スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「人手不足を乗り越えるキーワード4選」


 2月に開催された日曜大学では、第二部に「人手不足の今こそやるべきこと」をテーマにディスカッションが行われました。その中で「リファラル採用」など今後の人材採用におけるキーワードがいくつも提示されましたが、「初めて耳にした」という感想も多く頂きました。
 そこで今回は、人手不足が進む現代で重要なキーワードを取り上げて解説をしていきたいと思います。
 皆さんの会社での採用戦略のヒントに繋がれば幸いです。

コスパ良い“リファラル採用”
〜声かけ先は社員が一緒に働きたいと思える知り合い〜

山口:「リファラル採用」。日曜大学でも出たキーワードですが、この言葉自体を知らない人という人も結構いらっしゃった印象でした。

大澤:そうですね。でも音だけを聞くと新しい用語みたいに聞こえますが、平たく言えば「コネ入社」なんですよ。ただ、コネ入社にも「コネを使って必ず入れてもらう」というものから「求職してる知り合いにとりあえず面談だけしてもらう」というものまでグラデーションがあって、主に後者がリファーラル採用に当たります。

山口:なるほど。知り合いに仕事を探している人がいて、自分は今働いている会社を良い会社だと思っているから、「うちの会社合うかもしれないから面接してみる?」と接点を作ってもらう感じですね。そう考えると、耳にする言葉としては目新しい感じがしますが、実際には昔からあるものなんですね。

大澤:大企業でもリファラル採用は以前から普通にやっています。というのも、大企業の本社などで専門的な仕事をやっている人たちって、自分の会社がどういうふうに発展していくのかというのがよく分かっています。そして、友人や知人がどういうスキルを持っているかもよく分かっているので、会社が求めているスキルや社風に合いそうな知り合いがいれば「うちの会社に移らない?」という話をするわけです。

山口:では実際にうちでもリファラル採用をやってみよう!と思った場合、どういう感じで進めるんでしょう?

大澤:まずリファラル採用の制度を設計する必要がありますよね。例えば、リファラル採用にも報酬があります。どういう要件で、いつ、いくら支払うのか。例えば、リファラル採用で無事内定が出て入社したら報酬として10万支払いますと。ただし、報酬の内2分の1が入社月の給料に追加されて、半年後にもその人が勤務していたら残りの報酬も追加されますとかですね。

山口:紹介するとちゃんと報酬がもらえるんですね。

大澤:人材紹介会社を使って人を採っても、理論年収の1/3とか1/4の手数料で、1人あたり50万とか100万とか費用がかかることも珍しくなくなってきました。だったら、リファラル採用で従業員に払った方がコストも下げられますし、従業員の収入も増えるわけですから良いんじゃないかなと思いますね。これを例えばスタッフの募集なのか、管理職や専門職なのか、いつまでに採用したいのかといった規定を明確にした上でアップデートしていく。例えば今営業部が人手不足でカツカツになっているとなったら、報酬を10万から15万に上げるので誰かいい人がいたら紹介してくれないかと。そうすることで、人手不足の現場で頑張っている従業員にとっても、会社が「ちゃんと採用しようとしてる」ことが伝わりますよね。

山口:なるほど。うちの部署めちゃくちゃ忙しいのに全然新しい人入れてくれない!とかって不満は結構ありがちですよね。そこで「今広告を出しても人が来なくて・・・」と口で言うより、会社も本気で採用しようとしてるんだよってことをリファラル採用という仕組みで見せることができる。そういうメリットもあるんですね。

リファラル採用の注意点

山口:これって何が怖いって、自分の会社でやるかどうかとは無関係に、リファラル採用で他の会社に引き抜かれちゃう従業員が出るかもってとこですね。

大澤:そうです。なので一方的に引き抜かれるよりは、リファラル採用も導入して外部の人材紹介や広告に払うだけじゃなくて、従業員にも採用費用を払える仕組みにした方が良いんじゃないかなと思いますね。それと、当たり前ですが、リファラル採用って紹介されたら必ず採用しなきゃいけないという話ではないです。あくまでも採用のきっかけ、もっというなら自社のことを知ってもらう方法の一つであって、紹介してもらっても、自社に合わなければ残念ですが内定を出せないこともあると思いますし、もし仮に不採用になっても紹介してくださった従業員の評価には全く影響はないということは予め周知しておかないといけないですね。

山口:そう思うと、制度を明確にしておくのはとても重要ですね。どういう基準でどういう人を採用するのかを明確にして、「こういう条件に合わなかったから不採用になってしまった」とフラットに扱えるようにならないとですね。

大澤:もう1点、リファラル採用で紹介されてきたからといって、必ずしも入社してくれるとは限らないことも念頭に置いておいた方が良いですね。リファラル採用だって、求職者の方は同時に他の会社も受けている可能性はありますから、そこで「紹介されて面接してやったのに他社に行くとかねえだろう」とかやってしまうと…。

山口:逆に「お前のところの社長ってさ…」「何だようちの会社…」なんて話になって、紹介してくれた従業員が転職しちゃうなんて可能性もありますね。

大澤:リファラル採用の結果と、紹介してくれた従業員の評価は別ということは肝に銘じた方が良いと思います。それで言うと、上手く採用できたとしても、入社後のその人の能力は、紹介だから全部パスとかOKということではなく、ちゃんと社長なり部長なり然るべき方が評価すべきだということも忘れてはいけないですね。

厚生労働省職業安定局人材サービス総合サイト
〜人材紹介会社は本当に人材紹介してるのか?〜

山口:次のキーワード、「厚生労働省職業安定局人材サービス総合サイト」というのは何でしょうか?

大澤:リファラル採用でも触れましたが、今は人材紹介会社を使う企業も多いですよね。また、「人材紹介会社と契約したのに、全然採用できない」というような声もたまに聞きます。そこで、どの会社を使おうか考えている時に知っておいて欲しいのが「厚生労働省職業安定局人材サービス総合サイト」です。このサイトの「職業紹介事業」という項目をクリックすると、都道府県や事業主名等で人材紹介の会社を検索して調べることができるんです。

山口:有料職業紹介は許認可事業なので、ちゃんと申請をして許可を受けている事業者がここに全て掲載されているんですね。

大澤:そうです。検索すると事業主ごとに「就職者」や「離職者数」、「手数料」「返戻金制度」といった項目が表示されるんですが、これって人材紹介会社に報告義務があるんです。

山口:「就職者」がゼロとなっている事業主も多いですね。「-」となっているのは何が違うんでしょう?

大澤:ゼロは資格を持っていても人材紹介の実績がないということですね。「-」は人材紹介会社が未提出か、既に提出してるけれどもまだ厚生労働省側で未入力という場合です。1年以上前の項目が「-」になっていれば、報告義務果をたしていないといえます。中には人数だけでなく「手数料」や「返戻金制度」も未提出になっている事業主もあります。僕からすると、この時点でもある程度付き合って大丈夫な会社かそうでないかを判断できるんじゃないかなと思います。義務を果たしている会社かどうかというのもそうですし、実績がずっとゼロの会社よりも多い会社の方がちゃんと人を紹介できる能力があるんじゃないかというのもそうですし。どこかの会社と取引をする時に帝国データバンクや東京商工リサーチなどに与信調査をお願いしたりしますよね。それと同じで、まず「厚生労働省職業安定局人材サービス総合サイト」でちょっと調べてみるというのをして欲しいなと思っています。

カジュアル面談
〜ゆるい転職時代のファーストコンタクト〜

山口:さて、次のキーワードは「カジュアル面談」です。いわゆる「面接」とは何が違うんですか?

大澤:先ほど話したリファラル採用というのは、企業と求職者の接点をどうするかという話でした。「カジュアル面談」は、求職者と接点を持てた時にどうするかという話ですね。例えばリファラル採用で従業員が知り合いの方をご紹介くださったたとして、すぐに面接して「我が社への志望動機は?」「これまでの実績は?」「なんで転職しようと思ったの?」みたいな感じで評価する目線で行くと、「まだそこまでがっちり考えている訳では…」となってしまうケースもあったりするかと思います。業界や業種、地域によっても違いますが、これまでは労働者側が企業に対して「働かせてください!!」とお願いをする立場だったので、企業側は面接で相手の動機や能力を聞き出して合う人を選べばよかった。でも人手不足の昨今では、逆に会社の方から「うちはこういう会社でこういう仕事をしていて…」と労働者側に説明をして、「それならここに就職しようかな」とか「じゃあここに転職してみよう」と思ってもらう必要があるんです。

山口:改めて立場が逆転しつつあることを感じますね。

大澤:なので、いきなり面接をするのではなく、まずは「カジュアル面談」をするという会社が最近すごく増えてきているんです。先ほども言いましたが、通常の面接だと相手を選考するために、能力やどんな仕事をしてきたのか、それをうちの会社でどう活かせるのかといったことを聞いていきますよね。カジュアル面談では、選考のためではなく、逆に自分の会社を知ってもらうために聞くんです。例えば、Web系の人材を採用したいと考えているとします。それで、知り合いにWebやITに詳しい人がいると従業員から紹介されたので、まずはカジュアル面談をすることになります。そうしたら、まずは企業側から「私はこういう会社で、こういう事業をやっていて、こういう役割をしています」と自己紹介をして、「今回のWebの仕事でいったら、こういうことを今やっていて、この辺の役割を任せたいと思っています」とか「こういった事をこう変えたいと思っています」という話をする。そうした上で相手の今の仕事内容なんかを聞いて、例えば「僕は普段SNSでこういうことをやっています」と言われたら、「うちの会社でもSNSはやっていて、既存の運用方法ではこういうところが課題だと思っていて…」という風に自社のSNSの業務について説明していくんです。

山口:面接とは意図が違うんですね。このカジュアル面談は、目的としてどういう着地点を目指してるんですか?

大澤:企業側の目的としては、自分の会社への理解の促進と、志望度を上げることですね。

山口:シンプルに「ここで働きたいかも!」と思ってもらうと。では、カジュアル面談の最後に「では次はいつ面接を…」みたいな話もしないんですか?

大澤:あまりしているイメージはないですね。お話を色々聞いて頂いた上で、「もし選考に進まれるご意思があるようでしたら、この職種で募集してますので、こういう申し込みフォームからお願いします」という説明をするくらいですかね。特に企業側からするとカジュアル面談は年中受け付けていても、採用のスケジュールは決まっていたりもするので、それに合わせて「ご希望の際はいつ頃にお申し込みください」という感じで、採用というか面接を検討する方をためておくという方法もあります。

山口:なるほど。営業で見込み客をつくるじゃないですけど、今後の採用のために種を蒔いておくというぐらいのイメージですね。長く経営されている方なんかは、本当に考え方を変えていかないといけないですね。それこそ1人獲得するために必要なステップだったりコストというのを考えて、しっかり手を打っていかないと良い人材はどんどん他社に取られていっちゃう。

大澤:特に今はオンラインで気軽にできるので、例えば「お昼の休憩時間30分でちょっと喋りましょう」みたいな感じでやるところも多いですよ。勿論オンラインでなくても、例えば「ランチ会やりましょう」というのが気楽にできるんだったらそれでもいいと思いますし。あくまでも「面接する」のではなく、企業側や社長のことを知ってもらって相手の志望度を高めてもらうというところに主眼を置けていれば、形式は何でもいいと思います。

山口:何というか、今の時代採用も営業なんだなということを感じますね。

条件交渉
〜入社への不安を解消するチャンス〜

山口:さて、今回最後のキーワードは「条件交渉」です。

大澤:一昔前は、内定を出して「給料はこれです。この条件で承諾いただけますか?」とか、企業によってはそれも無く、入社してから「あれ、求人広告に書いていた年収と実際もらえる金額が全然違う…」みたいなケースも多かったと思います。でも今では「基本給がこれくらいで、手当がこれくらい、残業はこれくらいあって、1年目の想定年収はこれくらい」といった給与や待遇について、ちゃんと説明をして交渉することが、内定後スムーズに入社してもらうためには必須です。特に想定年収ってあり得ないような残業を前提にして高めに出したりする企業もありますが、そういうことはせずに誠実に対応した方がいいと思います。

山口:条件交渉ってそもそもいつやるものなんですか?内定を出す前なのか後なのか…。

大澤:両方ありますよ。内定を出す前に「条件を詰めさせてください」と交渉して、「その条件だったら内定を出せます」というパターンもありますし、「うちに入れるような能力はありますよ」と先に内定を出して、後から条件交渉するというパターンもあります。

山口:やっていない中小企業も多いんですかね。

大澤:それなりに大きい会社は社内規定があるので、年齢や役職でどうといった賃金規定があると思うんですが、入社時にそれを説明していないところも多いんじゃないかと思います。

山口:規定はあるけど、ちゃんと伝わっていない。だからこそ入社後にすぐ辞めちゃったりする訳ですね。最近は何人も内定を出したのにほとんど入ってくれなかったというケースもたくさんありますから、内定の前後でちゃんと条件を詰めた方が、その後の入社にも繋がりますし、早期離職を防ぐことにも繋がりますね。

大澤:求職者が同業種で何社も受けている時、ちょっとした条件の差であっちに取られてしまったということも多いと思うんです。そういったことも、条件交渉をしっかりすることで減らせるんじゃないかと思います。それと、どうしても面接って能力評価だけになってしまいがちじゃないですか。それで企業側から「はい、内定出します」と。でも、条件交渉の場になると、例えば「うちの会社に入るに当たって、何か迷っていることとか不安とかありますか?」と具体的な話を聞けるじゃないですか。

山口:なるほど。それで内定から入社までの障害を一つでも潰せる可能性がありますね。

大澤:何なら「条件交渉」という言葉じゃなくても、内定後入社までの相談会みたいな柔らかい名前に変えてもいいと思います。とにかく意図としては、企業が一方的に条件を通知して雇用するのではなく、求職者側にとって将来予測しやすいような状況を作ってあげることで、内定を出してからちゃんと入社してもらう率を上げるということが重要です。

山口:一昔前は雇用する企業側が求職者を選択するのが当たり前でしたが、これからは求職者に選んでもらえる企業になることを念頭に置かなくてはいけないですね。


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