スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

第6回 株式会社ケーアイ

東京都目黒区にて、飲食店向けに陶磁器製の食器を販売する株式会社ケーアイ。同社は、レストランチェーン店向けの大量生産から、個性的なレストランやカフェにも目を向けられ、多品種少量生産への事業転換を実現されています。
現在では、バリスタ世界チャンピオンとともに作り上げたコーヒードリッパーや、マグカップを皮切りに、ヨーロッパやアジア諸国を初めとした世界 約30ヶ国のお客様へ商品を販売するまでに成長。事業転換への挑戦や、世界展開に至るまでの経緯を伺います。


社名:株式会社ケーアイ
所在地:(本社)岐阜県土岐市泉北山町2-10 (織部ヒルズ内)
  (東京営業所)東京都目黒区青葉台3丁目18-3 The Works 503号
設立:平成1年11月
関連会社:光洋陶器株式会社(本社・工場) 陶磁器製造・販売
WEBサイト:https://www.k-aijp.com/


顧客の声を聴くために東京で販売会社を設立
 ~隣接異業種への挑戦~


大澤    本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは、御社の概要について教えていただけますか。

加藤    弊社は岐阜県土岐市にある光洋陶器株式会社(以下、光洋陶器)という陶磁器のメーカーがルーツとなっております。弊社は光洋陶器で製造した陶磁器を販売する、販売会社の位置づけとなります。
私の弟が光洋陶器の役員を務めており、ゼミ名古屋でお世話になっております。弟からの紹介を受け、私もスモールサンゼミへ入会させていただきました。

大澤    それでスモールサンに入会してくださったんですね。ゼミ東京へもご参加くださり、ありがとうございます。ところで、思い切って東京に販売会社を設立されたきっかけは何だったのですか?

加藤    陶磁器は昔ながらの伝統的な商流となっており、いわゆる多段階商流が色濃く残っているんです。メーカーは製造するだけで、販売代理店や商社が製品を工場まで取りに来られ、パッキングした後にお客様へ販売するという形態ですね。都会にあるレストラン様向けの商流だと、間にもう1社入っていることも珍しくありません。このような商流のなかでは、お客様のニーズが何なのか、どんな商品が売れ筋なのかについての情報がなかなか入ってきませんでしたので、エンドユーザーさんと直接お話しさせていただきたいと思った事がきっかけです。

大澤    お客様の声を聴いて、情報収集することが目的ということですね。製造のみを担っていた状態から、自社販売まで手掛けられれるようになったのですね。まさに”隣接異業種”への取り組みですね。

加藤    はい。もう一つの理由は、レストランチェーン様向けの売上が伸び悩み始めたことです。当時、全体に占めるレストランチェーン様向け売上高が非常に高かったのですが、チェーン店は1,000店舗が目安とされておりまして、1,000店舗を超えると新規出店の余地がなかなか無いといわれてまして、頭打ちになってきたんですね。
レストランチェーン様とは今でも懇意にさせていただいており、もちろん大事なお客様ではあるのですが、規模は大きくなくても、もう少し多様なお客様へも目を向けていきたいと思いまして。

多品種展開
 ~多様な食文化・お客様のニーズに沿った商品展開~

大澤    情報収集が目的だとおっしゃってましたが、お客様と直接にコミュニケーションをとる機会は増えましたか?

加藤    増えました。レストランチェーンに比べて規模は大きくありませんが、様々な特徴をもたれたお客様がいらっしゃいまして。人々の食に対する嗜好(しこう)も多様化してますし、同じ料理であっても、味付けだけではなくてどんな食器で提供されるかによっても好みが分かれるところなのかなと。色々なお客様がいらっしゃいますので、お客様が望まれる食文化を理解した上で、お客様に寄り添った食器を提案する事が大切だと考えております。

大澤    食の多様化ですか。詳しくはありませんが、例えば焼き魚でも下のお皿の色によって印象って変わりますし、同じ料理でも、どんな食器で提供されるかによって食べる時の印象って変わりますね。料理といっても様々なジャンルがあるかと思いますが、どのようなジャンルを意識されていらっしゃいますか?

加藤   料理のジャンルについては洋食から中華まで幅広く展開させていただいております。食器の種類も凡そ15,000種類提供させていただいておりまして、同業他社に比べても多い方だと思います。

大澤    そうなんですね。お客様と直接コミュニケーションを取られるようになり、新しい発見はありましたか?

加藤    販売会社を設立して分かったことなのですが、プロの方から「食器をどこで買えばいいかわからない」という相談を多く受けることが多いんです。今の時代はインターネット通販でも気軽に食器を買うことができますし、非常に便利にはなってきていますが、インターネットで画像を見て買っても、商品が届いてみて実物を触ってみると、印象が全然違うということも多々あるようです。

大澤    光の当たり具合でも変わりますもんね。あとは重さとか。

加藤    そうですね。もちろん、インターネットでの注文は増えてきています。インターネット注文を専門に扱う業者なんかも多いですし。他には、家具や生活用品を扱う大型小売店で買われるお客様も多いですね。ただし、小売店で食器セットを買ったのだけども、食器が1つだけ壊れた時に同じものを、もう一度買いに行ったりすると、その時には同じ商品が売っていないなんてこともあるようです。

大澤    確かに。食器も流行があるでしょうから、商品ラインナップの入れ替えなんかも早そうですよね。

加藤    そうですね。弊社では、一度オーダーいただいた型はデータで残しております。極端な話ですが、2度目のオーダーが1度目の10年後というケースもありますね。

大澤    10年後ですか。ずっと使っていくという点で、お客様は安心して購入できますね。

バリスタ世界チャンピオンと共に開発したコーヒードリッパー


大澤    最近、売れ行きの良い商品は、どんな商品ですか?

加藤    特に勢いがあるのは、「ORIGAMI」というブランドで展開させていただいているコーヒー関連の商品です。バリスタと呼ばれるコーヒーを専門に扱う方の意見も取り入れつつ、コーヒーにこだわりのある方向けに商品を提供させていただいているのですが、コーヒードリッパーやマグカップの売れ行きが良いですね。

「ORIGAMI」ウェブサイト
ORIGAMI:もっと美味しく、より美しく。 バリスタの願いから生まれたプロダクト

加藤    こちらが一番勢いのあるコーヒードリッパーなのですが、バリスタの世界大会で優勝された方にも使っていただいておりまして。

大澤
  すごいですね。その方とはもともとお知り合いだったんですか?

加藤    はい。バリスタの世界大会は各国で予選を行うのですが、この方が中国予選で優勝された際に、たまたまイベント会場で知り合いまして。その際に、弊社のコーヒードリッパーを使っていただいていたんです。

大澤    「弊社の商品を使っていただき、ありがとうございます」というところからご縁が始まったわけですね。すごく嬉しいですね。

加藤    はい。ただ、その時にはその方の知名度も高くありませんでしたし、逆にどうして弊社の商品をご利用いただいているのかなど教えていただきまして

大澤    どういった理由で選ばれていたんですか?

加藤   専門的な話で恐縮ですが、色んな形のフィルターにフィットすることですとか、バリスタの方々はお湯の温度を非常に気にされるのですが、熱伝導性が良く、高い温度を保てるようになっていたりですとか。

大澤   そうなんですね。あまり詳しくなくて申し訳ないのですが、今おっしゃられた、専門性を意識した商品って他のメーカーでは作られていないのですか?


(上記サイトにてドリッパーやコーヒーの特徴について解説されています。)

加藤    もちろん同様の商品が無いわけではありませんが、ほとんどが輸入商品です。このようなドリッパーや、コーヒーカップを使って下さっているお客様は、コーヒー豆の中でも特に高品質とされる「スペシャルティコーヒー」を専門に扱われているのですが、全体の3%くらいしかいらっしゃいません。

大澤   3%ですか。はじめから顧客層を絞ることについての心配や不安感はありませんでしたか??

加藤    もちろんありました。スペシャルティコーヒーというこだわりの強い方々いらっしゃるジャンルで、様々なご要望があるということは聞いておりましたが、バリスタ向けに特化しても売れる保証はありませんし。加えて、販売部から「こんなニーズがある」と製造部に伝えても、製造部の方からは「本当にその情報はあるの?」ですとか、「その情報は正しいの?」と受け止められてしまい、難しさがありました。

大澤    新商品開発を進めるにあたって、販売部と製造部の意見が異なるというのはよく聞きますね。それらの課題はどのようにして乗り越えられたのですか?


加藤    はい。先ほどお伝えしたバリスタの方を思い切って工場にお招きして、直接に製造部の職人を会わせてみたんです。工場でコーヒーを振る舞っていただいたりですとか、こんなドリッパーが欲しいという意見を直接ぶつけていただいたんですね。すると職人とバリスタの距離が縮まり、職人も素直に意見を聞けるようになりまして。狙っていた訳ではありませんが、バリスタの方の「おいしいコーヒーを入れたい」という素直な気持ちと、職人の「いいものを作りたい」という突き詰めた姿勢がマッチして、非常に相性が良いと感じましたね。これまでは「幾ら値下げをして、どれだけ多くのロットをご提供できるか」という努力をしてきましたが、もっともっとお客様を理解して、寄り添った形で進めていきたいですね。

大澤   なるほど。言われてみれば、1つの物事を突き詰めてらっしゃる方同士だと、相性は良さそうですね。一方で、製品への想いが強い方々だけで進めてしまうと、どこまでも追求しすぎてしまって、製品としては良いけれども、商品として成立しにくくなってしまいそうです・・・。

加藤    おっしゃる通りです。バリスタの方々からは、「こんなのが欲しい。あんなのが欲しい。」という忌たんの無いご意見を全てぶつけていただくのですが、中には技術的に対応できないご要望であったりですとか、こだわりが強すぎて、売れない商品になってしまいかねないという不安もありました。バリスタの方から専門的な意見をお聞かせいただけることは非常にありがたいのですが、いただいた意見をどこまで商品に反映させるべきか、という判断が非常に難しかったです。

大澤    そうですよね。突き詰めすぎると、そこに市場が存在しているかどうかも分かりませんし。また、15,000種類もの多品種で商品を展開されていらっしゃる中で、お客様のニーズを丁寧に1つずつ商品へ反映されていると、開発費がかさみませんか?

加藤    少ない品種で製造する事に比べ、開発費はかさみますが、陶磁器の場合だと、金型なんかに比べて費用は抑えられますので、チャレンジはし易かったかと思います。
後は上手く全体を設計することが大切だと考えておりますね。例えば、ドリッパーに関しては、バリスタの方がSNSでシェアしてくださっているおかげで、世界各国からお問い合わせを受ける事が増えてきました。今では30ヶ国ほどのお客様へ航空便でお送りしております。

大澤    すごいですね!もともと大ロットの前提で価格競争をされていたところから、東京に進出されて、お客様に寄り添って情報収集をされ、世界に通じる商品をつくられたということですね。

コーヒーに特化したからこそ見えてきた世界の様々な需要

大澤    レストランや、コーヒー関連などの既存の分野を深化させるのか、もっと他の分野を考えていらっしゃるのか、今後の方針について教えてください。

加藤    コーヒーはもっと深めて行きたいですね。来月もインドネシアや香港、マレーシアでコーヒーのイベントがあるのですが、様々なところに足を運んで、海外のマーケットについて勉強していきたいと思っております。

大澤   日本と海外の違いですと、どういうところにありますか?

加藤    そもそも海外ではハンドドリップは日本文化として捉えていただいているので、ハンドドリップ用の日本製品というだけで、お客様からの反応がすごく良かったりしますね。

大澤    2015年に日本に進出したブルーボトルコーヒーの創業者も、ハンドドリップなどの日本の純喫茶文化に多大な影響を受けたといいますね。

加藤    そうなんです。海外だとハンドドリップに使用するフィルターの紙質が悪くて、良い物が手に入らないそうなので、日本製のフィルターなんかも販売させていただいております。

大澤    コーヒーに特化して深掘りされたからこそ見えてくる、世界の色んな需要ですね。

加藤    そうですね。昔は少数すぎて耳を傾けるべきで無いのでないかと思えていた情報ではありましたが、世界を見渡すと色んなニーズが見えてきました。ハンドドリップにしても、もともと日本文化として世界に出て行ったものが、逆輸入されている動きもありますし。面白いことですが、弊社のコーヒー関連での取り組みをご覧になったお茶業界の方からお声がけいただいたんですね。お茶業界には、お茶業界の文化があると思いますが、これまでと同じく、お客様を理解し、お客様に寄り添った商品展開を進めていきたいですね。

大澤   これからの展開が楽しみですね!本日はありがとうございました。


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