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		<title>スモールサンニュース - 論考</title>
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		<lastBuildDate>Mon, 22 Jun 2026 11:54:58 +0900</lastBuildDate>
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			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2026年6月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-6500.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



<!-- テキスト -->

<h2 >「レジリエントな経営者たち<br />
～時代の波にどんなに揺さぶられても<br />
『しなやか』に成長し続ける『したたか』な企業～」</h2>









































<!-- テキスト -->

<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>









































<!-- テキスト -->

<p>強風に揺れながらもポキンと折れない「しなやかさ」、逆風を順風に変えてしまう「したたかさ」、英語ではこれを「レジリエンス(resilience)」という。近年のビジネス環境の激動ぶりを見ていると、今こそそんな資質を備えた、まさに「レジリエント(resilient)な経営者」が求められていると強く感じる。実はスモールサン会員の中には少なからずそういう経営者がいる。その多くはスモールサンニュースにもすでにご登壇いただいており、その経営実践についてもたびたび紹介させてもらった。以下では、彼らの言動をあらためて思い起こしながら「しなやかで、したたかな会社づくり」のヒントを探っていこうと思う。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「先生とじっくり経営談義がしたい」</h3>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202606/large-7807e23778b9613c583d3a2f9c1f49a6a78fb94814b7e12e4e993d23afde3b66.png" data-rel="SmartPhoto[6500]" data-caption="">
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	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>私が石垣島と東京の二拠点生活を続けていることをご存じの読者諸氏は多いと思う。先日ある経営者が石垣島の拙宅を訪ねて来られた。現在ゼミ千葉のプロデューサー役を担っていただいている<a href="https://www.gojoh.com/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">株式会社五常</a>の代表取締役社長、河野佳介氏である。　<br />
「石垣島への興味」と「先生とじっくり経営談義がしたい」というのが来島の目的だと告げられた。実際、かなりの長時間にわたって五常の経営状況についてお話を聞かせていただいたのだが、その際同氏のお話を聞けば聞くほど、私は「この人こそ、レジリエントな経営者だ」と強く実感したのである。<br />
<br />
私がそう感じた直接のきっかけは、スモールサンニュースでも紹介したことのある同社開発の大型シーリングファンにまつわるエピソードである。<br />
同社はネットを介して台車のレンタルや販売を行って業績を伸ばしてきた会社であるが、ある時期から新たに倉庫や工場の暑熱対策として大型シーリングファンの開発・販売も手掛けるようになった。これが「当たった」。2018年には同社が開発したスマイルファン（SMILE FANS）が大ヒットし、数百という倉庫で導入されるに及んだ。ところが、この好調な歩みを一瞬にして止めてしまう事態が発生したのである。読者諸氏の記憶にもまだ新しい「新型コロナウィルス」である。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　「大型シーリングファンは工場・倉庫に設置して、大きく空気を回して熱中症対策を行うというもので、今ではもう本当に何百という倉庫に設置されています。でも、コロナ禍になって以降、多くの企業は暑熱対策にお金をかける余裕がなくなり、好調だった受注も一気にストップしちゃったんです」(2022年に開催されたスモールサン日曜大学での河野氏の発言)。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>当時は日本中の経営者にとって「コロナ禍をどう生き延びるか」が緊急かつ最大の経営課題だった。補助金の活用、金融機関からの緊急融資など、生き延びるための方策を多くの企業が模索していた。当然のことながら、五常でも対策会議が開かれた。<br />
しかし同社の場合、そのテーマは「逆風にどう耐えるか」だけではなかった。「こういう時だからこそ、何か新たなイノベーションに挑もうではないか」という問題意識、つまり「逆風」を「順風」に変えようというのがテーマだったのである。<br />
とはいえ、コロナ不況に日本中があえいでいる時期である。妙案は簡単には出てこない。会議出席者の言葉数も少なくなる。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「売り先を変えることもイノベーションですよね」</h3>









































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<p>そんな時、ある社員がこんな発言をした。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「新商品の開発だけがイノベーションではないですよね。既存商品の売り先を変える。これもイノベーションですよね。」</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>この発言には、当然こんな疑問が出される——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「たしかにそうだが、売り先を変えると言っても一体どこに売るんだ。どの企業もコロナ対応で目一杯。シーリングファンに資金を投じる余裕なんてないんだよ。」</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>発言者はこう続けた——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「企業がだめなら、学校はどうでしょうか」<br />
「コロナで休校騒ぎまで起きているのに、今シーリングファンを買おうなんていう学校があるのか。」<br />
「いや、コロナ禍だからこそ、買ってくれるのではないでしょうか。たとえば体育館で大型シーリングファンを回せば、体育館の中に気流ができて、換気を促進できますから、有効なコロナ対策になります。」<br />
「なるほど。暑熱対策ではなくコロナ対策としてシーリングファンを売ろうというわけだ。」</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>当時の会議でどんなやり取りがなされたかについて、河野氏がその詳細を語ってくれたわけではないが、概ねこんな議論を経て五常は学校向けシーリングファンの売り込みに全社的に取り組むことになった。その結果、何が起きたか。河野氏は言う——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「その結果、千葉県勝浦市の全校の小中学校の体育館にこのファンが入ったんです。でも、その用途は熱中症対策ではなくて、コロナ感染を抑制するための換気対策。これで一気に火がついて、その後海上保安庁などの公共部門の工事が増えてきたんです。モノは同じなんですが、「誰の」「どういう悩み」を解消するのか、その視点で見ていくと、また新たな発展が見えてくると思いました」(前掲、日曜大学での発言)</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「誰の」「どういう悩み」を解消するのか——それがビジネスの本質</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>一社員の発言を契機に新型コロナという「逆風」を「追い風」へと変えてしまった五常。そこには同社の「しなやかさ」「したたかさ」が端的に示されている。<br />
しかし、上記のエピソードを1人の従業員の「機転の良さ」の話として捉えたら、そこからは何も学べない。せいぜい「そんな機転の利く従業員がウチにもいてくれたらなあ」と嘆くのが精いっぱいである。<br />
<br />
重要なヒントは河野氏の発言の中にある。「モノは同じなんですが、「誰の」「どういう悩み」を解消するのか、その視点で見ていくと、また新たな発展が見えてくると思いました」——これである。<br />
拙宅の庭から石垣島を取り巻く青い海へと目をやりながら、河野氏が繰り返し私に語ったのもこのことである。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「『誰の』『どういう悩み』を解消するのか——わが社では、こういう視点で自分たちのビジネスを常に見る姿勢が従業員の中に浸透しているんです。私があれこれ言わなくても、従業員たちから次々にいろんな案が出されます。『この商品、こんなことで悩んでいる企業に提案したら、きっと喜ばれると思うんですが…』とか、『この商品にもう少し工夫を加えれば、これまでとは違うお客さんからも注文が得られると思うんです…』といった具合です。おかげで最近は私の出番がすごく減ってきました。こんなふうに平日に石垣島にやって来られるのも、実はその成果なんですよ。」(拙宅での河野氏の発言) </blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>「誰の」「どういう悩み」を解消するのか、ここにこそビジネスの本質がある——これは経営者河野佳介の根本思想だといってよい。河野氏はこの根本思想を日常的に従業員に語り続けることが自分の役割だと考えている。「既存商品の売り先を変える。これもイノベーションなんですよね」といって、シーリングファンの新たなビジネス展開を従業員が提案できたのも、実は河野氏のこうした日常的努力の成果にほかならない。<br />
<br />
ところで、従業員たちのこうした実践は、買い手である顧客とっては「五常が“思わぬ解決策”を自分たちに提供してくれた」と映る。そのため、五常は顧客から「感謝」されこそすれ、「値引きを求められる」ことがほとんどない。また、競合他社がこれまでマーケットとしてこなかった分野へと販売を広げることで、「他社との競争上、値引きを余儀なくされる」ということも避けられる。結果的に同社の利益率が高くなる。<br />
高利益率で有名な会社にファナックがあるが、五常は粗利率ではファナックを上回っている。ファナックの高利益は同社の卓越した技術力に起因しているが、五常の場合はそうではない。五常の高利益率は、ただただ従業員のもつ「ビジネス展開力」に寄るものなのである。こうして得られた高利益体質は、財務的な「強さ」となって逆風下でもポキンと折れない同社の「しなやかさ」を生むことになる。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >顧客が本当は「何」を求めているのか<br />
——それを知るための「2つの質問」</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>では、この従業員の「ビジネス展開力」はどのようにして培われたのだろうか。河野氏は言う——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「顧客がなぜ私たちの製品を必要としているのか。それを従業員ひとり一人がどれくらい深く分析できるか、会社の命運はすべてそこにかかっている。このことを、私は口が酸っぱくなるほど従業員に語ってきました。」(同上)</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>顧客のニーズを徹底的に掘り下げる“分析力”、これが五常という会社の強みであり、付加価値なんだと河野氏は言う。彼は、その“分析力”を高めるための五常ならではの「仕組み」も構築した。<br />
といっても、その「仕組み」はきわめて簡単である。台車をネット通販するのが五常の主要ビジネスであることはすでに書いたが、同社の通販サイトにはいわゆる「ショッピングカート」がない。注文は従業員が電話で受ける。その際、注文を受けた従業員は必ず2つのことを顧客に質問するルールになっている。1つは「なんでこの台車を欲しいと思われたんですか？」という質問、もう1つは「今までどうしていたんですか？」という質問である。「仕組み」といってもただこれだけのことだが、「この2つの質問をするだけで、お客様の悩みとか課題の本質が見えてくる」のだと河野氏はいう。<br />
<br />
たとえば「この台車が欲しいんですが…」と、サイトを見た顧客から注文の電話が入ったとしよう。通常の会社であれば、従業員は「ありがとうございます。何台お求めですか?」と対応し、以後注文内容の確認作業に入るだろう。ところが、五常は違う。注文を受けた従業員たちは真っ先に河野氏のいう「2つの質問」をするのである。たとえば、こんな具合である——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「この台車が欲しいんですが…」<br />
「お客様、失礼ですが、どうして台車がご入り用なんでしょうか？」<br />
「最近女性の従業員が倉庫の製品を運ぶことが増えたんだ。それで、台車を新たに購入しようと」<br />
「これまではどうされていたんですか。御社では女性が台車を使って物を運ぶこと自体あまりなかったんですか。」<br />
「そうなんだ。今まではウチには外国人労働者がたくさんいて、そういう仕事は彼らがしてくれていたから。でも、コロナ禍で外国人労働者が日本に来られなくなった。それで、女性たちにも製品を運ぶ仕事を手伝ってもらおうと。でも女性だと、やっぱり力がないからね。台車が必要になる。そこで、御社から何台か買おうと…」</blockquote></div>









































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<h3 >レジリエンスの根源は従業員が顧客との会話から得る「気づき」</h3>









































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<p>あらためて指摘する必要もないが、この会話は「モノを売り込む」ための営業トークではない。顧客のニーズの背後に何があるかを知るための会話である。<br />
このケースでいえば、顧客のニーズの背後に「コロナ禍でこれまで頼りにしてきた外国人労働者を使えなくなった」、「そのために女性労働に頼らなければならなくなった」という事情があることを、「2つの質問」を通して従業員は知ることになる。<br />
そして、気づく——電話は「台車が欲しい」というものだったが、この顧客が抱える問題は実は「台車の不足」ではなく「人手の不足」なのだということ、そしてその問題解決のためには「女性が働きやすい職場を作ること」が必要なんだ、と。<br />
そこで、従業員はこう会話を続ける——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「お客様、それならお客様が選ばれた台車はやめた方がいいですよ」<br />
「えっ、 なんで?」。<br />
「この台車は動かしにくいし、重い。それに、女性にとってはカゴの背が高くて前方が見えにくいので危険です。御社に今求められているのは“女性が働きやすい職場づくり”です。だったら、その視点で台車をお選びください。わが社には、女性従業員たちが女性のために開発した“天使のカゴ台車”というのがあります。これなら軽くて女性でも使いやすいし、カゴの背も高くなくて背の低い女性でも前方が見えやすくなっています。これを購入されれば、女性たちは「この会社、女性従業員のことを大切に考えていてくれるな」と感じると思いますよ。」</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>上記の会話はコロナ禍の下でのものだが、そこで課題となった「人手不足」はむしろコロナ禍が過ぎた後にこそ本格化する。人手が減れば、人が使う道具である台車へのニーズも減少する。とすれば、本来「人手不足」は五常にとって逆風のはずである。　　<br />
しかし、上記のような顧客との会話から、従業員は「人手不足」が女性向け台車へのニーズを生むことにすでに気づいている。この「気づき」が“ビジネス展開力”を生む。同社はそれを全社的な共通認識にすることで、「人手不足」を “追い風”にして女性向け台車の売上げを伸ばしていった。こうして逆風は順風に変えられた。なんとも「したたか」である。<br />
<br />
顧客のニーズを敏感に感じ取り、それをもっとも深いところで的確にとらえる——日々、五常の従業員はこれを求められ、鍛えられている。そのことが従業員に「ビジネスの展開力」を身につけさせ、それが様々な「提案」となって同社の発展を支えている。<br />
さらに言えば、同社は従業員が顧客との会話の中で得たちょっとした「気づき」を、たちどころに全社的な共有物にして戦略化していく仕組みも構築されている。先月号で話題に上がった同社の「チョレイ」(朝礼)もその仕組みの一つである。数年かけてこういう構造を社内に作りあげた河野社長を私は躊躇なく「レジリエントな経営者」と呼びたい。</p>








































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<div class="column-image-left">
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</div>

































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
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			<pubDate>Mon, 22 Jun 2026 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2026年3月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-6371.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



<!-- テキスト -->

<h2 >「アメリカによるイラン攻撃の不合理とその影響<br />
——『血迷った』としか思えない愚行で大打撃を蒙る日本の中小企業——」</h2>









































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<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>









































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<p>「血迷ったか、トランプ」——これが、アメリカによるイラン攻撃の報に接した時の私の最初の印象だった。そしてすぐに「これは日本の中小企業にも大打撃になる」という懸念が頭を過った。残念ながら、この懸念はすでに現実のものとなりつつある。事態は日々刻々と変化しているが、まずは現在(※本稿執筆は3月22日)までの情報をいくつかの視点から整理しておくことにしたい。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >“正当性”なき攻撃</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>今回のイラン攻撃について第一に抑えておかなければならないのは、それが「正当性」を欠いているという点である。<br />
アメリカ国際法学会は2日に会長声明を発表し、「トランプ氏はイランによる差し迫った攻撃の証拠を何ら提示しておらず、先制攻撃を正当化する根拠はない」として、イランへの軍事攻撃が「国連憲章が定める武力行使禁止の違反に当たる」と批判した。<br />
トランプ大統領は今回のイラン攻撃を「米国、米国の軍隊、海外の基地、そして世界中の同盟国を直接危険にさらす脅威」を排除するためだとして正当化している。しかし、国際法学会が指摘するように、そういう脅威が差し迫っていることを示す根拠を彼は何ら示していない。<br />
アメリカの国防総省当局者も、3月１日「連邦議会関係者に対する非公開のブリーフィングで、イランが米軍への先制攻撃を計画していたことを示唆する情報はなかった」と発言している(Reuters2026.3.2)。そもそも、トランプ大統領自身がイランの核施設とミサイル能力は昨年6月の攻撃(いわゆる12日間戦争)ですでに破壊されたと述べていたはずである。<br />
トランプ政権の報道官は「差し迫った脅威」について、それは「大統領の直観」だ(Trump had a ‘feeling’ about an imminent Iranian threat.)と「説明」している。一人の人間の「直観」で3000人以上の命が失われ——その中には、米軍による小学校への爆撃で子供たち175人の命が失われたという悲惨な事実も含まれる——、また一人の人間の「直観」で世界中が経済的危機に晒されるというのはあまりにも理不尽である。トランプ大統領からのどんな強い要請があっても、この理不尽な戦争に日本が加わることのないよう高市首相の賢明な判断に期待したい。</p>









































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<h3 >空爆だけで政権転覆を狙うという“不合理” </h3>









































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<p>今回のイラン攻撃について抑えておくべき点の二つ目は、それが目的と手段の一致しない極めて不合理な戦いだという点である。<br />
トランプ大統領は空爆によってハメネイ氏を殺害した後、イラン市民に「今こそ政権打倒のチャンスだ」と蜂起を呼びかけた。しかし他方で、彼は地上軍の投入はしないと公言している。とすれば、この「呼びかけ」は市民に対し「地上軍の援護無しに革命防衛隊の銃口に素手で立ち向かえ」と言っているに等しい。あまりにも無責任である。<br />
そもそも「地上軍投入無き空爆」は政権転覆という目的を達成するには手段たりえない。そんなことが可能であるなら、ウクライナ国内に無数のミサイルを撃ち込んでいるロシアはとっくにゼレンスキー政権を転覆させていたはずである。<br />
アメリカの情報機関もイラン攻撃の約1週間前に「空爆だけでは体制転換は難しい」とする報告書をまとめていた。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>NICは、アメリカ大統領のために、CIA（中央情報局）など18の情報機関が集めた世界情勢の情報を分析する諮問機関です。<br />
ワシントン・ポストは、NICがアメリカとイスラエルが攻撃を行う約1週間前に、「大規模攻撃を行ったとしてもイランの体制転換は難しい」と分析する報告書をまとめていたと報じました。報告書は、「アメリカが限定的または大規模な攻撃を行ったとしても、イランの指導部は最高指導者・ハメネイ師の殺害を見越して事前に定めた手順に従って体制を維持するだろう」と結論づけていたということです。<br />
<div align="right">——FNNプライムオンライン2026.3.8</div></blockquote></div>









































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<p>こうした情報を手にすれば、通常の判断力をもってすれば、「空爆でイラン政権を転覆させる」などとは考えないはずである。<br />
それにもかかわらず、トランプ大統領は空爆に踏み切った。まさに「血迷った」としか思えないのだが、この無謀な判断の結末こそが戦争の「長期化」である。<br />
手段が目的に添ったものであれば、その手段を継続的に行使すればやがては目的が達成され戦争も終結することになる。しかし、そもそも手段が目的達成に適さないものであれば、それをいくら行使してもそういう終結は望めない。否応なしに戦争は長期化してしまう。今回のイラン攻撃について「長期化」を予測する専門家が多いのは、まさにそのためである。</p>









































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<h3 >“武器の枯渇”という停戦への圧力</h3>









































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<p>「長期化やむなし」といっても、無限に戦争を続けるわけにはいかない。そこで次に、戦争終結に導く「圧力」という視点から、今後を展望してみたい。<br />
その圧力の一つは、武器の枯渇である。武器が枯渇してしまえば、戦争を続けることはできない。「イランの側ならまだしも、世界一の軍事大国であるアメリカで武器の枯渇などあり得ない」と考える読者は少なくないだろう。私もそのように思っていたのだが、メディアによればそうでもないらしい。<br />
たとえば、日本経済新聞は3月8日、「トランプ氏を悩ます米軍の武器不足」という見出しを付けて、下記のように伝えている——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>米軍は開戦から3日間で、軍事基地や政治施設など2000カ所を攻撃した。米戦略国際問題研究所（CSIS）の推計では開戦100時間で米軍が消費したミサイルは2600発。2025年6月の「12日間戦争」も合わせると約500発あったSM3(迎撃ミサイル)は4分の1を失い、地上配備型ミサイル迎撃システム（THAAD）も3割程度を消費したという。…<br />
根本の問題は米防衛産業の生産能力不足にある。1発あたり1400万ドルもするSM3は月間生産量が5発程度。にもかかわらず、米軍はイラン戦の開始100時間で24発も使ったとCSISは推計する。155ミリ砲弾も月産4万〜5万発にとどまり、同25万発とされるロシアに遠く及ばない。<br />
冷戦終結後、米防衛産業は51社体制からビッグ5に集約され、従業員数も1985年の320万人から66%減った。ドローンを迎撃するスティンガーミサイルは供給元がRTX1社しか残らない。ロッキードは最新のパトリオット（PAC3）の生産数を年600発から2000発まで増やすと決めたが、実現に7年もかかる。<br />
<div align="right">——日本経済新聞2026.3.8</div></blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>注意が必要なのは、上記の記述は開戦後3日を経た時点の状況を記したものだという点である。アメリカはその後さらなる大規模攻撃を続けており、武器不足問題はさらに深刻化していると推察される。<br />
また、アメリカが使用する武器とイランのそれとの間にある「非対称性」も問題視されている。イランが中東の米軍基地などを爆撃する際に主力としている武器は「シャヘド」と呼ばれる無人機ドローンである。その製造コストは550万円程度と推測されており、数億円といわれるパトリオットやスタンダードのような迎撃ミサイルとはケタ違いの低コストである。これをイランがどれだけ保有しているかは定かではないが、数万というレベルに達しているのではないかと言われている。というのは、組み立てや配備に大規模なインフラを必要とする弾道ミサイルとは異なり、シャヘド型ドローンはガレージでも組み立てられるからである。発射もピックアップトラックの荷台からでも可能だという。Forbesは3月7日配信の記事でこう伝えている——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>イラン政権は、相手より長く持ちこたえることが最終的な勝利につながると見ている可能性が高い。シャヘドなどのドローン攻撃が続けば、米国とその同盟国には継続的な負担が生じる。断続的に飛来するドローンによって、米軍が保有する限られた防空ミサイルの在庫は次第に減っていく。その先に何が起きるのかは分からない。<br />
<div align="right">——Forbes Japan 2026.3.7</div></blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>武器の枯渇という「圧力」に負けて、トランプ大統領が停戦に踏み切ろうとする日はそれほど遠くないかもしれない。しかし、イランがそれを受け容れるためには、その「停戦」がアメリカにとって武器の製造や補充のための時間稼ぎではないことが前提されなければならない。すなわち、将来に渡る「安全」が保障されてはじめてイランは停戦に応じことができる。しかし、将来の「安全」を保障して停戦するなどということは、長年イランを宿敵とし、可能な限りの打撃を与えたいと考えているイスラエルにとっては受け入れがたい妥協である。イスラエルに対しては、トランプ大統領の強固な支持者たちからなるキリスト教福音派が強く支持しており、イスラエルを裏切ることは大統領にとって自らの支持者たちを裏切ることになりかねない。武器の枯渇という「圧力」に怯えながらも攻撃を続けざるをえない——これが、トランプ大統領が目の当たりにしている矛盾に満ちた現実なのかもしれない。</p>









































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<h3 >“中間選挙”という圧力</h3>









































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<p>戦争終結に導く「圧力」という点では、もう一つアメリカ国内の世論が重要な意味を持つ。<br />
もともとトランプ大統領がイラン攻撃に踏み切った背景には、11月の中間選挙に向けて支持率が低迷している現状から抜け出したいという思惑があったといわれている。物価高、強引な移民排斥、エプスタイン問題などを要因とする支持率低下をイラン攻撃によって反転・上昇させようというわけである。<br />
たしかにアメリカの在イラン大使館がイスラム革命の支持者らによって1年以上にも亘って占拠された1979年の大使館占拠事件以来、アメリカ国民の反イラン感情は根強いものがある。トランプ大統領が、イランを攻撃すれば政権支持率が上昇すると目論んだとしても不思議ではない。<br />
しかし、冒頭で述べたように今回のイラン攻撃は正当性を欠いた戦争である。そのことは世論調査にも表れ、ほとんどの調査でイラン攻撃への不支持が支持を上回っている。たとえば、イランへの攻撃後の2月28日と3月1日に行ったCNNの世論調査ではイラン攻撃を「支持しない」と答えた人が59％とほぼ6割に達し、「支持する」の41％を大きく上回った。また、同様の時期に実施されたロイターの調査では「反対する」と答えた人が43％だったのに対し、「支持する」と答えた人は27%と3割を切っている。<br />
興味深いのはロイターの調査で「今後、ガソリン価格が上昇すれば約45%の人がイラン攻撃への支持が弱まる」と答えていることである。<br />
周知のように空爆に対する報復としてイランはホルムズ海峡を事実上封鎖し、その結果原油価格は急騰して、当然のことながらアメリカのガソリン価格も上昇している。図1に明らかなように現在のガソリン価格は1ガロン3.28ドルと、2ドル程度だったイラン攻撃前と比較すると6割以上上昇している。</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-left">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202603/7b6950911d5d6335da11cc6ae89c9f694f044379d00f9dc777d285cf6543a223.png" alt="" width="1364" height="625">
</div>

































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>戦争が長期化すれば、「イラン攻撃への支持が弱まる」だけでなく、トランプ政権への批判がさらに高まることは間違いない。共和党議員からもすでにトランプ大統領への批判の声が上がり始めている——</p>








































<hr class="clearHidden">

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<div class="entry-container"><blockquote>トーマス・マッシー下院議員（ケンタッキー州）に至っては「たった10日で、ガソリン価格は47セント、ディーゼル価格は83セント、イランとの戦争のせいで上昇した。これはアメリカ・ファーストではない」とXに投稿している。<br />
<div align="right">——Newsweek 2026.3.17</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>トランプ大統領が中間選挙を睨んで「支持率上昇のためにイラン空爆という賭けに出た」のだとすれば、これはどう見ても彼の「負け」である。実際、調査会社フォーカルデータが3月6～10日に実施した世論調査では、中間選挙で民主・共和党のいずれの候補者に投票するかという問いで民主党候補者への支持率が50％となり、共和党候補者（44％）を6ポイントも上回った。2ポイント差（民主党48％、共和党46％）だった1月の調査時より両者の差は3倍も拡大している。<br />
1月のテキサス州議会議員の補欠選挙でおよそ35年ぶりに共和党が民主党に大差で敗北したことに象徴されるように、この間民主党は全米各地の州議会選挙で次々に勝利し、この1年余りで共和党が保持していた28議席を奪取した。このまま11月の中間選挙に突入すれば、下院のみならず、安泰といわれていた上院でも共和党は過半数を割りかねない。そうなれば、トランプ大統領には弾劾裁判が待っている。そんな事態を避けたければ、イランとの戦争を早期に集結させなければならないのだが、上記のようにそれも容易ではない。<br />
トランプ大統領はせめて原油価格だけでも下げようと、ホルムズ海峡でのタンカー護衛をアメリカ海軍に要請したが、海軍はあまりにも危険だとしてこれを拒否した。そこで、NATO諸国や日本や中国にも艦船派遣を求めたが、やはりどの国もこれに応じようとしない。今やトランプ大統領は国際的にも孤立し、八方ふさがり状態。完全に袋小路に入ってしまったトランプ大統領が再び賭けに出て、地上軍の派遣に踏み切ったりしないことを祈るばかりである。</p>









































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<h3 >原油、ジェット燃料、LNGの価格急騰</h3>









































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<p>　トランプ大統領が窮地にあるのはいわば自業自得だが、そのあおりを食らう我々は大変な迷惑である。戦争が長期化すれば、日本の中小企業の中には深刻な経営危機に陥るところも現われる可能性がある。以下では、イラン攻撃の経済的影響について概観しておこう。<br />
　影響の第一はいうまでもなくエネルギー価格の急騰とその不足である。WTIは一時１バレル=120ドル近くまで上昇し、最近は98ドルあたりで推移している(図２)。イラン攻撃前 (65ドル程度)と比較すると50％の値上がりである。 国際エネルギー機関（IEA）加盟国は11日に4億バレルの石油を放出することで合意したが、原油価格を下落させるには至っていない。ホルムズ海峡は世界の石油輸出量の5分の1を担う輸送ルートである。そこが事実上封鎖されているかぎり、基本的な解決は望めない。</p>








































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		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202603/bc7564957d53ff889761bca1efc7ea0c91136c9830cc021e2d6ac3f87a8ae4a8.png" alt="" width="1076" height="503">
</div>

































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<p>原油価格の急騰に伴ってアメリカのガソリン価格が急上昇していることは先に述べたが、日本でも1リットル200円を超える価格で販売するガソリンスタンドが続出した。日本政府は石油元売り業者に補助金を出すことで価格を170円程度に抑える施策を実施しはじめており、早晩170円程度にまで下がると予想される。<br />
ただ、政府はその補助金の財源に基金(2800億円)を充てるとしており、「１リットルあたり200円のガソリン価格を170円程度に抑え続ける場合、基金は４月半ばには枯渇し、今年度予算の予備費残高を活用しても８月半ばには底をつく」とする試算もある(読売新聞2026.3.18 )。<br />
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化すれば、政府も上限170円を180円、190円と徐々に切り上げて行かざるをえなくなる可能性もある。ガソリン価格の上昇は物流コストの増加を通して多くの中小企業の経営を圧迫するとともに物価の全般的上昇を引き起こす。今後が懸念される。<br />
原油価格の急騰はガソリンだけでなく、ジェット燃料の価格急騰も引き起こしている。ジェット燃料の価格はすでにイラン攻撃前に比して5割以上も上昇している。各国の航空会社が燃料サーチャージを含む航空運賃の値上げに踏み切っているが、この状況で推移すれば、日本の航空各社も6月の運賃改正時に大幅引き上げを余儀なくされると予想されている。<br />
現在原油価格以上と言っていいほどに注目されているのが、LNG(液化天然ガス)をめぐる動向である。ホルムズ海峡封鎖は世界のLNG輸送の20%を占めており、その封鎖が大きく影響することはいうまでもない。それに加えて、イランの攻撃でカタールの生産施設の一部が損傷し、3～５年の生産停止を余儀なくされている。同国エネルギー相は「輸出能力の17%が停止した」(３月19日の発言)と述べている。<br />
カタールはアメリカに次ぐLNG生産‌国であり、世界の輸出の2割を占めている。カタールのLNG輸出の80％以上はアジア向けであり、そのためアジアのLNGスポット取引価格はイラン攻撃前の2倍超に上昇している。<br />
日本は火力発電の燃料の多くをLNGに依存し、都市ガスとしてもLNGは不可欠な存在である。日本のLNG輸入先はオーストラリアが4割を占め、中東依存度は10%程度と低い。この点、9割を中東に依存する原油とは異なる。したがって供給面には当面問題ないと言われている。また、日本のLNG調達は数十年単位の長期契約が大半で、スポット調達は2割にとどまっている。スポット価格の急騰がそのままLNGの調達コストに反映されるわけではない。<br />
ただし、LNGの長期契約においてはその価格が原油価格に連動して決まる仕組みになっているため、高騰している原油価格がやがて——6月くらいからといわれている——電気料金やガス料金の大幅値上げにつながる可能性は高い。</p>








































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<!-- テキスト -->

<h3 >素材不足で日本産業が根底から揺さぶられる</h3>









































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<p>イラン攻撃の影響はエネルギーだけにとどまらない。石油からは様々な産業用素材が生産されており、供給元として中東に大きく依存しているからである。なかでもナフサや尿素の中東依存は4割に達しており、ヘリウムも3割に達している(表1)。</p>








































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		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202603/31b781643df49198dfae16c1150558dca16958b29049d14ef5394366a919c3b8.png" alt="" width="2028" height="1231">
</div>

































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<p>ナフサは石油を精製する過程で得られ、そのナフサを熱分解してプラスチックの原料となるエチレンやプロピレンなどが生成される。したがって、ナフサの不足はプラスチックの不足を生み、自動車や半導体、家電、包装材、その他日用品など幅広い分野での製造に支障を来たすことになる。<br />
ナフサの価格はイラン攻撃前と比べてすでに5割以上も上昇している(図３)が、関連業界では価格よりもモノそのものの不足が懸念されている。日本のナフサは4割超が中東からの輸入で賄われている。そのため、たとえば出光興産は「封鎖が長期化すればエチレンの生産設備を停止する可能性がある」ことをすでに取引先に通知した。プラスチック加工などに関わるスモールサン会員企業へのヒヤリングでも「モノが入って来なくなるのではないか」という心配の声が多く聞かれ、「現在仕入れ先からは通常の量以上の注文は受け付けない」とする通達を受けているということである。</p>








































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		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202603/5bdf967e3a8c08eccec5284e3175438702a45293a77963aca863f74177c46845.png" alt="" width="2126" height="1024">
</div>

































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<p>半導体の製造に不可欠とされるヘリウムは天然ガスから分離・精製される。日本では輸入の37％を中東に依存しており、これも戦争の長期化によって不足が生じるのではないかと懸念されている。仮にヘリウム不足で半導体の製造に支障が起きるようなことになれば、これも産業の根幹を揺るがすことになる。<br />
LNGから抽出される尿素もイラン攻撃前に比して3割以上値上がりしており、戦争長期化で不足に陥ることが懸念されている。尿素の価格高騰や品不足は化学肥料の生産に影響を及ぼす。肥料の価格が上昇すれば、農産物の価格上昇につながる。<br />
以上概観しただけでも、今回のイラン攻撃がもたらす影響は甚大であり、日本の産業は根底から揺さぶられかねない状況にある。<br />
ナフサにせよ尿素にせよ、この数年間で国内生産比率が大きく低下してしまっている。早急な回復は望めないが、政府は日本の「国民経済としての自立性」を高めるべく、長期的視点に立った産業支援策を講じる必要がある。それなくして、兵器購入を増やしただけでは日本安全は保障されないということを今回の戦争は教えている。<br />
トランプ大統領はイラン戦争からの「近い将来の撤退」を口にしてはいるが、他方で中東への米軍増派を指示し、強襲揚陸艦も配備しようとしている。いよいよイランに地上軍を入れるつもりなのかと思わせる動きである。また21日には、イランに対し「48時間以内のホルムズ海峡開放」を要求し、さもなければ「発電施設を攻撃し、壊滅させる」とSNSに書き込んでいる。そうなれば、戦争はますます泥沼化しかねない。<br />
————<br />
経営者の皆さん、ともかくも情報収集だけは怠らないようにしましょう。私も皆さんへの情報提供に努めます。</p>








































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<p><div align="right">——2026.3.22執筆</div></p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-6371.html</guid>
			<pubDate>Mon, 23 Mar 2026 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2026年2月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-6339.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



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<h2 >「“４つの視点”から「高市自民圧勝」を読み解く　<br />
―今こそ、太宰春台に学べ!―」</h2>









































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<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>









































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<p>江戸時代中期の儒学者、太宰春台(だざいしゅんだい)——読者諸氏はこの人物のことを覚えておられるだろうか。<a href="https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-4478.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">2022年8月号</a>と<a href="https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-4530.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">同年9月号</a>のスモールサンニュースで、企業経営にもヒントになるとして太宰春台の「知るべきこと四つ」を取り上げた。本稿は、その「四つ」を視点にして、今回の衆議院選挙での「高市自民圧勝」を読み解いてみたい。</p>









































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<h2 >(Ⅰ)太宰春台の「知るべきこと四つ」</h2>









































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<p>22年8、9月号をお読みでない方もおられるだろうから、まずは太宰春台のいう「知るべきこと四つ」について簡単にふりかえっておこうと思う。<br />
<br />
春台はその著書『経済録』——ちなみに同書は「経済」という用語を本の表題に据えた最初のものだと言われている——の中で、「およそ経済を論ずる者、知るべきこと四つ有り」と説いている。ここでいう「経済」はエコノミーではなく、「経世済民(けいせいさいみん)」(世の中をうまく治めて人々を苦しみから救うこと)を指す。すなわち、世の中をうまく治めるためには、為政者は「四つのこと」を知らなければならないというのが春台の本意である。私が22年8、9月号で春台を取り上げたのは、この「四つ」が為政者のみならず、企業経営者にとっても「知るべきこと」だと考えたからである。<br />
<br />
さて、ではその「四つ」とは何か。春台は言う——</p>









































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<div class="entry-container"><blockquote>「およそ経済を論ずる者、知るべきこと四つ有り。一つには時を知るべし。二つには理を知るべし。三つには勢を知るべし。四つには人情を知るべし。」<br />
——太宰春台『経済録』(『日本思想体系』第37巻)、岩波書店、16ページ。</blockquote></div>









































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<p>「時」「理」「勢」「人情」——以下、それぞれ簡単に解説を加えておく。</p>









































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<h3 >時を知るべし</h3>









































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<div class="entry-container"><blockquote>「第一に時を知るとは、古今の時を知ることである」[注1]。</blockquote></div>









































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<p>春台はこう述べて、国家統治の仕組みが「時」と共に大きく変化してきたことを指摘している。そこで述べられていることは、現代風に表現すれば、政治を行うに当たっては、その時々の「時代の特性」を踏まえる必要があり、それを無視しては「世の中をうまく治める」ことはできないのだということである。<br />
<br />
たしかに「時」の変化とともに、「何が正しいか」という「真理」も変化する。企業経営でいえば、かつてはトヨタのカンバン方式がもてはやされたように「在庫を最小限に抑えること」が経営の「真理」だった。しかし、モノの供給が不安定で人手不足も深刻な今日では「ある程度余裕をもって在庫を確保しておくこと」が「真理」とされている。<br />
このように「時」の変化とともに「何が正しいか」も変化する。したがって、「時を知る」ことなく経営を行えば失敗しかねない。これは、企業経営者であれば誰しも納得しうることであろう。<br />
<br />
この点に関連して、今日とくに大事なのは「デフレ期」と「インフレ期」の切り分けである。日本は数年前までデフレに悩まされてきた。しかし、今はインフレに悩まされている。デフレ期の常識をインフレ期である今日に持ち込んで企業経営に当れば失敗を招く。これは経済政策についても同様である。この点の検証は後論で行う。</p>









































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<h3 >理を知るべし</h3>









































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<div class="entry-container"><blockquote>「第二に理を知るとは、理は道理の理ではなく、物理(物の理)の理である」[注2]。</blockquote></div>









































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<p>ここでいう「理」は倫理や道徳を指す「道理」のことではなく、「物の理」のことなのだと春台は言う。では、「物の理」とはどういうものなのか。</p>









































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<div class="entry-container"><blockquote>「およそ物の理には必ず順逆がある。それゆえに物を治めるに、理に順(したが)えば治まり、理に逆らえば治まらない。たとえば木をけずるが如し、木のもくめを順にけずれば、刃は滞らずして思うようにすらすらとけずれる。そのもくめを逆にけずろうとすれば、必ず渋ってけずれない。」[注3]。</blockquote></div>









































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<p>そして、春台はこう続ける――</p>









































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<div class="entry-container"><blockquote>「このように物々に必ずその理がある如く、天下のことにも、また必ずその理がある。政を為してもしもその理に逆らえば、大事も小事も決して行われない。…それだから政を為す者は、事々についてその理をもとめねばならぬ。すでにその理が得られれば、その理に順って逆らわぬように行うべきだ。これを理を知るという」[注4]。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>ここで春台がいう「理」とは現代の用語でいえば「法則」にほかならない。自然には「自然の法則」(物の理)があるように、社会には「社会の法則」(天下の理)がある。そうした法則の存在を無視して事にあたれば、結局はうまくいかない。だから、政治を行うに当たっても「法則」(理)を知り、それに「逆らわぬように行うべきだ」と春台は言うのである。<br />
<br />
こうした春台の指摘が重要なことは、現代を生きる我々でも容易に実感できる。「法則」を理解しない、「理に逆らった」政策がいかに混乱をもたらし、場合によっては悲惨な結果を招くかを度々体験させられてきたからである。たとえばトランプ米大統領の関税政策や移民政策がアメリカ経済や国民の生活をどれほど混乱に陥れたか。これはトランプ大統領が「理に逆らう」政策を権力に任せて強引に実施しているからである。さて、日本は大丈夫か。この点についても考察は後論に委ねる。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >勢を知るべし</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>春台は、「勢」というのは「常理の外」にあるものだと書いている。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「勢は事の上にあって、常理の外なるものである。たとえば水と火のようなものだ。水は火に勝つ者だけれども、少しの水で大火を救うことができないのは、火の勢が強いからである。また風は火を熾(さか)んにする者だが、灯燭(とうしょく)の火が風に吹かれて消えるのは、火の勢が風に及ばないためである。…また水は低いところに流れる者だが、激して行[や]れば、高いところへも上がるのは、勢のためである」[注5]。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　ここで春台が強調しているのは、物事には一見「理」に合わない、法則に反するようなことも多々起きるということである。これは「勢」によるものだ。だから、「理」を知っただけでは事を為すことはできない。「理」と共に、それとは別の——「常理の外なる」——「勢」を知らなければならないと、春台は言うのである。<br />
<br />
注意が必要なのは、「勢」には二つの側面があるということである。<br />
一つは、「法則の執行者」としての「勢」である。「水をかければ火が消える」というのはたしかに一つの「法則」(理)だが、それを実現するためには水にそれなりの「勢い」がなければならない。「勢」こそが「法則の執行者」なのであり、「勢」なくして「法則」(理)は貫徹しない。春台が「理を知って勢を知らねば、大事を行うことができない」[注6]と言っているのはこのことにほかならない。<br />
<br />
今一つは、「法則からの逸脱」を引き起こす「勢」である。高いところから低いところに流れるのが水の「法則」(理)だが、水に勢いがあれば、それに反して水は「高いところにも上る」。「勢」は「法則からの逸脱」を可能にするのである。とはいえ、それは一時的で、やがて水は落ちてくる。「法則」(理)に反した「勢」には限界がある。だから、春台が言うように「勢を知って理を知らなければ、大謀を立てることはできない」[注6]のである。<br />
<br />
　この「勢」に関する春台の指摘は、企業経営においてもきわめて重要な指摘である。たとえば、ある事業計画を実現しようと経営者が頑張っているのに上手く行かないという場合、その事業計画が「理」に反しているからなのか、それとも計画には間違いはないが、それを実現する「勢」が社内に不足しているからなのか。そのどちらかを見極める必要がある。そのどちらかによって対応策も異なるからである。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >人情を知るべし</h3>









































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<div class="entry-container"><blockquote>「第四に人情を知るとは、天下の人の実情を知ることである。実情とは、好・悪・苦・楽・憂・喜の類をいう。…これらの情は、皆んな人の天性の誠から出て少しも偽りのないものだから、これを実情という。…/ およそ政治を施して、人情に協[かな]えば、民は従いやすい。人情に悖[もと]れば、民は従わない。」[注7]。</blockquote></div>









































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<p>春台はこう続ける——</p>









































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<div class="entry-container"><blockquote>「およそ人情を知ることは、物の理を知ることよりも難しい。物の理は、よく書物を読み学問した者はこれを知る。しかし人情は書物を読み学問をしただけでは知られない。天下の人は…その好悪苦楽が一様でないから、尋常の道理で、外から遥かに推察しただけでは、あたらないことが多い。」[注8]。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>要するに、「人情を知る」とは人の価値観や嗜好の多様性を知ることなのである。したがって一般論(尋常の道理)は通用しないのだと春台は言う。<br />
これは、企業経営においてもきわめて重要な観点である。現代においては人々の価値観や嗜好はますます多様化している。経営者は従業員や消費者の「人情」を理解すべく、不断の努力が求められていることを忘れてはならない。</p>









































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<h2 >(Ⅱ)「四つ」の視点から高市自民の大勝を読み解く</h2>









































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<p>さて、前節で簡単に解説した春台の「知るべきこと四つ」を視座に据えて、以下では今回の総選挙での「高市自民圧勝」を読み解いてみたい。</p>









































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<h3 >「積極財政論」と「強いリーダー像」で「人情」を射る</h3>









































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<p>「大勝」という選挙結果は、何よりもまず春台のいう「人情」において、高市自民が見事な成功を収めたことを示している。それはどのようにして可能になったか。<br />
その際大きな役割を果したのが、選挙戦で高市氏が繰り返し訴えた「緊縮財政から積極財政への転換」である。選挙戦の最中、高市氏はたとえばこんな具合に演説をした。——</p>









































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<div class="entry-container"><blockquote>日本列島を強く豊かに! 皆様のお力が必要でございます。責任ある積極財政。 日本をもっともっと成長させてみせるこの新しい取り組みが、自民党の政権公約に初めて入りました。…大きな経済政策の転換を皆様に示したのです。これを審判していただきたい。日本の可能性を信じるか信じないかです。可能性を信じてください。希望を持ってください。まだまだ日本には可能性がある。そして経済成長ができる。<br />
——高市氏の街頭演説動画から抜粋</blockquote></div>









































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<p>低迷する景気と物価高で国民の間には閉塞感とやり場のない憤りが蔓延している。高市氏は、国民を苦しめている経済の低迷は「緊縮財政」が原因なのだと断定し、「積極財政」へと転換すれば状況は一変、再び「成長する日本」が出現するのだと主張した。そして、それを「信じるか信じないか」と国民に迫り、信じるのであれば自民党に一票を、と訴えたのである。<br />
<br />
「積極財政」が本当により良い未来を約束するものなのか。おそらく高市氏の演説に感銘した多くの聴衆も、それを肯定するだけの理論的根拠など持たなかったに違いない。あったのはただ一つ。それを「信じたい」という“心情”である。閉塞感が強ければ強いほど、そこからの脱却が可能だというリーダーの言葉を“信じたくなる”。それがまさに「人情」である。<br />
「人情に協[かな]えば、民は従いやすい」と春台が記したように、この高市氏の言葉に導かれるように有権者の多くが投票所に向かい、自民党に投票した。<br />
<br />
「積極財政」そのものは未だ本格稼働の段階には至っていない。したがって、その有効性を確認する術を有権者は持っていない。言ってみれば、それは「絵に描いた餅」にすぎないのである。その「絵にかいた餅」を有権者に「実現可能なもの」と思わせたものは、一体何だったのか。<br />
<br />
その答えは、高市氏がまとった「強いリーダー」というイメージにある。彼女の「強いリーダーシップ」をもってすれば、彼女が示した「絵」は実現可能なのかもしれない。多くの有権者はそう感じたのである。<br />
総理になって早々、高市氏は台湾有事に関する不用意な——と、私は思うのだが——発言によって中国からの反発を招いた。発言の撤回を求める中国は事実上の渡航規制などによって日本に圧力を加えた。それでも、高市氏は発言を撤回しなかった。このことが、「中国の圧力にも屈しない強いリーダー」というイメージを高市氏に与えたのである。<br />
<br />
「中国の圧力に屈しない」といっても、その「圧力」で損失を被っているのは観光業界などの民間企業やそこで働く国民である。高市氏自身はなんの損失も被らない。それをいいことに——かどうかは定かではないが——、彼女は有効な外交上の対策を講じることもなく、事実上事態を放置していた。<br />
こうした高市氏の態度は私などからみれば“無責任”としか見えないのだが、国民にはそのように映らなかったようである。これを機に、「大国である中国に対しても毅然と胸を張る強いリーダー」というイメージが広がったのである。その「強いリーダー」である高市氏が「信じてください」と言うのであるから、「信じてみようか」と多くの有権者が思った。明るい展望が描けない時ほど、国民は「強いリーダー」を欲する。これもまた「人情」である。</p>









































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<h3 >巨額資金を使ったネット戦略で「勢」を得る</h3>









































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<p>こうして高市自民は多くの有権者の「人情」を射ることに成功したのであるが、それだけでは衆議院の3分の２の議席を獲得するほどの大勝には至らなかったであろう。大勝を得るにはもう一つ、春台のいう「勢」が必要だった。高市氏はどのようにして「勢」を得たのか。　<br />
それに大いに貢献したのが、巨額資金の投入も囁かれる「ネット戦略」である。選挙戦最中の2月4日、時事通信は驚きをもって以下の記事を配信した。</p>









































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<div class="entry-container"><blockquote>自民党が衆院選公示前にユーチューブに投稿した高市早苗首相（党総裁）のメッセージ動画の再生回数が４日、１億回を超えた。政治関連の動画としては異例。Ｘ（旧ツイッター）などで広告として配信していることが影響しているとみられ、「広告費にいくら使ったのか」といった疑問の声も出ている。動画は、首相が「未来は自らの手で切り開くもの。自民はその先頭に立つ」と訴える内容。公示前日の１月２６日に党公式チャンネル（登録者数19.6万人）に投稿され、10日足らずで大台を超えた。日本のミュージックビデオの最速記録とされる音楽ユニットＹＯＡＳＯＢＩのヒット曲「アイドル」でも３５日を要している。<br />
——時事通信政治部、2026.2.4配信</blockquote></div>









































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<p>登録者数20万人にも満たない党公式チャネルに投稿された動画が、10日もしないうちに瞬く間に1億回を上回る再生回数を記録した。投票日前日には1億6000万回にまで達している。これはいかにも異様な事態である。</p>








































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	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202602/large-c3c3c9894e13e2ea3dd9704ab4b0ca5f3cac512470262f6ec33c53fe8fa14b3a.png" data-rel="SmartPhoto[6339]" data-caption="">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202602/c3c3c9894e13e2ea3dd9704ab4b0ca5f3cac512470262f6ec33c53fe8fa14b3a.png" alt="" width="340" height="541">
	</a>
</div>


































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<p>「自民党は数億円の資金をネット戦略に投じたに違いない」。こう考えるのは極めて自然な帰結である。しかも、高市氏にはその傍証ともいえる事実がある。24年の総裁選——党員投票ではトップでありながら、議員による投票で石破氏に敗北を喫した総裁選——でも、高市氏(その政治団体) は宣伝費として8000万円を超える資金を投じた。このことはが政治資金報告書で確認されている。ちなみに、高市氏と総裁選を争った小泉進次郎氏の宣伝費は2000万円ほど、石破茂氏においては40万円ほどであった。高市氏の突出ぶりは誰の目にも明らかである。<br />
<br />
ネットを使って「勢」を得る手法については——それにどれだけの資金を投ずるかが選挙結果を決定することになりかねないため——疑問を呈する声も多い。図1で各党の再生回数を比較すれば、自民党がネット戦略にいかに大きなエネルギーを費やしたかが一目瞭然となる。<br />
「ネットで“勢”を得る」——この高市戦略にどう対抗していくかが、今後他の政党にとって大きな課題になることは間違いない。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「時」を無視した高市流</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>以上のように、春台のいう「勢」と「人情」については、高市自民は見事に成功をおさめた。では、春台の指摘する他の二つ、「時」と「理」についてはどうなのだろうか。<br />
<br />
高市氏は自ら安倍元首相の継承者を自認し、その経済政策もアベノミクスと呼ばれた「積極財政路線」への回帰を基本としている。しかし、周知のようにアベノミクスはデフレ期の施策である。図2に明らかなように、当時消費者物価上昇率は概ね年率1％を切り、マイナス圏に落ち込む時期もあった。そんな中にあって、消費者物価上昇率をなんとか「２%にまで引き<b><u>上げ</u></b>よう」というのがアベノミクスの政策目標だった。つまり、アベノミクスは何よりもまず「デフレ対策」だったのである。</p>








































<hr class="clearHidden">





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		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202602/cc5bcb5a72709c747f52767752c3daef798472a42b44c17e8f122b9085181a09.png" alt="" width="1478" height="990">
</div>

































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>しかし、今日の状況はまったく異なる。近年消費者物価上昇率は2％台後半から3%台で推移している。これをなんとか「2%にまで引き<b><u>下げ</u></b>よう」というのが今日的政策課題である。それが物価上昇に喘ぐ国民の強い要望に応えることでもある。そんな現状において、物価を引き上げることを政策目標にしたアベノミクスを継承・実施しようというのであるから、高市氏の提示する施策は「時」を無視すること甚だしいと言わざるを得ない。サナエノミクスとも呼ばれるアベノミクスの焼き直しは、言ってみればその政策イデオロギー自体が時代錯誤の代物なのである。「時を知るべし」——仮に今春台がいれば、高市氏にこう諫言したに違いない。</p>








































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<!-- テキスト -->

<h3 >高市氏は「理を知るべし」</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>「時」の無視はそのまま「理」の無視につながる。昨今の長期金利(国債利回り)の急上昇がそれを端的に物語っている。<br />
「積極財政」が国債増発を生み、その結果国債価格が下落し、利回りが上昇する。これは「理」、すなわち「経済法則」である。片山財務相が高市政権の財政政策を発表した昨年11月17日以降に国債利回りが急角度で上昇しはじめたのは、市場関係者がこの「法則」の結末を予想して動いたからである。<br />
国債利回りが上昇すれば、銀行の企業向け貸出の金利や住宅ローン金利が上昇する。企業や消費者の活動が活発化し、銀行への借入需要が増加した結果として金利が上昇したのであれば、それも「好景気や経済成長に付きもの」だからと容認もしよう。しかし、現在進行中の金利上昇はこれではない。それは高市氏の言動ないしは高市政権の施策が引き起こした金利上昇である。<br />
金利上昇は企業や消費者の活動を抑制する方向に作用する。景気低迷からの脱出や経済成長を実現してみせると豪語し、それを「信じてください」と訴えた高市氏が自ら景気や成長を抑制する要因を醸成しているとすれば、これは明らかに矛盾である。</p>









































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<h3 >「勢を知って理を知らなければ、大謀を立てることはできない」</h3>









































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<p>「政を為してもしもその理に逆らえば、大事も小事も決して行われない」——議会勢力の３分の２を制したからといって、高市氏が「理に逆らって」強引に「積極財政」を進めていけば、金利上昇という自らが生み出した重石によって景気浮揚も高い成長率の実現も「決して行われない」。高市氏を「信じた」有権者たちの期待は、やがて大いなる失望に転じることになる。<br />
<br />
とはいえ、金利上昇を抑制する手立てがないわけではない。実際、安倍元首相は黒田日銀総裁とともにそれを実施した。<br />
アベノミクスも、それが「積極財政」である以上、国債の大量増発を伴っていた。しかし、当時は政府が新たに発行した国債のすべてを日銀が即座に買い上げてしまうという「禁じ手」を使って、国債価格の下落を阻止し、国債利回りの上昇を防いでいたのである。高市氏に認識してもらいたいのは、そんなことができたのは当時がデフレ期にあって、インフレを心配する必要がまったくなかったからだという点である。現在とは「時」が違うのである。<br />
政府が発行した国債を即座にすべて日銀が買い上げてしまうというのは、日銀が新たに作り出したマネーで財政支出を賄うことにほかならず、これは本来典型的なインフレ要因である。だから、どの先進国の中央銀行もこれを「禁じ手」としている。ところが、当時の日本はデフレに悩まされており、インフレを心配する必要がなかった。だから、日銀は無頓着に国債を買い上げることができたのである。<br />
<br />
インフレ下にある現在、アベノミクス当時と同じようなことを日銀が行えば、真っ先に為替市場が反応し、円安が急進するだろう。財政を日銀の通貨増発で支えるわけだから、「通貨増発→通貨価値の下落=円安」という帰結を予測して市場関係者が行動するからである。更なる円安は輸入原材料による一層のコスト高を生んで、それ自体が景気浮揚や経済成長の足かせとなる。もちろんインフレも進み、やがては有権者の不満が高市政権に向けられることになる。<br />
<br />
高市氏は巧みなネット戦略で「勢」を得、もって衆議院の3分の2の議席を獲得した。それを良いことに「時」を無視し、「理」に反する施策を強引に進めれば、やがて国民から大きな反発を招くことになる。<br />
「勢を知って理を知らなければ、大謀を立てることはできない」——高市氏はやがて春台のこの言葉を後悔の念をもってかみしめる日が来るかもしれない。<br />
<br />
もちろん他方で、「高市氏が大勝したことで、今後は市場の反応を見ながら落ち着いて財政政策を進める余裕ができたのではないか」と見る向きもある。選挙後の金利や円相場の落ち着きは市場関係者のそうした見方を反映しているという見解もある。今後の成り行きを注視していきたい。<br />
<br />
最後にもう一度、前出の春台の言葉を以下に示しておこう。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「政を為す者は、事々についてその理をもとめねばならぬ。すでにその理が得られれば、その理に順って逆らわぬように行うべきだ。これを理を知るという。」</blockquote></div>








































<hr class="clearHidden">



<!-- テーブル -->
<div class="column-table-">
	<div class="entry-container">
	<table class="table-">
	<tr>
		<td>[注1]武部善人『太宰春台 転換期の経済思想』(御茶の水書房1991年刊、130頁)からの引用。武部氏はこの著書の中で太宰春台の『経済録』の一部を現代語に訳して掲載されている。以下、『経済録』からの引用はその武部氏の現代語訳を用いている。
<div>[注2] 同上、132頁。( )は同書において武部氏が付したもの。
</div><div>&nbsp;　　　 [注3] 同上、132-3頁。( )は山口。
</div><div>[注4] 同上、133頁。
</div><div>[注5] 同上、同頁。[ ]は同書において付されたルビ。( )は山口
</div><div>[注6] 同上、同頁。
</div><div>[注7] 同上、134頁。[ ]は同書において付されたルビ。
</div><div>[注8] 同上、135頁。
</div><div>[注9] 同上、134頁。( )は山口。</div></td>
	</tr>
</table>

	</div>
</div>




































<!-- テキスト -->

<p><div align="right">——2026.2.19執筆</div></p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-6339.html</guid>
			<pubDate>Fri, 20 Feb 2026 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2025年9月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-6149.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



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<h2 >「“聞く耳づくり”と“反知性主義”<br />
—『再定義の時代(とき)』を生き抜く経営者の課題—」</h2>









































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<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)<br />
</p>








































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<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202509/cb93431708c50a36cccaa351dba0e15a4a15ec242fbaaebe3ef618123b4a0794.jpg" alt="" width="340" height="249">
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>自社のこれまでのあり様を総点検し、新たなビシネス環境のもとでもさらなる発展を遂げられるように自己革新に挑む——スモールサンニュース2024年1月号(<a href="https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5234.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">論考「“再定義”の時 ～『淘汰の時代』を生き抜くために～」</a>)で 示した「再定義」の意義は今日ますます大きくなっている。<br />
<br />
中小企業が「再定義」を実践していくためには、経営者が自社の目指すべき方向を指し示し、従業員がそれを「自分事」と受け止めて自ら積極的に行動するという社内環境——経営者と従業員との関係性——が不可欠である。しかし、その構築が容易でないことは、「従業員が“聞く耳”をもっていない」と嘆く経営者が少なくないことからも推察される。<br />
<br />
どのようにして従業員の「聞く耳」を作るのか——以下ではこのテーマについて、それをますます困難にしている昨今の社会的風潮への対応も含めて簡潔に論じてみようと思う。</p>









































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<h2 >(Ⅰ)「聞く耳づくり」に必要な３つのこと</h2>









































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<h3 >経営者自身が「聞く耳」を持つ</h3>









































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<p>「聞く耳づくり」のためには、少なくとも以下の３つのことを経営者が実践する必要がある。<br />
<br />
その1つ目は、経営者が自ら「聞く耳」を持つことである。<br />
経営者が従業員の声に積極的に耳を傾ける。この姿勢があってはじめて、従業員も経営者の言わんとすることに耳を傾けるようになる。経営者自ら「聞く耳」を持たなければ、従業員の「聞く耳」も育たない。<br />
「なんだ。そんなこと当り前だろう」と一笑に付されそうだが、これが意外に難しい。「自分は従業員の声にしっかり耳を傾けている」と豪語していても、従業員の目線からはけっしてそのようには見えていないということもある。<br />
<br />
富士ゼロックスの社長として、同社を本家のアメリカ・ゼロックスを凌ぐ大企業にまで成長させた小林陽太郎氏は、「社長に一番重要な能力は何だと思いますか」という私の質問に対し、迷うことなく「コミュニケーション能力です」と答えた。その際、以下のようなエピソードを語ってくれた。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>私が富士ゼロックスの社長に就任した時、世話になった先輩の社長さんたちに挨拶廻りに行ったんですよ。そうしたら、ある社長が「小林君、君は役員会でどれくらいの割合話しているの?」と質問された。「私が5、役員たちが5という割合ですかねえ」と答えた。すると、その社長が「それなら8対2だな。君は5対5のつもりでも、役員たちは8対2に感じている。これからは君が２、役員たちが８となるように心掛けなさい。それでようやく彼らにとっては5対5だ」と。自分ができているつもりでも、他者から見ればできていない。社長就任早々、社内コミュニケーションの難しさを実感しました。</blockquote></div>









































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<p>ちなみに、こうした姿勢は中間管理職にも求められる。中間管理職にある部長や課長が部下たちの声に耳を傾けていなければ、部下たちの「聞く耳」は育たない。これでは経営者がどんなに声を張り上げても、その声はビジネスの現場には届かない。経営者は中間管理職にこそ「聞く耳を持ちなさい」と指導する必要がある。</p>









































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<h3 >「変わることの合理性」を実感させる</h3>









































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<p>「聞く耳づくり」のために必要なことの2つ目は、従業員に「変わることの合理性」を実感してもらうことである。<br />
以下は、経営学の創始者といわれるP.F.ドラッカーの言葉である。</p>









































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<div class="entry-container"><blockquote>人は変化に抵抗するという産業心理学者の考えは間違いである。天上天下に存するあらゆる創造物のうち、人ほど新しいものに貪欲な存在はない。だが、人が変化できるのには、いくつかの条件が必要である<br />
　第一に、変化が合理的なものと受け取られることが必要である。人はたとえ自らが最も不合理かつ気ままに変化するときでも、自らに対しては必ず合理化している。人にとっては変化が進歩であることが必要である。<br />
——『現代の経営(下)』(ドラッカー名著集第3巻、ダイヤモンド社)110-111頁。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>このドラッカーの言葉は、スモールサンニュース2023年1月号において株式会社アイペック(注)の東出悦子社長の経営実践に関連して引用したものである。その実践とは、オフィスのフリーアドレス化である。フリーアドレスにするためにはペーパーレス化を進め、データをサーバーに入れてどこからでもアクセスできるようにする必要がある。当然のことながら、「紙の世界」にどっふり浸かってきた従業員は強く抵抗した。それでも、東出社長は成功事例となる20ほどの会社を従業員と共に見学するなど、粘り強い説得活動を重ねてこのオフィス改革を実行した。おかげで仕事は効率化し、情報共有も容易化して従業員相互の協力関係もよりスムーズになった。強い抵抗を示していた従業員たちも「変えてよかった」「変わってよかった」と、「変わることの合理性」を実感するに至った。ドラッガーのいう「変化が進歩であること」を体感したのである。この経験が、その後東出社長が次々と繰り出す企業変革の提案にも従業員が積極的に耳を傾ける企業風土を作り出した。オフィス改革が、従業員の「聞く耳づくり」に貢献したのである。</p>








































<hr class="clearHidden">



<!-- テーブル -->
<div class="column-table-">
	<div class="entry-container">
	<table class="table-">
	<tr>
		<td>(注)  株式会社アイペックは非破壊検査の会社で、橋や建物の検査だけでなく土木検査なども含めて50種類以上の検査方法で「見えないものを見る」仕事をしている。</td>
	</tr>
</table>

	</div>
</div>




































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<p>「大きな勇気」は「小さな勇気」の積み重ねなくしては生まれない。「すごいこと」は「すごくないこと」の繰り返しの結果である。従業員の「聞く耳」も、日頃の小さな“変革体験”の積み重ねが作り出す。従業員に変化を求めるのであれば、経営者はこのことをしっかり頭に叩き込んでおく必要がある。</p>









































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<h3 >社会に目を向けさせる</h3>









































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<p>「聞く耳づくり」のために必要なことの3つ目は、従業員の「目を社会に向けさせる」ことである。<br />
フリーアドレス化を実行した東出社長は、空かさず「SDGsに関する全員参加型ワークショップ」の継続的な開催を提案した。アイペックはインフラのメインテナンスに不可欠な非破壊検査の会社である。SDGsはそんな同社の存在意義を、社会的、歴史的な観点から位置づけてくれる“理念”にほかならない。東出氏は従業員にそのことを知ってもらうことで、彼らの仕事への積極性を引き出そうと考えたのである。<br />
「社員一人ひとりが、自分たちが今生きている社会がどんな問題を抱えているのかということに関心をもっている。そうした社会とのつながりの中から自分たちの仕事を改めて見直したり、新しいビジネスを提案できる会社にしていきたい」と東出氏は言う。<br />
<br />
冒頭述べたように中小企業を取りまく環境は近年になく厳しいものになってきている。<br />
2024年の倒産件数が1万件を超え、「休・廃業、解散」が2016年以降で最多の6万9000件にも達したことが、その厳しさを端的に物語っている。<br />
こうしたビジネス環境の厳しさを踏まえて、「自社はこういう方向を目指して変わっていかなければならない」と経営者が声を大にして訴えても、従業員がそうした社会状況、時代状況に全く無関心であれば、その声は届かない。「従業員が聞く耳をもっていない」と多くの経営者が感じる最大の理由は、実はここにこそあるといえる。<br />
従業員の目を社会に向けさせることで「聞く耳づくり」を実践していく。そして、東出氏の言うように「社会とのつながりの中から自分たちの仕事を改めて見直したり、新しいビジネスを提案できる会社」にしていく。これは多くの中小企業にとって、今や喫緊の課題となっている。</p>









































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<h2 >(Ⅱ) 立ちはだかる“反知性主義” </h2>









































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<h3 >「反知性主義」とは</h3>









































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<p>さて、上記のような問題意識に立って昨今の風潮を眺めてみると、「聞く耳づくり」を阻む厄介な事態が進行していることに気づく。いわゆる「反知性主義」の蔓延である。<br />
「なにそれ?」という読者も少なくないと思うが、今や「反知性主義」の蔓延は社会評論家の多くが現代を特徴づける事象の１つとして——懸念を持って——指摘するに至っている。<br />
<br />
「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度」——これが「反知性主義」の一般的な定義である。私はこれを、「客観的な法則の存在を無視し、勝手なストーリーで物事を解釈しようとする態度」と言い換えている。<br />
<br />
たとえば、かつて地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教などの「オカルティズム」(オカルト主義)がそれである。オウム真理教の教祖麻原彰晃(松本智津夫)は、「万有引力の法則」の存在を無視し、修行さえ積めば「空中浮遊」ができると説いた。「そんなもの誰が信じるか」と思うが、物理学の博士号をもつようなインテリの若者たちがこの教団に多く引き込まれ、地下鉄で猛毒サリンを撒くという取り返しのつかない事件まで引き起こしたのである。<br />
<br />
「反知性主義」の中でも近年最も大きな広がりを見せているのが「陰謀論」である。「影の政府（ディープステート）が世界を裏から支配している」と主張する「Qアノン」と称する陰謀論集団が、今アメリカで一大勢力を形成している。<br />
彼らはトランプこそが「影の政府」を打ち倒す救世主だと主張することで、トランプ政権の誕生に大きく寄与してきた。2020年の大統領選挙でトランプがバイデンに敗北した際には、「この選挙は民主党と中国共産党に盗まれたのだ」と主張して、トランプの発言に乗って議事堂襲撃にも参加した。この陰謀論集団は国境を越え、ヨーロッパそして日本にも広がっている。日本では、「Jアノン」と称して同様の主張を繰り返してきた。</p>









































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<h3 >インターネットが“聞く耳”を塞ぐ</h3>









































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<p>「陰謀論」は、目に見える幾つかの事象をつなぎ合わせて何者かが勝手に作り出したストーリーである。これこそ典型的な「反知性主義」である。したがって、その正否を実証的に確認することなどそもそもできない。つまり「信じるか、信じないか」、ただそれだけなのである。<br />
そのため、その主張に興味を持った人たちは——何かのきっかけでその興味が急に失せたりしない限り——、やがて「信者」へと転身して行くことになる。その「信者への転身」の過程を強力に後押ししているのが、現代のインターネット環境である。<br />
<br />
ネット上には様々な情報や主義主張があふれており、その中から信頼できるものを選ぶことができるのだから、ネットは利用者の客観的判断に寄与するものと思いがちである。しかし、残念ながら事実はまったく逆である。<br />
コンピュータの「アルゴリズム機能」によって、利用者がある情報に興味をもって多少なりとも多めの時間それと向きあうと、否応なしに以後次から次にそれに同調・関連する情報ばかりが流れ込んでくる。結果的に異なる意見や価値観に触れることが減り、利用者は視野狭窄や思考の偏りに陥っていく。<br />
<br />
これを「フィルターバブル」と呼ぶそうだが、このフィルターバブルによって陰謀論に興味関心を寄せた人たちは、ネットを通して「陰謀論信者」へと誘導されていく。そして、ひとたび「信者」になれば、もはや「気に入った情報」のみを意図的に取り入れ、反対に自分たちの信じるストーリーを否定するような「気に入らない情報」は一切拒否するようになる。こうして、彼らの「聞く耳」は完全に塞がれてしまうのである。<br />
たとえば、トランプは「地球温暖化」はフェイクだと主張する。今やトランプ信者と化した陰謀論者たちも、その主張を当然のこととして完全に共有している。彼らにとっては、環境問題を重視するSDGsなどというものは「耳を傾けるに値しない絵空事」にすぎないのである。<br />
<br />
したがって、仮に上述の東出氏率いる(株) アイペックの中に「陰謀論」にどっふり浸かった従業員がいたとすれば、少なくともその人には「SDGsの勉強を通して非破壊検査という仕事の積極的意義を理解してもらおう」という東出氏の試みは完全に不発に終わる。なぜなら、その人は「聞く耳」を陰謀論によって完全に塞がれてしまっているからである。<br />
私は最近スモールサン会員の中からも「社員が陰謀論に嵌って手を焼いている」とか、「家族が陰謀論の信者で会話が成立しない」という声を度々聞かされる。実はそのことが本稿執筆の動機にもなったのだが、読者の皆さんもけっして「他人事」だと思わないでいただきたい。「反知性主義」は驚くほど身近なところに迫ってきている。そこで最後に、こうした社会的風潮に経営者はどう対峙していくべきかについて、私が思うところを若干述べておくことにしたい。</p>









































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<h2 >(Ⅲ) &nbsp;「なぜ」の力で“聞く耳”をつくる</h2>









































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<h3 >「知性」とは何か</h3>









































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<p>「反知性主義」と対峙していくためには、そもそも「知性」とは何かについて理解しておく必要がある。「知性」とは、一言で言えば「感覚・感情の背後に潜む真理を『論理の力』で——言い換えると、“なぜ”と問うことで——明らかにする能力」である。<br />
<br />
たとえば、「地球が丸い」ことはどこまで地上を歩いてみても感覚的には分からない。したがって、古代では地面は球体ではなく、平坦なものだと考えられていた。しかし、もし平坦だと仮定したら、「水平線上から海岸へと向かってくる船はなぜ最初に帆先を見せ、その後で甲板を見せるのか」という問いには答えられない。人がこの“なぜ”に答えようとしたことによって「地球は丸い」という結論にたどり着いた。この「真理」は、今であれば人工衛星から送られてくる写真で感覚的にも確認できる。しかし人工衛星などない昔に、感覚だけでは掴めない「真理」を人間は見事に発見していたのである。これを可能にしたのは「論理の力」である。この「力」を発揮できる人間の能力こそがまさに「知性」なのである。<br />
<br />
したがって、「知性」を発揮するためには、「感覚・感情の世界」にとどまらないことが決定的に重要である。「感覚・感情の世界」から出発しても、「なぜ」を繰り返しながら、その背後にある「真理」へ向って突き進んでいく。その際、その歩みを後押ししてくれるのは、自説に対する反対意見や自説と矛盾する諸事象との出会いである。「これが真理だと思っていたけど、もしかしたら間違っていたかもしれない」——こう思わせてくれるものとの出会いこそが、「真理」に向ってその歩みを一歩二歩と前進させてくれる。その意味では、「知性」とは「聞く耳」を持つことだともいえる。この点で、陰謀論と「知性」とはまったく相容れない関係にある。</p>









































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<h3 >「感覚・感情の世界」にとどまるな!</h3>









































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<p>少々抽象的な議論になってしまったので、最後に一つの事例を使って私の言わんとすることを示してみたい。<br />
たとえば、最近はオーバーツーリズムを背景に外国人観光客の「目に余る行為」が目立っている。そういう行為を撮影してそれをユーチューブで流すとたちまちバズるので、ユーチューバーたちは勇んでそうした事象を拡散する。そうなると、先に述べた「フィルターバブル」によって、日本人の感情はどんどん「逆なで」されていく。<br />
あるいは、マンションの価格が高騰し、多くの日本人がマンション所有を諦めざるをえなくなっている現状の下で、中国マネーが都会の「億ション」を買い漁っているという事実が紹介される。これもネットで拡散され、日本人の感情を「逆なで」していく。<br />
<br />
こうして外国人に対する差別意識や妬みが助長されていくと、やがてネットではそれを煽るフェイクニュースが拡散されるようになる。たとえば、「生活保護世帯の30％は外国人だ」として「日本では外国人ばかりが優遇され、日本人は冷遇されている」といった情報が流される。もちろん、こんな情報は“真っ赤なウソ”である。実際には生活保護世帯に占める外国人の割合は3％程度でしかない。しかし、多少なりとも疑問に思って政府統計を確認しようとする人はきわめて稀である。なんら検証もしないまま、そんな「あり得ない」——と私は感じるのだが——情報をついつい多くの人たちが信じ込んでしまう。これが直近の日本の「空気」である。<br />
<br />
さらにはそうした「空気」に便乗して票を稼ごうとする政治勢力が現われる。「日本人ファースト」というキーワード1つで何百万という票を集めた政党が出現したことは、現在の日本に蔓延する「空気」を端的に象徴している。<br />
<br />
さて、賢明な読者諸氏はすでにお気づきと思うが、これらはすべて「感覚・感情の世界」で起きている出来事である。私はこうした政治状況を「共感型政治」と呼んでいる。そこには「知性」が関与する隙間さえない。もし、大切な従業員がそんな「感覚・感情の世界」をさ迷っているのだとすれば、経営者が彼らに「なぜ」を投げかけることで彼らの「知性」を呼び起こしてもらいたい。それが従業員の「聞く耳」をつくることに直結する。</p>









































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<h3 >「なぜ」の力で“聞く耳”をつくる</h3>









































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<p>オーバー・ツ―リズムによって目に余る外国人の振舞いを見かけることが増えたり、高級マンションの外国人所有の増加が目についた時、「沸き起こる感情は少し脇に置いて、こう問うてみないか」と従業員に語りかけてもらいたい。「一体なぜ、最近こういう現象が目立ち始めたのか」と。<br />
<br />
もちろんその答えはいくつか考えられる。しかし、その決定的要因が近年急激に進行してきた「円安」にあることは誰も否定できない。大幅な円安の進行によって「あこがれの日本がこんなに安いコストで観光できる」とか、「こんなに安い値段で日本の不動産が手に入る」と喜ぶ外国人は多い。いわば日本全体が「安値販売」されているのである。<br />
<br />
とすれば、オーバーツーリズムや外国人投資家による不動産の買い漁りを是正するには——「日本人ファースト」と声高に叫ぶことよりも——その原因になっている「円安」を是正することがもっとも効果的だということなる。しかしそのためには、日本銀行による金利引き上げを受容しなければならない。こうして、従業員の目線は自社あるいは自分自身に向けられることになる——「金利が上がった時、わが社は大丈夫なのか」と。<br />
<br />
たとえば「利子補給」などの中小企業支援策があればありがたいが、だからといって政府の補給金にいつまでも頼り続けるわけにはいかない。従業員の「知性」は、こうして一つの結論を導き出す。「わが社も金利上昇に耐えられる強靭な中小企業にならなければならない。そしてそうした強い中小企業を増やしていくことこそが、昨今目にする不快な社会現象の是正を可能にするのだ」と。<br />
従業員がこのことに気づいた時、経営者が「効率化、高付加価値化のためにわが社も『再定義』を実践しよう」と訴えるなら、その声はいよいよ彼らの胸を打つことになる。今や、社長の提案が社会のためにも自分自身のためにも必要不可欠なものと認識できるからである。まさに「知性」が「聞く耳」を作り出したのである。<br />
<br />
現在、あらゆる先進国で「社会の分断」が問題視されている。日本でももちろん「分断」はまちがいなく進行している。アメリカでは“聞く耳”を持たない「反知性主義」の広がりによって、それはもはや取り返しがつかない状況にまで至りつつある。そんな「分断社会」を子や孫の世代に残さないためにも、1人でも多くの中小企業経営者が「聞く耳づくり」を実践していく——私はそれを強く期待したい。中小企業経営者のもつ社会的役割は今日ますます大きくなっている。</p>









































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<p><div align="right">2025.9.20執筆<br />
（9.24一部に抜けがあった為修正しました。/SS事務局）</div></p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-6149.html</guid>
			<pubDate>Mon, 22 Sep 2025 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2025年4月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5955.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



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<h2 >「“トランプ関税”の行方<br />
～相互関税はなぜ発動後13時間で緊急停止されたか～」</h2>









































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<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>









































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<p>①双方が建設的な姿勢で協議し、可能な限り早期に合意し、首脳間で発表できるよう目指す。②次回協議の今月中の実施に向け、日程調整する。③閣僚レベルに加え、事務レベルでの協議も継続する――16日に開催されたトランプ関税を巡る日米会談はこの3点で合意したと伝えられている。会談でどういう具体的な事柄が論議されたか、その詳細は明らかにされていないが、いずれにしても実質的な交渉は次回会合以降となる。<br />
<br />
ところで、石破首相は14日の国会答弁で「早期の妥結にはこだわらない」考えを示した。この点に限っては、私も大いに賛成である。というのは、“時間”は明らかに日本側に味方しているからである。そのことは、以下に見るような関税政策を巡るトランプの“迷走ぶり”に示されている。</p>









































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<h3 >朝令暮改を繰り返すトランプ</h3>









































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<p>「解放の日」とまで称して華々しく打ち出された「相互関税」。ところが、4月9日トランプはなんと発動後13時間経ただけでそれを緊急停止し、「90日間の発動延期」を発表した。「これこそ朝令暮改だ」と思わせる事象だが、トランプの迷走ぶりはこれで終ることはなかった。</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202504/large-bdf74ceecb1ec8c419d932a90f3c7d6fb0ced0ab5baf2a7b8407173d5a444695.png" data-rel="SmartPhoto[5955]" data-caption="">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202504/bdf74ceecb1ec8c419d932a90f3c7d6fb0ced0ab5baf2a7b8407173d5a444695.png" alt="" width="340" height="415">
	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>トランプは対中国については延期措置から除外するとしたが、9日午後には対中国の関税率を「125%に引き上げる」(後に145％に訂正)と宣言。これに対し、中国は米国からの輸入品に課す関税を125％に引き上げると発表した。米中貿易戦争悪化を懸念して、当然のことながら株価は急落した。<br />
<br />
ところが、同じく11日に突如トランプはスマホや電子部品を相互関税の対象外にすると発表し (表1)、この措置で中国からの輸入品全体の23%が相互関税の対象外となった。<br />
「ハイテク投資家にとって最高のニュースだ」と証券界は大いに喜び、株価も一転急騰した。しかしそれも束の間、この2日後の13日にはトランプがこれは「関税の『除外』ではない」「別の関税『バケツ』に移されただけだ」と投稿したことで株価は再び急落。もはや証券界も「めちゃくちゃな混乱が続いている」と嘆くしかなかった。</p>








































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<h3 >“迷走”の根底にあるもの</h3>








































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>トランプ政権の朝令暮改ぶりは今に始まったことではない。2月1日にトランプは「カナダ・メキシコからの輸入品全体に25%の関税を課す」とする大統領令に署名したが、発動予定の前日にあたる2月3日になって1か月の延期を発表。さらに、発動翌日の3月5日には関税対象が半減するほどの大幅な免除・猶予措置を発表した。<br />
トランプの関税政策については、私はかねてより「強気の施策を発動しても数カ月で方針転換に至る可能性」があると指摘してきた。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　さしあたり抑えておく必要があるのは2点。1つは選挙期間中や施政方針演説での自身の発言が自縄自縛となって、トランプは国内から多少の反発があっても関税政策を実施しないわけにはいかないと考えていること。2つ目は、そうはいっても関税の延期や猶予措置の発動に見られるように、トランプはその強気発言とは裏腹に関税が国内産業や消費者に与えるマイナスの影響を大いに気にしていること。この2点を考慮すると、「今は強気の施策を発動しても数カ月で方針転換に至る可能性」が十分にあるということになる。だから、トランプの言動で慌てることはないともいえる。　　———<a href="https://www.smallsun.jp/smallsun_news/interview/entry-5871.html"target="_blank" rel="noopener noreferrer">スモールサンニュース2025年3月号「景気を読む」</a></blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>要するに、政策そのものが“無理筋”なのであり、そのことがトランプの迷走ぶりとなって現れている。トランプ関税をこのように見ていた私にとっては、相互関税を巡ってトランプが迷走を繰り返したからといって驚くには当たらない。しかし、そうはいっても、さすがに発動後わずか13時間で「緊急停止」に至るというのは想定外のことだった。その背後に何があったのか、トランプ関税の行方を見通すためにまずはこの点から見ておくことにしよう。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >発動後13時間で「緊急停止」の“なぜ” <br />
～金融界からの一撃でノックダウンを食らったトランプ～</h3>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202504/large-b10a211ba66af181057854c7fddf44ef97ef60b6a0721f4fea848d7180eb7d40.png" data-rel="SmartPhoto[5955]" data-caption="">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202504/b10a211ba66af181057854c7fddf44ef97ef60b6a0721f4fea848d7180eb7d40.png" alt="" width="340" height="415">
	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>その答えは図１に示されている。これはアメリカの1０年物国債の利回りを示したものだが、周知のように国債の利回りはその売買価格と反対の方向に動く。つまり、国債価格が上昇すれば利回りは低下し、反対に国債価格が低下すれば利回りは上昇する。<br />
<br />
図1に明らかなように本年1月に4.8%を付けて以降、国債利回りは4月初旬には4.0%を付けるところまで低下してきていた。これは、トランプの関税政策が景気にマイナスの影響を与えるという判断から、投資家たちが株を売って国債を買う——国債は安全資産とみなされていたので——という行動をとってきたからである。そのため、株価が下がる一方で国債価格は上昇し、それを反映して国債利回りが低下するという現象が続いていたのである。</p>









































<!-- テキスト -->

<p>ところが、相互関税が発動される4月9日の夜中から国債が売られ始め、図1にあるように利回りが急騰しはじめた。</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202504/large-2e4f222617eea66b002a38dfe2fc7556d6903544c935c00ca231162fd0ca986c.png" data-rel="SmartPhoto[5955]" data-caption="">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202504/2e4f222617eea66b002a38dfe2fc7556d6903544c935c00ca231162fd0ca986c.png" alt="" width="340" height="372">
	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>国債売却の引き金を引いたのは、ヘッジファンドと呼ばれる投資ファンドだった。ヘッジファンドは株価の下落で被った損失を穴埋めしようとして、価格が上昇していた手持ちの国債を売却することで利益を出そうとした。<br />
これをきっかけに国債価格が下落しはじめたのだが、これに反応したのが国債を大量保有する銀行などの金融機関である。金融機関は国債価格の下落によって損失が拡大することを嫌って手持ちの国債を売り急いだ。その中には日本の金融機関も含まれている。<br />
図2は日本の金融機関が4月に入って突如国債の大幅な「売り越し」に転じたことを示している。</p>









































<!-- テキスト -->

<p>株価の下落は金融機関にとって経営上は大きな打撃にはならない。しかし、国債は違う。多くの金融機関が国債を大量に保有しており、その価格下落は金融機関の経営を脅かす。もしも銀行の幾つかが国債価格の下落による過大な損失を抱えて経営破綻に陥れば、一気にアメリカ中が金融危機の嵐に巻き込まれることになる。それを恐れたベッセント財務長官——彼自身も投資ファンドの出身である——がトランプに相互関税の「90日間の発動延期」を進言し、トランプがやむなくそれを飲んだというのが実情のようである。</p>








































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<h3 >金融界や産業界から続々と上がる反対の声<br />
～“軟化”を迫られるトランプ～</h3>








































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>金融界からの強烈な打撃がトランプに相互関税の「発動延期」を決意させた——上記の事実経過を一言で総括すればこう表現できる。実際、国債価格急落が起きる前から、金融界からトランプの相互関税について懸念や反対の声が相次いでいた。<br />
たとえば、米銀ＪＰモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは相互関税について「長い目で見れば悲惨な結果になりかねない」と警告を発していたし、米投資会社パーシング・スクエアの創業者でトランプを積極的に支持してきたビル・アックマンも、「全世界に対して、われわれが課されている水準を大幅に上回る関税を賦課するのは間違いだと確信している」と表明していた(以上、4月7日配信のブルームバーグの記事より)。ちなみに、アックマンは「世界貿易の状況を慎重かつ戦略的に打開する」時間を確保するために「90日間の猶予」が必要だとの考えを示していたが、この発言がトランプの「90日間の発動延期」に繋がったのではないかとみられている。<br />
<br />
トランプ関税に対する反発の声は、トランプが関税政策によって「守る」と称しているアメリカの国内製造業からも上がっている。<br />
全米製造業者協会のジェイ・ティモンズ会長は、「製造業者にとってこれ以上のリスクはない」とし、追加関税がもたらす高コスト化で「投資や雇用、サプライチェーンのみならず…世界をリードしてきた米国の立場も脅かされることになる」(時事通信2025.4.3)と指摘した。<br />
トランプが相互関税については発動を延期したものの、自動車輸入については25%の関税措置を続けていることから自動車関連業界からの反発も強い。自動車関連産業が集積するミシガン州ではデトロイト地域商工会議所とその傘下の自動車業界団体であるミシガンオートが、両団体の連名で「(関税政策が)自動車産業のサプライチェーンを分断し、国際競争力を弱めることのない」ようにトランプに求める声明を出した。また、アルミニウムと鉄鋼に対する25％の関税が維持されていることも、自動車メーカーに影響を及ぼしていると指摘した(以上、2025.4.10ロイター配信記事より)。<br />
<br />
ちなみにミシガン州は共和党支持者と民主党支持者が拮抗する激戦州で、先の大統領選挙でもトランプが得票率1.4%という僅差でハリスを制した州である。こうした激戦州からの政策批判がトランプの耳に届かないわけがない。<br />
こうしたこともあってかトランプは最近その姿勢を軟化させ、14日には自動車への関税について「自動車メーカーの一部を支援する何らかの方法を検討している」と明らかにし、またｉＰｈｏｎｅなどへの対応についても「私はとても柔軟な人間だ」と述べ、何らかの軽減措置を取る可能性を示唆している。ここにはトランプが自身への圧力の高まりに耐え切れず、徐々にその姿勢を軟化させてきていることが見て取れる。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >ウィスコンシン州でトランプ支援候補が大差で敗北<br />
～全米50州で数十万人規模の抗議集会も～</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>トランプに対する反発はアメリカ市民の中にも広がっている。それを象徴するのが、4月1日に実施されたウィスコンシン州最高裁判事選挙である。<br />
トランプが支援する候補が勝利するのか、それとも民主党が支援する候補が勝利するのか。ウィスコンシン州最高裁判事選挙はアメリカ国民が第二次トランプ政権に初めて審判を下す選挙でもあるとして、高い注目を浴びていた。<br />
結果は民主党系候補の得票率が55%、トランプが支援する候補が45%と、10%の差をつけて民主党系候補が勝利した。ウィスコンシン州もミシガン州と同様に共和党支持者と民主党支持者が拮抗している「激戦州」である。前回の大統領選挙ではトランプが勝利したものの、ハリスとの得票率の差は0.9％しかなかった。そんな同州の選挙での10%という数字は「大差」といっていい。有権者の反トランプ意識の高まりを示している。<br />
選挙キャンペーンではイーロン・マスクが同州を訪れ、2人の有権者に100万ドル(1億5000万円相当)の小切手を手渡したことでも注目を浴びた。今回の選挙結果はこうした「カネで票を買う」トランプ・マスク流のやり方——大統領選挙の際にはこれが功を奏したといわれていた——に対して、アメリカ国民が明確にノーを突き付けたという点でも特筆に値する。<br />
<br />
このウィスコンシン州最高裁判事選挙の4日後、ワシントン、シカゴ、ボストン、ロサンゼルスなど全米50州全ての主要都市で大規模な反トランプ集会が実施され、60万人以上の市民が参加した。参加者たちは相互関税など一連の政策を批判し、「トランプは世界を破壊した」などと叫んで行進した。連邦政府の人員削減を進めるイーロン・マスクに対する反発の声も高まっている。こうした反トランプ集会はアメリカ国内にとどまらず、フランスやイギリス、カナダなど世界1300カ所以上にも広がっている。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >関税による物価高がこれからアメリカ市民を襲う</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>トランプは相互関税については延期したものの、各国への10%の基礎関税は発動したままであり、自動車、鉄鋼、アルミに対する25%の関税も依然続いている。さらに中国品には145％の関税をかけたままである。これら関税措置がやがて消費者物価の上昇となってアメリカ市民を襲うことになる。<br />
関税発動以前に入荷した在庫が底を突き始めるに伴って物価上昇が鮮明化する。それは相互関税の延期期間が終わる7月には、物価統計にも反映され始めるだろう。そうなれば、アメリカ市民の関税政策に対する反発はますます強くなる。<br />
<br />
こうした状況を鑑みれば、90日後に相互関税の発動が当初の想定通り実施できると考えることには相当無理がある。仮にトランプが強引に発動を断行すれば、再び金融的動揺も発生しかねない。<br />
とはいえ、さらなる延期はトランプ政権の敗北を意味する。とすれば、トランプはかなりの「抜け道」を作ることで、できるだけ物価への影響が少ない形での関税政策実施を模索せざるをえなくなる。そうなれば、日本政府のトランプに対する交渉も現状よりはるかにやりやすくなる。私が「早期の妥結にこだわらない」とする石破首相の姿勢に賛意を表し、“時間”が日本側に味方していると指摘したのは、こうした事態の推移を見通してのことである。<br />
もちろん、現在発動済みの関税だけでも日本の輸出産業が苦境に立たされることは想像に難くない。重要なのは、関税という名の増税分をアメリカの消費者に担わせ、彼らの反発をもってトランプに政策変更を迫ることである。そのためには、日本の輸出業者は値引きを避け、価格を維持しつつ関税の圧力に耐えなければならない。その「忍耐」を支えるべく、日本政府が徹底した支援策を——とりわけ中小企業に対して——実施することが必要になる。<br />
<br />
以上で見たように、トランプは明らかに“孤立化”の道を進んでいる。これは彼が「高率関税」という名の“負け戦”に挑んでしまったことの当然の帰結だともいえる。これはまた言いかえれば、関税を巡る日米交渉は「勝てる喧嘩」だということでもある。日本政府の毅然とした対応を求めたい。</p>









































<!-- テキスト -->

<p><div align="right">———2025年4月19日筆<br />
(本稿執筆のために、本号掲載予定の「社長の思考」第3節(2)をお休みにしましたこと、お詫びいたします。)<br />
</div></p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5955.html</guid>
			<pubDate>Mon, 21 Apr 2025 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2025年2月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5835.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



<!-- テキスト -->

<h2 >「“関税騒動”をどう見るか<br />
～トランプが認めたくない“３つの現実”～」</h2>









































<!-- テキスト -->

<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>









































<!-- テキスト -->

<p>　関税という武器を手にしたことであたかも世界を自在に操れる権力を手に入れたかのように振る舞うトランプだが、この表層的印象とは裏腹にその背後にはトランプにとって悩ましい３つの現実が重たく横たわっている。…(以上、本文より引用)</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >矢継ぎ早に関税措置を打ち出すトランプ</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>選挙期間中に「全輸入品に10〜20%の一律関税、中国製品には60%の高率関税を課す」と豪語していたトランプが、1月20日の大統領就任初日にもこの関税措置の発動に踏み切るのではないかと世界中が注視していた。しかし、一律関税については「まだ準備ができていない」とし、中国製品への課税についても即日の発動を見送った。<br />
<br />
おかげで金融市場も大きな混乱なく1月末日を迎えることができたのだが、その翌2月1日にトランプは「カナダ・メキシコからの輸入品全体に25%の関税、中国からの輸入品にも10%の追加関税を課す」とする大統領令に署名した。このニュースで金融市場は大いに動揺し、日経平均株価も一時1000円以上下落した。カナダやメキシコは報復関税を示唆し、中国はWTOへの提訴と強力な対抗措置を講ずることを明言した。ところが、トランプは関税発動予定の前日である2月3日になって、カナダとメキシコへの関税措置については1か月延期すると発表した。<br />
<br />
その1週間後の2月10日に、トランプは「鉄鋼・アルミニウム製品に対する25%の追加関税を全ての輸入品に適用する」ための大統領令に署名した。発動は3月12日を予定しており、適用除外を求める各国は現在トランプ政権との交渉を余儀なくされている。<br />
<br />
さらに2月13日、トランプは他国が米国製品にかけている関税と同水準まで米国の税率を引き上げる「相互関税」の導入を指示する覚書に署名した。翌14日には、輸入自動車に対する関税を「4月2日ごろ」にも公表すると述べ、あわせて鉄鋼・アルミニウム製品と同様に、自動車・半導体・医薬品に対する分野別の追加関税も導入したいと話した。　</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-left js_notStyle acms-col-sm-12">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202502/large-e983b7af367245170bce03f79109ef80.png" data-rel="SmartPhoto[5835]" data-caption="">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202502/e983b7af367245170bce03f79109ef80.png" alt="" width="700" height="555">
	</a>
</div>

































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<h3 >アメリカ国民の支持を得られない<br />
～メキシコ、カナダ、EUへの関税に6割が反対～</h3>








































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>関税という武器を手にしたことであたかも世界を自在に操れる権力を手に入れたかのように振る舞うトランプだが、この表層的印象とは裏腹にその背後にはトランプにとって悩ましい３つの現実が重たく横たわっている。<br />
<br />
その第1は、アメリカ国民の過半数が関税政策に反対しているという現実である。トランプは強力な関税政策を掲げて選挙戦に挑み、その結果アメリカ大統領に返り咲いた。この流れをみるかぎりでは、国民(有権者)はトランプの関税政策を支持したかのように見えるし、トランプ自身もそのように捉えているのではないかと思われる。しかし、現実は必ずしもそうではない。<br />
<br />
トランプの大統領就任直後に行われたロイター通信とイプソスの世論調査によると、カナダからの輸入品への関税については反対が60％(賛成37％)、メキシコについても反対が56％(賛成41％)に上っている。<br />
<br />
また2月５日から７日にかけて実施されたCBSニュースとユーガブの世論調査でも、「メキシコ、カナダ、欧州諸国からの輸入品に関税を課す計画は不人気で、関税の適用地域によって56～62％が反対」(Forbes Japan 2025.2.15配信)している。<br />
<br />
なぜ、アメリカ国民の多くが関税政策に反対しているのか。それはいうまでもなく、輸入品に関税を課すことで国内物価が上昇することを懸念しているからである。<br />
<br />
昨年11月号の<a href="https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5716.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">スモールサンニュース「論考　トランプのジレンマ」</a>で、私は「ハリスはトランプに負けたのではなく、インフレに負けたのだ」と記したが、そこで詳しく論じたように有権者の多くはバイデン政権下で進行した「物価高を何とかしてほしい」という思いでトランプに一票を投じた。大統領選挙でのトランプの勝利はその結果であって、彼の関税政策が支持されたことによる勝利ではない。<br />
<br />
実際、大統領選後の昨年11月に実施されたCBSニュースとユーガブの世論調査では、トランプは「物品とサービスの価格引き下げを最優先にすべきだ」とする回答が79％を占め、「他の政策課題や、関税導入を最優先にすべきとする人の割合（26％）」を大きく上回った。この調査では、「関税によって価格が上昇すると予想した人は59％」(ＣＮN 2025.2.4配信)に上っており、この調査結果からしてもアメリカ国民の多くが関税措置に反対を唱えていることになんら違和感はない。<br />
<br />
その物価対策について、CBSニュースとユーガブが実施した2月の世論調査では「回答者の66％がトランプ大統領は選挙運動中に約束していたほど物価上昇の抑制に力を入れていないと批判しており、この割合は共和党支持層でも48％」(Forbes Japan 2025.2.15配信)に達した。今後関税措置の実施に伴って物価上昇が顕著になれば、この「批判」的意見の割合はさらに増加する。今は意気揚々と関税措置を打ち出し、そのことが有権者の期待への「裏切」になるとは自覚していないトランプだが、やがて「支持率の急低下」というしっぺ返しに青ざめる日が来ることは想像に難くない。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >アメリカ企業からの支持も得られない<br />
～関税政策を「壊滅的」と批判する経営者も～</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>トランプにとって悩ましい現実の2つ目は、消費者だけでなく多くの企業もトランプが打ち出す関税政策に反対を唱えていることである。<br />
<br />
表２は、トランプがカナダとメキシコに25%の関税をかけると表明したことへの産業界の反応を示したものである。小売業協会や石油協会の反応に典型的に示されているように、多くの企業が関税措置によって物価が上昇し、消費者の購買力が低下することを懸念している。</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-left">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202502/52c413ab6311a454dd08d08eae3d80ed.png" alt="" width="481" height="445">
</div>

































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>ここで注目すべきは、米国自動車イノベーション協会や全米民生技術協会といったメーカー企業が多く所属する団体からも、関税措置に反対する声があがっていることである。<br />
<br />
そもそもトランプは衰退したアメリカの製造業の復権・再生を目指して関税政策を打ち出したはずである。輸入品に対して幅広く高率の関税をかければ、国内メーカーの競争力が高まると考えたのである。ところが、その国内メーカーからも関税政策に反対の意思が示されている。これはなぜなのか。<br />
<br />
たとえば、フォード・モーターのジム・ファーリーCEOは2月11日の業界イベントで、「トランプ氏はこれまで、米国の自動車産業を強化し、生産を国内にもたらすことについて多くを語ってきた。だが今のところ、私たちが目にしているのは、多くのコストと多くの混乱だ」(Bloomberg2025.2.12)として、トランプ関税が自動車産業に「壊滅的影響」を及ぼすと警鐘を鳴らした。<br />
<br />
フォードはメキシコとカナダでピックアップトラックの約12％を生産し、電気自動車のマスタング・マッハＥをメキシコで生産している。それだけではない。アメリカ国内で自動車を生産する際にも、その部品の多くをメキシコやカナダから輸入している。これらはすべてアメリカ・メキシコ・カナダ間の輸出入取引に関税が課されないことを前提にして築かれたサプライチェーンである。<br />
<br />
メキシコやカナダからの輸入品に課される関税は、こうしたグローバルなサプライチェーンに多大なコストを強いることになる。そこにアメリカのメーカーが関税に反対する理由がある。メキシコ経済省によれば、アメリカで生産される自動車は、原材料の段階から完成車として輸出されるまでに、平均すると計8回国境を越えるという。アメリカが関税措置を実施すれば、メキシコやカナダはアメリカからの輸入品に報復関税をかける。そうなれば、自動車やその部品が国境を越えるたびに双方向で25％の関税が課されることになる。関税措置によって自動車業界に６００億ドル(1ドル155円で換算すれば9兆3000億円) のコスト増が生じ、新車価格を約３０００ドル(同46万5000円)上昇させることになるとする試算もあながち大げさなものとはいえない。自動車産業に「壊滅的影響」を及ぼすというファーリー氏の警鐘に、トランプは真剣に耳を傾けるべきである。</p>








































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<h3 >トランプ関税はアメリカの製造業の雇用を増やさない<br />
～第一次トランプ政権下で実証済みの事実～</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>トランプにとって悩ましい現実の3つ目は、第一次トランプ政権下で実施された関税政策がアメリカの製造業の雇用拡大には効果がなかったいう事実である。<br />
<br />
池上彰氏は大統領選挙でのトランプの勝利を、アメリカ版『シン・プロレタリア革命』と評し、民主党に見捨てられた労働者たちの不満がトランプへの強い期待となって噴出したのだとしている。たしかにトランプは関税政策によってアメリカの製造業を再生させ、その雇用を拡大させるのだと強調してきた。表2を見ても、多くの産業団体がトランプの関税政策に反対を表明している中、全米自動車労組だけは「関税が米製造業の雇用を守る」として賛成を表明している。<br />
<br />
だが、トランプ関税は本当にアメリカの製造業の雇用を守り、拡大させることができるのだろうか。それが難しいことは――ファーリー氏の警鐘によらずとも――、第一次トランプ政権の経験が実証している。<br />
<br />
本年2月10日にトランプが表明した「鉄鋼・アルミニウム製品に対する25%の追加関税」は、第一次トランプ政権下で導入された関税政策の復活、拡大版である。<br />
<br />
2018年３月にトランプは鉄鋼製品の輸入に25%、アルミ製品の輸入に10%の関税を課した。はたして、その効果で製造業の雇用は拡大したのだろうか。その答えは図1に明白である。</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-left">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202502/63c97c443a94c32b3ffc18e64ba3f014.png" alt="" width="800" height="473">
</div>

































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>2017年1月にスタートした第１次トランプ政権は法人税を35%から25%に引き下げるなどの大型減税を実施した。その効果もあって製造業の雇用は増加傾向を示していたのだが、18年３月に鉄鋼・アルミ関税が導入され、それが中国やEUの報復関税を呼び寄せたことで状況は変化し始めた。図1に明らかなように19年には製造業の雇用は減少に転じたのである。<br />
<br />
関税措置の導入による鉄鋼・アルミの価格上昇は、それらを材料として活用する他の製造業にとってはコスト上昇を意味し、経営を圧迫する。さらに、他国の報復措置が輸出の重石として機能する。雇用減少はこの両面の影響の結果である。鉄鋼・アルミ関税で製造業が活性化し、雇用が拡大すると考えることの理不尽が示されている。<br />
<br />
こうした現実に直面したトランプは最終的にカナダやメキシコ、ブラジルを含む主要輸出国に対し無税措置を認めた。そして、バイデン前政権が免除措置をさらに拡大して現在に至っている(表3)。今回トランプが再び打ち出した関税策は、この免除措置を取りやめるとともに、アルミに対する関税を10%から25%に引き上げるというものである。それが前回とは違って製造業の雇用拡大をもたらすことになると考えられる根拠はどこにもない。</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-left">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202502/842942d9a76eb3968d3d252e00315e57.png" alt="" width="465" height="585">
</div>

































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<h3 >“稀代のヒーロー”を夢見て、“自滅への道”を突き進むのか</h3>








































<hr class="clearHidden">

<!-- テキスト -->

<p>以上検討してきたように、現在トランプが高らかに打ち上げている関税政策の未来は“暗い”。それでも、トランプはアメリカの製造業を再生させた「稀代のヒーロー」になることを夢見て、「自滅への道」を突き進んでいくのだろうか。それとも、どこかであっけらかんと路線転換に踏み切って「知らん振り」を決め込むのか。いずれにしても、我々はしばらくの間この「お騒がせ男」に付き合わされることになる。</p>









































<!-- テキスト -->

<p><div align="right">———2025年2月19日筆</div></p>









































<!-- テキスト -->

<p>(本稿執筆のために、本号掲載予定の「社長の思考」第3節をお休みにしましたこと、お詫びいたします。)</p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5835.html</guid>
			<pubDate>Thu, 20 Feb 2025 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2024年11月号（先行配信）</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5716.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



<!-- テキスト -->

<h2 >「トランプのジレンマ<br />
～ハリスは“何”に負けたのか～」</h2>









































<!-- テキスト -->

<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>








































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<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202411/ab324c2c3e74f54038e5a411ea0bb49d.jpg" alt="" width="340" height="227">
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>　事前の接戦予想とは異なり、「トランプ圧勝」で終ったアメリカ大統領選挙。ハリス候補の敗因分析、トランプ候補の勝因分析、またトランプ政権誕生後の米国経済やその日本への影響など、大統領選挙を巡る議論が依然としてTVやネットを騒がせている。私のところにも「先生はどう思いますか?」という質問が寄せられている。そこで以下で、簡単にではあるが、私なりのアメリカ大統領選挙の総括とトランプ政権の今後について思うところを記しておきたい。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >パックンの嘆き</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　大統領選挙の結果を受けたタレントのパックン(パトリック・ハーラン氏)のコメントが話題を呼んでいる。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「トランプには怒っていないですけど、アメリカ国民に怒っています」<br />
「バイデン政権で何ができたかと言っているんですけど、インフラの法律も通したし、環境の法律も通したし、半導体の法律も通しました。経済を見てください。G7の中では断然GDP成長率が高いし、インフレが低いんですよ。アメリカ1人勝ちに見えるのはバイデンのおかげでしょ」<br />
「なのに（ハリス氏が）得点ができていないのはどういうことか。一方で向こう（トランプ氏）には様々な人格の問題とかあるじゃないですか。有罪評決も受けているし、女性を蔑視、差別発言とか暴言とか嘘とか。2回も弾劾されているんですよ。これが全部減点になっていないじゃないですか。だから民主党がいいことをやっても得点できない。トランプが悪いことをやっても減点にならない。採点基準がこのままであれば、どうやったら勝てるのか？（民主党は）反省しようとしてるんですけど、反省してもこの先勝てないんじゃないかと僕は絶望しています。」<br />
——(テレビ東京「News　モーニングサテライト」での発言。『スポニチ』2024.11.8配信記事より抜粋)</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　「国民に怒っています」というパックンの発言に対しては、「何様のつもりなんだ」といった批判的コメントがネットに挙がっているが、テレビ番組や番組後の打ち上げでご一緒した私の印象では、彼は「国民に上から目線でモノを言う」ような品性を欠いたインテリゲンチャーではない。<br />
　彼はただ“嘆いている”にすぎないのである。「女性を蔑視」したり、「差別発言とか暴言とか嘘」を繰り返している人を、誇り高きアメリカの大統領に選んでしまう国民の現状を嘆いているのである。<br />
　スモールサン会員やプロデューサー諸氏の中にも「トランプ好き」の人達がいる。そのことを知った上であえて言うのであるが、私は「人を差別することこそ、人間の最も軽蔑すべき特質」であると考えており、その意味で私自身も心情的には上記のパックンの嘆きに共感する一人である。しかし、大切なことはもちろん「嘆く」ことではない。重要なのは、そういう人を大統領に選ばせるに至った客観的要因を分析することである。<br />
　前回の大統領選挙では僅差といえトランプはバイデンに敗れた。ところが、今回は打って変わって大勝となった。「差別主義者」やトランプの嘘を信じる「陰謀論者」たちが急に国民の多数を占めるようになったとは考えにくい。そうではなく、「トランプの発言はいろいろ問題だとは思うが、それでもトランプに投票した」というアメリカ国民が今回は多かったというだけである。では、有権者をしてそういう投票行動へと向かわせたものは一体何だったのか。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >“金持ち党”対“労働者党” <br />
～サンダース議員や池上彰氏の論評～</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　その点で参考になるのが、アメリカのバニー・サンダース上院議員の発言である。同氏は2016年と2020年の大統領候補を選ぶ民主党予備選挙で立候補し、若者旋風を巻き起こしたことで日本でもよく知られている(ただし同氏は無所属の議員であって、民主党とは統一会派を組むにとどまっている)。そのサンダース議員は、今回のハリスの敗北は「驚くに当らない」としてこう述べている——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「労働者層を見捨てた民主党が労働者層に見捨てられたという結果は、さほど大きな驚きではない」<br />
「民主党はまず白人の労働者層の支持を失い、それからさらにラティーノ（中南米系）と黒人の労働者層の支持を失った」 <br />
「いつしか民主党を支配するようになった富裕層や大企業、高給取りのコンサルタントたちは、この惨憺たる選挙結果から真の教訓を学ぶことができるだろうか。何千万人ものアメリカ人が感じている痛みや政治的な疎外感が、彼らに理解できるだろうか」<br />
——(『Newsweek』2024.11.7配信記事より抜粋)</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　民主党が「金持ち党」と化したことで、元来支持基盤としてきた労働者層などの支持を失った。これがハリス敗北の基本的な構図だとサンダース議員はいう。<br />
　これとほぼ同様の分析をしているのが池上彰氏である。池上氏は、今回のトランプの勝利を一種の「労働者革命」だとしている。　　</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「もともと労働者の党だった民主党は、都市部に住む高学歴のIT系・金融系の従事者によって動く “エリート組織” に変身していました。いわばエスタブリッシュメントの党になっていたのです。 <br />
　こうして、“忘れられた人々” をすくいあげたのがトランプ氏でした。本来、共和党こそエスタブリッシュメントの金持ち政党でしたが、トランプ氏が『労働者の党』にしてしまったのです。 <br />
　かつての共和党の大会では、いかにもエリート然としたスーツ姿の人たちが上品に会話していましたが、いまやトランプ氏のTシャツを着た、エリートが眉をひそめるような風体の人たちに “占領” されてしまいました。 <br />
　日ごろ、政治や経済に無関心だったプロレタリアートを目覚めさせたのがトランプ氏です。いわばアメリカ版の『シン・プロレタリア革命』が出現したのです」 <br />
——『FLASH』2024.11.7配信記事より抜粋</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　「民主党対トランプ共和党」という構図の中身を、「“金持ち党”対“労働者党”」として説明するサンダース議員や池上氏の論評はかなりの説得力を持つ。しかし、この構図の下で前回トランプはバイデン民主党と戦い、敗北を喫しているのである。ところが、今回は大勝である。とすれば、今回のトランプの大勝はこの構図をもってするだけでは説明できない“何か”があるということになる。<br />
　バイデン政権下の4年間のうちに、トランプ圧勝へと導くにいたる“何か”が起きていた。それは何か。——問題をこう整理すれば、その答えはもはや明白であろう。それは、バイデン政権下の4年間のうちに進行した「 40年ぶりといわれる凄まじいインフレ」である。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >40年ぶりのインフレ亢進</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　バイデン政権がスタートしたのが、2021年1月。同年5月あたりからアメリカの消費者物価が上昇しはじめた。その後みるみるうちに上昇率が高まり、一時は9%というオイルショック時以来の高さにまで達した。以下に引用するのは、2022年1月25日に日本の経済産業研究所がホームページに掲載した論稿(執筆者は伊藤宏之客員研究員)である。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>米国の高インフレは、比較的最近の現象である。パンデミック以前、インフレ率は1.5%から2%未満の間で比較的安定していた。2021年に入ってもインフレ率はそれほど高くなかったが、5月以降加速し始め、1982年に匹敵する水準で推移している（図1）。<br />
モノやサービスの価格は、幅広い部門や品目で上昇している。2020年12月と比較すると、レンタカー代は36%上昇し、家具が17%、男性用のコートやスーツ11%、食品の価格6.3%など、価格が広範囲に上昇した。<br />
——以上(図1を含む) 、伊藤宏之「米国における高インフレ」(独立行政法人経済産業研究所、2021年1月25日掲載コラム) より。<br />
<img src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202411/1ee0709c6576c248a63e60c592082052.png"></blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　バイデン政権下でインフレが亢進した原因は２つある。その1つは、コロナ禍が引きおこしたサプライチェーンの寸断である。これが供給ネックとなって、21年春ごろからの需要回復に供給が追い付かず、需給ギャップが大きくなった。これが物価高騰の第1の原因である。そして、もう1つの原因はFRBの対応の遅れである。<br />
　先に述べたように物価は21年5月ごろから上昇し始めたが、インフレを警戒してFRBが金融引締めへと政策を転じたのは1年近く後の22年3月(政策金利を0.25％から0.5％に引き上げた)だった。明らかにFRBはインフレへの対応が遅れてしまったのだが、これは当時の物価上昇を「供給ネックに起因する一時的な現象」とみて、早晩物価も落ち着くにちがいないと認識していたからである。<br />
　戦時中ならまだしも、平時の資本主義国で供給ネックに起因して物価が全般的に騰貴するなどということはほとんど経験がない。FRBが判断を誤ったのもやむをえない面もある。しかし、FRBはコロナ禍への対応として超金融緩和政策を実施していたし、バイデン政権も大型の財政支出を実施していた。そのため、金融市場には大量の資金がだぶついていた。ひとたび物価が上昇し始めたら、そうした余剰資金がここぞとばかりに商品投機に向かう危険性をFRBは重く認識すべきだった。実際、当時話題になった「ウッドショック」に象徴されるように、先物市場での商品相場の急騰に誘導されながら物価上昇が進行した。この点、FRBの認識の甘さは批判を免れない。<br />
　22年3月に引締めに転じたFRBはその後大幅な利上げを繰り返し、最近になってようやく物価は2%台にまで落ち着いてきた。しかし、この数年のインフレで国民の生活はかなり破壊的な影響を蒙ってしまっており、これが今回の投票行動に結びついたのである。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >ハリスはトランプに負けたのではなく、“インフレ”に負けたのだ!</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　インフレがもたらした生活苦をニューズウィーク誌が取材している。以下は、2024年11月8日の記事である。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>マディは看護師として「立派な給料」を受け取っていて、夫のライアンも重機操縦の職に就いているが、一家の暮らしはギリギリだという。…<br />
「私たち夫婦の給料は合計で年間17万5000ドル(1ドル150円で換算すると、2450万円－山口)。出費はどうにか賄えるけれど、手元にお金は全く残らない」 …<br />
インフレの影響はあまりに大きいと、マディは言い切る。「今まで買っていたものが2倍、3倍に値上がりしていて、危機感を覚える」…<br />
「以前と同じようには買い物ができなくなったし、最近は旅行にも行けなくなった。生活のいろいろな局面で倹約と貯蓄を考えなくてはならない。クリスマスの過ごし方も様変わりしてしまった」<br />
——Newsweek 2024.11.8より抜粋</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　重要なのは、「以前」すなわち「バイデンが政権につく以前」と比べて現在はどうなのかという視点で国民は事態を見ているのだという点である。現在、インフレ率は2％台にまで落ち着き、パックンの言うようにその限りでは「インフレ(率)は低い」ともいえる。しかし、物価が下がっているわけではない。「以前」と比べて物価は高いままであり、しかも今もなお年2%以上のテンポで上昇を続けている。このことが重要なのである。ニューズウィーク誌はいう——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>ピュー・リサーチセンターの調査によると、6月の時点で、シリアルや牛乳など朝食の定番品の価格は、20年1月と比べて約40％も高かった。…<br />
米農務省によると、同時期に輸送コストも27.1％上昇した。… <br />
6月の自動車保険料は、20年1月と比べて47.3％も上昇した。その背景には、修理費の上昇（47.5％）がある。<br />
——同上</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　こうした生活苦にあえぐ国民からすれば、ハリスに投票することはバイデン政権下の4年間で起きたインフレの亢進を「肯定」することにほかならない。それを「よし」とする気持ちにはとてもなれなかった有権者たちの多くが、トランプの言動には問題を感じながらもトランプに一票を投じた。その結果が「トランプ返り咲き」であったと考えるのがもっとも自然である。端的に言えば、ハリスはトランプに負けたのではなく、インフレに負けたのである。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >トランプの関税政策は “インフレ促進策”</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　さて、そこで問題になるのは、来年1月に誕生するトランプ政権の政策がこうした有権者たちの生活苦——インフレがもたらした生活苦——を緩和し、彼らの生活の改善に貢献するものなのかどうかである。結論を先取りしていえば、それはおよそ期待できない。なぜなら、トランプが公約として示した政策の多くがむしろ「インフレを促進」するものだからである。ここにトランプ政権のジレンマがある。<br />
　たとえば、トランプは「全輸入品に10〜20%の一律関税、中国製品には60%の高率関税を課す」という公約を掲げてきた。これは一言で言えば、徹底した「保護主義政策」である。関税によって輸入品を排斥し、国内産業を活性化して雇用を生もうというものである。「労働者政党」としての「トランプ共和党」ならではの政策だともいえる。<br />
　だが、はたして関税による保護主義政策が国内産業の活性化や雇用創出に本当につながるのか。それ自体大いに疑問である。周知のように日本は農業保護の掛け声の下で長年輸入農産物に高率の関税を課してきた。しかし、その効果で日本の農業が活性化し、農業従事者が増加したなどという話はまったく聞かない。<br />
　もし仮に関税政策が一定の効果を生むとしても、それは一国の産業構造の転換を伴うものであり、それには相当な時間がかかるとみるべきである。少なくとも、1年や2年で効果が現われるようなものではない。その間はむしろ関税政策の負の側面の方が強く現われる。というのは、新たに関税を課すことによって輸入品の価格が上昇し、それが国内での販売価格に転嫁されて消費者物価を押し上げることになるからである。<br />
　消費者は高くなった輸入品を購入することで、関税という形で新たに課された増税分を事実上自らが負担することになる。その限りでは、生活苦は緩和されるどころか、より厳しくなる。もちろん、消費者が高くなった輸入品を避け、同種の国内品を多く買おうと行動することは考えられる。しかし、そもそも国内品の価格はかつての輸入品に比して高かった——だからこそ、これまで輸入品を選択してきた——のだから、それを購入することで消費者の支出は嵩むことになる。また、さらにいえばそうした需要のシフトによって国内品の価格自体が一段と上昇する可能性もある。<br />
　ちなみに、ゴールドマンサックスは、自動車・中国製品に対する関税だけでも「個人消費支出（PCE）でみた物価上昇率を0.3〜0.4ポイント押し上げる」と推計している。仮に公約通り全輸入品に10～20％の関税を課したら、物価押し上げ効果はさらに広がることになる。<br />
　要するに、トランプは「インフレで生活が苦しいがゆえに自身に票を投じた有権者」に対し、「インフレ促進策」を公約として掲げたのだということである。この政策が本当に実行に移されれば——移されない可能性も十分にあるのだが——、やがて有権者はこの“矛盾”に気づくことになる。その気づきは、早ければ2年後に実施される中間選挙(下院議員の選挙)でトランプ政権に対する失望となって現れるかもしれない。　</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >ドル安誘導策もインフレを促進するだけ!?</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　同様の矛盾は、トランプが示した他の経済政策にも見られる。たとえば、トランプはFRBの金融政策に介入し、金利引き下げを実行させてドル安を誘導するのだと公言している。「ドル安にすれば、アメリカ製品の国際競争力が強化され、輸出が増えて国内製造業も活気づく」と考えたのであろう。<br />
　しかし、ドル安を誘導すれば、輸入物価は間違いなく上昇し、これが国内物価の上昇圧力となる。つまり、この政策においても、トランプはインフレに苦しむ有権者に「インフレ促進策」を提示したことになる。<br />
　ちなみに、「自国通貨安を誘導すれば、国内産業が活性化する」とは必ずしもいえない。このことは、日本の現状に照らして見れば明らかである。表1は先月号のスモールサンニュース「景気を読む」で掲載したものだが、日本の輸出について見たものである。22年も、23年も、24年1－8月期においても、円安の進行が輸出数量の増加につながっていないことを示している。たとえば、24年1－8月期について言えば、この期間およそ10%も円安が進んだが、数量ベースの輸出は2.6％減少している。いうまでもないが、数量ベースで輸出が増えなければ、国内製造業の活性化にはつながらない。<br />
　輸出が数量ベースで増えるかどうかは何よりも世界経済の状況によって決まる。さらに自国通貨安が進行すると、輸出企業は為替利得が「濡れ手に粟」で享受できる。そのため、より多くの製品を輸出して利益を得ようというモチベーションそのものが低下してしまう危険もある。<br />
　要するに、トランプのドル安誘導策がただインフレを促進しただけの結果で終ってしまう可能性もあるということである。これについても、おそらく次期中間選挙の頃までには明らかになるだろう。</p>








































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		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202411/fc6a888bcba17332309fdab4aea70e11.png" alt="" width="800" height="227">
</div>

































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<!-- テキスト -->

<h3 >トランプの移民対策のジレンマ</h3>








































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<p>　最後に、トランプの眼玉政策ともいえる移民対策についても触れておこう。今回、トランプは「不法移民1100万人を強制送還する」という「米国史上最大の国外追放」策を公約として掲げた。<br />
　トランプ前政権の4年間で強制送還された不法移民は150万人といわれている。トランプは事前に300万人を強制送還すると公約していたのだが、実際にはその半分しか実行できなかった。今回は1100万人という膨大な数である。その実行性には疑念を抱かざるをえない。(ちなみに、バイデン政権下でも今年の2月までに110万人を強制送還しているのだから、トランプ前政権の「実績」は特に際立ったものではない。)<br />
　仮に公約通り移民の排斥が進んだら、アメリカ経済はどんな影響を受けるか。その第一は、これもインフレの進行である。<br />
　最近になってインフレ率が低下してきたのには、FRBの金融引き締め策以外にもう一つ要因があったといわれている。それは、移民の流入である。移民が安価な働き手となることで人手不足の緩和と賃金上昇の抑制に貢献し、結果的に物価上昇率の低下に寄与したというのである。とすれば、トランプが移民を「米国史上最大」規模で「国外追放」すれば、この構造は一変することになる。<br />
　移民の大規模排斥のもう1つの影響は、アメリカ経済の成長率そのものの低下である。「仕事があっても人手不足でそれを受けられない」という日本の中小企業経営者の声を日々聞かされている我々からすれば、これも当然のことと理解できる。今や日本は人手不足が最大の成長阻害要因になっている。<br />
　日経新聞もこう書いている——</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>働き手の減少は経済成長率にはマイナスに作用する。ブルッキングス経済研究所はトランプ氏の政策が移民流入を萎縮させる効果なども考慮した結果、ハリス氏の政策とくらべて25年の成長率を最大で0.5ポイント押し下げる可能性があると分析した。<br />
——日本経済新聞2024.11.7</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　物価が上がり、なおかつ成長率が低下したとなれば、移民の大規模な排斥政策の正否が問われることになる。これも2年後の中間選挙のテーマになりうるだろう。</p>









































<!-- テキスト -->

<p>—————————</p>









































<!-- テキスト -->

<p>　「勝因」が「敗因」に転化するという「弁証法的法則」が、果たして2年後ないし4年後に貫徹するかどうかはわからない。しかし、目の前で起きていることを表面的に捉えて、物事を固定的、一面的に見てしまうことは厳に慎まなければならない。もしかすると、これは(「勝利に驕るな」という戒めとして)トランプに対する応援メッセージになるかもしれないが、私としてはこのメッセージをパックンに「絶望することなかれ」と一言添えて送りたいと思う。</p>









































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<p><div align="right">———2024.11.12筆</div></p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5716.html</guid>
			<pubDate>Wed, 20 Nov 2024 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2024年1月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5234.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



<!-- テキスト -->

<h2 >「“再定義”の時<br />
～『淘汰の時代』を生き抜くために～」</h2>








































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<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
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	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>









































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<p>いま中小企業に必要なのは、この“再定義”という「パワー」なのではないか――そう感じたことが、私に本稿を書かせている。実際、様々な構造的要因によって多くの中小企業は、これまでどおり漫然と事業を続けていくことが許されなくなりつつある。…(本文からの引用) </p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「パワー」としての “再定義” </h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　お読みいただいた方も多いと思うが、私は今年(2024年)の年頭挨拶で慶應義塾高校野球部が昨年夏の甲子園で優勝したことについて触れた。そこにも記したように同部を率いる森林貴彦監督はかねてより「高校野球の“再定義”」を掲げ、これまでの高校野球観からの脱却を念頭に置きながら生徒たちの指導に当たってきた。<br />
　森林監督によれば、今の高校野球では、生徒たちは大人たちが描いた「甲子園ドラマ」の登場人物を演じさせられており、それが呪縛となって一人ひとりが自分自身の頭で考え、工夫し、行動することができなくなってしまっている。そんな状況を打破し、生徒たちの主体性を取り戻すというのが、森林監督が目指す高校野球の“再定義”にほかならない。<br />
　「選手を寮に入れ、坊主頭にして管理した上で、野球以外のことを考える余地さえ与えないほど練習させる」(注1)。そして、「オレの言うことさえ聞いていれば、甲子園に行ける。だから黙って言うことを聞け!」(注2)とばかりに監督が高圧的に生徒たちを指導する。これはたしかに2年という短期間で「勝てるチーム」を作り上げる「近道」ではあるかもしれない。しかし、森林監督はその「近道」を意図的に放棄し、生徒一人ひとりが自分で考え行動し、失敗しながら成長していくという「遠回り」(注3)を選んだのである。<br />
<br />
　森林監督は「優勝」の3年前に出版された著書で、こう書いている。――</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「別に坊主頭じゃなくても、何も問題ないのではないか」<br />
「監督が絶対的な存在である必要があるのか」<br />
「そもそもサインなしでプレーしてもいいのではないか」<br />
「高校生が主役となって、もっとチーム作りに携わってもいいのではないか」<br />
こうした現状への疑問や改革案を常に念頭に置き、慶應義塾高校野球部では、監督と部員が対等に意見を出し合いながら、日々の活動を作っていくことを目指しています。これまで皆さんが見てこられた“ザ・高校野球”とは異なりますが、新たな形を提示していき、旧来の価値観に揺さぶりをかけることが目標であり、また私の使命だとも思っています。(注4)</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　選手たちが自分で考え、自分で選んだやり方でいい結果を出せれば、その喜びをばねにして彼らはさらなる高みを目指すようになる。それこそが野球を“エンジョイ”することなのだとして、森林監督は野球部のテーマを「エンジョイ・ベースボール」とした。<br />
　勝利への「近道」を拒否したにもかかわらず、同部が107年ぶりの優勝という偉業を達成できたのは、監督が提示した「理念」が生徒たちの中にしっかり浸透していたからにほかならない。<br />
　優勝を決めた甲子園のグランドで、キャプテンの大村昊澄(そらと)君はインタビューに答えて、「エンジョイ・ベースボール!」と大声で叫んだ。そして、こう続けたのである。<br />
　「私たちが優勝したことで高校野球が変わることを期待しています」。<br />
　これは野球部員たちが「勝ちたい」という思いだけでなく、「勝つことの意義」をしっかり認識しながら練習に励んできたことを示すものである。森林監督の“再定義”が大きなパワー生み、それがチームを優勝へと導く原動力になったことがわかる。</p>









































<!-- テキスト -->

<ul>
<li>注1)森林貴彦著『Thinking Baseball』(東洋館出版社、2020年10月刊)60ページ。</li>
<li>注2)同上64ページ。</li>
<li>注3)同上40ページ。</li>
<li>注4)同上45ページ。</li>
</ul>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「労働規制の強化」が中小企業に“再定義”を迫る</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　いま中小企業に必要なのは、この“再定義”という「パワー」なのではないか――そう感じたことが、私に本稿を書かせている。実際、様々な構造的要因によって多くの中小企業は、これまでどおり漫然と事業を続けていくことが許されなくなりつつある。<br />
　中小企業に事業コンセプトの「再定義」を迫る構造的要因として、本稿では以下の4点を指摘しておきたい。<br />
　その1つは「労働規制の強化」である。物流2024年問題にあえぐ運送業界の状況はその典型だろう。中小運送業はこれまでトラック・ドライバーの長時間労働に依存しながら仕事を回してきた。しかし、「年間960時間まで」という時間外労働への規制――一般の業界は720時間――が課される本年4月からは、それが難しくなる。<br />
　労働規制の強化は運送業界に限らず、中小企業が仕事を続けるためのハードルを高くする。本年4月からは中小企業においても、月60時間を超える時間外労働に対する「法定割増賃金率」が“50%以上”に引き上げられる。長時間労働が経営コストの増加に直結する構造がさらに強まることになる。<br />
　こうした労働規制の強化が――環境規制の強化と並んで――、中小企業にビジネスのあり方やビジネスに取り組む姿勢そのものの見直し、すなわち事業コンセプトの“再定義”を迫っているというのが私の認識である。<br />
　「効率化」――これがその“再定義”の際のキーワードになる。以下、運送業を例に取りあげて私見を述べてみたい。</p>








































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<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202401/large-b46d60ade5e3b3163f54194db0e83fad.png" data-rel="SmartPhoto[5234]" data-caption="">
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	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>　そもそも物流2024問題は直接には「トラック・ドライバーの長時間労働を是正しなければならない」という問題から発しており、その限りでは厚生労働省のマターである。また、それが運輸業界に関する問題だという意味では国土交通省のマターでもある。ところが、今回物流2024年問題の解決策づくりに大きく関わってきたのは経済産業省であった。たんに長時間労働を是正するというだけでなく、物流を「効率化」して日本の産業力強化につなげるという問題意識がその根底にあったからである。そのため、行政による指導強化の対象も運送業者にとどまらず、荷主へと広げられた。最近は、政府のこうした意向を受けて、大手荷主が自ら中心になって次々と対策を打ち出すに至っている(表1)。<br />
<br />
　「サプライチェーンの効率化」という時代的要請の中にあって、ひとり中小運送業者のみが自社のビジネスを依然として「モノを運ぶ仕事」と狭く捉えていて、果たして生き残っていけるのだろうか。大いに疑問である。<br />
　物流の効率化には「荷主企業との協力」や「競合他社との連携」が欠かせない。そうした施策を主体的に展開していくためには、運送業者自らが「サプライチェーンの効率化」に積極貢献することを事業コンセプトの中心に位置づける必要がある。そうした“再定義”をパワーにして、その「理念」に見合った事業展開を全社一丸となって積極果敢に進めて行く。そういう企業を今「時代」が必要としているのである。<br />
　運送業をロジスティクスと呼ぶことがあるが、後者はもともと兵站(へいたん)と称される軍事用語で、前線の兵隊たちに「効率的」に食料や武器などの物資を届けることを意味している。「運送業」から「ロジスティクス」へ――時代は真の意味でその転換を求めている。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >下請け中小製造業に“再定義”を迫る技術革新</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　中小企業に事業コンセプトの“再定義”を迫る構造的要因の２つ目は、「技術革新の進展」である。EV化が進む自動車産業で下請け機構の縮小・再編が騒がれ始めたことは、その典型的かつ重大な現象の一つである。<br />
　EV化は中小製造業からエンジン関係の仕事を奪うだけではない。それは自動車生産のあり方そのものの刷新を伴って進行する。たとえば、トヨタはEVの生産にあたっては「溶融したアルミニウム合金で自動車の車体部品などを一体成形する」ギガ・キャストと呼ばれる技術を採用する。これを採用すれば、部品点数や生産工程が大幅に削減できるからである。すでに試作品作りでは従来86部品、33工程必要だった部品生産が、１部品１工程に削減できることが確認されている。<br />
　こうした技術がどの程度のスピードで広がるかは不鮮明だが、技術革新による大幅なコストダウンなしには日本の自動車メーカーはEV生産で先行している中国企業に勝つことはできない。トヨタは2026年までにEV車の生産を年間160万台にまで増やす計画でいる。その実現が革新的な技術の導入を伴って進められて行くとすれば、下請け機構の大幅な縮小というシナリオも現実味を帯びてくる。<br />
　下請け機構の大幅な縮小が避けて通れないとなれば、自動車関係の中小製造業は生き残りをかけてあらたな居場所を見つけなければならなくなる。それが他分野で活躍する中小製造業にも影響を与える。すでに現場からは「自動車分野からの企業の参入で、わが社の活動領域でも競争が激しくなってきている」という声が聞かれる。<br />
<br />
　そんな激動の時代を生き抜くためにも、中小製造業は事業コンセプトを“再定義”して、統一的な意志で新たな課題に取り組めるような「理念」を明確にしておくべきである。<br />
　「顧客創造」――ここではこれがキーワードになる。下請け中小製造業の中にはいわゆる「営業担当者」を持たない企業が少なくない。自ら新たな売り先を探さなくとも、固定的な親子関係を基盤にして親会社からある程度の量の注文が継続的に寄せられてきたからである。しかし、今後は自ら「顧客」を作り出していける「顧客創造企業」へと転換していかなければならない。<br />
　そのためには、市場のニーズを探し当てる“臭覚”が必要であり、そうした情報取集の役割を果せる「営業担当者」が欠かせない。さらに、自社の技術や提案力をアピールできるプレゼン力も求められる。何をどう魅力的にプレゼンするかは、たんに営業担当者が考えることではない。全社的な議論と協力があってはじめて効果的なプレゼンが可能になる。さらに、おそらくこれまで全く無関心だった「プレスリリース」も必要になるかもしれない。事業コンセプトを「再定義」することなしに、小手先的な対応だけでこうした変革、挑戦がうまくいくとはとても思えない。<br />
　なお、技術革新によって“再定義”が迫られるという事態は、上に述べたEV化に伴う現象だけではない。それ以上に広範囲な影響を与える可能性を持つものとして目を離せないのがAI化である。最近のAI技術の飛躍的発展に伴ってホワイトカラーの仕事の多くが喪失される可能性が指摘されている。「知的」と形容句をつけられてきたような職種の多くでも“再定義”が必要となっている。この問題については、別途考察の機会を得たい。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「コスト高」が迫る“再定義” </h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　“再定義”を迫る構造的要因の3つ目は、インフレがもたらした「高コスト化」である。<br />
　「高コスト」への対応は、今やほとんどの業種業態で中小企業経営者の頭を悩ましている。もちろんコスト上昇に対しては、それを販売価格に転化していくことが基本的な対応策である。しかし、原材料などの仕入れ価格だけでなく、光熱費や人件費さらには設備投資などの費用も含めて全般的に経営コストが上昇する事態となれば、その増加分を販売価格に逐一転化していくことも難しくなる。「頑張って売上げを増やしたものの、その所為でコストが増え、かえって利益が減ってしまった」ということになりかねない。<br />
　デフレ期であれば、売上げの増加はそのまま利益の増加に直結していた。仕入れコストもエネルギー・コストも低く抑えられていたし、給与水準も安定的に推移していて今日のように大幅な賃上げをしないと人材確保が難しいということもなかった。事業拡張に伴うコストも低く、投資資金もゼロに近い金利で調達できた。しかし、今日事態は一変している。金利も今年は徐々せよ上昇するものと見られている。無暗な拡大路線はますますリスキーになってきている。<br />
　「価値創造」――これをキーワードに、あらためて自社のビジネスを“再定義”することが必要になる。売上げという「量」を追求する経営から、高付加価値化を目指す「質」の経営への転換である。<br />
　その際、追求すべき戦略上のターゲットは「独自性」である。「独自」な技術を背景に他社が簡単には真似できないモノを提供できる。あるいは「独自」なシステムを構築したことでユニークなサービスを提供できる。企業はこうした「独自性」を持つことで価格決定権を獲得でき、はじめて高付加価値なビジネスが展開できるからである。<br />
<br />
　ただ、中小企業が追求すべき「独自性」はこうしたモノやサービスに関することだけではない。もう一つ市場の「独自性」を忘れるわけにはいかない。<br />
　大きなマーケットがなければ生きていけない大企業と違い、中小企業は自身の身の丈に合ってさえすれば、小さなマーケットでも生きていける。それを強みにして、中小企業は他者が見向きもしない「独自」な市場で圧倒的シェアを獲得するという戦略を描くこともできる。そこでは市場の「小ささ」が他社の参入を阻んでくれる。そのことで価格決定権を確保し、高付加価値な商品やサービスの提供を継続できる。これはまさに中小企業ならではの戦略であるが、消費者ニーズがますます多様化し、市場がどんどん細分化している現代にあっては、これはむしろ時代に適合した経営戦略だということにもなる。「価値創造企業」を目指すという“再定義”が、身の丈の小ささを生かして活躍する中小企業を多数生み出してくれることを期待したい。</p>








































<hr class="clearHidden">



<!-- テーブル -->
<div class="column-table-">
	<div class="entry-container">
	<table class="table-">
	<tr>
		<td>(補注) 本年2月25日に立教大学で開催される<a href="https://www.smallsun.jp/seminar/entry-5194.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">「スモールサン日曜大学2024」</a>においては、上で述べたことをすでに実践して成果も上げている“高付加価値企業”の代表者たちにパネラーとしてご登壇いただく。第一部パネルティスカッション「めざせ! 高付加価値企業」。請うご期待!</td>
	</tr>
</table>

	</div>
</div>




































<!-- テキスト -->

<h3 >人と企業の関係も“再定義”</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　“再定義”を迫る構造的要因の4つ目は、最近ますます深刻化している「人手不足」である。人手不足の現状についてはあらためてここで解説するまでもないだろう。中小企業の現場では「仕事があっても人手不足でそれを受注できない」という声は多く、また最近は人手不足を「原因」にした倒産や廃業も多発している。<br />
　DXなどを活用した業務の効率化、あるいは人件費増に耐えうるだけの高付加価値経営の実践、これらが人手不足に対する基本的な対策であることは間違いない。しかし、それだけで事足りるわけではない。そうした施策を講じた上でなお、中小企業は強力な「人材確保策」を実施していかなければならない。それが、仮にこれまでの経営のあり方に大幅な修正を迫るようなものであっても、である。<br />
　「多様化」、「外部化」、「快適化」――重視されるべきキーワードは3つある。<br />
<br />
　「多様化」とはいうまでもなく人材の多様化、いわゆる「ダイバーシティー」である。女性、高齢者、障がい者、外国人など多様な人材をうまく活用することによって「人手不足」を緩和し、むしろそのことで生産性の向上を実現する。ちなみに、たとえば女性の職場進出が仮にスウェーデン並みの比率に上昇すれば、それだけで人手不足は――少なくとも「量的」には――おおむね解消するとさえ言われている。女性の職場進出を難しくしているハードルが、今日の人手不足の大きな要因の1つなのである。これは高齢者、障がい者、外国人についてもいえることである。<br />
　こうした状況を変えるには、もちろん企業のみならず社会全体の変革が必要だが、さしあたり企業自身でやれること、やるべきことも多い。仕事の中身を細分化し、それぞれの人材が最大限その「強み」を発揮できるような仕事のあり方や職場環境づくりが求められる。それは、「人」を視座に据えて仕事のあり方を捉え直すという“職場の再定義”にほかならない。<br />
<br />
　「外部化」とはいうまでもなく「外部人材」の活用である。企業に所属しないでフリーで活躍する「専門人材」、あるいは企業に所属しながらもそれとは別の場面で能力を発揮している「副業人材」、さらに企業に「所属」はしないが「登録」だけはしておいて単発で仕事を請け負う「プラットフォーム・ワーカー」など、企業が人手不足を嘆く半面で、こうした「企業の枠に収まらない人材」がますます増えてきているのも事実である。こうして増え続ける「外部人材」をどう活用していくか。これも中小企業にとって対峙すべき重要な課題である。<br />
　もちろん人材の「外部化」には限界がある。「この仕事は外部の人材に担わせることができるが、これは内部の人材にしか任せられない」という言い方がなされることが多い。しかし、従来のビジネスモデルそのものを再考して、企業自ら「内」と「外」の関係を「再定義」してみる姿勢は必要だろう。<br />
　昨年(2022年)のスモールサン「日曜大学」に参加された方であれば、ゼミ松阪のメンバーである三重化学工業の山川大輔社長がパネルディスカッションでこんな発言をされていたことを覚えているだろう。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>地方の中小企業の最大のデメリットは人材が集まらないことです。…であるならば、もう諦めて、松阪市の外、会社の外に必要な人材を求めればいいんじゃないかと。そこで、オープン・イノベーションのプラットフォームとして、「ミエラボ」というのを2020年7月に立ち上げたんです。そこを拠点にして、たとえば大企業に籍を置く副業人材など多様な個人の方々と繋がって、多様なアイデアを集約していく。そういう意図で「ミエラボ」を起ち上げて、今2年目になります。――<a href="https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-4763.html"target="_blank" rel="noopener noreferrer">スモールサンニュース2023年3月号</a>。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　従来であれば、商品開発部(ラボラトリー)は情報流出をもっとも警戒すべき部署である。それを敢えてオープンにする。そうすることによって、プロパー社員だけではなしえなかった新商品の開発や販路の開拓を可能にする。山川社長のこの戦略は見事にヒットし、同社は「ミエラボ」を拠点にして多数の新商品を生み出しただけでなく、海外進出という新たな展開まで果たしている。「外部人材の貢献なしにはありえなかった」と山川社長は語る。従来の「内」「外」の関係を越えて、企業を「様々な知恵の出会いの場」――「共創」の場――として位置づけるというのが山川社長の考え方である。これは、中小企業のあり方そのものの“再定義”でもある。<br />
<br />
　最後の「快適化」とは、いうまでもなく「労働者がぜひこの会社で働きたい」と感じるような、労働者にとって「快適」な職場をめざすということである。しかも、その「快適さ」を外に向けて巧みにアピールできてはじめて、それが人材獲得の戦略になりうる。<br />
　この点で、スモールサンニュース先月号(2023年12月号)の対談で話題にしたアートフレンド・グループによる「トラック・ドライバー獲得支援策」は大いに参考になる。トラックのカスタマイズと中古トラックの販売を手掛ける同グループが、「新たに100人のドライバーを集めたい」という運送会社(200人規模)の募集活動を支援し見事にその希望を実現した事例である。以下に、対談記事の一部を引用しておこう。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote><b>近藤：</b>(支援策の)第一は何と言っても私たちの持っているカスタマイズ技術を最大限活用して、ドライバーの皆さんがぜひ「こんなトラックに乗って仕事がしたい」と思うような、働きやすくてかっこいいトラックを仕上げることです。そして、それを運送業者さんにご購入いただく。…<br />
<b>山口：</b>…ホワイトカラーにとってオフィスが快適かどうかは決定的に重要です。だからこそ、社屋の建て替えとかオフィスの引越が人材獲得の一つの手段になるわけです。トラック・ドライバーにとって、ホワイトカラーのオフィスに当るものがトラック。長時間その中で過ごすし、場合によっては寝泊まりもする。そこが快適な空間かどうかはドライバーにとっては、どの運送会社に勤めるかを左右するほどの決定的な要因です。近藤さんの戦略はまさにそこを突いているわけです。トラックといえば、一義的にはいうまでもなくモノを運ぶ手段なんですが、それを「ドライバーの“職場”としてのトラック」、「ドライバー獲得手段としてのトラック」というように発想を広げていく。近藤さんのこうした発想力が「危機」を「チャンス」に変えていくことを可能にしたんでしょうね。――<a href="https://www.smallsun.jp/smallsun_news/taidan/entry-5186.html"target="_blank" rel="noopener noreferrer">スモールサンニュース2023年12月号</a>。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　近藤氏はさらにそのトラックの試乗会を家族で参加できる地域イベントとして開催し、「お父さんこのトラックかっこいいね」などと子供に言われながらドライバーが子供と一緒にトラックに試乗する機会を作った。子供たちの“あこがれの視線”は、トラック・ドライバーの“誇り”を刺激する。これも「快適化」戦略の一部である。<br />
　忘れてならないのは、こうした戦略もトラックを「モノを運ぶ手段」から「ドライバー獲得手段」へと「再定義」したことで可能になったものだということである。それが100人ものドライバーを獲得する力を発揮したとすれば、これもまさに“再定義”のもつパワーを示す事例だといえる。</p>








































<hr class="clearHidden">



<!-- テーブル -->
<div class="column-table-">
	<div class="entry-container">
	<table class="table-">
	<tr>
		<td>(補注)本年2月25日に立教大学で開催される<a href="https://www.smallsun.jp/seminar/entry-5194.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">「スモールサン日曜大学2024」</a>では、近藤正人氏にもご登壇いただく。第二部パネルティスカッション「人手不足の今こそやるべきこと」。近藤氏の実践を直にご本人からうかがうチャンスである。</td>
	</tr>
</table>

	</div>
</div>




































<!-- テキスト -->

<p>　「私たちが優勝したことで高校野球が変わることを期待しています」。野球部キャプテンにこう言わしめた森林監督の“再定義”。これと同じように、従業員一人ひとりが自社の発展の意義を強く感じながら日々のビジネスに挑むことを可能にする中小企業の“再定義”。———今、時代はそれを求めているのだと思う。</p>









































<!-- テキスト -->

<p><div align="right">———2024.1.19筆</div></p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-5234.html</guid>
			<pubDate>Mon, 22 Jan 2024 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2023年4月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-4790.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



<!-- テキスト -->

<h2 >「指導者とは“気づかせ屋” <br />
　～ 野村克也語録に見る“指導者論”～」</h2>









































<!-- テキスト -->

<p>立教大学名誉教授　山口義行(スモールサン主宰)</p>








































<hr class="clearHidden">





<!-- 画像 -->
<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
		<img class="columnImage" src="https://www.smallsun.jp/archives/002/202304/5f0e46e913dd19ad054460cf32ac74c5.jpg" alt="" width="340" height="225">
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>　「指導者とは何か」――その十分な検討もないまま、経営者が中間管理職に指導者であることを要求している。そんなことはないだろうか。優秀な選手が優秀な監督とは限らないように、仕事ができたからと言ってその人が優秀な指導者になれるとは限らない。指導者としての役割を要求するのであれば、経営者自身が指導者とは何か、指導とは何かについてしっかりと考えてみることが必要である。そこで、その一助として、以下ではプロ野球界屈指の指導者であった野村克也氏の指導者論を紹介したい。<br />
　野村氏のプロフィールについては改めてここに記す必要もないと思うが、念のため以下に記しておく。野村氏は1935年京都府に生まれた。高校卒業後、1954年にテスト生として南海ホークスに入団。現役時代には歴代2位の通算657本塁打、戦後初の三冠王ともなるなど名選手として知られた。選手引退後は1990年から1998年までヤクルトスワローズ、1999年から2001年まで阪神タイガース、2003年から2005年まで社会人野球のシダックス、2006年から2009年までは東北楽天ゴールデンイーグルスの監督を務めた。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >指導者とは“気づかせ屋” </h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　「部下の育成をよろしく」と依頼された管理職は、おそらく真っ先に「部下に何をどう教えるか」に考えを巡らせるに違いない。これは当然と言えば当然だが、その根底には「指導とは教えること」という観念があるからである。実は、野村氏の指導者論はこの観念を否定することから始まる。野村氏は言う――</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　選手が成長できるかどうかは、本人が気づくかどうかにかかっている。指導者からいえば、気づかせてやれるかどうかである。<br />
　だから、指導者は選手に対して気づきのヒントを与える。例えばバッティングなら、力が伝わる理にかなったフォームや内外角へ投げられた厳しいボールへの対応の仕方、基本的な相手バッテリーの配給パターンなどについて、「こうやってみたらどうだ」「こういう対応の仕方がある」とアドバイスを繰り返す。指導者自身の考え方や理論を強制するのではなく、あくまでもヒントを与えるというスタンスだ。<br />
　ここで気づく選手は伸びる。鈍感だったり、表面に受け入れる謙虚さがなかったりする選手はなかなか気づかないが、それでもヒントを与えて待つ。<br />
　指導者は、気づかせ屋であることを自覚することだ。<br />
　選手が間違った努力をしないように、本人が気づいていないことを具体的に指摘してやるのが大切な役割である。それは、技術的指導に限定されるわけではない。技術力や天性にはどうしても限界がある。それを補うのは知恵である。<br />
　そして最終的には選手たちに人間的成長を促すことが、指導者のもっとも重要な役割だとわたしは思っている。<br />
　「人間的成長なくして技術的進歩なし」。わたしが選手たちに、もっとも気づいてほしかったことである。<br />
――『野村克也　全語録』プレジデント社、2022年1月刊、p163。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　「指導者とは気づかせ屋」――これは「名言」ではないだろうか。「教える」から「気づかせる」に軸足を移すことで、指導者の話し方やその内容、また話すタイミングにも変化が起きて来る。指導者が最初にやるべき仕事、もちろんこれも違ってくる。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >教えるではなく、見つける</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　野村氏は、指導者としての最初の仕事は「教えることではない」という。では、何をすべなのか。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　人を育てるには、まずその人の適正を見抜かなければならない。指導者としての最初の仕事は、教えることではなく見つけること、見出すこと。適性を把握したら、それを発揮できる場所を与え、能力に磨きをかける。これが、人材育成の流れである。だから私はコーチたちに「まず、じっと観察しなさい。そして、この選手はこうしたらいい、ああしたらいいと自分なりに考えをまとめておきなさい」と、繰り返しいったものだ。観察するときに注意することは、事前の情報や固定観念を排して、その選手をよく見ることである。まっさらの状態で見ることで、はじめてその選手の本当の適正が見えてくる。――同上、p162。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　人にはそれぞれタイプがある。それは頭ではわかっているが、ついつい自分の成功体験を一般化して、そのやり方を部下に押し付けてしまうことが少なくない。かく言う私も、教師時代一人一人の学生の個性をしっかり観察して、その適性を把握しながら学生の指導に当たってきたかと問われると、まったく自信がない。もしかしたら学生たちの伸びようとする気持ちや潜在的能力をつぶしてしまっていたかもしれない。そんな不安が過るのだが、読者諸氏はどうだろうか。<br />
　中間管理職に就任した社員さんに「部下の指導をしっかり頼むよ」とお願いするにあたって、「教えようとする前にしっかり部下を観察すること。これをやってくださいね」と一言添える。これだけでも、その後の展開が違ってくるかもしれない。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >教えるな。質問を投げかけよ</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　さらに野村氏は言う。指導者は「教えて伸ばそう」とするではなく「質問を投げかけよ」と。「自分は指導者だから教えてあたりまえ」と思っているようでは、指導者「失格」だというのである――</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　むかしはコーチの数が少なかったから、わたしに限らず、みんな自分で考え創意工夫しながら技術を磨いたものだった。選手時代のわたしは、「これぞ」と思った選手のフォームを食い入るように見つめ、すぐに真似して自分のものにしようとした。<br />
　ところが最近はどうだろうか? いまのプロ野球の現場を見ていると、コーチが選手に手取り教えているケースがやたらと目につくではないか。これは、選手側というより、指導する側に問題がある。<br />
　「自分は指導者だから教えてあたりまえ」<br />
　そう思っているようでは、コーチ失格である。コーチは選手にあれこれ指導する前に、選手の話をよく聞くことが重要だ。「どうしてそうしたのか?」「それはなぜなのか?」「それでどうしようと思っているのか?」などと質問を選手に投げかけ、その反応を見る。そして、その回答によっては、コーチ自身が学びを得ることもある。<br />
　選手に質問を投げかけるのは、それが選手の成長のきっかけになるからでもある。というのは、選手が自分の発言に責任を持つようになるからだ。<br />
　有限実行という言葉があるように、人は自分の言葉として口に出してしまうと、そのことに責任を感じるようになる。<br />
だからこそ、あれこれ指導する前に、選手に質問を投げかけることが大切なのだ。――同上、p125。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<h3 >考えることは、才能のない人間の最大の武器</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　部下に質問を投げかけ、しっかり観察したのはいいが、結局「あいつはできる」「あいつはできない」と部下を二分法で色分けしただけで終わってしまったというのでは指導者としての役割を果せない。野村氏は言う、「才能のない人間の最大の武器、それは考えること」だと。とすれば、指導者の仕事は才能のあるなしで部下を二分することではなく、「考える」ことの重要性を伝えることだということになる。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　天才といわれる打者は、ストレートを待っているときに変化球がきても、体が自然と反応できる。だが、わたしは天才ではなかったから、ストレートを待っているときにカーブがきたらほとんどの場合でお手上げだった。<br />
　そこで、相手バッテリーの配給データを収集・分析して、配給を読むことに磨きをかけた。その結果、コンスタントに打率3割を打てるようになった。たとえ凡人であっても、頭を使って徹底的に考えれば天才と十分に戦えるということの証明だろう。<br />
　人は誰でも、「成長したい」と思いながら日々を生きている。しかし、その方法がわからない。ならば、とにかく考えてみることだ。<br />
　打者なら、いままできた球を漠然と打っていたものを、狙い球を絞ってみる。球種はストレートでも、カーブでもスライダーでもいい。あるいは、打ち返す方向を決めてみる。反対方向へ流してもいいし、センター返しを徹底してみるのもいいだろう。<br />
　毎日の仕事をただ漠然とこなすのではなく、営業の人なら、先を読み交渉相手の心理を推測し、対応を決めていく。<br />
　考えることは、能力まかせからの脱却である。体力や技術には限界があっても、知力には限界がない。考えれば考えるほど、自分がかわっていくのがわかるはずである。もし変わらないというのであれば、それはまだ本気で考えていないということだ。　――同上、p42。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　「考えること」を武器にすれば、経営資源の乏しい中小企業でも「十分に戦える」――野村氏の上の指摘は、私にはこんな風に聞こえる。私もかつて(スモールサンニュース2022年8月号で)太宰春台の「４つを知るべし」を取り上げた際、「なぜと問うて、理を知る」、そんな風土を企業に醸成すべきだと説いた。これはまさに「考えること」を重視する企業風土にほかならない。価値観が揺らぎ、先が見通しにくい現代なればこそ、こうした企業風土づくりはますます重要になってきている。経営者が指導者に求める役割もその点をこれまで以上に強く意識すべきであろう。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >育成とは、自信をつけさせること</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　指導者の役割について、野村氏はこんなことも指摘している。これも、きわめて重要な指摘であると思うので引用しておこう。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　わたしは指導者としての経験から、「選手育成とは、自信をつけさせることにある」という結論にいき着いた。それも、すぐに揺らいでしまうような自信ではなく、心に根づく本物の自信である。<br />
　方法としては、徹底的にプラス思考でいくということだ。それは、褒める、おだてるというのはまったくちがう。<br />
　例えば、試合前のミーティングで、戦術面の指示を具体的に出すことがある。そのとき、「こうやれば絶対に勝てる」といった強い口調で勝利をイメージさせる。これがプラス思考だ。場合によっては、それが嘘でも構わない。<br />
　あきらかに戦力では劣っていたとしても、戦うときに気持ちで負けていなければ、互角に戦うことができるからである。・・・自信という「無形の力」を得た選手たちは、強い相手にも堂々と立ち向かっていったのである。　――同上、p132。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　私は上記の文章を読んで、「プラス思考」、「嘘でも構わない」というところに強く共感した。というのは、大学のゼミでこんなことがあったからだ。<br />
　立教大学の山口ゼミが学生間で「厳しいゼミ」という評判を得ていた所為か、ゼミ対抗のディカッション大会を企画しても、他のゼミがまったく参加してくれなくて困っていた。担当の学生が私のところに来て、「説得しようとしたんですが、やっぱり駄目でした。今回の大会は断念せざるをえません」と報告した。<br />
　その時、私は学生にこう諭したのである。「社会人であれば、利害対立ということがあるからどんなに熱意をもって説得しても通じないこともある。でも、学生間のことなんだから、そんな利害対立はないはず。それにも関わらず、どこも参加してくれないのは君の熱意が足りないからだ。もっと本気で当たればきっと何とかなる。たとえば〇〇ゼミ、ここなら応じてくれるかもしれないから、もう一度挑戦してみなさい」と促した。その直後に私は学生に隠れてそのゼミの担当教師に電話をして、対抗戦に参加してくれるようにお願いした。その際、「私が電話したことは、秘密でお願いします」と付け加えて。<br />
　数日後、担当学生がやってきて、「〇〇ゼミが参加してくれることになりました」と嬉しそうに報告にやって来た。私は、「それはよかった。君が本気になれば、その思いは通じる。このことをこれからも忘れないようにね」と話した。その学生は就活も積極的に挑み、大手都市銀行に見事就職。入行後も何度も「支店長賞」を受けて、うれしそうにその連絡をくれた。<br />
　「自信という『無形の力』を得た選手たちは、強い相手にも堂々と立ち向かっていった」という野村氏の述懐はけっして誇張ではないと思う。<br />
　「育成とは、自信をつけさせることにある」――これも指導者が忘れてはならない野村語録の一つだろう。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >自分の立ち位置を認識させる!</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　指導者の役割の今一つは、「いまやっていることに、どういう意味があるのか?」と部下に問いかけることだと、野村氏はいう――</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　例えば、「忙しい、忙しい」といっている人の仕事の内容をよく見ていると、「それはいまやる必要はないのでは？」と思える仕事までしていることがある。「いまやるべきはこっちの仕事であって、その仕事は明日以降でも大丈夫ではないだろうか」と、ついいいたくなるときもある。どうしてそういうことが起きるのかというと、なにも考えずに仕事をしているからである。<br />
　だからこそ指導者は、「いまやっていることに、どういう意味があるのか?」と部下に対して問いかけなければならない。<br />
　それと同時に、目的意識を持って取り組むように、ものごとを深く考える習慣を身につけさせる必要もある。「こういう目的のために、このことに取り組んでいる」という姿勢は、受け手にしっかり伝わるのである。それが伝わらないのは、テーマを持って取り組んでいない証拠だと見ていい。<br />
　練習だって、ただ長くやればいいというものではない。プロ野球のキャンプでは、ときどき野手がへとへとになるまでノックが続くことがある。<br />
　体力づくりのためならそれも必要だが、技術向上のためなら効果があるとは思えない。あと一歩で届くゴロを捕るためには、新鮮な頭脳とそれなりの体力が必要だからだ。<br />
　目的意識のない練習は、いくら時間を費やしても無駄になることもあるのだ。――同上、p141。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　野村氏の上記の指摘は、言葉を換えて言えば、部下に「自身の立ち位置を知らしめる」ということである。今、自分はどこにいて、何のためにこの仕事をし、この苦労に耐えているのか。それが将来どういうことにつながり、自分はどうなっていくのか。――これらをどのタイミングでどう部下に伝えるか。それこそ指導者の腕の見せどころである。部下はそれを知ることで取り組みに対して自律的、主体的になることができる。これも指導者の欠かせない役割である。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >言葉は力なり</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　以上、野村語録から指導者として重要な視点だと思われるところを紹介、引用してきた。最後にぜひとも付け加えておきたいのは、野村氏が「指導者が部下に伝える手段は言葉でしかなく、したがって指導者は言葉を磨くことを怠ってはならない」と指摘している点である。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　リーダーが力を発揮できる最大で唯一の媒介は、「言葉」である。<br />
　その言葉に選手たちがどれだけ胸を打たれるかで、そのリーダーの値打ちが決まるといっていい。リーダーは、自らが発する言葉で部下を感動させなければならないのだ。つまり、信頼されるリーダーの条件のひとつは、説得力のある言葉をそなえているかどうかにある。<br />
　そのために、リーダーには様々な知識、経験、視点が求められる。部下から、「この人はよく勉強しているな。目のつけどころがいいな」と思われることをきちんと言葉で伝えることができて、はじめて信頼や尊敬につながっていく。<br />
　だからこそリーダーは、常に選手より一歩先をいかなくてはいけないのだ。<br />
　スラスラと上手に話す必要はないが、リーダーは的確な言葉を使い、表現力に富んだ説得力のある話をしなければならない。それができれば、聞く人の心に残り、信頼感の礎になる。リーダーは、言葉の大切さをいまいちど噛みしめてほしい。<br />
「言葉は力なり」である。<br />
　わたしは、説得力のある言葉を使えるようになるために、とにかく書物を読み漁った。そして、そこに出てくる言葉に自分の経験や身につけた技術などを結び付けていった。私の話に説得力があるとすれば、そのときに読んだ書物の賜物である。――同上、p129。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<h3 >理論を築け!</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>　言葉を重視する野村氏の指導者論は、さらに「経験の理論化」へと要求をレベルアップさせる。なぜなら、「自分の経験を理論化できないと、指導はできない」からだという。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　野球の世界の指導者の課題に、選手にどうすれば実践力をつけさせることができるかというのがある。<br />
　指導者として、「オレの現役のときは、こういうタイプの投手のときにはこう対応した。おまえも試してみたらどうか」といった具体的なアドバイスができるようになるには、選手時代からしっかり考え、悩み、苦しんでおかなければならない。<br />
　そのとき、成果につながる方法論を見つけられていると、さらにいい。<br />
　そういう経験は、将来、指導者になったときに必ず活きる。どんな仕事においても、いいものをつくる、いい結果を出すには自分の経験がベースになる。これは、管理職共通のテーマではないだろうか。<br />
　さらにいうと、その経験を理論化しておくことが重要である。言い換えると、言葉にして伝えられるということだ。<br />
　わたしの場合は、読書と講演、そしてテレビやラジオでの開設の仕事のおかげで、自分の思考を言葉に置き換える訓練をさせてもらった。野球に対する思いや考えを言葉にする練習をできたことが、監督になったときにとても役立ったと思っている。　――同上、p165。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　この野村氏の指摘に従うなら、経営者は社員に「自身の体験を理論的に語る場」を日頃から与えるべきだということになる。これが将来指導的役割を担うことになった時に大いに役立つ。これも経営者として、心掛けておきたいことである。<br />
　野村氏は「理論構築」の重要性を自身の体験になぞらえて語っている。その部分を引用して本稿の締めとしたい。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>　わたしが現役を引退してから評論家活動で心掛けたのは、「誰にも負けないような野球理論を築く」ということだった。<br />
　そのとき生まれたアイデアが、ストライクゾーンを9分割した「野村スコープ」。<br />
　投手が投げる次の1球が9分割のどこにくるか予測し、根拠を解説するというものだ。「視聴者にわかりやすく伝えるにはどうしたらいいか」と模索するなかから生まれたものである。新聞紙上では、野村スコープを活用しながら、1球ごとに変化する投手と打者の心理を中心に論じた。<br />
　そうしているうちに、ヤクルトから監督の声がかかった。野球ファンにもわかるように自分の理論を高めることを続けていたら、わたしを求めてくれる球団に出会ったということだ。現役を引退してから、10年が経った頃だった。――同上、p16。　</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>　ビジネスマンとして「誰にも負けないビジネス理論を築く」。そんな課題を設定して、日々の活動にあたることが、自分自身の将来を切り拓くことにもなる。社員さんにそんな話をしてあげることも、指導者育成には役立つかもしれない。<br />
　以上、今回は『野村克也　全語録』(プレジデント社、2022年1月刊)からの引用を中心に話を進めてきた。これは、中小企業経営諸氏にもぜひ一読を勧めたい一冊である。</p>









































<!-- テキスト -->

<p><div align="right">———2023.4.16筆</div></p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-4790.html</guid>
			<pubDate>Thu, 20 Apr 2023 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
		<item>
			<dc:creator>山口恵里</dc:creator>
			<title>論考　2023年3月号</title>
			<link>https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-4763.html</link>
			<description><![CDATA[
				
				



<!-- テキスト -->

<h2 >スモールサン“日曜大学2022”で知った<br />
中小企業の未来を拓くキーワードその③<br />
「『共創』～中小企業の“限界”を超える?!～」</h2>









































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<p>「“試練の時”を経て、未来を見る!」と題して開催された昨年のスモールサン日曜大学。その第一部では3名の若手経営者にご登壇いただき、「目指すべき中小企業像、経営者像」について考えるパネルディスカッションを実施した。3名とも先代から会社を引き継ぎ、「新たな中小企業像」を実現すべく積極果敢に自社改革に取り組んでおられる経営者である。パネルディスカッションでも、それぞれの方から「中小企業の未来を拓くキーワード」がいくつも発せられていた。以下では、そのキーワードのいくつかを取り上げ、その意味について私なりの考察を加えることにしたい。<br />
本稿では、3つ目のキーワードとして「共創」を取りあげる。それこそ、中小企業の“限界”を超えて、未来を拓くキーワードにほかならない。ぜひご一読を。</p>









































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<p><b>＜日曜大学2022第一部パネラー紹介＞</b></p>








































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</div>




















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<p><b>株式会社五常<br />
代表取締社長　河野佳介氏</b><br />
福岡県にて転勤族の一家に生まれる。2000年にコンビニのエーエム・ピーエムジャパンに入社、店舗の経営指導、マーケティング、新規事業の部署に従事。2008年にベンチャーファクトリーのエムアウトに入社。事業開発、人事、事業会社の立ち上げを経験。2011年に五常に入社、2019年に全株式を取得し事業承継を完了する。趣味は温泉と、海外旅行。</p>








































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<!-- 画像URL -->
<div class="column-eximage-left js_notStyle acms-col-sm-4">
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</div>




















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<p><b>株式会社アイペック<br />
代表取締役社長　東出悦子氏</b><br />
富山市生まれ。20代の10年間はアメリカで留学・就職（会計事務所）をし、2000年に帰国後、東京の金融機関に勤務。2010年に父が起業したアイペック（非破壊検査業）に入社。2015年に代表取締役社長に就任。</p>








































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</div>




















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<p><b>三重化学工業株式会社<br />
代表取締役社長　山川大輔氏　</b><br />
三重県松阪市出身。国士舘大卒。2003年、三重化学工業に入社。生産の現場や営業を経験し、専務をへて、2016年に４代目社長に就任。<br />
休日は３人の子どもたちと遊んで過ごす。従業員に仕事より子どもの学校行事を優先するよう呼びかける。</p>








































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<h3 >“レジリエント”から“コ・クリエーション”へ</h3>








































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<p>まずはパネルディスカッションでの山川氏の発言を紹介しよう。山川氏は社長就任後の7年間を振り返って、こう述べている――<br />
<br />
<b>山川：</b>弊社は三重県の松阪市で主に保冷剤、保冷具、それから医療関係の機器、あとは作業用の手袋なんかも作っている会社です。私の祖父が立ち上げ、今年で66年目の会社です。私は7年前の2016年に社長に就任しました。就任当時、あるいは就任少し前くらいから、中期ビジョン15カ年計画というのを5年単位で区切って構想しました。最初の5年間はまだ自分自身状況がよく分かっていないという面もあるので、これを「レジリエント企業」を目指す時期と位置づけて、どんな環境下に置かれても生き残っていける、利益を上げていける企業になることを目標に据えました。社員にもそう伝えて、5年間頑張りました。現時点で振り返ってみますと、まだまだ道半ばではあるんですけども、「これまでなんとかやれてきた」、「利益も上がってきている」ということで、目標は一応クリアーできたかなと思っています。そして中期ビジョンでは、次の5年間を「コ・クリエーション企業」、つまり「共創企業」になることを目標として設定しました。現在2年を経過しています。<br />
<br />
「レジリエント(resilient)」というのは、「弾力性がある」とか「回復力がある」という意味の英語。「レジリエント企業」というと、ビジネス環境の変化や危機に柔軟に対応できる企業を指す。社長就任後山川氏が最初の5年間の目標として設定したのは、自社をそういうタフで柔軟な会社にすることだった。<br />
上記の発言にあるように、これについては山川氏は「一応クリアーできた」と評価している。この評価は客観的に見ても妥当なものだろう。たとえば、その最初の5年が過ぎようとする時に三重化学工業はコロナ禍に見舞われたのだが、同社はコロナ禍を逆手にとって、夏の熱中症対策用として保冷剤を仕込んだマスクを開発して見事にヒットさせた。大手企業からの注文に応えてOEMで保冷剤を製造するだけでなく、自ら時代の要請に応じた新商品を開発して積極的に提案していく。「レジリエントな企業」になるためには、これは不可欠な挑戦だった。<br />
山川氏にとって、次の5年間の課題はそうした新商品の開発力・提案力をさらに大きく向上させていくことだった。この課題はどうしたら達成できるか。そこでたどり着いたのが、「コ・クリエーション(co-creation)」、「共創」というキーワードだったのである。<br />
「共創」は、「多様な立場に立つ者が相互に交流することで新たな価値を生み出していくこと」をいう。近年は、「企業がイノベーションで成功するためには、社内外のパートナーとのオープンでフラットな協力関係づくりが欠かせない」といわれている。山川氏が次の5年間の目標として設定したのは、まさにこの「社内外のパートナーとのオープンでフラットな協力関係」を「形」にしていくことだった。2020年に社内に設置された「ミエラボ」は、まさにそれにほかならない。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >「ミエラボ」～オープン・イノベーションのプラットホーム～</h3>








































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<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-6">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202303/large-75636c62f8bcd929b2cac44ffa17ca8b.jpg" data-rel="SmartPhoto[4763]" data-caption="">
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	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>引き続き、山川氏の発言を追ってみよう――<br />
<br />
<b>山川：</b>松阪って結構田舎なんですね。16万人いるんですけど、広い面積に16万人ですから。そんな地方の中小企業の最大のデメリットは人材が集まらないことです。とくにクリエイティブ人材、それから主体的に動けるような人材を見出すことは非常に難しい。松阪市には大学が無くて、優秀な学生さんたちはみんな名古屋とか大阪とか東京に行ってしまう。そして戻ってこない。であるならば、もう諦めて、松阪市の外、会社の外に必要な人材を求めればいいんじゃないかと。そこで、オープン・イノベーションのプラットフォームとして、「ミエラボ」というのを2020年7月に立ち上げたんです。そこを拠点にして、たとえば大企業に籍を置く副業人材など多様な個人の方々と繋がって、多様なアイデアを集約していく。そういう意図で「ミエラボ」を起ち上げて、今2年目になります。<br />
<br />
<b>山口：</b>「ミエラボ」の「ミエ」は「三重県」ではなくて「三重化学」の「ミエ」ですね。<br />
<br />
<b>山川：</b>そうです。三重化学工業のラボラトリー(研究開発部)ということで。<br />
<br />
<b>山口：</b>大企業に現在勤めている人に副業として参加してもらう。それから保冷剤は医療関係でよく使われるから、長らく医療関係の業界にいて退職された方、そういう人たちにも声をかけたんですよね。<br />
<br />
<b>山川：</b>そうなんです。たとえば東京にお住まいの50代の女性で、大手の医療器具メーカーを早期退職されてNPOを自分で立ち上げられた方がいます。その方に副業で「ミエラボ」に参加していただいているんですが、大変優秀な方で前職では海外展開も担当されていたので、当社でも海外向けの販売や英語バージョンのホームページの立ち上げをお願いしています。それから、現在大阪にお住まいの63歳の方がいます。医療器具メーカーを退職されてから当社と繋がりができたのですが、現在は兼業のような形で当社の商品開発や営業などに関わっていただいています。大企業にお勤めのいわゆる副業人材の方々とは商品開発やブランディングのプロジェクトごとで、そのプロジェクトを組んだ時にだけ関わっていただく形をとっています。<br />
<br />
<b>山口：</b>雇用形態はどのようにされているんですが。<br />
<br />
<b>山川：</b>基本的には時給ですが、参加いただいている方々の事情や仕事の内容に応じてフレキシブルに対応しています。たとえば先ほどお話しした東京の方は基本的に時給です。海外の病院さんとのメール、DMなどに要した時間の分だけ時給でお支払いします。それから、大阪の方は月給の形でお支払いして商品開発に関わっていただいているんですが、営業もしていただいていますから、それについては成果報酬という形を取っています。</p>









































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<h3 >「企業とは外部にある知識を経済的な価値に転換するプロセスである」――P.F.ドラッカー</h3>









































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<p>山川氏は「ミエラボ」を起ち上げた当初、「10年もしたらきっと成果が出てくるだろう」という構えだった。ところが設立して2年を経た現在、すでに成果は着々と上がってきているという。海外市場への新たな展開もその一つ。これについては、日本経済新聞が全国版で取り上げたので、その記事の一部を引用しておこう――</p>








































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<div class="column-image-right js_notStyle acms-col-sm-4">
	<a href="https://www.smallsun.jp/archives/002/202303/large-6c53639e01f9eecf28560f9fe742a7cf.jpg" data-rel="SmartPhoto[4763]" data-caption="">
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	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>保冷剤や作業用手袋を手掛ける三重化学工業（三重県松阪市）が中国に続く海外市場の開拓に挑んでいる。韓国に医療用の保冷剤を輸出し、新型コロナウイルス禍で停滞していたタイ市場参入に向けた準備も再開した。為替の円安や競合相手が少ない点が追い風になるとみている。‥‥…<br />
20年、外部との共同研究や交流を活発化するための組織「ミエラボ」を立ち上げた。社外人材と連携し、製品の試作などに取り組む。<br />
韓国への輸出では、この外部に開いた仕組みが奏功した。ミエラボ経由で築いた人脈を通じ、輸出先を確保したという。山川社長は「海外で成功し、ミエラボで交流する企業が海外に進出するきっかけにもなりたい」と力を込める。<br />
――<b>日本経済新聞2022.12.13</b></blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>そもそも外部人材を活用するということは、経験や人脈も含めてその人が蓄積してきた「知識」を自社のビジネス上の価値に転換していくことにほかならない。<br />
ドラッカーはいう――</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>企業を差別化する唯一にして特有の資源は、科学技術から社会、経済、経営にいたる知識を活用する能力である。企業が市場において価値あるものをつくれるのは、知識のおかげである。<br />
しかし、知識そのものは特定の企業だけの資源ではない。普遍的かつ社会的な資源である。知識は長期にわたって秘密にしておくことはできない。「誰かにできたことは、ほかのだれかが行う」ことは、昔からの常識である。したがって、知識という企業にとって決定的な資源も、企業の成果と同じように企業の外にある。<br />
企業とは、外部にある資源すなわち知識を、外部における成果すなわち経済的な価値に転換するプロセスであると定義することができる。<br />
――P.Fドラッカー『創造する経営者』ダイヤモンド社p6-7</blockquote></div>









































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<h3 >“共創”は「限界を知る」ことから始まる</h3>








































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	</a>
</div>


































<!-- テキスト -->

<p>「ミエラボ」を通して得た外部人材の活用によって三重化学が新たな海外展開を果したとすれば、それはまさにドラッカーのいう「外部の知識を経済価値に転換するプロセス」にほかならず、「ミエラボ」設立の重要な「成果」であることは間違いない。しかし、それだけでは「共創」とはいえない。なぜなら、すでに述べたように「共創とは、多様な立場に立つ者が相互に交流することで新たな価値を生み出していくこと」だからである。<br />
山川氏は、「共創企業」への歩みをむしろ「ミエラボ」が引き起こしたプロパー社員の変化のうちに見出している。以下も、パネルディスカッションでの発言である。――<br />
<br />
<b>山川：</b>作業用手袋に何か新しい工夫を加えると言っても、なかなか難しいですよね。5本指の形態は変えられないし、素材もあまり変えられない。私もプロパー社員もそんな風に思っていたんですが、ある時「ミエラボ」で大手IT企業に籍を置く副業人材の方が「手袋にセンサーを付けたらどうか」というアイデアを提案されたんです。もちろん、これは弊社のような中小企業ですぐに製品化できるようなアイデアではありません。でも、プロパー社員の誰も思いつかなかったアイデアだったので、みんな「それはおもしろい」と大いに盛り上がったんです。社外に知恵を求めることの良さというのは、まさにここにあるんだと実感しました。今若い社員たちは、「ミエラボ」で大手企業に勤めている若手社員と交流することを「すごく勉強になる」と言って楽しみにしています。プロパー社員の中に明らかに変化が起きてきている。これはやがて大きな成果となって花開くに違いないと、そう感じたんです。<br />
<br />
「多様な立場に立つ者が相互に交流する」ことで、参加者の各々が自身の「限界」――自分がある種の「限界」の中にいたこと――に気づき、その限界を超えたいという衝動が生まれる。「共創」とは、参加者たちのその衝動が引き起こす新価値の創造にほかならない。その意味で、三重化学は確実に「共創企業」としての歩みを進めているといえる。<br />
プロパー社員たちは三重化学で培った技能や知恵を生かしながら、その枠を超えて「新しい自分」を見出そうとしている。大切なのはプロパー社員たちがそれを「楽しんでいる」ことである。中小企業にありがちなのは「中小企業の現状を知らないで大企業の勤め人たちが勝手なことを言っている」といった反発や拒絶的な反応だが、三重化学の社員たちの反応はけっしてそういうネガティブなものではない。社員たちは大企業人材と接することで、自身の「限界」を知り、そのことを自身の成長の機会と受け止めているのである。<br />
山川氏は、「ミエラボ」のおかげで社内に「わくわく感」が充満し始めたと言う。実際、「最近は、ミエラボに関わっていない社員からも新製品のアイデアが寄せられるようになりました」と、社風の変化を語る。私はここにこそ、山川氏が「ミエラボ」に託した「共創型企業」としての中小企業の未来が見えるような気がするのである。今後の展開を大いに期待したい。</p>









































<!-- テキスト -->

<h3 >追記:「限界」について(興味のある方はお読みください)</h3>









































<!-- テキスト -->

<p>「限界」ということについて、ヘーゲルが興味深いことを言っている。「限界」はそれが乗り越えるべき「制限」となった時には、すでにその「限界」は越えられているのだというのである。たとえば、我々の思考力には制限(限界)があるために物事の本質は知り得ないのだというカントなどの「不可知論」に対して、ヘーゲルはこう批判している。</p>









































<!-- テキスト -->

<div class="entry-container"><blockquote>「思惟はその制限を越え得ないということが主張される。しかしこの主張の中には、或るものが制限をもつとせられるというまさにその点で、すでにその制限が超越されているものだということに対する無自覚が潜んでいる。」<br />
――ヘーゲル『大論理学(上巻の一)』(ヘーゲル全集6ａ、岩波書店)156頁。</blockquote></div>









































<!-- テキスト -->

<p>ちょっと言い回しが難しくて分かりにくいが、たとえば日本の歴史を振り返ってみると、ヘーゲルの言っていることが理解できる。<br />
周知のように、江戸時代の人たちは「藩」という枠組みの中で産まれ、育ち、生きていた。当時「藩境」という「限界」を越えて移動することは禁止されていたが、多くの人々はそのことにさして窮屈を感じなかった。つまり、その「限界」は乗り越えるべき「制限」ではなかったのである。しかし、ペリー来航を機に状況は一変する。多くの若い武士たちにとって「藩」という「限界」は「制限」となり、実際に脱藩を試みるものが相次ぐ事態となった。<br />
外国勢力に対抗するためには封建領主が分割統治する「藩」を廃止し、(天皇を中心とした)中央集権型国家に移行することが不可欠である。若い武士たちに「藩」を「制限」と認識させたものは、まさにこの時代の要請にほかならない。明治政府の手で実際に「藩」が廃止される前に、若い武士たちが江戸時代末期に抱いた勤王思想の中ですでに「藩」という「限界」は超越されていたのである。ヘーゲルが「或るものが制限をもつとせられるというまさにその点で、すでにその制限が超越されている」というのは、こういうことである。<br />
ちなみに、ヘーゲルのこうした捉え方を私は大学のゼミの卒業生たちの指導に活用している。社会人になって1年か2年を経た卒業生たちから、「最近、自分の限界を感じて落ち込んでいるんです」ということをよく聞かされる。そういう時、私は「限界を感じたということは、実は君はすでに限界を越えているんだ」と諭す。「だって、君はもう『限界を越えた自分』をイメージできているんだから。つまり、君の眼はすでに限界を越えている。だからこそ、そのイメージと現状とのキャップに苦しんでいる。でも、これは君がいろいろな体験を経てすでに随分成長したこと、そして現在感じている限界をさらに越えて成長しつつあることの証でもある。あとは地道に実践を積み重ねていくだけ。落ち込む必要なんて全然ない。自分を信じて頑張りなさい」と。<br />
<br />
　　限界が見えた時、君は限界を越えている!<br />
<br />
読者のみなさん、「限界を感じて落ち込んでいる」従業員の方がいらっしゃったら、こんな話をしてあげるのも「あり」かもしれません。</p>








































				
				
			]]></description>
			<category>論考</category>
			<guid isPermaLink="true">https://www.smallsun.jp/smallsun_news/ronkou/entry-4763.html</guid>
			<pubDate>Mon, 20 Mar 2023 12:00:59 +0900</pubDate>
		</item>
	</channel>
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