スモールサンニュース山口恵里の”現場に行く!”

第45回:特別レポート
「町工場の技術」で元気と勇気と笑いを届ける「くだらないものグランプリ」

冬の到来とともに新型コロナウイルスが猛威を振るっている。当初から予想されていたこととはいえ、一時落ち着き始めたように感じた矢先での第3波であり、重苦しい閉塞感が社会全体を覆うように漂っている。

しかし、去る2020年11月3日、中小企業の町工場からそんな社会の閉塞感を笑い飛ばすような一陣の風が吹いた。
愛知県名古屋市で、中小製造業が自社の持つ技術を駆使し、本気で製作した最高に“くだらないもの”で日本一を競い合うコンテスト、――その名も「くだらないものグランプリ」が開催されたのだ。


「くだらないものグランプリ」とは、モノづくりのプロが自社技術を駆使して「くだらなくて笑えてしまう一品」を本気で製作し「くだらないモノ日本一」を決めるコンテストです。

笑ってしまうくらいくだらないことに、自社技術をぶつけ合い本気で戦う町工場の姿で、日本に元気と勇気を届けたい。そして、少しでも多くの人に「町工場の技術」に興味を持ってもらうきっかけになったらと願い「くだらないものグランプリ」を開催いたします。
(「くだらないものグランプリ」告知サイトより)

主催者は、プチレポート第4回で「5社共同オンライン展示会&ものづくり対談」を取り上げた、町工場6社によるモノづくりの魅力を発信する団体「俺らFactory Man(ファクトリーマン)」。
この一風変わった企画の発端は、前回のオンライン展示会後に行われたZoomでの反省会でのこと。参加した社長たちの間で、こんなやり取りがなされたという。
――コロナの影響が続く中だが、もしコロナ禍が終息したとしても、今の“モノづくりの仕方”は変わらない。
――モノづくりは、本当はもっと面白いものだ。
そうした会話の中で、二人の社長が、自分が好き勝手に作った“くだらないもの”を楽しそうに自慢し合い始めたという。社長がこれだけ楽しそうにモノづくりをしている。これを大会にしたら面白いのではないか?
「日本はもともとモノづくりの国だったと思います。私たち町工場が今まで下支えをしてきました。その町工場から元気を届けて、モノづくりで皆に笑ってもらおうと思って『くだらないものグランプリ』を開催することに決めました。」同グランプリのまとめ役である「俺らFactory Man」代表、ダイワ化工(株) 大藪めぐみ氏はこう語る。


そんな想いに呼応し集結したのは、愛知、岐阜、大阪、富山の中小製造業、総勢20社。8月から参加企業各社で「くだらない一品」の選考が始まり、10月下旬からはオンラインでの事前投票が行われ、いよいよ11月3日(火)「くだらないものグランプリ」が開催された。

各社が腕を振った選りすぐりの「くだらないもの」は、どれも思わず笑ってしまうものでありながら、その奥に町工場のモノづくりへの熱意がのぞく。ここでその中から数社の「くだらないもの」をご紹介したい。



有限会社生川製作所
愛知県江南市でゼロ戦時代からの板金技術で設計・レーザー・溶接・完成までの多品種小ロットを得意とする板金加工業です。自社の板金技術を全力で真剣に作り上げた渾身のくだらない力作を見て「あほかこの会社」とニヤリと笑いながら投票してください!
(「くだらないものグランプリ」告知サイトより)

板金加工業を営む同社は、日ごろはもらった図面通りに製作する下請け仕事がメイン。しかし、このコロナ禍で長年培ってきた技術を発揮し、手を触れずに消毒液を出すことができる足踏式ボトルディスペンサー『ふみふみくん』を開発。名古屋、江南、一宮の市役所や老人ホーム、レストラン等で大活躍しているという。
そんな同社の「くだらないもの」は、チューブ型アイスを真ん中で綺麗に切る、その名も『スパスパくん』!チューブ型アイスをセットし、電源を入れてハンドルを回すと、見事に切断されたアイスが受け皿に落ちてくるという画期的なこの機械。なんと10本までアイスをセットできる他、ギアが組み込まれているためとても軽い力でアイスを寸断できるのだとか……。



株式会社エストロラボ
金属に、直径0.1㎜~3㎜の穴をあける細穴放電加工専門店「ほそあなや」です。【金属に】と言いましたが正確には【電気を通す素材に】穴をあける加工技術です。世の中に必要のないムダな穴加工に初挑戦します!
(「くだらないものグランプリ」告知サイトより)

細穴屋(ほそあなや)という屋号の通り、放電加工という技術で金属に細い穴をあける同社の「くだらないもの」は、その名も『シャー芯 in シャー芯』! 直径0.7mmのシャーペンの芯に、タテに0.35mmの穴を開け、その中に0.3mmの芯を入れるというもの。購入した0.3mmの芯を計測したところ何と0.38mmだったため、この芯を削る作業もしたのだとか……。
そして、肝心のシャーペンの芯を入れる作業は、なんとプレゼン中にリアルタイムで行われた。全員が固唾をのんで見守る中、見事成功!『シャー芯 in シャー芯』はシャーペンに投入され、白い紙に震える線で「くだらない?」という文字が書き残された。

この他にも、大正5年創業の鬼瓦の窯元が作る重さ3kgの鬼瓦ヘルメット(顎ひも付き)や、某ス〇番風の破壊力抜群な鋼のヨーヨーなど、どれも素晴らしく「くだらない」逸品たちが続々と発表されていく。
そして全社のプレゼンが終わり、投票の集計中には参加者たちによるモノづくりトークも繰り広げられた。「普段は真面目な会社なので『くだらないものグランプリ』の話を社内ですべきかどうか物凄く悩んだが、ギリギリになって会議で言ったら盛り上がって色んな意見が飛び出した。」「下請けの町工場なので、もらった仕事は完璧にできるけど自分から作ることは苦手という社風だったが、『くだらないものグランプリ』をやってる間に意見が飛び交うようなり、『できない』という言葉がでなくなった。」など、制作秘話や企画を通した社内の変化なども語られ、こちらも非常に興味深い内容になっている。

こうして笑いと元気に溢れた「くだらないものグランプリ」。その栄えある第1回のグランプリは、株式会社鶴ケ崎鉄工が獲得した。



ものづくりをサポートするものづくり旋盤から黒染めまでワンストップで提供します!日本初 木造建築の製造工場、日本一の旋盤屋を目指します!当社の技術を思いっきりムダ使い!!
(「くだらないものグランプリ」告知サイトより)

旋盤という機械で金属の切削加工をする同社は、金属加工の過程で出る切り屑をふんだんに使用して100分の1スケールの精巧なミニチュア社屋を製作。本棚と小さな本やテーブル等の家具、社内だけなく屋外にある畑や犬、そして旋盤機械もミニチュアで再現している。
代表取締役の鶴ヶ崎 兼也氏へ、大藪氏より表彰状とトロフィー(頭に被れるトイレの便器型トロフィー(しかも光る!))が贈られた。鶴ヶ崎氏は、「中小企業の仲間たちと一緒に、日本の町工場のモノづくりを盛り上げることできて、そこに参加できたことが嬉しいです。今はコロナ禍で嫌なことも沢山ありますが、こういうことで皆さんがワクワクするようなモノづくりが再開することを待ちながら、もっともっと皆が楽しめるモノづくりをしていきたいと思います。」と喜びを語った。

以上、盛会のうちに終わった「くだらないものグランプリ」。開催前から話題となり様々なメディアで取り上げられ、開催後には大会の模様がテレビのニュース番組でも取り上げられた。動画の再生回数は現在で2300回を超え、多くの人がこの大会を見たようだ。
今回の参加企業には「くだらないもの」的賞号と盾が各社に授与されたのだが、あるBtoCの展示会で作品と盾をブースの片隅に置いたところ、展示会の参加者から「これ知ってる!」「本物が見れた!」といった声を掛けられたという。その他にも取引先の人に出場を知らせたところ一生懸命周囲に広めてくれたり、取引銀行から声を掛けられたりと、日頃から仕事での繋がりがあるか否かに関わらず各社に様々な反応があったようだ。

人々のネット感応度が高まっている一方、ネット上にはこれまで以上に大量の情報が溢れ、その中で人目につくことは中小企業にとって簡単なことではない。しかし、厳しい現実の中でも「モノづくりの本当の面白さ」を信じる経営者たちが、繋がりあって発信したからこそ、こうして多くの人の目にとまったのだろう。
厳しい環境下において、自身の足元だけでなく業界全体や社会全体へ目を向けるのは実際には難しいことだ。そういった試みが直接受注に繋がるというわけでもない。しかし、社会全体が暗さに飲みこまれそうな時だからこそ、こうした「明るさ」に多くの人の目が向けられる。これもまた、中小企業の「つながる力」に他ならない。

なお、先日「俺らFactory Man(ファクトリーマン)」の面々で反省会がなされ、そこで早くも第2回の構想が練られ始めているそうだ。続報を楽しみに待ちたい。
「くだらないものグランプリ」第1回は下記YouTubeで現在も視聴可能なのでぜひご視聴いただきたい。



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