スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

第8回 株式会社タハラ
~木製加工会社から国内唯一の階段専門メーカーへの歩み~


広島県廿日市市にて「階段からはじめるストーリー」をテーマに階段専門メーカーとして、インテリア建材(階段材、手すり、など)の製造や販売を手掛ける株式会社タハラ。
株式会社タハラ 代表 田原真一郎氏に階段専門メーカーとして歩み始めたきっかけや、日本一階段が多く載っている“階段専用”のカタログ、階段フォトコンテストで顧客のデータを収集など、様々な取り組みについて伺います。

【会社概要】
社名:株式会社タハラ
代表者名:田原 真一郎
所在地:広島県廿日市市木材港北15―1
設立:1985年
業務内容:住宅用に、主に階段材を中心にした建材の製造から販売、施工までを行っている。その他にも、カウンターや框なども取り扱う。収納階段「美蔵」や螺旋階段「ROSE STEP」などの商品を揃え、需要に応じて施行する点が特徴。
WEB:http://www.wood-tahara.co.jp

広島県の“階段専門”メーカーの成り立ち
 〜木質系インテリアメーカーが階段専門を標榜するまで〜



大澤 まずは事業内容からお教えいただけますか?

田原 住宅の階段部材を中心としたインテリア住宅建材の製造・販売をしておりまして、特に階段を専門にしています。これだけ階段に特化した会社は日本でも珍しいと思います。

大澤 “階段専門“メーカーですか。確かに珍しいですね。

田原 元々は、現会長が1985年に創業した会社で、創業時は木材全般というか、木質系の内装材を扱う会社としてスタートしました。創業時は製造機能も持っていませんでしたので、顧客から特殊な材料の注文を受けた際には、近隣の加工屋さんとか知っている仕入れ先から仕入れられるものを仕入れて販売するという卸売がスタートになっていますね。

大澤 元々は販売業として創業されて、企業の成長と共に卸売の機能や製造部門を持たれたんですね。

田原 卸業をはじめてから仕事の内容に応じて必要なものは内製化していこうと、徐々に製造を始めていったということで、当初は卸の商売が圧倒的に多かったと聞いています。広島県廿日市は木材木工が盛んな地域だったので、地域内に加工をしてもらえるところや、材料を提供していただけるところが多くあり、そういった意味で非常に都合のいいエリアであったというのはありますね。

大澤 創業されてから、これまでもまさに”発展”の連続ですね。


(“発展”について、山口義行が下記の記事で執筆しています)
新春論考 2014年1月号「“思考”を鍛える!~「発展」という言葉にこだわってみる~」

階段に集中した背景1 大型案件の減少により住宅向けに転換

大澤 インテリア住宅建材の中で、階段に焦点をあてたきっかけはなんでしょうか?

田原 まず大きかったのは、バブル崩壊や消費税5%引き上げ以降の緊縮財政により、売上の大部分を占めていた「公共物件」や「大型物件」が減少したことです。大型の商業施設、美術館、公共の学校などの建物というのは、デザインのパターンが決まった量産品ではなく特殊な形状になることが多く、我々のような別注品を制作する会社がそれぞれに合わせた設計や製造をする必要があります。以前は、こうした大型の案件が多かったのですが、1件あたりの売上が大きいので、どうしても季節的な変動が激しくなっていました。たとえば、学校向けの材料ですと夏休みや冬休みに集中して工事をすることになるので、それまでに建材が必要になります。そうすると、その時期に合わせて一時的に稼働率が高くなり、逆にそれ以外の時期は仕事があまりないという状況が発生してしまいます。なにより売上の変動が大きくて、雇用も含めて経営的にはなかなか難しい舵取りをしなくてはなりませんでした。

大澤 季節変動の要因が多いと固定費をどう考えるか難しいですよね。

田原 大型案件が減ったときに、あおりを大きく受けてしまうので、なんとかしたいという思いがありました。そこで目を向けたのが「一般住宅向けの商品」です。それ以前にも一般住宅向けの提供はしていたのですが、そちらは年間何棟というある程度の予測もあって、大きな変動がなかったんです。もちろん一般住宅向けにも特殊なものが要求されるケースはありますので、そういう注文を集めて積み重ねていけば取引先を増やすことができます。「大型案件」1つでドカンと大きな売上をとるよりも、「一般住宅向けの商品」の方に軸足を置いていく方が経営はより安定してくるという風に考えました。

大澤 取引先が増えると、分散しますもんね。

田原 そうなんです。ただ、そうして「一般住宅向けの商品」に軸足を移しはじめた当初は、特殊な注文であっても“何でも屋”みたいに受注を受けていました。営業は工務店さんのところに行って「何でもできますので、何かあったら言ってください」とお願いしていて、こちらから「これをやりたいです」「これはどうですか」という提案はできていませんでした。あくまでも受け身で、工務店から見積の依頼があれば納品する確率が上がるという感じで、会社を知ってもらうため営業に行っても何も話すことなく帰ってくるということもありましたが、その当時はそれを問題だとも思っていませんでした。

大澤 大型案件から一般住宅に軸足を移しつつも、まだこの頃は階段専門ではなかったんですね。

階段に集中した背景2 海外生産品との競争を避けて“階段”に特化

大澤 そこから更に階段専門へと軸足を移したのはどういったきっかけだったんですか?

田原 当初はまだそれなりに国内で一般住宅向けの需要があったということで舵をきりましたが、段々と海外で商品を作るというのが品質的にも納期的にも間に合うようになってきたんです。特にマンションのカウンター類など、それまで国内で作っていたのが、中国で安く大量に作ったものを国内へ持ってくるようになり、徐々に相場が崩れていきました。それはマンションの相場だけではなく、一般の住宅にまで波及していきました。

大澤 海外からの輸入品の影響で価格競争が激化したんですね。

田原 特に大手企業が建てるビルや、全国区でフランチャイズされているような業者は、どこも規格化して海外で安く大量に作るという流れになり、相場が大きく崩れていきました。当時は色々な商材扱っていましたが、その中で海外生産されたものや大手メーカーと競合するものがかなり増えていったんです。このまま、安い大量生産品と競合するのは経営体力的に非常に難しいし、何よりこの価格の下がりようからすると、弊社にとっては商売として成り立たなくなってしまう。それで、その頃に「自分たちは何に特化するべきか」ということを社内で話し合ったことがありました。

大澤 どんなお話になったんですか。

田原 弊社の「外部環境」や「強み」を社員と出し合って、比較的他社が苦労している「“階段”に絞ろう」という話になったんです。

タハラだから階段専門にできた理由



大澤 なぜ他社は階段に苦労されるのですか?

田原 当たり前の話なのですが、住宅はそれぞれ天井の高さや階段をつくる場所の幅などの違いによって、階段に求められる条件が意外と異なります。たとえば階段の最後の1段だけ5ミリ違ったりすると、つまずきやすくなって危ないですし、階段の色と壁や床、ドアなどの色を合わせる必要があったり、個別対応が必要な項目が色々とあります。それを建築現場で大工さんが微妙な調整をするのですが、その調整が上手くいかないリスクもありますし、そもそも建築現場での手間が増えてしまいます。大手メーカーの場合、他にも売る物がたくさんある中で、階段だけ個別の住宅に合わせて対応するのが難しいので、すでに在庫を持っている階段じゃないと販売するのが難しいんだと思います。

大澤 御社はどのように個別対応を実現されたのですか?

田原 弊社は、もともと量産品ではなく特殊な注文を受けるスタンスがありますので、個別の階段を製造することはもちろん、事前に工務店や大工さんと打ち合わせすることも当たり前だったんです。言ってみれば、既にあった仕組みなので、もともと手はかけないといけないという状況です。そうして培った経験を活かして弊社から大工さんへ「ここはこういう納めの方がいいですよ」といった提案ができるというのも、単純な階段を製作して納めるメーカーとの差別化になります。また、大量生産品のメーカーと同様の納期を実現するために、元々1ヶ月かかるところを半分にまで短縮しました。

大澤 個別対応なのに納期は大量生産品とほぼ変わらないというのはすごいですね。

田原 協力いただける工場さんのおかげというのは勿論ですが、元々の別注品を製造していた工程と似たような工程で製造しています。他の企業の場合は売れるか売れないか分からない特別な在庫を持つよりも、規格化して大量に生産することで低価格を強みにしていますが、弊社はそういった大量生産品では対応できない商品を提供したいと思っています。

大澤 市場の細かいニーズに対応されていますね。


「商品企画室立ち上げ」と「階段フォトコンテスト」
 〜自動的に階段の写真データが集まる仕組み〜


大澤 これまで別注品で様々な階段を製造されると伺ってきましたが、実際に貴社の階段が載っているカタログを拝見すると200ページ以上とかなりの分厚さですね!

田原 多くのメーカーでは、弊社と同じように分厚いカタログでも、その中で階段に割いているページはほとんどないんですよ。うちは全て階段のページです(笑)ここまで階段に絞って充実したカタログは日本で他にありません。階段とはどんなものなのか、お客様がイメージしやすいようにと思って作りました。また、商品企画室を立ち上げて新商品の開発をするとともに、「階段フォトコンテスト」というものをはじめました。

大澤 「階段フォトコンテスト」ってどんなことをされるんですか?

田原 階段をご購入いただいた方に、その階段を撮影してご応募いただくというもので、このフォトコンテストを通して「階段のタハラ」というブランドを知っていただきたいというのが始めたきっかけです。また、もう一つ大きな効果がありまして、フォトコンテストにご応募いただくことで、階段の写真データが自動的に集まってくるんです。と言いますのも、階段を納品するのは当然その住宅が完成する前ですよね。私たちが納品する時にはまだ階段の周りには何も仕上がっていない状態なので、数か月経って住宅が完成した時に実際にどんな形で仕上がっているのか私たちには知る方法がないんです。完成後に撮影させてもらうという方法もありますが、それはそれでまた手間がかかってしまいますので。

大澤 なるほど、フォトコンテストを通じて写真データを集めるという発想は面白いですね!

田原 この仕組みができたおかげで、階段に関する写真データがものすごく増えてきています。はじめてから今年で7年になりますので、フォトコンテストで集まった写真データだけでもお客様に参考材料にしてもらえるものがたくさんできています。



大澤 でも、よくそんなにデータが集まりますね。

田原 フォトコンテストの最優秀賞は「ハワイ旅行ペア券」です(笑)

大澤 それは魅力的ですね!

田原 そのぐらいインパクトがないと誰も食い付いてくれないというのもあってハワイ旅行にしたのですが、最近ではこのフォトコンテストの賞を目指して、工務店さん自らが階段をアレンジされるようになったんですよ。その結果、受賞を逃したとしても、アレンジした階段の方が先に売れていくという結果も出始めています。工務店さんからも、階段を一部改良したり、「魅せる階段」にすることによって、住宅の販売に良い影響がでているという声をいただいています。今は、フォトコンテストをきっかけに階段をアレンジする、より良い階段がフォトコンテストで認知される、そういった階段をきっかけに住宅が売れるという循環に繋げていきたいと思っています。


階段を選んでもらって、一緒に住宅を創る

大澤 今回の取材を通して、田原さんの階段へこだわりが伝わってきました。

田原 そもそも、これまでは階段が脇役すぎたと思っています。昔は住宅の中で「できるだけ邪魔にならないところに階段を置こう」という発想で設計されていた事が多かったんです。しかし、最近になって少しずつ「リビング階段」というものが作られるようになってきました。というのも、いわゆる高気密、高断熱といったように住宅そのものの性能が上がってきて、吹き抜けを作ってもちゃんと空気が循環するなどうまく設計されていて、昔に比べて水道光熱費がかからなくなってきているんですよ。

大澤 階段がどう見えるかで、その空間に対しての印象って全く違いますからね。

田原 住宅に求められる新しいニーズというものがどんどん出てきて、階段がリビングなど人の目につくところに出てきました。そうなったら、階段そのものもインテリアの一部として捉えて、最初から設計の中に入れていくという発想を持った方がいい。住宅を一緒につくっていくアイテムとして、階段をうまく活用していただきたいと思っています。

大澤
 この階段が欲しいとか、この階段があるライフスタイルをイメージして購入できたら良いですね。

田原 そうなんです。我々は弊社1社だけが伸びれば良いと思っているわけではありません。住宅の中で階段そのものの地位を上げて、「階段って価値があるものだ」と市場に認められるようになりたいんです。基本的には特許とかそういうものは申請もしませんし、ある程度のデータとかそういったものも公開しています。階段の地位があがって、限られた住宅建築の予算の中から、階段に向けられる予算を増やしていただければ、お客様にとってもっと喜んでいただけると思っています。

「階段といえばタハラ」といわれる会社を目指す

大澤 今後の方針について教えてください。

田原 西日本を中心に営業しておりますが、まだまだ認知度が低い状態ですので、今は「階段専門メーカーTAHARA」を知ってもらう活動に力を入れています。もっと知っていただければ、まだまだ伸びる余地があると思っています。将来は東海・関東も視野に入れていますが、売上拡大を目指すというよりも、今は地盤固めをして、地元でまだままだやることが沢山あると感じています。また、将来的には、工務店さんや施主さんが、階段を検討する際に「一度タハラに相談しましょう」と一緒に考えられるようになることを目指して、SNSやウェブサイトでの情報発信も強化していこうと思っています。

大澤 今後が楽しみですね。本日はありがとうございました。



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