スモールサンニュース大澤徳の“現場レポート”

アラブ首長国連邦(UAE)視察報告 ドバイ・レポート


UAEを代表する都市ドバイでは、世帯の平均年収が2,600万円に達しており、ドバイ国際空港の国際線旅客数は2018年時点で8914万人と、5年連続世界1位。ドバイの空港から飛行機で4時間以内の商圏人口が30億人、その商圏人口の平均年齢は約30歳と若く、2020年には中東初の国際展覧会を控えるなど、現在も世界で類を見ない建設ラッシュが続いているエリアです。
私はこれまで、ドバイには「中東で石油があるから成長しやすいんだろう」というイメージを持っていました。しかし、実際のところドバイは石油・ガス資源には恵まれていません。ドバイの名目GDPの内、石油やガスの比率(鉱業)は3%以下しかなく、港湾・空港の整備に注力することで、貿易や商業、そして観光で発展してきた国なのです。
 今回の別刊スモールサンニュースでは、私が実際にドバイへ視察に行き、現地で見てきたものについて、皆様へ共有させていただきたく思います。

ドバイって、どういう国?

ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)を構成する7つの首長国のうちの1つです。人口は244万人、面積は411㎡で埼玉県と同程度の大きさです。日本からドバイまでは飛行機で片道9〜12時間ほどの距離で、時差は日本時間のほうが5時間進んでいます。
ドバイが属するアラブ首長国連邦(UAE)は外交・軍事について権限を持ち、石油や経済開発を含む内政は各国首長国の権限に任されています。経済開発などはドバイに任されています。

[地理情報]


そもそもUAEは、日本にとってサウジアラビアに次ぐ石油世界第2位の石油供給国であり、日本からは自動車や一般機械を輸出するなど、経済的な結びつきが強い国です。UAE側からみると、日本は最大の石油輸出国です。

UAEの首長国の中で、稼ぎ頭はアブダビ。アブダビは、UAEの石油埋蔵量の90%以上を占めており、UAEのGDPの60%以上を稼いでいます。いってみれば、アブダビはUAEの兄貴分的な存在。一方でドバイはUAEの石油埋蔵量の4%でありながら、UAEのGDPの約25%。アブダビは石油で稼いでいますが、ドバイは石油・ガス資源では稼げないので、観光と金融や商業の街としての発展を志したように感じます。

1971年にイギリスから独立したUAE建国当初は人口22万人でしたが、2010年代に入ってからは人口950万人以上と大きく成長、過去約50年で約40倍の人口になっています。1971年にはわずか25%だった識字率も、UAEの国家予算の25%を教育費に回すなどの対策をし、2012年には90%以上になるなど、国民への教育投資も積極的に行ってきました。

2012年からは「子どもの教育に今やiPadは必須」ということで「スマート教育方針」を打ち出し、2億7,200万ドルを投資して、全ての学校にiPadを導入することを表明するなど、今も若者の教育に力を入れています。

さて、2012年といえば、当時日本ではスマートフォン普及率がまだ20%以下だった頃です。まだスマートフォンですら世界的に普及していない時点で、教育投資として全ての学校にタブレット端末を導入できる判断は凄いと思います。

ドバイの最近の統計では(2017年時点にはなりますが)、一人あたりGDPも4万米ドルを超えています。

このようなUAE並びにドバイの成長は、「将来的には石油資源に頼れない状態になるだろう」という危機感から、石油に依存しない経済を実現しようと政策を進めてきた結果です。

ドバイの地理的な状況 国際ハブ空港戦略

UAEの周辺は「Middle East(中東)」と「North Africa(北アフリカ)」の頭文字をとってMENA(ミーナ)と呼ばれ、数年前からBRICSの次の投資先として注目を集めています。MENAは、人口約4億人、平均年齢も30歳以下と、東南アジアより人口増加率、若年層比率ともに高い地域。今後も移民や観光客の増大も予想され、今後の消費市場の成長が期待されます。

ドバイを中心として、飛行機で4時間以内の商圏人口は約30億人おり、ドバイはMENA(中東・北アフリカ)へ進出する企業の拠点として立地的に有用と考えられます。また、フライト時間をドバイから8時間以内まで延ばすと、世界の人口の3分の2が住む地域に飛ぶことが可能です。

ドバイ国際空港は、2006年までは世界のトップ30にも入っていませんでしたが、欧州から見ると最も東側の端、アジアから見ると最も西側の端にあるという地理的優位性を活かして、一気に国際ハブ空港へ成長しました。

中東でありながら世界で最も“安全”な国の一つ 危ないイメージは全くない

ドバイについての経済的な情報が多くなりましたが、ここからは実際に行ってみて感じた事のレポートです。
中東というと「テロがあって危ないんじゃないか」というイメージを持っていましたが、実際に行ってみるとタクシーの利用や夜の街歩きでも全く危険を感じることはありませんでした。世界経済フォーラムのレポートをはじめ、日本より安全順位が高いという評価もあるくらいです。

最近、「日本で外国人労働者を入れると、日本の治安維持が難しくなるのではないか」という意見を耳にすることがあります。ドバイではインドやパキスタンから多くの移民を受け入れていますが、どうやって治安を維持できているのでしょうか?


ちなみにドバイに住んでいるおよそ90%が外国人。タクシーに乗る度に運転手に聞いてみたところ、インド人かパキスタン人のどちらかでした。ホテルのベッドメイキングのスタッフはフィリピン人が多かったです。
ホテルで受付をしてくれたエジプト出身の若者に「なんでドバイは治安がいいの?」と聞いてみたところ、「失業したらドバイを出ないと行けないし、結婚して子どもを産んで生活するには、ドバイは生活コストが高いから、若いときの出稼ぎしか考えてない。ドバイで数年働いて、地元に戻ったら家を建てられるから頑張ってる。」と教えてくれました。

調べてみると、ドバイにいる外国人は、職を得るために「最長2年の期限付き契約」または「無期限契約」のどちらかの労働ビザで滞在しており、失業したら30日以内に再就職して就労ビザを再発行しなければ、不法在留になってしまう制度になっているようです。そのため、ホームレスもおらず、現在の治安の良さが実現できているのだと思われます。
今後、日本が人口減少で不足する労働力を外国人に頼っていくにあたり、参考になる考え方だと思います。
ちなみに、UAEの出稼ぎ労働者は男ばかりです。



空気が汚い


考えてみれば、当たり前の話なのですが、空気は汚いなぁと感じました。
砂漠の真ん中に建造した都市なので、砂ぼこりがいろんなところで溜まっていました。
宿泊したホテルで「空気清浄機はあるの?」と聞いたところ、その設備は用意していないようで、「綺麗な空気」に関する需要もあるだろうと感じました。

想像していたより宗教的な戒律は厳しくない

ドバイに行くまで、イスラム教について何かしら厳しい制約があるのかとビクビクしていましたが、街中で宗教的な戒律の厳しさを感じることは特にありませんでした。(ラマダンの時期などは違うと思いますが)※ラマダン:イスラム教徒の「五行」の一つで約1カ月の間日中の飲食を断つ

毎朝5時に街中でお祈りのメロディーが流れたり、街中に宗教施設があったりはしますが、そもそも移民が多い国なので、他宗教を受け入れる雰囲気があるように感じました。

イスラム教で禁止されている豚肉・お酒は、街の飲食店にはありませんでしたが、ホテルのレストランのメニューには普通にありました。お酒はスーパーで売っていますが、実際に購入するためにはイスラム教徒ではないことを照明するライセンスが必要なようです。大きなスーパーやアジア系の移民が住むエリアのスーパーには、店の奥の方に豚肉のコーナーがありました。

街中の飲食店でお酒は置いていないので、居酒屋や繁華街はありません。

自動車以外の日本製品の存在感は薄い

日本の家電製品を探そうとしたところ、SONYのヘッドフォンは見つけられました。しかし、それ以外の製品は見つけられませんでした。テレビも冷蔵庫も、店頭に並べられている製品の多くが中国や韓国メーカーのものです。

一方で、高所得な方が多く住んでいることから、自動車は欧州のメーカーが多いと想像していたのですが、実際に街中を見ると日本車が多かったです。UAEにおける新車販売台数200万台のうち日本勢は約60%(トヨタ30% 日産16% 三菱11%、2016年時点)を占めています。

JETROの資料によれば2014年時点で、日本企業の進出数はUAE全体で431社(ドバイ 323社 アブダビ79社) 、在留邦人は約3,500人いらっしゃるとのこと。
ある程度の駐在員もいるので、日本食のレストランもちらほらありましたが、お寿司が1人あたりランチで3,000円程度、夜は1万円近い金額。ランチの時間に行ってみましたが、お客さんは欧米の方々ばかりでした。
スーパーの中に入っている寿司屋の店員に「ここの寿司屋のオーナーは日本人ですか?」と聞くと、「日系ブラジル人の子孫だよ」と自信満々に返答されました。私の気持ちとしては、「日本人よりも日系ブラジル人が、日本の食文化を広める仕事をしているのか。日本の企業や若者にも色々とチャンスはあるはずなのに」と感じました。

日本経済よりも、中国経済についての書籍が並ぶ書店

私は初めて行く出張先では、書店でどういう本が置かれているのかを見るようにしています。特に、どんなビジネス本やビジネス雑誌が置かれているのかを確認します。現地の書店の供給側の目線に立ち、現地の経営者やビジネスをされている方々へ向けて、彼らがどんなテーマの情報を提供したいと考えているかを想像できるからです。

そこで今回も、ドバイの本屋さんを数件まわってみました。すると、ASEAN地域や中国経済についての書籍はあるのですが、どこを探しても日本経済についての書籍は1冊も見つける事ができませんでした。日系の書店ですら、日本経済の本は置いてありません。ドバイという世界から様々なビジネスマンが集まる場所で、中国経済についての書籍しかないという状況から、日本経済についての感心度合いは低いのかもしれないと感じました。

しかし、翻訳された日本のマンガは沢山あったので、日本のコンテンツパワーの強さは改めて感じました。

生活習慣病が蔓延するドバイ 5人に1人が糖尿病


ドバイに行って気づいたことは、日本の健康や長寿は当たり前じゃないということ。
日頃「日本は世界一長生きの国」と言葉では聞こえていましたが、“健康である事”を日本の強みとして感じたのは初めてでした。

そう気付いたきっかけは、ドバイのマクドナルドでコーヒーを頼んだ時。注文時にこちらが何も言わなくても、写真のようにスティックシュガー4本とミルクが3個ついてきました。


また別なタイミングでは、カンドゥーラを着た方がホテルのカフェで店員に「オレンジジュースが甘くないよ。砂糖持ってきて。」と言っていました。そしてオレンジジュースにスティックシュガーを数本入れているのを見て、こんなに甘い物が好きなんだと驚きました。

マクドナルド以外のお店でも、1杯1,000円前後という現地でちょっと高めのお値段のカフェで「ブラックコーヒー」を注文すると、何も言わず普通にスティックシュガー1本とミルク1本が提供されます。
また、1杯200円前後の価格帯のカフェで「コーヒーください。砂糖は要らないです」と伝えると、「砂糖要らないの?そしたら、ミルクは何個いるの?」と聞かれ、「砂糖もミルクも本当に要らない」と言うと、「わかんないなぁ」みたいな顔をされたことが何回かありました。

中東はお酒を飲まない代わりに甘い物が好きな地域だとは聞いた事がありましたが、ここまで糖分を摂取しているとは想像を超えていました。

調べてみると、UAEでは生活習慣病が蔓延していることがよくわかります。
なんとUAE人口の19%が糖尿病であり、男女とも約7割が肥満なのだそうです。

日本は世界で最も長寿を実現している国です。国民皆保険制度を前提とした医療水準の高さ、健康診断の普及、日常的に運動習慣など、日本の健康増進の力は誇れるものかもしれないと感じました。

日本企業が貢献できる場所は、世界にまだまだ沢山ある

恥ずかしながら、元々のドバイに対して私が持っていたイメージは「砂漠」「リーマンショックの時に、債務不履行を起こした国」「宗教的な戒律が厳しそう」くらいでした。しかし実際に行ってみると、東京と変わらないくらい発展していますし、暮らしにくそうなイメージは全くありませんでした。

少子高齢化や社会保障に関する負担増など、長期的に見ると縮小市場の日本国内にいると、「人生100年時代、どのように生きていくか」という言葉は、どちらかというと消極的な文脈で問われることが多いように感じます。
日本で育った私の感覚からすると経済はずっと停滞している印象を持ってしまいがちですが、世界へ目を向けて見れば伸びてる地域は様々なところにあり、「日本企業が貢献できる場所はまだまだ沢山ある」と感じました。

2016年ドバイでは、若者の覇気が足りない事に危機を感じて「若者担当大臣」というポストを新設、22歳の女性が就任しました。

これからの日本は外国人労働者を受け入れていく方向だと思います。
開発後進国の若者の立場に立った時、他の国を比べてみて、今の日本で働く事がどこまで魅力的に映るのか。10年20年後も日本で働きたいと多くの人が思ってくれる未来をどうやって創っていけるのか、真剣に考えようと思いました。


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