資産税が免除されるのですが、賃貸契約が終了したらすぐに原状復帰して退去できるよう、市から提供されるのがプレハブの建物なんです。他の地域では古民家やアパートを借りたり、児童館や公民館などの施設内にスペースが設けられていることが多いですが、名古屋ではこの方式が40年近く続いていて実に8割の施設がプレハブです。構造上、冬は寒いし、夏は耐え難い暑さで、しかも子ども達の声や雨音が不快な反響をするため子ども達や指導員さんの苦痛に加えて近隣住民からの苦情も絶えないといった課題が山積みになっている。

山口 なるほど、木造で移築可能な板倉構法なら課題が全部解決できるわけですね!

鈴木 そうなんです。それで2017年10月に私が発起人となり、唐澤さんや東海林さんをはじめ、学童保育連絡協議会、林業、木材業、建設業、大学やメディア関係者の方々と連携して、学童保育施設を木材の板倉構法で建て替える任意団体「森と子ども未来会議」を設立しました。2021年4月までに名古屋市昭和区の山里学童クラブ、緑区のあおぞら学童保育クラブ、昭和区の松栄第一・第二学童保育クラブなど4棟が完成し、現在他に愛知県で2棟が着工予定の他、沖縄県でも1棟が着工し九州から山形県など全国への展開も始まっています。



「あるべき保育の形」へ大きな反響
〜需要は増加し続けるも放置されてきた学童保育〜


山口 設立5年目で既に4棟が完成という速さからも、「何とかしないといけない」という問題意識が根底にあったことを感じますね。

鈴木 保育園の待機児童問題は大きな話題になりましたが、あれと同じことは学童でも起きているんですよ。共働きが増え、学童保育の登録児童数も待機児童数も右肩上がり。ところが、学童保育は長い間保育園のような厳格な法制化がされず、近年になってようやく基準となる法律ができてきたくらいなんです。その基準も、面積なら1人あたり1.65平米で、これは幼稚園の1人あたり3.3平米に対して半分です。幼稚園保育園と同じにしちゃうと今ある多くの学童保育所がアウトになってしまいますから。

山口 多くの人が問題を感じながらも放置されてきた学童保育だからこそ、木造化の活動への反響も大きかったんですね。

鈴木 もちろん実際に木造化するのは簡単なことではありません。市からの支援は従来のプレハブなので、学童の保護者会や運営委員会で資金を集めなくてはいけません。1棟目の山里学童は寄付だけでは足りず、県の住宅フェアで製作した板倉構法の展示物を譲り受けて新築部分に繋げました。木材以外の建材の一部も、趣旨に賛同してくれたアイリスオーヤマ様やカネカケンテック様、日本板硝子ビルディングプロダクツ様から無償や格安で提供をいただいています。あおぞら学童では一般社団法人を立ち上げて施主とし、寄付金の他にクラウドファンディングも活用しました。また、県産材の利用を促す愛知県の木の香る都市(まち)づくり事業に学童保育所として初めて採択され、補助金も受けています。あおぞら学童の木造化は資金調達のモデルケースになっていますね。

山口 やはり資金調達には苦労しますね。そうして完成した板倉建築の施設の評判はいかがですか?

鈴木 子ども達はもちろん保護者や学童関係者からも好評を得ています。やはり実際に触れてもらうことで魅力が伝わりますので、あおぞら学童では定期的に学童保育の木造化勉強会を実施していて、全国の関係者が見学に訪れています。新聞やテレビなどのメディアにも取り上げていただいていて、昨年は愛知県の大村知事も視察に来たんですよ。林業や保育の行政担当者や責任者、県知事や町長、国会、県会、市議会議員を含めて非常に多くの方々が木の香る暖かな木造学童保育所を実際に体感されました。結果として名古屋市では2021年度よりプレハブ保育室の内装木質化が新たに予算化。また学童保育所が別法人を設立し施主・大家となって建築した木造学童保育所に対しての家賃補助を大幅に増額。10年程度で建築できる可能性が高くなりました。

山口 それは凄いですね!需要は増加しているのに問題が放置されていた学童ですが、こうして「本来あるべき形」に触れられるようになったことは大きな一歩ですね。



山から町まで地域経済の中で循環させる
〜林業の再生、カーボンニュートラル、保育、etc〜


鈴木 子ども達にとっての環境面はもちろん、板倉構法での木造化は脱炭素の面でも優秀です。木造建築自体もともと炭素の貯蔵効果が高いのですが、板倉構法では通常の木造建築の約3倍の木材を使うため、貯蔵量も3倍と考えられます。また、解体して移設可能であることから部材の再利用率は90%以上で、木材を長く使うことで炭素貯蔵効果を長期化させることができます。建設過程でも、地域材を利用するため、木材の輸送距離が短いことでCO2排出を抑えられますし、地域で適切な森林管理がなされることで炭素固定効果の維持につながります。これによって、あおぞら学童は「脱炭素チャレンジカップ2021」を受賞しました。

山口 教育、保育、林業の再生、カーボンニュートラル、まさにSDGsの様々な面に対応した取り組みですね。


鈴木 学童を1棟建て替えるための費用の内、県外に流れる部分はほとんどなく、地元の還流率は80%を超えます。行政からの助成金もその地域内で循環するわけです。この活動が全国の地域に広がることで、地域経済にとっても大きなメリットがあると思います。また、先日は名古屋大学など地元6大学の建築、デザイン系の学部の教員と学生による都市の木質化を目指す「MOKKO」というグループと連携して、あおぞら学童の子ども達が考えた図書スペースを学生達と一緒に実際に造るという企画を行いました。木の駅プロジェクトを通して林家(りんか※)と子ども達の交流など、本格的な木育も始めています。(※林業事業体の中で1ヘクタール以上を所有する世帯 )

山口 各地域でこの取り組みが展開されるようになってほしいですね!本日はありがとうございました!


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