スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

第7回 株式会社中村タイル商会


福岡県福岡市にて、タイル工事の施工管理、タイルの卸売りを手掛ける株式会社中村タイル商会。
去る2019年9月13日のスモールサン全国研修会では、”独自社員教育”をテーマに自社での挑戦についてご発表いただきました。
その社員の採用から育成方針、今後の会社のビジョンについて伺います。

社名:株式会社中村タイル商会
代表者名:代表取締役社長 中村正昭
所在地:福岡県福岡市早良区有田7丁目24番6号
設立:1912年年4月
業務内容:国産・輸入タイルの販売並びに施工、れんが・石工事施工
WEB:https://www.ns-tile.com/


不景気を発端とした工事単価の下落 〜職人高齢化の発端〜


大澤    本日はお時間をいただきありがとうございます。また、全国研修会での発表、大変お疲れさまでした。当日の発表でも伺いましたが、職人の高齢化が進む中、御社では若手社員の採用や人材育成に非常に力を入れられていますよね。これは以前からそうなのですか?

中村    今でこそ採用や育成に力を入れていますが、会社を継いだ当初は思ってもいなかったですね。私が会社を継いだのは2000年頃で、当時は今と比べて環境も全然違いましたので。

大澤    そうなんですね。アワードで仰っていた職人の高齢化については、当時は問題視されていなかったのですか?

中村    全く問題視していませんでした。当時はバブル崩壊後、銀行の不良債権処理を契機とした不況に陥っておりまして、毎年工事単価が下がり続けていました。厳しい時ですと7~8%も下がっていましたね。受注単価が下がることで、元請企業も相見積もりを取ったりして単価の下落に拍車が掛かり、業界全体が疲弊していった時期でした。

大澤    デフレに陥ったんですね。そこまで受注単価が下がると、職人さんたちも事業を継続する事って難しいんじゃないですか?

中村    単価が下がり始めても、親方と弟子の2人で運営しているような小規模な事業者は、本当にギリギリの単価で受注していました。当社もお付き合いのあった職人さんに「単価は低いですが、何とかお願いします」とお願いしながら仕事を請け負っていただいていましたが、その中には廃業したり転職される方もいらっしゃいましたね。

「職人が『いなくなる存在』だとは思わなかった」
 ~単価の下落、若年層の減少~

大澤    その頃はまだ職人さんは若い方も多かったんですか?

中村    そうですね。単純に今から約20年前の話ですので、職人の年齢も全体的に若かったため、当時はそういった状況でも「他の職人に発注するしかないか」と考えていました。その頃は、職人さんが「いなくなる存在」だとは考えていなかったんです。

大澤   不況によるデフレで厳しい状況ではあっても、それが後々にまで影響するとは思っていなかったと。

中村    ところが、受注単価が下がったことによって、今度は職人を志望する若年層が減り始めたんです。従来、私たちの業界では、職人の郷土の知人から紹介されて若手が弟子入りするという繋がりがありました。親方の出身地や仕事が少ない地方から、「仕事をさせて欲しい」と親方を頼って若年層が集まってきていたんです。しかし、単価が下がって実入りが少なくなることで、職人側にも弟子を育てる余裕が無くなるし、若手にしても稼げないなら行きたくないとなりますよね。建築の仕事は体力的にもキツいし大変ですが「稼ぎが良い」というのが魅力でしたから、単価が下がることでその魅力が無くなってしまう。

大澤    職人になるよりも他の仕事の方がいいんじゃないかと。

中村    その頃から若者の就職先も多様化してきましたので、派遣やアルバイトなど若い人が働ける環境も増えていって、わざわざキツくて給料も高くない仕事を選ばなくなったんです。そうして、時間が経つにつれて地方との繋がりも無くなっていき、本格的に弟子を取れなくなっていきました。

「会社を続ける気が無いから若手を採用しないのか」
 〜背中を押した職人の一言~

大澤   業界全体が厳しい環境にある中で、若手の採用や人材育成に力を入れようと思ったのはいつ頃だったのですか?

中村    2010年頃ですね。当時、お付き合いのある職人さん達は50歳前後だったのですが、その時にふと考えたんです。このまま若手の弟子を取れずにいると、2020年になる頃には皆等しく60歳になる。中には体調を悪くされる方もいらっしゃるでしょうから、仕事を続けられなくなる方もいるはず。当社の売上は、基本的に外注できる職人の数で決まるんですよ。職人一人当たりの請け負える仕事量はおおよそ決まっていますので、その人数に伴って売上の上限も決まるわけです。このまま職人が高齢化して減っていけば、必然的に当社の売上も減っていく。「ああ、これは本当にヤバい」と……。

大澤    「職人の高齢化」問題に気がつかれたのですね。

中村   また、高齢化しているのは職人だけではありませんでした。同じように、当社においても社員の高齢化が進んでいたんです。ある年の忘年会の席で、職人から厳しい言葉を言われました。「社長は会社を続ける気が無いんじゃないか? 若い人も採用しないし。」と。

大澤    グサッときますね……。

中村    めちゃくちゃ落ち込みましたね。もちろん私にそんなつもりはありませんでした。自分が続けていればいいだろうと思っていたのですが、それはやはり傲慢で、若い社員を入れないということは会社をあと何年かでやめるつもりなんだろうと傍目に映っても仕方ないんですよね。本気で何とかしないといけないと思った瞬間でした。

「職人は職人にしか育てられない」という思いこみ

大澤    そこから若手職人の育成に取り組み始めたんですか?

中村    当時はリーマンショックの影響もあり、すぐに採用活動を始めることは出来なかったんですが、少し回復の兆しが見え始めた頃に20代半ばの中途社員を採用しました。

大澤    それは職人としての採用ですか?

中村    いえ、当時は「職人は職人にしか育てられない」と考えていましたので、技能を持つ社員のいない当社で職人を育てるのは無理だろうと思っていました。ですので、施工管理や卸売事業に携わってもらう目的での採用です。まずは会社を続けていく姿勢を示す必要があると考えていましたので。一方で、付き合いのある職人さんに若い弟子の採用を勧めて育成助成金を出したりもしたのですが、効果が限定的で「じゃあ、うちも採用しよう」という風には拡がっていかず頭を悩ませていました。

大澤   そこから自社で職人を育成しようと思われたきっかけは、何だったのですか?

中村    当時、私が所属しているタイル組合でも職人の高齢化が問題になっていて、若手職人育成の研究会を開いていました。その活動の一環で愛知県にあるタイル工事会社の見学があり、私も声を掛けていただいて参加したんです。その会社では20年以上も継続して新卒を採用していて、職人が月給制で働いていました。そういう会社を見て、そこで働いている人から話を聞けたことで、職人がいなくても自社で育てることはできるんじゃないかと考えるようになりました。

学びと気づきを即実践へ~モデリング、メンター制~


大澤    とはいえ、実際に育てようとすると相当難しいですよね。

中村    そうですね。本格的な技術は職人に若手を預けて指導してもらわないといけません。ところが、そこが非常に難しいところで、採用した若手をただ職人に預けるだけではダメなんです。というのも、簡単なことを教えるのって一番厄介じゃないですか。「あれ取って」と言った時に、「あれってなんですか?」という状態では困るでしょう。職人さんからすれば、そんな基礎中の基礎から一つひとつ教えていては負担が大きすぎるんです。

大澤   職人の方も、教えるだけならまだしも、自分の仕事も進めなくてはいけないですもんね。

中村    そんなときに、平均年齢60歳という左官職人の業界にも関わらず若者と女性が職人の過半数を占めているという原田左官工業所さんのお話をスモールサンで聞いたんです。それですぐに連絡を取って東京へ行き、原田さんから人材育成のノウハウを教わりました。名人のビデオを見て真似をする「モデリング」や、担当を決めて先輩が後輩の面倒をみる「メンター制」など、すぐに当社でも採用しました。

大澤    学びから実践へ移す行動力が素晴らしいですね!

中村    同時に採用後からすぐに専門学校へ行かせて、基礎の部分を学ばせてから職人さんに預けることで、荷物運びや基礎作業を任せられるので職人さんの負担も減らすことができますし、若手自身も効率よく技術を学ぶことができます。それで実際に付き合いのある職人さんに相談したところ、「それなら引き受けても良いよ」と言ってくれる人が何名かいました。

大澤    職人さんというと自分の技術を教えるのを嫌がる方もいそうなイメージですが、その辺はいかがですか?

中村    もちろんそういう方もいます。でも、50代後半とかになると、逆に自分がやってきたことを若い世代に伝えたいという人が出てきます。今主に若手を預かってもらっている職人さんもそうで、技術的にも人間的にもとても良い方です。

(原田左官工業所の人材育成の取り組みについては2015年3月号の対談でお読みいただけます。)

育てたいのは「職人」ではなく「社員としての技術者」


中村    とはいえ、私は決して「若手の職人」を育てたい訳ではないんですよ。

大澤    それはどういうことですか?

中村    職人さんのもとで技術を学んでもらうだけではなく、一人の社会人としてきちんと社会のことを勉強してもらうことも重要です。だから、彼らのことはあくまでも「社員」だと思っていて、「職人」とは分けて考えています。技術者としての仕事もするけれど、社員として外部の方ともきちんと接することができるように、例えば会社の店舗のことなんかもできるようになってほしい。そういった意味で、「技能を持つ社員」として育って欲しいと思っています。

大澤    なるほど。そういった面での育成で工夫されていることはありますか?

中村    そういったところは社員教育として外部の講師を招いたりしています。先日もゼミFUKUOKAを担当しているキャリア構築プロデューサーの権堂さんに来ていただいて、キャリア教育についてお話しいただきました。少しずつですが社員研修を進めて、今はようやく当社なりの教育の仕方というのが形になってきたかなと思っています。タイルの世界には「1級タイル張り技能士」という国家資格があり、取得するまでに掛かると言われている4年から5年が、見習い期間が終わって一人前と認められるまでの目安になっています。今年の4月に採用した子の基礎が整う頃には、今職人さんに預けている子たちがある程度一人前になると思いますので、そうなればいよいよ社内で先輩が後輩を指導するという環境ができますね。

大澤   着実に一歩一歩進まれているところがすごいですね!

採用はリアルな接点を一つでも多くつくることから

大澤    ところで、育成に力を入れ始めてから継続して若手を採用できているのがすごいと思うのですが、何か工夫されていることはありますか?

中村    いや、たまたまです(笑)。最初は2年連続で採用できましたが、その次の2年間は採用できませんでした。今年4月に新卒が1名入社したのですが、採用を諦めていた2月になって、たまたま大学の就職課から「中村さんの会社はまだ採用やってますか?」とお声がけいただいたんです。

大澤    大学から声がかかるような関係を普段からつくられていたんですね。

中村    確かに、それはありますね。求人サイトにも掲載していますが、いろいろな場所に出て行き、求職者とのリアルな接点を多く持つことを心がけています。具体的には、中小企業家同友会の共同求人会や、商工会議所の合同説明会、大学の学内説明会等に参加しています。最初に採用できたのは共同求人委員会で、今ではその大学との窓口を担当していまして、今年採用したのはその大学からの紹介です。

大澤    積極的に活動された結果ですね!

中村    初めは学内説明会に出展しても、なかなか上手くいきませんでした。ブースで説明するのは私だけで、立ち寄ってくれる学生も少ないものでした。ですが、その大学から採用した女の子が仕事を覚えてくれたおかげで、今では学生との対応は殆ど彼女に任せています。以前に比べて、立ち寄ってくれる学生が増えた気がしていますね。

大澤    大学の先輩が活躍していることが見えると安心しますよね。若い人を採用している会社だと分かるだけでも印象が良くなります。

相互理解を重視した採用活動・人材育成


大澤    若手の採用と育成を始めてから、すごく順調に進めてこられていますね。

中村    いえいえ、色んな方に協力していただいたお陰ですし、上手くいかなかった事もたくさんあります。初めに採用した新卒は2年で離職してしまいましたので、そこで感じた問題を1つずつ改善しながら進めています。

大澤    上手くいかなかった原因はどのようなものだったとお考えですか?

中村    難しかったのは大きく2点ですね。1つ目は、最初のマッチング。採用の段階で仕事の説明が不足していたために、入ってみたけど「思っていたのとちょっと違う」というのが生じてしまったのだと思います。そしてもう一つは、新入社員を教育すること自体の経験が不足していたために、教え方が場当たり的になってしまったことです。

大澤    といいますと?

中村    「これぐらいの事は分かるだろう」と思って説明を省略したことが、彼らからすれば分からないことで、結果的にトラブルに繋がってしまうということがありました。何か起きてから教えるのでは、「そんなの知らないし、もっと早く教えてほしかった」となりますよね。また、私が発した言葉を意図した意味とは違った内容で受け止められてしまったりと、ボタンの掛け違いが結果として離職に繋がってしまったのだと思います。

大澤    コミュニケーションの難しさというのはありますよね。

中村    「こんなことまで?」と思うようなことでも、ちゃんと教えておかないといけないんですよね。教えずにトラブルが発生したら、それは「教える側の責任」なんです。だから、彼らが「ああして欲しかった」「こうして欲しかった」と言うことを、次の子たちには前もってやるようにして、2年目の子たちからは上手くいくようになってきましたね。まだまだ改善するところは沢山ありますが、着実に進めて行くことが大切だと考えています。

大澤    採用も育成も一つずつ改善しながら道筋を立ててこられたんですね。

「タイルで街に彩りを与える」会社に!

大澤    それでは、最後に今後のビジョンについて教えていただけますか。

中村    アワードの際にも少しお話しましたが、「タイルで街に彩りを与える」会社になっていきたいと考えています。今はデザインされたタイルを張るだけですが、ゆくゆくはタイルのデザイン提案から施工までできるようになっていきたいですね。

大澤   若手社員には、どのような事を期待されていますか?

中村    採用活動を通じて分かったことですが、芸術学部には陶芸に興味を持っている学生もデザインが好きな学生もいます。先ずは若手社員の技能を向上させ、独り立ちさせる事が目の前の目標ですが、将来的にはデザインに関する教育制度も整えながら進めて行きたいですね。言われた指示をこなすだけではなく、彼らが自分の考えを反映させられるような仕事をさせてあげたいです。場合によっては、自社でタイルを焼いてもいい(笑)。実際にオリジナルタイルの製造に挑戦されている会社もありますからね。そのため、今は芸術学部内での合同説明会に参加するようにしています。そうして、いずれはタイルのデザインを中心とした建物ができるようになればいいなと思っています。

大澤    タイルのデザインを中心とした建物ですか。それが街を彩っていたら素敵ですね!本日はありがとうございました!



この記事は公開記事です。会員登録いただくことですべての記事をご覧いただけます。

入会案内

ページの先頭へ