スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

「中小企業にあった身のためデジタルトランスフォーメーション(DX)のすすめ【DXをどう捉えるか?編】」

先月号に続き、中小企業が「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」を目指す際に、どんな事を意識したらいいか、筆者が考えていることを共有させていただきます。

前回の記事では、「IT環境についてどこまで知っていますか?」というクイズではじめました。もしまだご覧になっていない方がいらっしゃれば、下記に先月の記事のURLを載せておきますので、お読みください。

▶▶大澤徳の“現場レポート”!2021年1月号
▶▶「中小企業にあった身の丈デジタルトランスフォーメーション(DX)のすすめ【導入編】」

今回は、「DXを経営課題のどのように位置づけるのがいいだろう?」「そもそも、DXの定義とは?」という視点について、筆者の見解を共有させていただきます。

IT/DXが醸し出す魔性の雰囲気。全てを解決できる魔法じゃない。単なる道具の一つ


「十分に(高度に)発達した科学は魔術と見分けがつかない」といったのは、アーサー・C・クラーク(代表作は『2001年宇宙の旅』)ですが、IT業界の動きや、ITに関する技術を、機能的に理解する努力をせずに、魔法のように感じていたりしませんか?
現実を認識して、次の一手を考えなくてはならないはずの経営者が、ITを魔法のように感じいては判断を誤る可能性があります。経営者の皆様には、IT業界の動きや新しいIT技術について、“できること“と”できないこと“を正しく認識し、ぜひとも各社の武器にしていただきたいなと強く思っております。

時々、「ITやAI、ブロックチェーンなどを使えば、●●●●のことができそう」「これからはデータを使った経営に移行しなくてはならない」など流行のテーマとしては、もっともらしいことを聞いたりします。

ただ、よくよく細かく調べてみると、
「その経営課題なら、新しいIT技術を使わないほうがいいのではないか?」
「そのツールはいずれ負の遺産になるんじゃないか」なんて思うこともあったりします。

もちろん、単にIT/DXが不要だと言うつもりはないですが、あくまで「道具の一つ」として認識して、どんな道具なのか、どうやって使うのか、という視点で考えていただきたいです。

ポイント
・IT/DXは魔法の道具じゃない
・IT/DXは、上手に使うと、経営に役立つ道具の1つであるという認識を持つ

DXを、経営課題のどこに位置づけるか

下のグラフは、経営における「問題の大きさ・発生頻度」と「解決策の難易度」に分けて、経営者がどういう行動をとっているのか、概念的に説明するための図です。(各社ごとに様々な経営課題があると思いますので、この図に自社の課題を置いてみるのもいいかもしれません。)



まず、縦軸では、「(経営における)問題の大きさ・発生頻度」を表しています。
上にいくほど「問題が大きい」または「発生頻度が高い問題」で、図の下のほうでは「問題が小さい」または「発生頻度が少ない問題」を想像いただきたく思っています。たとえば、「資金繰りによる倒産の危機に瀕している」「売上減少による損失拡大している」のような状態であれば、経営の存続が危ぶまれている問題と判断できますので、図の上のほうに位置づけられるでしょう。下の方は、たまに起きるけれども、あまり経営に与える影響は大きくない問題を置くイメージです。

横軸では、解決策の難易度を表しています。
左側のほうが、簡単。言い換えるなら、「短時間」「低コスト」「成功する確率が高い」などの方法で解決が見込める問題を置いていきます。右側に行くほど「難易度が高い」、つまり「コストがかかる」「時間がかかる」「チャレンジしてもどうなるかわからない」というような難しい方法でないと解決できない問題を置くイメージです。

多くの場合、経営者は画像の①の範囲である「発生頻度が多い、または、大きな問題」に対して、まずは「簡単な解決策」を探しながら、経営をしていくことと思います。

しかし、当然ながら、経営に関する“全て”の問題を、現時点での経営者自身が「知っていること」または「(社内外含めて)今の人間関係」だけで解決に導けるわけではありません。そこで、様々な「勉強」をして「知識」を習得したり、「人脈作り」をしながら、難しい解決方法を模索していく行動をとられていることと思います。この状態を表すのが図の②です。



この②の行動については、たとえばスモールサンゼミに所属し、山口義行の話を聞いて時代や景気の方向感を認識しながら、多様な専門家からどういうやり方で経営を進めていくのが良いのか様々な事例やノウハウを勉強する、といったことが該当します。そういった経営者の方々の中には、スモールサンをきっかけにして繋がった専門家へ何かを依頼したりすることもあると思います。こうした行動が図の②のイメージです。人口動態や技術動向に目を配りながら、自社が取り入れるべき変化がないか探すというのは、スモールサンに所属していてもいなくても求められるべき行動だと思っています。

もっと平たくいうと、今の目の前にある問題は、(外部環境が原因の場合もありますが、)今の自分が生み出している問題であることが多く、今までと同じ自分では解決できないので、自分が何かを変えないと突破できないと思っています。自分をどうにかレベルアップさせて、今まではできなかった難しい事にもチャレンジしようとする状態が②です。

前置きが長くなりましたが、IT化/DX化のプロセスというのは、図の③のような行動変容のことを指しているように思います。
解決策自体は簡単で、そもそも企業経営に与える問題としても大きくない範囲について、「低コスト」で解決しやすいのがIT技術だと思っています。



IT技術で可能な「情報伝達」や「情報を保管する」、「保管したデータから、行動を推測する」というような機能について年々劇的にコストが低下しています。大量の方に連絡をとるにも、郵送だったらお金も手間もかかりますが、メールやLINE、アプリからの通知であれば、低コストで多くの方に情報を届けることが可能です。
また、遠方の方に直接会っていたのが、オンライン会議で済ませられることで早く情報伝達できる可能性があります。これまでは出張費や時間的な問題から、商談成立の見込みが高い顧客を中心に訪問できなかったところ、これからは全国の問い合わせに応えることも可能になってきました。
もはや最近では意識する事も少なくなりましたが、保管した紙の資料から目視で情報を探すよりも、PCの中にデータで保存して、都度必要な情報を読み出す方が圧倒的に早いですよね。ひと昔前は、大容量データをCDに書き込んで郵送していたのが、今ではオンライン上でやりとりできる、というのも③の行動の範囲かと思います。

このように解決策自体が簡単で、低コストでその解決方法が実現可能なのであれば、なるべく早く取り組んだ方が経営上プラスのように感じます。

また、ここではコスト削減目的でのIT/DXの導入についてお話ししてきましたが、それ以外の目的でも、IT技術を前提としたサービスや商品開発も重要だと思っています。

たとえば、時代は“所有すること”から“利活用にその都度お金を払っていく”ように変化しているので、毎月お客様から一定の金額をいただいて、会員制のようなサービスを行うビジネスモデルを想定したとします。
もし、IT技術を使わず、今まで通り請求書を郵送したり、個別に人間がその都度連絡していては効率が悪いこともあるでしょう。しかし、IT技術が活用されている金融サービス(フィンテック)と、顧客管理ソフト(CRM)を組み合わせると、作業の大部分が自動化され効率よく(かつ低コストで)運営が可能かもしれません。


DXとIT化の違いについて

改めてDXの定義について、おさらいです。

経済産業省の定義によるとDXというのは、
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 」だそうです。
デジタルトランスフォーメーションが、なんでDXと表記するんだろう?と思ったので、調べてみたら英語圏では「Trans」を省略する際にXを用いるそうです。

DX化というのは、単にITという道具をいれて、アナログをデジタルに置き換えることではなく、デジタル技術を活用しながら、組織を変革を行い、顧客への提供価値を変化させ、競争で勝てる状態を表しています。



最近、行政機関での脱ハンコが話題になりました。本来の脱ハンコの目的はテレワーク下でも決裁ができることや、書類の物理的な移動にかかる時間を減らして、意思決定のスピードを早めることのように思います。
とある地域の方から聞いたところによると、ハンコがなくなる代わりに、一旦決裁に必要な書類を印刷して、紙に署名して、その紙をスキャンして、そのスキャンしたデータをまた次の決裁者にデジタル上で送り、またその決裁者が紙に印刷して自署してスキャンする、というプロセスに変更されていくらしく、ハンコの時よりも逆に決裁の時間が手間取るようになったいう話を聞きました。(民間の大企業でも同じようなやり方に変わったという話を聞いたりします)
 この例では、確かにITツールは導入されていますが、「(ITツールという)道具を使いこなして優位な『状態』」にはなっておらず、ただアナログからITツールに切り替えただけで、何を目的にしていて、どういった効果があるのか疑問を感じてしまいます。
 本人が決裁したかどうかセキュリティの部分を確保しつつ、簡便な方法で、決裁スピードを早める方法に切り替わることを願っています。

上記は極端な事例かもしれませんが、IT企業に言われるがまま何となく流行のITツールを導入しても、競争上優位な「状態」になることは難しいように思います。
あくまでも、「経営上の課題をどの順番で解決すると、どういう風に経営が変わるのか」という視点に基づいて、ITツールの導入をご検討いただきたく思います。

同じように、最近はコロナ禍で顧客との関係を作るのが難しいので、とりあえずSNSやYouTubeのアカウントを開設してみようというお話も聞きます。これもITツールの導入と同じく、それを始めることでどのように競争上優位な「状態」を作り出せるのか、ちゃんと検討し仮説を構築しながら進めて頂きたく思っております。

記事の下部に、筆者が考える「アナログ時代」「とりあえず『IT化』した状態」「DXが進んでる状態」に分けて、思っているイメージをまとめてみました。まだまだはっきりした答えがある分野ではないので、現時点での筆者の私見の範囲を出ませんが、一体何をどうすればいいのか? と悩んでる経営者の方の参考になれば幸いです。


まとめ

今回の記事では、「DXを経営課題のどこに位置づけるか」「DXとは何か」という点について、触れてきました。このニュースを書いてる最中は、中小企業経営者にITという武器を配りたいという気持ちと、経営者の皆様がこのコロナ禍に諦めずに変化に立ち向かう勇気をどのように養うことができるのか、悩んでおりました。
次回は「実際にどんな方法で進めるのか」を中心に書かせていただきます。

【文末付録】
①社内向けの視点


アナログ時代 とりあえずIT化 DXが進んでいる状態
社員の端末
携帯 ・会社の支給携帯がガラケー
・社員自身もスマホに苦手意識がある
・支給携帯はスマートフォン ・スマホのアプリで仕事を遂行可能
・各社員に与えられている通信容量も潤沢で、外出先でも高速な通信環境を確保でき、どこでもスピーディに業務可能
パソコン なし ・とりあえず、パソコンを支給している
(もしくはBYOD制度を導入している)
・自社の業務にどのくらいの負荷がかかるのか考慮した上で、PCの選定を行っている
・テレワークやモバイルワークに対応するためにVPNを用意するなど、通信に関するセキュリティに配慮している
・VDIなどを導入し、シンククライアント方式で、ローカルPCにデータが残らない形式を選択できるような体制を作っている
社内通信インフラ
 ・インターネットなし ・社内に社員用Wi-Fi/有線LANがある ・社内で社員用Wi-Fiと、ゲスト用Wi-Fiを分けてある
・社員の人数や業務内容によって求められる通信速度に応じて、適切なインターネット回線を用意している
・Wi-Fiの電波が届く範囲を考慮し、適切にルーターを設置している
・Wi-Fi6に切り替えが終わっている
ファイル共有
・印刷して内容共有 ・USBメモリや、メールでファイルを送る ・クラウドに保管し、保管場所の共有URLを送信する
 社内情報管理
スケジュール ・社員のスケジュールを一括で確認する管理システムがない。
(ホワイトボードなど会社に物理的にある場合も)
・スケジュール管理できるシステムがある ・各人がスケジュール管理システムに漏れなく速やかに、スケジュールを入力できている
・複数人の空き日程を自動的に提案する機能を使いこなしている
 連絡ツール ・電話/口頭での連絡 ・メール ・チャットツール等、各社員・経営陣が、必要なクラウドベースのツールやチャットで繋がっている
・またチャット運用についてのガイドラインを社内で共有し、実践できている
社員のITリテラシー
・経営陣を含めて、パソコンやスマホを使えない場合がある
・そもそもITに嫌悪感/苦手意識がある
・経営陣を含めて、パソコンやスマホを使える ・社内の業務プロセスを理解して、ITツールをどのように使うと効果的なのか思考することができる
 経営陣の認識
・ITに関する事を、経営上の重要な課題として認識していない
・極論、必要ないと思っている
・「社内の可能な業務については、IT化したほうがいい」という認識がある ・様々な業務遂行において、ITシステムについての検討を含んだ上で意思決定を行う
デジタル化推進の意識
 ・なにもしない ・失敗しないことを前提にして、全てのシステム導入を検討する
・前例がないことは、過去の経験によって却下される
・ゼロリスク志向
・失敗しても問題ない範囲と、慎重に変革を進めるべき範囲について分けられている。
・迷ったらとりあえずスモールスタートできる風土があり、失敗がとがめられない文化がある。

②社外向けの情報発信


アナログ時代 とりあえずIT化 DXが進んでいる状態
ウェブサイト ・ ウェブサイトがない ・ウェブサイトはある
・更新頻度が低く、検索順位も低い
・ウェブサイト、SNSなどが有機的に連携しており、集客や顧客との良好な関係を構築するのに役立っている
SNS ・SNSを開設していない ・自社SNSを開設しているが、目標が不明確だったり、定期的な更新をしていない
・SNSを戦略的に運用している
・自社のファンを増やすためにモニタリングしている数字が明確
オンライン会議 ・ 対応不可 ・ノートパソコンなどに内蔵されているカメラマイクを活用
・各種ツールを使える(zoom、webEx、Skype、GoogleMeetなど)
・会議室などにカメラやモニターをセッティングして、マイクの音声品質などに配慮しながら運用できる
・受信側の視点にたって、各ツールを活用できる

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