スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「株式会社 ベストサポート TERAKOYA事業」


千葉県千葉市で「未来ある子供たちの笑顔のために」をモットーに、障がい児の放課後デイサービスなどの福祉事業を営み、子どもやご家族を支えている株式会社ベストサポート。この度、児童養護施設などで育つ子ども立つ向けに「社会で生きていく」だけではなく、「豊かな人生を歩む」ための好循環を目指して、「TERAKOYA事業」を立ち上げられました。子ども達へ将来のキャリアについて考える機会を創出しながら、同時に人手不足の企業を支えられる取り組みを目指しているそうです。
今回のインタビューでは、TERAOKA事業を立ち上げられた背景や思いを竹嶋社長に伺います。

【会社概要】
会社名    株式会社 ベストサポート
代表者    竹嶋 信洋
設立 2011年6月6日
所在地    〒264-0026 千葉県千葉市若葉区西都賀4-1-10
ウェブサイト http://b-e-s-t.jp/

「社会的養護」の子ども達を支援するTERAKOYA事業
〜シェルター事業、居場所事業、就労支援プログラム〜

大澤 このTERAOKA事業とはどのようなものなのでしょうか?

竹嶋 TERAKOYA事業には大きく三つの柱があります。
1つ目は「シェルター事業」で、今日や明日泊まる場所がないという若者にご飯と住まいを提供する事業です。
2つ目は、「居場所事業」です。「シェルター事業」で関わる若者が、ふと落ち着ける場所があったらいいんじゃないかという狙いで、誰かが来て、そこで好きにゆっくりしたり、話したりするような、そういう居場所をつくる事業です。
そして、3つ目が先日大澤さんにも講演していただいた「就労支援プログラム」で、僕らは「きみらぼ」と呼んでいます。児童養護施設で暮らす子どもたちに向けて、職業や人生について様々な中小企業経営者に話をしてもらい、世の中に色々な業種・業態があることを知ってもらうことが目的です。そして、色々な選択肢の中からマッチングしたり、就職した後のアフターフォローまで手掛けたいと思っています。

大澤 子ども自身が将来の職業選択のための多用な仕事のイメージを持ちにくいのは、支援を受けているか否かに関係なく、多くの子どもにとって共通の課題のように思います。

竹嶋 「社会的養護」といわれる何らかの事情で親と暮らせない子どもたちって自己肯定感がすごく低いんですよ。でも、社会に出れば様々な壁に直面するので、社会に出る前の段階で、子どもたちに一つでも多く武器を持たせたいんです。児童養護施設で暮らす子どもたちは、普段関わる職業の幅がとてつもなく狭くて、施設職員や学校の先生といった目の前の大人の職業しか見えないため、とにかく職業の選択肢が少ない。それで保育士を選ぶという子どもが多いんですが、僕はもっと色々な業種・業態がある中で選んで欲しいという想いがあるんです。色々な中小企業経営者にお話をしていただく中で、子どもたちの選択肢が増えていって、自分の武器を掴むことのできる機会を創っていきたいと思っています。

大澤 最近の若者が置かれている立場を考えると、とても共感できる事業です。中小企業経営者にとっては、貴社の就労支援プログラム「きみらぼ」は人材採用という視点でも興味深いですね。

就労支援プログラム「きみらぼ」をはじめるきっかけ

大澤 就労支援プログラム「きみらぼ」をはじめたきっかけについて教えていただけますか?

竹嶋 先ほどの「職業選択の幅を増やしたい」というのは子ども側の視点で、企業側の視点ですと、「大変な環境を乗り越えてきたハングリーでいい人材がいる」ということを知っていただきたいという思いがあります。そのためにも、まずは児童養護施設や色々な課題を抱えている子どもたちがいることを知ってもらい、その上で協力してくださる企業との関わりを増やしていきたいと思います。

大澤 たしかに、大変な環境で育ってきた子どもたちには働き始めてからもそのバイタリティに期待したくなりますね。ところで、このTERAOKA事業の資金はどうしていますか?聞いているかぎり、収益をとるのが難しいように思うのですが…。

竹嶋 「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)に基づいて、10年以上通帳の取引のない国民の休眠口座の預金等を、社会課題の解決や民間の公益活動に活用することを目的とするJANPIA(正式名称:一般財団法人日本民間公益活動連携機構)から、2,000万円の助成をいただいています。3年間で何かしらのモデルを創るという趣旨で、当社では更に追加で資金をいれて事業予算を組み立てています。ただ、ご心配いただいているとおり収益性はないですし、むしろ赤字事業であるというのは間違いない。

大澤 子どもたちのためにやるべきだけど、実際にビジネスとして回す難しさというのは常にあると思います。最初は助成金、いわば補助輪がついている状態ですが、単にボランティアなのか、それとも3年間で事業化して継続性を担保することを目指すのかで全然違いますよね。

竹嶋 おっしゃる通りです。我々としては3年後どう自走させられるか、なんなら投資した分をどうやって回収するかというところも含めて考えています。まずは最低限自走できる仕組みを作りたいというので考えたのが、人材不足である中小企業と若者をマッチングし、フィーをもらうという形です。

大澤 子どもに関する社会課題の解決への熱意を感じます。

長く続く社会的養護の問題

大澤 児童養護施設にまつわる現状について教えていただけますか?

竹嶋 何らかの事情で親と暮らせない子どもが暮らしているのが、児童養護施設です。約4万6千人が児童養護施設なり、里親のもとで暮らしています。児童養護施設で暮らす子どもの9割が、虐待が原因で親と暮らせない状況です。ちなみ、児童虐待で1年間の通報件数は約10万件あります。この子達の話って本当に壮絶で、親からの貧困の連鎖からの虐待があったり、本当に悪い循環に陥ってるように感じています。

大澤 そんなに多くの子どもがいるんですね。

竹嶋 この児童養護施設や社会的養護の問題って、もうずっと問題として抱えたままになっているんです。施設を出た後の若者が、社会で挫折して夜の世界や犯罪に手を染めてしまうといったことは30年ぐらい前からずっと課題になっています。現在でも子どもたちの居場所やシェルターはまだまだ足りない状況です。

大澤 辛いですね。

竹嶋 子どもたちのシェルターも居場所ももっともっと必要なので、僕らとしては色々な社会福祉法人に「子どもの居場所・シェルターづくりをしませんか?」という提案をしていって、1つでも2つでも増やしていけるようにしたいと思っています。

支援を届けたい側と支援が必要な側のミスマッチも…

竹嶋 この問題については収益性よりも、地域に支援の輪を拡げていく取り組みとして考えています。というのも、社会福祉法人は公益事業をやるようにと言われているんです。税金が優遇される分、公益事業として地域の課題に役立つ必要があるわけです。いってみれば、「税金を払う代わりに地域のために投資をしなさい」ということですね。ただ、社会福祉法人の約4割が何をしていいかわからなくて困っているんです。

大澤 そうなんですか。地域を見渡すと課題は沢山ありそうに思うのですが。

竹嶋 課題はいっぱいあるけど、実際に何すりゃいいの?みたいになっているんです。それで困って「子ども食堂が流行っているからやってみようか?」といった話になったりするのですが、いやいやもう子ども食堂はいっぱいあるよ…といったこともあります。

大澤 これは私見ですが、子ども食堂って対処療法的な側面が結構強いなと思います。もちろん子どもの食事を守るのは大事なことなんですけど、もっと根源的な原因をいかに解消・予防するかというところにも意識を向けて欲しいなという気持ちがあります。

竹嶋 おっしゃる通りです。それに子ども食堂も本当に必要な人には届いていない感覚があります。これは実際に子どもに聞いたことがあって、「俺、貧困じゃないから子ども食堂行かない!」といった風に貧困家庭の子ども自身が子ども食堂に行くことを良く思っていないパターンもあったりする。子ども食堂=貧困みたいなイメージがあって、「かわいそうな子」と思われたくないみたいな。実際、そういう子たちには支援の手が届いていないんですよね…。

児童養護の取り組みの中で実感した、圧倒的な支援不足
〜支援不足のまま18歳で「大人」になる現状〜

大澤 竹嶋さんのお話を伺っていると、児童養護に関する事業への強い気持ちを感じます。どうして、そんなに子どものための事業をやりたいと思うのでしょうか?

竹嶋 若者の生い立ちの悲惨さを何とかしたい、子どもたちの現状を何とかして変えたいという気持ちです。当社はもともと障がい者の支援をやっているのですが、障がい者分野の支援はこの10年で約5千億円から2兆円へと大きく伸びていて、それでも現場ではまだまだ足りないと思いながら事業を続けていました。ところが、子どもを支援する分野は、それ以上に何もないように感じています。

大澤 「何もない」という、どういうことでしょうか?

竹嶋 障がいのある方たち向けでいえば、障害者年金があります。障がいで働けない場合には、作業所などに無料で通える制度もあります。でも、子ども向けの支援は、まず先ほどの児童養護施設などが圧倒的に足りていない。それでも施設で暮らせる間は、職員がいて、眠れる場所もあって、ご飯も食べられるし、風呂にも入れる。ところが、18歳を超えたら、当たり前に普通の大人と同じように扱われます。それが当たり前じゃないかという議論もありますが、小さい頃に虐待を受けたり厳しい環境でメンタルに問題を抱える子どもたちが、いきなり社会に出て立て直すことって大変難しいんです。メンタルが壊れたまま社会に出て失敗しても、「大人」だから誰も救ってくれない。

大澤 心が痛いですね。

竹嶋 そういう子ども達って、社会に出て初めて知ることがいっぱいあるんです。例えば、「みんなで鍋をつつく」という普通のことを、子ども食堂に来て初めて体験して知るといったことがたくさんある。普通の子どもたちが家庭の中、もしくはその家庭に付随する地域社会の中で何となく知っていることが増えていく一方で、彼らにはそういうのがほとんどないんです。そういった状態で社会に出る大変さ、難しさというのは想像に難くないと思います。

大澤 なるほど、だからこそTEREKOYA事業などで、子どものうちに色々なことを知って欲しいし、企業側にも子ども達のことを知って欲しいということなんですね。

竹嶋 そうなんです。

この街の中でのフェイス・トゥ・フェイスを大切にしたい
〜地域の中での”つなぐ力”〜

竹嶋 僕らずっとこの街の中でフェイス・トゥ・フェイスをすごく大事にしてきたんです。人と人が繋がっていくと、すごく面白いことになっていく。

大澤 スモールサンでも、“つなぐ力”を提唱しています。

竹嶋 企業経営者の人たちはまさにそうだと思います。長い間、地域住民と大事に付き合っていくことで、人と人の繋がりをたくさん作り出すことができる。例えば、脚が悪くて庭の掃除をできないお婆ちゃんがいるとします。そこで、仕事として重度障がい者が元気な体を使って庭をきれいにすることができれば、通常は支援を受ける側の重度障がい者はお婆ちゃんを助けるちょっといい人になれるし、脚の不自由なお婆ちゃんも社会に仕事を生み出すちょっといいお婆ちゃんになれる。
こういった人と人との繋がりの中で、社会的弱者と言われる人たちが強い側にも回れるんです。SDGsの11番目に「住み続けられるまちづくり」という項目があります。地域って色々な考え方がありますが、僕らは町内会レベルでのリアルフェイス・トゥ・フェイス。それによって様々な人が弱い側にいても強い側に回れると信じていて、そういう企業の在り方もありじゃないかと思っています。

大澤 そのためにも、まずは中小企業の経営者に過酷な生い立ちの若者たちがたくさんいることを知ってもらい、そういった若者と関わってみてもいいかもと思っていただけると嬉しいですね。

竹嶋 はい。福祉の立場から見れば、そういう子たちに理解を示してほしい。企業経営者の立場から見れば、雇用するならちゃんと戦力になってほしい。この間のギャップをどう埋めるかですが、そこは僕たちもこの「きみらぼ」で、例えば職業適性検査を受けてもらったり、就職した後のアフターケアで企業側とも相談しながら、企業の中で一緒にその子を育てていけることを目指しています。

大澤 今後の取り組みが楽しみです。本日はありがとうございました!


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