スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

中小企業に求められる脱炭素社会への第一歩
〜資源高の今こそ省エネで費用削減を〜

一般財団法人省エネルギーセンター 東海支部事務局長 岸田修一氏
聞き手 スモールサン事務局 大澤 徳

 ここ数年、脱炭素やカーボンニュートラルというキーワードを新聞でよく目にするようになりました。日本政府は2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指し、大企業が様々な目標を公表するようになってきました。中小企業においても、自動車業界や一部の外資系メーカーと取引のある中小企業は、脱炭素の取り組みについてチェックされはじめていると聞きます。経営者からは、「いずれか中小企業にも脱炭素の動きが求められるといっても、実際に脱炭素に向けて何やっていいかわからない」という声も多く聞かれます。

 一方では、「カーボンニュートラルはウクライナ周辺の地政学上のリスクがあるため、ここ数年のブームのような状況が過ぎ去れば、また元通りになるのではないか」という意見も耳にします。カーボンニュートラルが世界的な潮流として定着するのかどうか、本稿では触れられません。しかし、多くの中小企業にとって、カーボンニュートラルに取り組むことはコスト削減につながる可能性がある事をみなさまに情報共有したいと思います。

 本記事では、経済産業省資源エネルギー庁から事業を受託し、省エネ施策を行っている一般財団法人省エネルギーセンター東海支部事務局長の岸田修一氏に、中小企業をめぐるカーボンニュートラルの状況や省エネルギーセンターでどのような支援を行っているのかを伺いました。

もしお時間の許す方は、下記の過去記事をご覧いただけると、カーボンニュートラルについて理解が深まると思います。
論考 2021年4月号「中小企業に迫る『カーボン・ニュートラル』という課題 ——“まだまだ先の話”と思っていませんか?」
対談 2021年7月号「驚異の『省エネ』術=“熱交換”~コスト削減とCO2排出削減を両立させる!~」

カーボンニュートラルへの第一歩は省エネから

大澤 「カーボンニュートラル」と聞くと最近の流行言葉のように思えますが、「省エネ」と聞くと日本中に浸透していますよね。「省エネ」と「カーボンニュートラル」の関係について教えていただけますでしょうか?

岸田 「カーボンニュートラル」を実現するためには、当然のことながら二酸化炭素の発生量を抑えることが目標になります。そのために①省エネして、最終的なエネルギー消費量を減らすことと、②発電所の電源構成を二酸化炭素の排出が少ない再生可能エネルギーなどに変更していくこと、③最終的に発生した二酸化炭素を吸収・除去するなどのオフセットを行うことが求められます。①の省エネが進まないと、再生可能エネルギーを利用する、オフセットするなどを一生懸命やってもコストがあがってしまいます。まずは省エネを行うのが、基本的事項で優先順位も高いと考えています。

大澤 たしかにそうですね。再生可能エネルギーに変えることも大切だけど、まずは使うエネルギーを節約するということですね。

岸田 もともと、私どもの団体は、1970年代の石油ショックをきっかけに、産業界の省エネルギーを強力に後押しするために、はじまった団体です。現在は、経済産業省資源エネルギー庁から事業を受託するなど、それ以外にも種々の省エネ施策にとりくんでいます。省エネ分野で申し上げますと、企業向けの省エネ活動の技術的な情報あるいは取り組み方に関する支援という位置づけでやっております。

大澤 なるほど。けっこう歴史のある団体なのですね。

日本の最終エネルギー消費量の現状

大澤 石油ショック以降の日本のエネルギー消費の現状について教えていただけますか?



岸田 下記の「我が国の最終エネルギー消費の推移」をご覧ください。横軸に1973年から2017年までを部門別で書いています。オレンジ線はGDPの伸びを示しております。GDPは石油ショック前と比べてですね2.6倍になっています。一方で、エネルギーの最終消費量は全体で1.2倍しか上がっていない。したがって、経済成長と省エネをうまく両立させてきたというのは大まかに見ては言えます。ただ、省エネを頑張ってきたのはほとんど産業部門なわけです。

大澤 GDPが2倍以上になっているのに、産業部門は0.9倍しかエネルギーを消費していないというのは、エネルギー効率が倍になった、50%以上の省エネをしてきたとも読み取れますね。

岸田 産業部門は省エネを進めてきた一方で、業務他部門あるいは家庭部門、運輸部門は産業部門ほどの省エネは進んでいません。全体としては、うまく省エネをやってきたといえますが、部門別に手を打たなきゃならないとも言えます。

大澤 そうですね。一昔前に省エネについて、「絞ったぞうきんを、さらに絞るのか!」という議論がありましたけど、まだ省エネ対策を行っていない業界や企業で、対策を行うことは効果が大きそうですね。


中小企業は省エネルギー法の規制対象外の企業がほとんど

大澤 これから、日本国として省エネ対策を進めていくには、どのようなルールがあるのでしょうか。

岸田 「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(以下、省エネ法)」という法律があります。省エネ法というのは、一定規模の事業者に対して毎年省エネルギーの達成を義務づけてそれを報告していただき、中長期計画を提出してもらうという制度が中に含まれております。

大澤 省エネ法は中小企業にとっても身近な法律なのでしょうか?



岸田 省エネ法で産業部門では、エネルギー使用量ベースでみると約9割を補足できています。ところが、会社数でみますと、補足できているのはせいぜい数千社、補足できていない企業は何十万社にもなります。おそらく、多くの中小企業の方にとっては、省エネ法に基づいて徹底的に省エネルギーをたたき込まれている事業者さんというのは、少ないのではないでしょうか。省エネ法の外の企業は、まだまだ省エネについての取り組みが進んでいないというのが実態に近いと思います。

大澤 産業部門以外は、どうなんでしょうか。

岸田 業務部門になりますと省エネ法の網がかかっているのは4割ぐらいで、残り6割はかかっていません。運輸部門では、約2割程度にしか網がかかっていません。現時点では、省エネ法の規制対象外の中小企業に、いかに省エネに取り組んでいただくかが重要なように思います。

大澤 もしかすると、今後は省エネ法の規制範囲が拡がっていくかもしれませんね。


省エネの進め方
〜足掛かりとなる6つの省エネチェックポイント〜

大澤 実際に中小企業が省エネをはじめたいと思った場合に、どのように進めるのがいいのでしょうか。

岸田 省エネを進めるにはよくいう「PDCAサイクル」というのがあります。製造業の方でしたら「品質管理」や、「安全管理」あるいは「環境マネジメントシステム」などでPDCAという言い方に慣れているかと思います。Plan、Do、Check、Actionを体系的に組織的にやっていくということが求められます。
もっと簡単に省エネについいてのチェックポイントをまとめたのが下記の画像です。「ヤメル」、「ナオス」、「トメル」、「サゲル」このあたりは、おそらくご想像いただけると思います。「ヒロウ」というのは直感的に想像しにくいかもしれません。「ヒロウ」というのは、一言でいえば熱エネルギーを拾ってくるということなのですが、スモールサンニュース対談 2021年7月号中で「微量地下熱の井戸水を使って空調あるいはボイラーの給水に利用する」というが具体的な事例ですね。「カエル」というのは、最初の投資のお金はかかってしまいますが、高効率な機械がどんどん登場していますので補助金などを活用して設備を入れ替える事も選択肢だと思います。



大澤 省エネについて具体的に想像できてきました。


省エネルギーセンターの支援メニュー「省エネ最適化診断」
〜健康診断と同じく、まずは自社の状態を知ることから〜

大澤 省エネルギーセンターは、中小企業の省エネにどのように関わってらっしゃるのでしょうか?

岸田 私ども「省エネルギーセンター」は国から補助事業として受託して「省エネ最適化診断」をしております。中小企業の皆さんの省エネの取り組みを後押しするために、人間でいえば人間ドックでまずは健康チェックするようなイメージで、企業の診断を行います。



大澤 具体的にどのような診断なのですか?

岸田 具体的には、自社の立ち位置を知っていただくことを目的に、どのぐらいのエネルギー量を使っているのかという数字を把握します。使用しているエネルギー量がわかれば、CO2の発生量も把握できます。工場や商業施設などの現場を専門家が観察させていただくことで、どの辺りに無理や無駄、あるいは削減する余地があるのかということを提案いたします。
これをやればどれぐらいエネルギーが削減できるか、CO2の量を削減することができるか、それは全体の何%なのか、それに対してコストで表現するとそれはいくら儲かるかというところまで出します。
加えて、昨今話題の再生可能エネルギーたとえば太陽光の自家発電設備、これの導入に対する提案も組み入れることができます。また、あるいはカーボンニュートラルを見据えて高効率機器の提案なども行います。こうしたものは、先ほど申しました投資を伴うものです。

大澤 きっちり調査いただけるんですね。

岸田 診断は概ね丸1日やるんですけれども、午前中にこういったデータ等の確認をさせていただいて、午後から現場に入って見させていただくという流れです。その後、報告書の作成をいたしまして、診断結果をお出しいたします。

大澤 実際にどのような報告書になるのか、省エネ診断のサンプルなどありますか?

岸田 私どもの団体に見本がございますので、ご興味のある方はご覧ください。(ビル版工場版

大澤 けっこう細かくお調べいただけるんですね。ちなみにこの診断に費用はいくらなのでしょうか?

岸田 専門家が1人か2人かによって異なりますが、1万円〜1万6500円です。技術診断料の10分の9は国が補助するということになっているので、この価格でご案内できています。

大澤 1万円か2万円で省エネのきっかけになるのは、企業にとっても取り組みやすいと感じます。



「省エネ診断後」の省エネに向けた取り組み


大澤 ご提案いただいた省エネ施策を実施するのに、具体的に機器メーカーや工事業者などを紹介してもらえるのでしょうか?

岸田 私どもが実施している診断事業は経済産業省から委託を受けている事業なので、一切そういうことはできませんし、いたしません。当然、このメーカーのこの機械を買ってくれという言い方は絶対にできません。

大澤 なるほど、わかりました。診断後に企業が省エネに取り組もうとした場合に、何か具体的にサポートしていただけるのでしょうか?

岸田 省エネ診断は、あくまで診断まででしかありません。まだ絵に描いた餅なので、そこから先をどのように実行するかのサポートが必要でしたら、診断事業とは別ですが、経済産業省からの受託にて実施している他団体の事業で「省エネ支援団体』があるので、こちらをご紹介させていただく、ということはしています。

大澤 例えば、「どれだけ痩せられるか」を診断して、実際に痩せるためにどういうジムに通って、どういうトレーニングをするかについては別の専門家をご紹介しますというような話ですね。

岸田 おっしゃるとおりです。私どもで3年後くらいに「診断後どうでしたか」とアンケートをとったりするんですが、概ね過半数は「省エネに取り組んだ」という回答をいただいています。取り組んでいない例での理由は、「まだやっていない」「お金がかかるからできなかった」、「診断から先の支援先が見つからない」など様々です。ただ、診断の報告書で提案した内容だけでも半分強の企業は省エネ対策をできていますので、まずは診断を受けていただくことが、企業が省エネに取り組む第一歩であると感じております。

大澤 診断を受けた企業の過半数が、省エネに取り組んでいるのはすごいと思います。診断の報告書で提案された内容が、すぐに取り組めそうな策も多いという事なんでしょうか。

岸田 私どもの省エネ診断の事例についてウェブサイトでも大まかにご覧いただけます。お詳しい方であれば、何を自社で変えればいいのか、こちらのキーワードから想像しやすいかもしれません。(省エネ診断事例

大澤 ありがとうございます。かなりの事例数が載っていますが、様々な事例について別の機会にあらためて教えていただくことは可能でしょうか?先ほどの報告書や事例の中でも、照明をLEDに切り替えると省エネになるというのは想像しやすいのですが、ファンのインバータ化や、ボイラーの使い方など、詳細が気になる事例がたくさんあります。

岸田 そういうお声がございましたら、ぜひお声かけください。私どもとしても、中小企業の皆様方の声が聞ける場に行って、実際にお話をさせていただけるチャンスはとてもありがたいです。金融機関や商工会議所を経由して、「『省エネルギー診断』を受けましょう」と発信しているんですけれども、なかなか行き届かないところもありますので、お話しする機会が増えることは嬉しく思います。

大澤 そうおっしゃっていただけて、大変嬉しいです。今回の記事が、日本の中小企業のカーボンニュートラルに向けた一歩踏み出せるきっかけになることを期待しています。本日はありがとうございました。


省エネ診断を申し込みをご希望される方へ
下記URLより申込用紙ダウンロードいただき、必要事項をご記入の上で、一般財団法人省エネルギーセンター省エネ診断事務局へお送りください。
※令和4年度のお申込みは4月15日(金)に開始する

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